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2、理想と現実

「§ΞΘνΦ」

「あの、何言ってるんです?」



白い馬車に駆け寄って、近くの人に声をかけた結果。



「Θg§eΞkΛΘπν¶Φ」

「あの、異世界ってその……不思議な力で言葉って分かるんじゃないですか?」



まるで何言ってるのか分からなかった。

そもそも、異世界に来たら不思議な力とかで言葉とか全部分かるハズでしょ!



「あの!出来ればご飯を頂けると」



僕は言葉による疎通を諦め、ジェスチャーで伝えようとする。

架空の何かを掴み、口に運ぶ動作を繰り返す。



「ΘπΦ!!」



馬車の近くにいた人は、僕のジェスチャーが伝わったのか、首を大きく縦に振ると

僕に笑顔を浮かべ近づいてくる。



「ありがとうございます!」



僕はその様子に安堵し頭を下げる。

その時だった。



「ごふっ」



体内からせり上がる胃液を撒き散らし、僕は膝から崩れ落ちていく。


僕に笑顔で近寄ってきた人。

その人の拳が、僕の腹に埋め込まれたせいだ。



「な、ん……で……」



必死に考えるが、答えなんて分からない。

ただただ地面に這いつくばり悶絶する。

それしか僕には出来なかった。


理由を求めるように、痛みを堪え僕は必死に顔を上げる。

ただ、その答えとして帰ってきたのは”足”だった。


僕を殴った人の足。

それが僕の頭めがけ凄い勢いで迫ってくる。


ゴキッ。

鈍い音と共にやってくる激しい痛み。

その痛みに耐えきれず僕は意識を失った。






ゴトゴトと上下に揺れる馬車。

その乱暴な振動が、頭の痛みを増幅させていく。

頭だけじゃない。

殴られたお腹はズキズキと痛み、度を越した空腹感で気分が悪くなり吐きそうになる。

幸い吐く物なんて胃に残っていなかった為、それは避けられているけど。



「臭い……」



僕の周りのは錆びた鉄で囲われている。

檻だ。


動物園とかで見た、危険な動物を捕らえる為の大きな檻。

だが、そこに入っているのは危険な動物ではない。


手足が動かない様に木の板で固定された人間だ。

首は鎖で繋がれ、当然トイレなんてない。


馬車の中、いや、この檻の中は錆びた鉄と排泄物の匂いが充満していた。



「なんだよ。ここは……異世界じゃないのかよ……」



当然、僕も例外じゃなかった。

手と足は固定され、首にもしっかりと鎖が巻かれている。

さっきまで着ていた制服は勿論、下着まで剥ぎ取られ、その代わりただの麻のボロ切れが被せられているだけ。



「ははっ……夢だよ。これは、悪い夢だ……」



そうだ、そうに決まってる。

絶対的な力もない。

特殊な能力もない、

ドジっ娘の神様もやってこない。

言葉も分からない。

ご飯も食べれない。


何かを得るどころか、制服は剥ぎ取られ荷物も失った。



「こんな所、異世界じゃないよ……」



ゆっくりと涙が頬を伝っていく。

何か特別な力を貰って、自分の好きなように生きられる世界。

それが僕の知ってる異世界なはずだ。



「母さん、父さん……」


 

今頃、二人はどうしてるのかな?

僕は飛行機墜落、搭乗者行方不明とか言われてるのかな……

……ごめんなさい。

きっと凄く心配してるよね。



「戻りたいよ……」



もう、いいよ。

2度と異世界になんて行きたい。なんて思わないから。

ちゃんと、母さんや父さんのいう事も聞きます。

なんでもします。



「……だから、家に帰してください」



僕は願った。

何度も何度も繰り返し。


僕をここへ……異世界へと誘った存在に対して。


何度祈ったのだろうか。

流していた涙は枯れ、いつの間にか僕は深い眠りに落ちていった。


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