ルシェヴァル・アルヴェインの拾いもの
花玻 陽葵、初小説です。
至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いします。
曽祖父が死んだ。
俺たち吸血鬼のなかでも一際長生きだったその人は、モノを集めるのが趣味だったという。
物欲なんて失われてもおかしくない年月を生きたその男は、珍しくその『物欲』を持ち続けていた。つまり、収集家だったそうだ。
他人事のように聞こえるかもしれないが、生前はあまり関わりがなかったのだから仕方ない。
そもそも種族柄、全体の数は多くないものの、親戚付き合いというものはひどく希薄だ。
特に祖父はあちこちを飛び回っているような人だったから、なおさらである。
「……なんで俺があの人の遺品整理なんか」
思わず口をついて出た悪態とともに、俺は目の前にそびえる洋館を見上げた。
外壁はびっしりと青臭い蔦に覆われ、時代から完全に忘れ去られたような佇まいをしている。
数世紀を生きた吸血鬼の遺産。
聞こえはいいが、実態はただの雑多な荷物が置かれた巨大な物置のはずだ。
いつもならこういう面倒事を引き受けてくれる兄達は、どうやら別件で手が離せないらしい。
仕方なく、俺は無駄に豪勢な両開きの重い扉に手をかけ、力を込めて押し開いた。
「ん? 意外ときれいだな……」
数世紀分の荷物が積まれた場所だ。扉を開ければ、むせ返るような埃の匂いと淀んだ空気が押し寄せてくるものだとばかり思っていた。
しかし、予想に反して内側からそっと撫でてきたのは、ひんやりと澄んだ清潔な空気だった。埃っぽさなど微塵も感じられない。
俺は少し拍子抜けしつつ、妙な違和感を覚えながら中へと足を踏み入れた。
仕方なく豪勢な扉を開けば骨董品や家具だったりと俺には価値のわからない宝達を通り抜けて、宝石や黄金なんかのわかりやすい煌びやかな一角に入る。
俺は、そこで『ソレ』をみつけた。
まるで、周囲に並ぶ財宝と同格だと、同じくらい大切だと大事だとでも言うように、そこにいた。
「は?」
目の前の人間の女は、繊細な細工の宝石の着いた水色のオーガンジーのリボンを胸に抱え、小さく蹲っていた。
その女に近づき、生きているのかどうかを確認しようとすれば、足音に気づいたのかゆっくりと女の目が開く。
「あなた、誰?」
目の前の人間の女が告げる。
見た目年齢は俺と同じくらいか。おそらく成人は済んでいるだろう。
「アルヴェイン様は……?」
"アルヴェイン"。この場合のアルヴェインが指すのが、俺ではないことは文脈から理解できる。曽祖父のことだろう。
「旅に出た。長い旅だ。お前が生きてるうちは帰ってこないだろうな」
「そう、ですか」
俺のでっちあげの嘘に、いや、遠回しな言い方か。それに温度無く答えるそいつの瞳は揺れていた。
曽祖父が死んだことにも、察しがついていることがわかる。
ふーん、思ったより馬鹿じゃないんだな。
こんな味気ない場所で囲われることを是としていた女だ。相当頭が悪い女かと思ったが。
「わたし、どうしたらいいんだろう」
悲観に暮れた様子で女がそうつぶやくのがよく届く耳に聞こえる。
どうしたらいい、か。
このままこの人間を放置するわけにはいかない。だが俺が何をする必要も無い。この現状を兄達に報告するだけして、この人間に今後会うこともない変わらない日常を歩むこともできる。
この人間の人生にひとつも関わらないいちばん簡単な手段だ。
だがこの時の俺は、なんだかそれが酷く癪に障った。
理由は分からない。ただ、俺はその感情に従い気づけば───。
「……俺のところに来い」
「え?」
大きな目を、零れ落ちそうなほど開く目の前の人間に、再度問いかける。
「お前、名前は?」
「……セナ、セナです」
「セナ。俺はルシェヴァル・アルヴェイン。お前が口にした人物の、曾孫にあたる存在だ」
「お前の持ち主であろう”レグナード・アルヴェイン”からお前は手を離れた。だから、俺と来い」
そう伝えれば、悲しげに目を伏せたあと、セナは俺に視線を合わせる。
「……わかりました。る、るしぇ、ゔぁるさ、ま」
「ハァ、ルカでいい」
「はい、ルカ様」
これは、俺の気まぐれで生み出された、1人の孤独な人間の女の、些末な人生の起点の話。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
こちらは短編?三部作にしようと思ってます。
次はセナ目線。(曽祖父との出会いから)




