表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/30

30.新しい日々へ

 ――時は少しだけ流れ、年度の終わりになった。

 ヴァルセリア学院でも卒業式が行われ、3年生は巣立っていく。


「やぁやぁ、みんな。来てくれたんだね」


 晴れやかに笑うディアナを囲み、いつもの5人が集まった。

 式典が終わるのを、会場の出口で待っていたのだ。


「もちろんです! ディアナ先輩には、とてもお世話になったんですから!」

「本当ですよ。それに、ちゃんと会えて良かったです。

 ディアナさん、人気者ですからね」

「やだなぁ。えっちゃん、自分たちの人気も知らないの?」


 ……いつの間にか、5人は周囲から注目されていた。

 レクトたちのパーティは、黒い海の調査と守護者の討伐を達成し、学院内でも有名になっていたのだ。

 学院長からの評価も高く――

 ラヴィニア学院よりも詳細な調査報告を上げられた、という話も出るほどだ。


「人気があるのはよろしいのですが……。

 おかげで、わたくしたちのパーティに入りたい、という方が多くて……」

「1年生の間でも、相談がとても多いんですよ……」


 セシリアとリゼも、困ったように続ける。


「えー? あたしが卒業して、いなくなるからかなぁ?」

「いやいや、そんなことはないですよ。

 来年からはみんな学年が上がるから……いろいろ、考えているんだと思います」

「……レクト君は優しいねぇ。まぁ、そういう見方もあるのかな?」


 ディアナの言葉に、レクトは寂しさを覚えてしまった。

 他の誰がどうであれ、彼らのパーティにとって、彼女は必要な存在だったのだ。

 これからはもう会えない――ということはないだろうが、その頻度は激減するはずだ。



 5人は慣れ親しんだパーティ活動室に向かい、ささやかながら、そこでディアナの卒業を祝った。

 レクトたちのパーティに加わったのは最後だったが、レクトはそれこそ1年生のときから――

 ……ポーターの時代も、剣聖への夢に戻ったあとも、ディアナには世話になっていたのだ。


「――これ、みんなからのプレゼントです」


 お祝いの最後に、レクトがディアナに小さな箱を渡した。

 レクトとエステル、セシリアとリゼの4人で用意したものだ。

 ディアナはいそいそと箱を開けて、中のものを取り出す。


「……ん? これ、置き時計?」

「はい。ディアナさんは、これからもデスクワークが多いでしょう?

 だから、ずっと手元に置いて欲しいなって」

「うわー。実用的なものは大好物だよ~。リゼたんから聞いたの?」

「リゼ様もそう仰いましたが、みんな、そう思っていましたわよ♪」

「わたしも驚きました! ……えへへ、何だか嬉しくて」


 ディアナは一瞬、ぐっと堪えていたが――すぐに、いつもの彼女に戻った。


「……うーん。

 プレゼントがあるとは思ってなかったから、お返しは考えてなかったなぁ……」

「何を言ってるんですか。俺たちはもう、もらっていますよ」

「えー? ……思い出を、とか、くさいことを言うんじゃないよね?」

「いえいえ……。私はエアリアル、レクトはリベリオン。

 セシリアさんとリゼちゃんも、アクセサリをもらってるじゃないですか」

「あれは違うよー!?

