表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

21.憑依してるのに女子会

 結局、レクトはディアナに引き続き憑依をしたが――

 何となくエステルも諦めてしまったようで、あまり細かくは言わなくなった。


 本人から憑依を求めてきたのは、セシリアも同じだ。

 しかし何より、ディアナを言い負かせるのは難しい。

 ――そんな中、レクトはパーティ活動室を訪れた。


「こんにちはー♪」


 例によってエステル、セシリア、リゼの3人がいる。

 彼女たちはレクトの明るい声に、一瞬言葉を止めた。


「……えっと? 今は、どっちなの……?」

「うん? 今は憑依中だぞ~?」

「うふふ。挨拶がもう、完全にディアナ様でしたわよ?」


 そう言いながら、レクトはリゼの隣に座った。

 リゼからすれば、昔から世話になっているディアナの中に、命の恩人のレクトが入っている――

 ……何とも贅沢なシチュエーションだ。


「……ディアナお兄さま?」

「いやいや……。その呼び方は、いろいろと問題があるだろう……」

「確かに、頭が混乱しそうですわ……」


 そんな言葉を交わしながら、レクトは部屋の中を眺めていく。

 いつも通り、ということであればやはり――


「レクトの身体なら、もう寮に戻ったわよ?」

「……やっぱり?」

「もう少し、何とかならないの?

 宿題もやらずに、ずっと寝てるみたいなんだけど……レクトの身体、鈍っちゃうよ?」

「何とかなるなら、俺もそうしたいんだけどな……」


 憑依スキルを使う前に、いくらやる気を出しても、目標を立てても――レクトの身体は全て無視してしまう。

 これを解決するには、憑依スキルを使わなければいい話ではあるのだが……。


「――そういえば、エステルは修練はどんな感じ?

 剣気の発現は、まだ難しそう?」

「簡単に言ってくれるわね……。でも、正直……もうすぐな気はするの!」

「ほう……。俺も、リゼに憑依したときの心象世界でイメージは付いたからな。

 もうすぐ、っていう実感はあるんだ」

「へぇ……! お互い、頑張らないとね!」


 ふたりが剣聖トークで盛り上がる中、セシリアが口を挟む。


「それなら、エステル様も憑依してもらってはいかがですか?

 一緒に同じ目標に向かうのであれば、相乗効果ですぐに達成できるかも――」

「だから、私への憑依は禁止ですからッ!!」


 エステルの言葉に、セシリアは妖艶に微笑む。


「あら……まだそんなことを仰っているのですね?

 レクトさん、わたくしはいつでも歓迎ですから……」

「そんなことを言って、またレポートを書かせるつもりだろ……」

「お、お兄ちゃん! わたしにも、憑依して良いですからね……!」


 リゼも負けじとアピールする。

 それに一番反応したのはエステルだった。


「ちょっと!? リゼちゃんまで、何を言ってるの……!?」

「え……?

 だって、お兄ちゃんが憑依してくれると……身体が温かくなって、すごく安心できて――」

「後輩にそんなこと思わせるなんて!? レクト、最低ね!!」

「えぇ……。これ、俺が悪いの……?」

「うふふ。きっと、やきもちですわよ♪」


 セシリアの言葉に、エステルは頭を抱える。


「はぁ……。

 ディアナさんもそうだけど、何でみんな……憑依されたがるのよ……」

「そうですわねぇ……。非日常感、とか、背徳感、とか――」

「背徳感はダメですよね!?」

「まぁまぁ、そう興奮せずに……」


 レクトはエステルをなだめて、機嫌を取っていく。

 セシリアは、そんなレクト――ディアナの姿に、どうしても違和感を覚えてしまう。


「こうして見ると、ディアナ様もお美しいのに……」

「しっかり整えると、それはもう素敵なんですよ……。

 セシリア様にも負けないくらいに……!」


 リゼが、ディアナについて熱弁する。

 学院で見せるディアナの姿は、どちらかといえば天才の側――

 ……知的であり、怠惰であり、個性的であり。

 正直、好き嫌いは分かれてしまう……そんな印象があった。


「そうですわね……。レクトさん、少しピシッとしてくださいます?」

「え? 急に、そんなことを言われても……」

「ディアナ様は、伯爵家のご令嬢でしょう?

