トゥール攻略
いやはや久しぶりです。
遅れる事数日。ようやく書き終える事ができました。
誤字脱字は教えてください。
それではお楽しみください!
「現在の情勢はどのようになっている?」
光真は〈閃光の師団〉の重役クラスが集まる場にて発言する。
今は影の一日に入ったばかりのオルレアンにおり、宮殿のような豪華な建物の中で会議をしている。
あの後、一旦ゲームからログアウトして食事や風呂などを済まていると影の一日になっていたというわけだ。
「拙者がお話申そう」
半蔵がフォーカスオンバーチャルを操作しながら立ち上がる。
いつもの忍者衣装はところどころ擦過、土汚れが見られる。
さっき訳を伺うと、数人でパリに三つ程ある公衆浴場にて、入っていた雪菜を覗こうとして……以下略。光真の隣に座る雪菜も目を瞑って腕を組み、物騒なオーラを醸し出している。
「まずドイツ、オーストリア、スイス、オランダ、ベルギーの辺りは〈暁の幻魔団〉が完全に支配しております。〈暁の幻魔団〉は七人の皇帝によって広大な領地を分割統治しているらしいです。イギリスは〈漆黒の翼〉と〈魔弾の射手〉が互いに統一を争っています。イベリア半島は〈鷹の城〉によって完全に支配されています。フランスの上部は拙者たちが支配しているとして、中、下部は小国が分立している状態ですな。イタリアではローマ周辺を〈カーディナル〉というクランが支配しており、そこのマスターは教皇を自称しているとか。しかし、イタリア半島の全支配には至らず多くの都市国家が乱立しています」
全員が地図と睨めっこしながら半蔵の話に耳を傾ける。
「当面は南へと勢力を広げて行くべきですね」
現在座っている八人の中の一人、二本の黒いラインが入った純白のローブを身につけた口羽清嗣が真一文字に結ばれた口を開いた。
「違ぇねぇ。弱いとこから攻めて行くのが基本だぜ」
ダッサンと呼ばれるがっしりとした中年の男も賛同の意を示す。
他の者も口には出さないが、南へと侵攻する事に賛成しているようだ。
「ちょっと聞いて欲しい」
光真が一言発すると今まで残りの七人が一斉に光真へ焦点を当て、水を打ったように静寂が訪れる。光真は組んでいた手を膝の上において話し始める。
「俺たちが戦わなければならないのは、試練を全て倒してこのゲームをあるべき姿に戻さなくてはならないからだ。そのためには確かに戦いは必要だ。でも絶対にむやみに敵を傷つける事はやめて欲しい。それだけを皆に約束して欲しい」
光真が言い終わっても誰一人言葉を発さなかった。しかしその沈黙が全てを物語っていた。
「で、次に噂の詳細についてだが……」
二日目となったこの世界で新たな情報が出回っていた。即ち、硬貨によって都市の機能を拡大させる事ができる、そして剣によってクランの技術レベルを向上させる事ができると。どこからともなく現れたこの噂に各地のクランは騒然となっている。
「私の聞いたところによると、都市の防備が高まったり、食糧の供給量が増えたりするそうだ」
昨日判明した事だが、店で買える食糧には限界があるらしい。雪菜の隣に座る金髪の女性ーーシャルルの暴食をやめさせようと心に誓った瞬間でもあった。
「それは嬉しいですねぇ。これでもっといっぱい食べられます」
シャルルが両手を頬に当てて体をくねくねさせている。
光真はあえて一言心の中で言った、黙れと。
「でも硬貨が大量に必要だからひとまずは保留か」
光真が言うや否やシャルルが分かりやすくショックを受けていた。机に突っ伏して嗚咽を漏らしている。シャルルの頭の中には食べる事しかないのだろうか。
「技術レベルってのは?」
「クラン内の都市で買える武器が増えるとか、増えないとか。どれも確かな情報は出回ってません。剣も必要分集まってませんし、これも今は保留という事で構わないでしょう」
冷静沈着に口羽が言い切る。意見は的確そのもので肝も据わっており、人を動かすという点においては長けていると思われる。
「口羽の言う通りだな。不確定要素の高い事例に今付き合っている暇はない。本日の本題、トゥール攻撃について話そう。半蔵、敵の陣容は?」
半蔵がフォーカスオンバーチャルを操作して、その画面を全員に表示する。