 ……だからいつか、絶対にお返しするからね!?」


 ぷんぷんと怒るディアナを中心に、笑いが絶える様子はない。


「でも、ディアナ様はこれから忙しくなるのでしょう?」

「あー、そうなんだよね。だからみんなとはあんまり会えなくなるんだけど……。

 でも、気が向いたらいつでも遊びに来てね!」

「いつでも、って……。伯爵家のお屋敷に、いつでもは行けませんよ……」

「えーっ!? 差別、よくない!!」


 ただ、リゼは本当に遠慮が無いようで――

 ……早々に、約束を取り付けていた。


「――さて。時間ももう、遅くなっちゃったね」

「そうですね。名残惜しいですが、そろそろ解散にしますか……」

「それじゃ、レクト君。最後に少しだけ、付き合って?」

「え?」


 ディアナの思わぬ頼みに、レクトは動きを止めてしまった。


「片付けは私たちでやっておくから。ディアナさんを、お願いね」

「責任を持って、送って差し上げてくださいね?」

「お兄ちゃん、お疲れ様でした!」

「お、おう……。それじゃディアナ先輩、行きましょうか」

「はぁい♪」


 レクトとディアナは、パーティ活動室から出て行った。

 一息ついてから、エステルとセシリアが片付けを始める。

 一瞬遅れて、リゼも手伝いを始める。


「――寂しくなりますね」

「ええ、本当に……。

 ディアナ様は、賑やかな方でしたから……」

「うぅ……。わたしも、悲しいです……」


 周りを振りまわす超天才。

 ディアナは今後、伯爵家の人間として……研究や事業を始めることになる。

 そのため、レクトたちのパーティからはこれで脱退――


 ……彼女がいなくなったあと、3人の胸には……突然の寂しさが訪れていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 夕暮れの赤い光が照らす中、レクトとディアナは並んで歩いていた。

 ふと、ディアナが横道に逸れて――レクトがそれに付いて行くと、彼女は振り返った。


「いやー、これから寂しくなるね。あたし、このパーティが好きだったからさ」

「……俺も、好きですよ。だからこれから、寂しくなります……」

「え!? レクト君、あたしのことが好きだったの!?」

「へぁっ!? ち、違いますよ!! パーティの話ですッ!!」


 ディアナはからかうようにして、レクトの顔を見上げた。

 そしてひと呼吸だけ置いて、言葉を続ける。


「――あたしは、レクト君のことが好きだったよ?」

「ははは……。研究対象として、でしょう?」

「さぁ――どうだったかな?

 いつからだろうね。もう、忘れちゃったけどさ」


 ディアナは楽しそうに1回転して、人差し指を自身の口に当てた。


「もし、レクト君があたしに興味があるなら――

 ……社交界まで、追いかけてきてね?」

「俺、そんなところには行けませんよ……?」

「君がもっと強くなって、剣聖として活躍して……叙勲して、貴族になって――

 そうしたら、社交界には来るでしょう?」

「……はぁ。とりあえず、目指すところではありますが……」

「気の無い返事だねぇ♪」


 そう言うと、ディアナは両腕を大きく広げた。

 何を意味しているのかは――レクトにはよく分からない。


「……ふふっ。ねぇ、君の剣を貸してよ」

「え? リベリオンを……ですか?」


 レクトは収納の魔導具から、剣を取り出した。

 この魔導具は、守護者を討伐した報酬としてもらっていたのだ。


「やっぱり、重いね」

「危ないですよ? 何をする気――」


 ――ちゅっ


 ディアナはリベリオンの刃に、静かにキスをした。

 突然のことに、レクトは驚いてしまう。


「ディアナ先輩!? 一体、何を……!?」

「ふふっ。困った先輩からの、贈り物♪」


 ディアナはそのまま、リベリオンをレクトに返した。

 そして静かに、身を翻す。


「――それじゃ、ね。

 政略結婚が決まるまで、待っててあげるから――」


 その言葉を最後に、ディアナは夕暮れの向こうに消えていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ――卒業式も終わり、日常が戻ってきた。

 授業は入学式まで行われないが、それは何かをやらない理由にはならない。

 レクトとエステルは、今日も修練場にやって来ていた。


「――ふぅ。なかなか上手くいかないなぁ」

「やっぱり、実戦の方が良いんじゃない?

