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Tarot Quest  作者: KINSYO
9/21

初戦の末に

少し遅れましたが第九話です。

誤字、脱字等教えていただけると幸いです。

それではお楽しみください!

「マスター、そろそろ攻撃を!」

第二部隊、野戦攻撃部隊のメンバーからもそのような声が漏れ始める。

「ああ、分かった……第二部隊攻撃開始」

その言葉を待ち兼ねていたようにダッサンをはじめ、野戦部隊のメンバーは第一部隊の攻撃の雨が止んで態勢を立て直したばかりの〈暁の幻魔団〉の部隊に突撃する。

第二部隊は冬場の猿のように身を寄せる敵に剣戟を加える。

剣を振り下ろす度に相手の武器とぶつかり、金切り音が場を支配する。

相当数倒したとはいえ未だに〈暁の幻魔団〉の数は〈閃光の師団〉を優に上回る。

しかし態勢を立て直したとは言っても表面上そう見えるだけで、一度奇襲を受けた部隊の混乱はそうそう抑えられるものではない。ましてや一緒に戦ってきた仲間が目の前でどんどん戦闘不能に追い込まれているのだから。

大部隊になればなるほどむしろ混乱した時はタチが悪い。一人の恐怖が一人の恐怖を生み、また一人の恐怖が一人の恐怖を生む……このように負の感情がねずみ算式に伝播して行くからだ。

第一位のクラン〈暁の幻魔団〉と言えども、もはや烏合の衆に等しい。

一層、また一層と敵の部隊をケーキの包みを剥がすかのように打ち倒して行く。

あれは本当に早紀だったのだろうか。見間違いかもしれない。

「あるいはそう信じたいだけなのかもな……」

光真は周りに誰もいなくなった瓦礫の中で自嘲的につぶやくと、ようやく体を起こして〈暁の幻魔団〉を見渡す。

敵は不利を悟ったらしく囲みの一点を破って血路を開こうとしている。

一点突破となると脱出を防ぐのは難しいのか、間もなく敵の一団が包囲を抜ける寸前のところまできている。光真はひとっ飛びして誰も住んでいるはずの無い民家を模した建物の屋根に飛び移る。

しかし敵の鬼気迫る逃走劇に光真の到着を待たずしてついに囲みの一角が破れ、決壊したダムの水のように〈暁の幻魔団〉は入って来た門を目指して突撃する。いくら『愚者』のスピードが優れていると言っても、馬の速さに敵うはずが無い。

「第三部隊、攻撃準備!」

光真は即座に外にいる雪菜、半蔵の元へ指示を出す。

敵の歩兵が我先にと競って門を開けるとそこには既に第三部隊が待ち構えており、一難去ってまた一難、〈暁の幻魔団〉は挟撃される格好になる。

すると甲冑の騎士の隣にいる馬に乗った騎士が部下に指令を下すし、驚く事にまだ100人程度残っていた歩兵部隊があろう事か馬に乗った数人を逃がすために挺身覚悟で新手の第三部隊に突撃する。

それによって僅かに開かれたスペースを甲冑の騎士以下数騎が刀を振り回しながら、北に向かって落ち延びて行く。

数人が炎などをはなって逃がさまいとするも、馬の脚が一歩勝り逃避を許してしまう。光真はそれを屋根の上から呆然と立ち尽くして見ていた。

空はもうさんさんと太陽の照る、雲一つ無い昼間の青空を呈していた。


光真の心情とは裏腹に〈閃光の師団〉のメンバーは絶対不利の状況からの逆転劇に全員が快哉を叫んでいた。確かに5000人ほどの〈暁の幻魔団〉を壊滅状態に追い込みこちらはほぼ無傷。大勝利というべき他は無い。

しかし光真の心情は晴れやかとは程遠いものであった。さっき兜の間から覗かせた顔は信じたくはないが、早紀のものであった事は間違いない。

早紀とは長い付き合いになるが、早紀がゲームに興じているという話を聞いた事は無い。中学の時光真の家で格闘ゲームをしたが、手を抜いたにも関わらずほぼ光真の圧勝であった。

となる早紀が自らこのゲームに入って来たとは考えづらい。あの謎の男の言葉ーープレイヤーには黙示録と呼ばれているーーが告げていた無秩序なプレイヤーの増加に巻き込まれたのであろう。そして〈暁の幻魔団〉に所属している……

それだけなら話は簡単だが、〈暁の幻魔団〉と〈閃光の師団〉は今対立していると言って差し支えない状況だ。

今度早紀が攻撃して来た時に果たして剣を交える事が出来るのかーー光真はその事を気に病んでいた。

「こんなところにいたのか」

背後からの声に光真が振り向くとそこには少し頬を膨らませた雪菜がいた。

こんなところ、というのは先ほど試練の攻撃で崩壊した大聖堂の中だ。その後光真はパリのクリスタルを獲得し、試練の攻撃にさらされる前の美しい街並みのパリを手に入れる事ができた。

「勝利の立役者が来ないでどうする」

そう言って雪菜は長椅子に座っている光真の隣に腰掛ける。

「すいません、そんな気分じゃ無いんです」

「どうかしたのか?」

雪菜の言葉に答えず、光真は目の前のステンドグラスをぼんやりと眺める。

雪菜も光真の見ている風景を一緒に眺める。

しばらくの沈黙の後、光真がようやく口を開く。

「ロミオとジュリエットについてどう思います?」

「いきなりなんだ?まあ普通なら悲劇的な話だととるのが普通じゃないか?」

「そうですよね……」

それを聞いて光真はがっくりと肩を落とす。

それを見てしかし、と前置きして雪菜が話し始める。光真は顔をあげて雪菜の方を見る。

「あの話ではキャピュレット家とモンタギュー家のわだかまりが二人の死を招いたが、幸福な環境が全て幸福に繋がらないのと同じように、悲劇的な環境が全て悲劇に繋がるわけじゃない。結局運命を決めるのはそこにいる人間そのものなのさ。そうだろう?」

雪菜もこちらを振り向いて小さく微笑む。

確かにその通りだ。人間には言葉がある。現実では早紀と話す事だって出来る。

そう思うと光真から今まで胸に重くのしかかっていた塊が消え失せて、胸のすくような思いがする。

「ありがとうございました」

光真は雪菜に深々と頭を下げる。

「別に何かをしたというわけじゃないんだがな」

雪菜は綺麗な白い歯を見せる。

そんな時聖堂の門が勢い良く開いて半蔵が飛び出して来る。

「大将!ここにいましたか。早く宴会の方へ……あれエンプレス様もここに?まさか……」

「半蔵、要らん想像をするな。じゃあ行くか!」

光真率いる〈閃光の師団〉は戦いの波に身を踊らせていく……










第九話いかがでしたでしょうか。

ここまで読んでくださった皆様には感謝、感謝です!

これからも是非是非おつきあい下さい!

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