トゥールはフランス中部の都市で交通の要所を占めており、フランスの南方へ至る為には必ず必要な都市である。
「トゥールは〈ガルディオン〉という、ここら一帯では最大の勢力を誇るクランが治めています。戦わず、矛を収てくれというこちら側の意向を既に伝えてありますが、恐らく黙殺でしょう。敵の数はおよそ5000人。戦闘員だけならさらに少なくなると見て間違いないでしょう」
言い終えると、半蔵がチラリと光真の方を窺う。
「戦闘員で考えると、大体3000人くらいか……俺たちのクランは今どれくらいの戦力を動員できますか?」
雪菜の方に視線を投げ掛けると、雪菜は不機嫌に組んでいた腕をほどいてフォーカスオンバーチャルを開く。半蔵のせいで光真まで細心の注意を払って話しかけなければならない事態に陥っている。
「各地の防衛なども考えると、動かせるのは3000人くらいだろう」
雪菜がホログラムの画面を指で弾いて光真の画面にそれを表示させる。14000人の仕事が事細かに振り分けられている。都市の防衛に回される者が主で、モンスターを倒して内政に従事する者、訓練中の者がそれに続く数だ。
これを仕上げた雪菜の努力は感服に値する。
「3000人ですか……敵の都市を攻めるのに心強い数とは言えないですね。城攻めには敵兵の三倍の数が必要という定説もありますし」
弱気な光真のセリフを聞いて雪菜がフッと鼻で笑う。
「それを何とかするのがが君だろう。現に先の戦いで少数を以って多数に勝ったじゃないか」
「それは敵が油断していたからですよ。今回もうまくいくとは限りま……」
光真が言い終わらない内に会議をしている部屋の荘厳な扉が慌ただしく開かれる。
「会議中申し訳ありません。何やら不振な女を北門で捕らえましたので……」
麻布の質素な服に鉄製の胸当てをつけた筋骨隆々な男が扉から頭を下げて入ってくる。豪快な見た目に反して慇懃な人物のようである。
「離せっ!離せと言っておるだろう!」
その男の後ろからさらに二人の男が白と赤の巫女の衣装を着た女性の両腕を抱えて室内に入ってくる。女の方は身長が足りないのか、地面に足がつくかどうかギリギリのところであった。その連れてこられた女性は数時間前まで学校で話していた、那須野凛であった。
「は、速川!お前はここを仕切っているのか?何とか言ってやってくれ!」
凛はその短い手足をバタバタさせていたが、光真を視界に捉えると藁にでもすがる思いで助けを求めた。
「この少女はマスターの知り合いですか?」
最初に入って来た男が光真と凛の顔を見比べながら話す。
違う、そう答えれば凛はすぐにでもここからつまみ出されるだろう。しかし、それをしたら明日ひどい目に会うのは間違いなく光真の方だ。そう考えて光真は一つ凛に恩を売っておく事にした。
「ああ、知り合いだ一応」
そう答えると不審がりながらも二人の男は凛の両手を解放する。
「とりあえず、トゥールに出発しよう。話はそれからだ」
凛の見た目は間違いなく光真と同じ年代、あるいはそれより下に見られるかもしれない。それを考慮すると全員の質問がくる事は必至である。そうなる前に逃げの一手を先に放つ。
ポンと肩に手を置かれて光真が振り返るとそこにはニコニコ顏の雪菜がいた。しかし目は全く笑っておらず、あとでしっかり話してもらうからな、と目が語っていた。
深夜の行軍を終えてトゥール付近の茂みに息を潜める。
凛が光真の担任である事を皆が信じるにはかなりの時間を要した。
「その服……結構この世界楽しんでますよね……」
光真は半眼で横に並んで歩く凛を見る。放っておくとややこしい事になりそうなので結局連れて来てしまったのだ。
「こ、これは私の趣味ではなくてだな……」
凛が真っ赤になりながら両手を振って光真の言葉を否定する。さらに追求しようとしたが、凛の更に隣で雪菜が物騒なオーラを出しているので光真は喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
「見えましたよ」
光真たちより一歩先を進んでいた口羽が後方に向けて呟く。
「予想通りですね。敵戦力の大半が城外に出払っています」
光真は恐らくゲームが始まってすぐのこの時期ではろくに硬貨を貯める事ができていないだろうと踏み、敵が打って出ると読んだ。