 武器も揃ったし、レクトの右足の魔法も……充分に使えてるし」


 黒い海の調査、守護者の討伐を経て――

 レクトたちは、修練場に物足りなさを感じていた。

 徐々に、実戦での経験を求めるレベルに達してきているのだ。


「それならみんなで、どこかに冒険に行きませんか?」


 見学に来ていたセシリアが言う。

 彼女がいれば、後方支援は完璧だ。


「わたしも行きます! リルムの大きい方は召喚できませんけど……」


 セシリアの横で、リゼも言葉を続ける。

 リンドブルムは攻撃力が高すぎるため、真の姿を気軽に召喚することができないのだ。


「ふははっ!!

 戦闘には参加せぬが、我が横で、いろいろと教えてやろうではないか!!」


 リゼの頭の上で、リンドブルムのデフォルメ化した姿――リルムも言葉を続ける。

 小さくても、やはり喧しい。まったくもって、本当に喧しい。


「喧しいなぁ……」

「……レクトって、リルムにだけ当たりが強くない?」

「そんなことは無いぞ?」

「照れておるのだろう? 婿殿はシャイだからな!」

「だからその……婿殿って、やめてくれない?」

「何を言う! さっさと我が娘を娶るが良い!!」

「――ああ、喧しい……」


 リルムは頑なに譲らないが、当のリゼは顔が赤くなっている。

 エステルとセシリアはそれを微笑ましく見ているが……この話については、確かにやめて欲しくはあった。


「でも、ディアナ様がいなくなった分……賑やかなのは、良いことですわ」

「ちょっと、種類が違う賑やかさですけどね……」

「あはは……。ところで、もうすぐ新入生が入ってきますよね。

 そうしたら、また賑やかになるかも……?」

「そっか。リゼも先輩になるんだなぁ」

「す、少し心配ですが……がんばります!」


 リゼはちょこんと、ガッツポーズを見せた。

 リルムはそんなリゼを見て、大袈裟に褒め称えている。


「……わたくしたちも、3年生になりますわね」

「そうですね。問題児が入学してこなければ良いんですけど……」

「そんなことを言ってると、本当に問題児がやって来るぞ?」


 ――3人はこれから、3年生になる。

 リゼはその下の、2年生。


 不意に、リゼは1年後の――3人が卒業してしまうときを思い浮かべてしまった。

 まだ先ではあるが、いずれ訪れる未来。

 自分はそのときまでに、心配されないような人間にならないといけない。


「……わたしも、今まで以上にがんばります……!

 それで……その一環で、呼び方を変えたいのですが……良いですか?」

「お……? うん、別に良いんじゃないか?」


 レクトは今まで、『お兄ちゃん』と呼ばれていた。

 これからリゼに、先輩後輩の意識が芽生えていくのであれば――

 ……お兄ちゃんと呼ばれるのも、これで卒業か。レクトはそんなことを考えていた。


「それでは――

 エステルお姉さまに、セシリアお姉さま。今後とも、よろしくお願いします!!」

「……え? 私たちの呼び方の話?」

「うふふ♪ リゼ様、こちらこそよろしくですわ♪」

「えっと……リゼ? 俺のことは……?」

「え? お兄ちゃんは変わらず、お兄ちゃんのままですよ?」

「そ、そうなの? ……そっか、そうなんだ……」


 複雑な気持ちを抱えながら、レクトは何とか返事をした。

 ただ、少しくらい何かが変わっても――やっていくことは変わらない。


「――まぁ、これからも頑張っていくか。みんな、よろしくな」

「ええ。レクトには負けないわよ」

「それならわたくしも、エステル様には負けませんわ♪」

「ちょっと……、何の話をしてるんですか?」

「さーて?」


 セシリアは微笑みながら、エステルを牽制した。

 そんな彼女たちを、リルムとリゼも眺めている。


「……我が娘よ。お主も頑張るのだぞ……!!」

「うん……。狙う隙、あるかなぁ……」



 ――レクトたち4人、……と1匹。

 パーティから去る者もいれば、来る者もいるかもしれない。


 彼らはそんな期待と不安を胸に――

 ……新しい学院生活の始まりを待つのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