第一章① あれ?私のイケメンどこ?
なんと生まれて初めての執筆活動です。拙い文章ですが生暖かい目でご容赦ください。
※一部書き直しました。
世界的人気を誇るフルダイブ型VRMMORPG《PARALLEL DIVE : ANOTHER ONE》ーー通称PDA。
異常なまでに精密な世界、生態系、文化、魔法体系を持ち、「どこかに実在する世界をそのまま持ってきたのではないか」とまで噂されるゲームである。
そのゲームの世界でもいわゆるエンドコンテンツ。最東端にあるルイーナ列島南部の沢に、プレイヤーがいた。
身長185㎝。月の光の様に輝く銀髪を荒々しくたなびかせ、血のような赤色を裏に覗かせる漆黒のローブを身にまとう端正な顔立ちの男性。手には七色に輝く結晶をあしらった杖を持ち、もう片方の手には妖しく輝く金の指輪を嵌めている。そして背中には銀色に鈍く輝く短弓を備え、油断なく正面を見据えている。
頭上にはアバターネームである「庵」という文字が表示されている。そして視線の先にはーーー
それはそれは大きな蟹であった。身の丈3mはあろうかという巨体。異常発達した右手の鋏。そして虹色に輝く甲殻。頭上に表示されるモンスターネームは「アダマンキングクラブ」。この地域に稀に現れる、いわゆるレアモンスターであった。
「ーーようやく見つけたぞ。だが貴様に興味はない。貴様の肉にも興味はない。
ーーー貴様の殻を頂いてゆく。大人しく骸を晒せ。」
流れるように杖を構え、杖の結晶に意識を少し集中する。瞬時に杖が青白く輝き、電光が迸る。
「ーーーーライトニングパイル。」
杖から相対する巨大蟹に向かって雷の破城杭が瞬き、狙い違わず口内に突き刺さる。爆音と閃光を伴って巨大蟹は吹き飛び、衝撃で脚がもげ、沢にいくつもの水しぶきを上げた。
「流石に頑丈だな。だがあと一息といったところか。これで終わりにしてやろうーーーー」
再び杖の結晶が青白く輝きーーーー
19歳の大学一年生、湯沢山伊織。
地元大学の理学部に通う彼女の趣味の一つは、《PARALLEL DIVE : ANOTHER ONE》の中で、自身のアバター「庵」でイケメンを愛でることであった。
現実の彼女は身長150㎝ギリギリの、低身長がコンプレックスなことと、興味を持ったものには首を突っ込まずにはいられないこと以外は普通の女子大生であった。あといわゆる厨二病患者であった。
(ふへへ…今日も私の庵はかっこいい…キャラメイクに4時間費やしたのは必要経費よね…)
伊織の部屋はマンション最上階5階の角部屋であった。今日の天気は朝から重い雲が県全体を覆う嵐の前のような曇り。伊織はゲームにダイブする前に今日は引きこもってゲーム三昧とあまり気にしていなかった。
そして昼を少し過ぎた頃、とうとう空から稲光と轟音が響き渡りーーーー
伊織の部屋に特大の雷が直撃した。
自室のベッドで横になり、頭部を完全に覆うゲームデバイスを付けた伊織は、部屋を駆け巡った雷光にフルダイブしていたせいで気付くことなく、自らに何が起こったか知らぬままに即死した。
庵が目の前の巨大蟹にとどめを刺そうと意識を集中した瞬間、目の前を身を焼くような閃光が迸った。
閃光が収まったあと、周囲を瞬時に確認し、特に異常もないことを認識した後、改めて杖を構えた時に違和感を覚えた。
ーーー視点がさっきと違う?なんだか、低い気がする…?
だが、目の前の瀕死の巨大蟹は黙っていなかった。全身を軋ませ、各所から青黒い液体を流しながら、力を振り絞って鋏を振りかざして叩き潰そうと突撃してきた。
庵は反射的に左手を前に掲げ、指輪に意識を集中した。その妖しく輝く指輪は「輝石の盾指輪」。構えて念じると光の盾を瞬時に展開し、あらゆる物理攻撃を確定一発は防御できるレアドロップアイテムだ。クールタイムは存在するが、魔術師の咄嗟の防御として使い勝手がいいので庵は長く愛用していた。衝撃の逃がし方も心得ている巨大蟹であろうと余裕で弾き返せるーーーはずだった。
ガゴォン!!!!
「ーーーーー!?!? くっ…!?なぜだ!?いつもとちがーー!?」
(あれ?いつものイケメンボイスじゃない…?)
直撃はかろうじて避け、受け流すことはできたが、いつもと衝撃の度合いが比較にならないほど大きい。
そしてふんばりも効かないし、足も思うように動かない。まるでーーーーー
(体の大きさが変わったみたい……え?え?なんで?なにが起こってるの!?)
よろめいた体を支えることができず、情けなく尻もちをついてしまった。沢の岩がお尻にぶつかる。
「ーーー!!!いったーい!?!?」
(なになになになに!?あれ!?PDAって痛み無いはずだよね!?どういうこと!?)
思わず悶絶しながら混乱していると、自分の服装にひどい違和感があることに気付いた。
ーーー胸が苦しい。ひどく圧迫されるような苦しさだ。まるでーーー
(洋服のサイズが合ってないのに無理やり着たみたいに苦しい…!本当になんなの!?)
ようやく呼吸を落ち着け始めた時、目の前からギチギチとなにかが軋む音と唸るような音が聞こえた。
(ーーーアダマンキングクラブにとどめ刺してない!)
反射的に杖を構えようとして気付く。右手になにも持っていないことを。そのことを理解する前に背中に背負っているはずの短弓を即座に引っ張り出し、魔力を練って雷の矢をつがえた。ゲーム中、何度も死んで身に刻み込んだ動きだ。杖を手放してしまった際のサブウェポン。各属性の魔力を矢の形に練って飛ばすこともできる実弾魔法両用弓。これもレアドロップの「ゲミルの複合短弓」。短く息を吐き、アダマンキングクラブの急所である口内に、これまた弱点属性の雷属性の矢を放った。吸い込まれるように急所に突き刺さった矢は想定通りにーーーー
アダマンキングクラブの頭部を雷光と轟音を伴って吹き飛ばした。
辺りに青黒い血しぶきをまき散らしながら巨体を仰向けに倒したアダマンキングクラブは、
間違いなく絶命した。
「ーーーーはぁっ!はぁ…はぁ…はぁ……ふー…」
「…怖かったぁ……」
呼吸を落ち着けた後、庵…いや、伊織は自らの体をようやく眺めることができた。そこにあったのはーー
指の先がかろうじて見える袖。
完全に足を隠している裾。
ゆるゆるで何の用も成していないベルト。
ぶかぶかでまるでサイズの合ってないブーツ。
そしてなにより。
ーーー今にも弾けんばかりの胸元。
「……え?」
見間違えようもない。十九年間付き合ってきた、自分の現実の身体だった。
「…ちょっと待って…?体がこれってことは…」
伊織は急いで沢から上がりーーーそれはそれは苦労しながら沢から上がり、近くの水たまりで自分の顔を確認した。そこには多大な時間と妄想と自らの癖を詰め込んだ渾身の庵の顔ではなくーーーー
「私のイケメン……どこいったのーーーー!?!?」
現実世界で見慣れた湯沢山伊織自身の顔がそこにあった。