なぜなら城を取り囲まれてしまえばモンスターを倒して棒や硬貨を得る事ができず、自ずと干上がってしまうからだ。
「じゃあシャルル頼む」
シャルルのアルカナは『女教皇』。『魔術師』には及ばないものの、魔法のエキスパートである。特にシャルルは炎魔法に秀でており、遠距離攻撃も可能である。
「終わったらご飯貰えますか?」
シャルルが目を輝かせて尋ねてくる。光真が首を縦に振ると嬉々として整然と列をなす〈ガルディオン〉の部隊めがけてドッジボールくらいの火球を飛ばす。
その火球は凄まじい速さで飛んで行き、〈ガルディオン〉の兵数人を巻き込む。
現実的には数人に被害が及んだだけではあるが、突然の攻撃に敵兵は混乱に包まれ、それに駆られて辺りを挙動不審に見渡して、そして隊列を乱す。
「今だ!全員突撃。敵の大将までの道を開けろ!」
光真が右手を前方の敵を示すと、それを合図に全員が武器を抜いてその方向に走り出す。敵までの距離はおよそ200m。足の速い者なら20秒ほどでたどり着く事のできる距離だ。そうして最初の金切り音が静寂な夜を破って起こる。
かと思えば、連続的に金切り音の波が味方と敵との接点に押し寄せる。
正面からは雪菜、口羽、半蔵率いる白兵部隊が浮き足立つ敵に直接の攻撃をしかける。敵の左からはシャルル率いる魔法部隊が味方を巻き込まないように敵の部隊に横槍をいれる。敵には初心者が多く、ただ闇雲に剣を振り回すものも珍しくない。その点〈閃光の師団〉の一人一人は訓練を受けており圧倒的な練度の差が窺える。確かに数では〈ガルディオン〉が〈閃光の師団〉を上回る。
平地戦で最も勝利に直結する要素も数の多さにある。しかしそれはあくまで同程度の者が戦えばの話。子供のチャンバラに大人が介入すればいくら子供の数が多くとも、あっという間に勝負がつく。
敵の部隊の列が正面からひしゃげるようにして崩れて行く。
地を掘り進むモグラのようにして敵の大将までの道が少しずつ着実に短くなって行く。
「体制を立て直せ!隊列を乱すな!」
敵の大将の声は戦いの残響にかき消されて、飲み込まれる。
その間にも光真が、雪菜が、半蔵が、口羽が大将を守る兵を一人一人引き剥がす。
「むぅぅぅぅ……一旦城に退け!」
動きやすいノースリーブのシャツを着て、日焼けした褐色の肌をした男ははあらん限りの声で叫ぶと、敵兵はその言葉を待っていたかのように一目散に自分の城に引き返す。だが退きながら戦うというのは難しいことである。
大勢の敵の兵が背後からの剣撃や魔法攻撃によって地面に倒れ伏す。
それでもやっとの事で城の門までたどり着いて大将の男が持っていた肉厚の剣を掲げると、城の見張り台の兵が命からがらここまで逃げてきた兵たちに弓を構える。
「味方に弓を構えるとは!気でも狂ったか!」
男は額に青白い線を浮かべて大声で喚く。
「ハッハッハッハッハ!お前たちが戦っている間にこの城はワシが頂いたわ!」
見張り台から現れたその巨体はダッサンであった。
事前に光真が敵の城の背後に潜ませておき、ほとんど空っぽになった所を分捕ったのだ。光真は味方の攻撃を制止させると、大将の男に向かって大声で叫ぶ。
「これでもまだ戦うか?降伏するなら剣を地面に捨てさせろ!」
男は城から光真の方に向き直るとしばらく考えた後、剣を地面に捨てる。
「こうなってはどうしようもない。お前たち剣を捨てろ!」
カラン、カランという音を立てて一人一人が武器を捨てていく。
光真は男の元に歩み寄る。
「降伏するのは戦うより勇気が必要だ。よく決断してくれた。これからもこのトゥールの地を治めてくれ」
光真の寝耳に水の言葉にその男をはじめとする周りの数人は心底驚いている。
「負けた俺がですか?ど、どうして?」
男は目を剥いて震える声で呟く。
「俺たちが真に行いたい事はこの世界の支配じゃなく、この世界を救う事だ。だから協力して欲しい。それだけの事だ」
「あ、ありがとうございます。これからは協力させていただきます!」
〈ガルディオン〉の全ての兵は深々と頭を下げた。
お疲れ様でした。
ラノベを読めば現代文の成績が上がるというのは事実なのでしょうか。
そうすれば試験にも困らないのですが……
ともかく次の話もよろしくお願いしますっっ!




