2-5. 『銃器生成』、自分の能力を知る。(中編)
約2,000字でお届けします。
楽しんでもらえますと幸いです。
ギルド内の訓練場。
「よいしょ、よいしょ、よいしょ……」
ケンはギルドから許可をもらい、倉庫から取り出した的を地面の至る所にテキパキと刺して置いていった。彼なりに満足した時点でアーレスの横へと戻ってくる。
「そこは罠を発動しないんですね?」
アーレスの問いに、ケンは首を縦に振ってから腿上げをしてみせる。
「たまには運動しないとね。罠師とはいえ、罠ばかりを頼りにすると良くないよ? 罠を仕掛けられないような状況では、体力と忍耐力が重要だからね」
先日、風の魔将フリュスタンとの闘いで序盤に罠が効かなかった。魔王と闘うということは、自分が不利な状況も考えて動かなければいけないとケンはアーレスへ言外に伝える。
「なるほど。たしかにそうですね。私も刀剣以外で闘う方法を覚えないと……」
「それじゃ、簡単な徒手空拳でも覚えてみようか?」
「はい! よろしくお願いします!」
そのようなケンとアーレスの会話とは別に、ファードとメルの話も進んでいた。ファードはケンの置いた的の内1つを指差して口を開く。
「よし、ケンがいくつか的を置いてくれただろう? まずはあの的だ。時間を掛けてもいいから正確に撃って当てて見せろ」
「はい!」
メルはファードが指し示す的を見据えてから神経を研ぎ澄ます。
「正確に……正確に……当てる……当てる……」
メルの集中力の高まった瞳はやがて、1本の直線を見出す。その直線は少し揺れるものの、大きく変化することがなかった。
「見えた!」
「ん? 見えた?」
メルは銃口を見えた直線の先端に合わせ、そのまま引き金を引く。彼の持つ銃から銃弾が放たれると、真っ直ぐ的のど真ん中へと辿り着き、的の中心にはしっかりと穴が残された。彼の目には射線が映るのだとファードは理解する。
「おぉ……一発でど真ん中をぶち抜いたか。どうやら射線が見えるようだな、こりゃ、素質があるな」
ファードは手放しで称賛する。遠距離攻撃で大事なのは命中精度や命中率である。どの程度正確に狙えるか、どの程度相手に当てられるかは味方への誤射を防ぐ意味でも重要な要素だ。メルに射線が見えるのであれば、即戦力に近いと判断できる。
「えへへ……ありがとうございます」
メルは褒められ慣れていないのか、ファードが褒めた時に、恥ずかしそうにキャスケット帽を目深に被り直す。しかし、にやけた口元と笑い声を隠すことができず、彼が笑っていることは容易に想像がついた。
「ところで、その、えへへ、って、あんまり男っぽくないぞ?」
「え? じゃあ、ガハハ……なんかボクのキャラクターに合わない気がします……」
ファードは、メルのキャラクターに合わせたら、女の子っぽくなるぞ、という言葉が出掛かったものの、舌の上で何とか押さえつけて飲み込み直した。せっかく意気揚々と訓練しているのだから、わざわざ気落ちさせる必要もない。
「まあ、無理はしなくていいんじゃないか?」
「そうですよね。でも、少しずつ仕草とかも男っぽくしていきます! そちらの指導もお願いします!」
「どんな指導だよ……まあ、いいから、本来の訓練に集中しろ」
「あ、はい」
ファードは少し調子が狂うが、気を取り直してメルに訓練を続けさせた。先ほどと同様にファードが次々に当てるべき的を指し示し、それをメルが撃ち抜いていくという訓練を何度か続けていると、彼が射線を見つける時間が徐々に短くなっていく。
やがて、ファードが指し示してから一呼吸ほどでメルが撃ち抜いていくようになる。
「へぇ、筋がいいな。割とすぐに合わせて当てられるのか。じゃ、次か」
そう呟くと、ファードは地面に突き刺さった的を1つ引っこ抜いた。
「んじゃ、動かしてみるぞ。真上に上げるから、地面に落ちる前に撃ち抜け」
的が放り投げられて天高く舞う。メルは顔を一度動かした後は瞳だけを流すように動かし、的との射線が見えるまで待ち続ける。やがて、彼の目に1本の線がはっきりと見えるようになった。常に動き続ける1本の線を彼は先回りして銃口を合わせる。
「そこ!」
的は銃弾に撃ち抜かれ、一度小さく跳ねた後に自由落下で地面に叩きつけられていくつかの破片になって散らばる。
「ほー、そこまで命中精度が高いと何かしらのスキルかもな」
「いろいろと補助されていて嬉しいです!」
メルはぴょんぴょんと跳ねて、嬉しさを全身で表している。
「メルって、アーレスより女の子っぽい動きするよね」
ケンが微笑みながらメルをそう評価していると、アーレスが少し膨れ面で彼を見る。
「ちょっと……私を比較対象にするのはやめてくださいよ……たしかに言われてしまうほど、女を捨てた私は全然女の子っぽくないですけど……いくらなんでも男性と比べられるのは心外です……」
「いや、動きだけに限った話だよ?」
「……そうですか」
ケンは失言をしたと思って謝り始めるが、アーレスの機嫌はあまり良くならない。彼の『観察眼』も乙女心を察するのは中々に難しいようである。
「ところで、その銃を使う理由はあるのか?」
しばらくして、ファードはメルに得物について問い始める。彼の持つ拳銃は独特な形をしており、若干装飾華美なところがある。
「うーん。軽くて扱いやすいし、片手で1つずつ持てるのもかっこいいですから!」
「ま、見た目は大事だな。やる気も上がるし。そういや、模擬戦の時に大きなのがどうとか言ってたな?」
「あ、はい! 出せますよ!」
メルが生成したのは、ライフルやアサルトライフル、サブマシンガン、ショットガンの類ではなく、もっと大掛かりなロケットランチャーだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




