3『伊能、事故る』
「――はっ!?」
数時間後、伊能はようやく我に返った。
「いかんいかん、夢中になっておったわ。【測量】!」
ウィンドウには、広大な範囲の地図が等高線付きで表示されている。
解除した実績の数々により、伊能の【測量】はもはや、たった一度で数百メートル先まで地図化できるまでになっていた。
(いやぁ、育った育った。これが、女神様が仰っていた『ちーと』というやつなのじゃろうか。楽しいのぅ、コレ。やればやるほどスキルが育っていくのがクセになるわい)
伊能は実績一覧をすいっすいっとスワイプさせながら、
(穴掘りと種撒きは街で道具や種を買ってからじゃのぅ。井戸は、ちと難易度が高い。が、あれば絶対に便利じゃ。あとは、最後の実績……)
『一六〇〇キロメートル歩く:?????』
(四〇七里余り。はて、何やら恣意的な数字じゃが、何じゃろうなコレ? まぁ、今日明日で歩ききれるものでもなし、コイツは当面、後回しじゃな)
そのとき、ぐぅ~……と伊能の腹の虫が鳴いた。
(む、まずい。測量のこととなると寝食を忘れるのは、悪いクセじゃな)
「【測量】、【測量】、【測量】」
手癖のようにスキルを使いながら、伊能はてくてくと歩きはじめる。
すでに数時間も歩き回ったはずなのに、その足取りは軽く、まるで疲れを感じさせない。
それどころか、
(いやぁ、体が軽い軽い! このまま日本列島を横断できそうなほどじゃ!)
若返ったことで、伊能は全盛期に匹敵するほどの健脚を手に入れていた。
疲れ知らずのまま歩き続けること、さらに数時間。
(さ、さすがにちと疲れたのぅ。女神様の話では、このまま北上すれば村があるという話じゃったが……おっ、西のほうに洞窟が。ちょいと寄ってみよう)
などと寄り道しているせいで、どんどん日が暮れていく。
ついには真っ暗になってしまった。
「【測量】!」
――パァッ
と、測量範囲が輝く。
輝きは数秒ほどで失われるが、
「【測量】!」
スキルを重ねがけすることで、伊能は森の中を照らし続ける。
スキル行使には魔力が必要だが、伊能の【測量】は異常なほど燃費がよいため、使った分は歩いている間に回復してしまう。
世の魔法ジョブ系の人々が見たら、卒倒してしまったことだろう。
「【測量】!」
そんな無自覚強者ムーブをしながら、伊能は真っ暗な森の中を北上していく。
◆ ◇ ◆ ◇
空が明るくなってきた。
「はぁ……はぁ……【測量】……」
伊能はフラフラになりながら、森を突き進む。
「【測量】……おっ?」
そうして、気づいた。
細く心細いが、『街道』と呼べる程度には切り開かれた土地が数百メートル先に存在することに。
「ようやく着いたー!」
伊能は鬱蒼とした茂みをかき分け、街道に飛び出した。
そして、
――ヒヒーンッ!
馬車に轢かれた。