 淑女教育は受けているはずですから、咄嗟に出せるようにしておきませんと」

「そうですよ! ディアナお姉さまの、素敵なところが見たいです!!」

「いや、本人に言ってくれよ……」


 しかし既に、セシリアのスイッチは入ってしまっている。


「まずは優雅に、ティーパーティを楽しむことにしましょう。

 ちょうどここには女性が4人いるわけですから……、女子会を行いますわよ!」

「わぁ……! 素敵ですね……!」

「でも、ディアナさんの中身はレクトじゃないですか。

 女子会で話すような内容、ここで話せるわけが無いですよ!?」

「ああ……。恋バナをするわけにはいきませんものね……」


 セシリアはエステルを見て、楽しそうに笑った。

 エステルは彼女に強い視線を送ってから、レクトに話し掛ける。


「――まぁ、今はディアナさんの身体だし……。

 マナーとか礼儀作法をおさらいしておくのも、悪くはないかもね」

「わたし、少し忘れてしまっているので……。

 エステル先輩とセシリア様に、しっかりと教わりたいです……!」

「……私、こういうのはちょっと……。セシリアさん、教師役をお願いしますね!」

「あらあら。エステル様も、社交の場に出る可能性はあるでしょう?

 だから――みなさま、今日は厳しく参りますわよ!!」


 その言葉に、リゼは元気に返事をした。

 エステルは仕方の無さそうに、レクトは正直――ディアナの研究室に、戻りたくなっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 辺りが暗くなった頃、レクトとエステルは修練場に向かった。

 エステルが剣を振るう中、レクトはその姿を静かに眺めている。


「はぁ……。俺も剣を振りたいぜ……」

「ディアナさんの身体でそんなことしたら、身体を壊しちゃうわよ?」


 今、レクトはディアナに憑依している。

 そのため、エステルと一緒に修練をするわけにはいかないのだ。


「ディアナの手は、研究者……って感じだしな。

 力強くはないが、仕事をしている手だ……」


 闇が落ちた空に、右手をかざす。

 ただ、そうは言っても……とても女性的な手。魅力的な手に映ってしまう。


「それにしても、レクトのさっきの姿……。本当に、素敵な淑女って感じだったわね?」

「元々、そういうのは身体に叩き込まれていたみたいだからな。

 俺はそれを、なぞっただけだよ」

「ふぅん……。でもやっぱり、私からすると……憑依の感覚って分からないのよ。

 ――あっ。憑依をする方、の感覚ね!? だから、私には憑依しないでね!?」

「いやぁ……。エステルには憑依しないって、約束しただろ?」


 その言葉に、エステルの動きがゆっくりと止まる。


「ふふっ。分かっていれば良いのよ。

 ……さて。私はレクトよりも先に、剣気を発現させちゃおうかな~?」

「ははは、俺も負けないぞ?」

「……っていうか、しばらくはディアナさんに憑依してるんでしょ?

 そんなレクト君に、負ける気はしないなぁ?」


 エステルは再び、剣を振り始めた。

 最近、レクトは修練の時間が少なくなっている。

 リゼを助けたり、ディアナのドタバタに巻き込まれている、という理由もあるが――

 それでも彼は、剣術に重きを置くべきだ。


 ……本当に、彼は剣聖への道に立っているのだろうか。

 仮に立っていたとしても、仮に立っていなかったとしても――

 それを認識させるのは、今まですぐ隣にいた存在……自分であるべきだ。



 ――そう。

 自分で、あるべきなのだ。



 エステルの頭の中で、何かが弾けた。

 今まで手を伸ばしても届かなかったものが――……すぐそこに、あるような気がした。


 身体の奥底から力が湧いてくる。

 それは熱いものとなり、腕に、脚に、胴体に、頭に流れ込んでいく。


「――ああ。これが――」

「エステル……ッ!!?」


 瞬間、エステルの身体から大量の揺らめきが生まれた。

 エステルは全てを理解したような瞳で、木の剣の先を見つめる。

 ……そして、揺らめきを一心に集中させていく。


「おおおおおおおぉ――ッ!!」


 ……大きな声と共に、鋭く振るわれる木の剣。

 そして轟音と共に――修練場の地面が広くえぐれた。

 エステルはその光景を、息を切らしながら呆然と見ている。


「――ははははっ!! エステル、凄いじゃないか!!

 今のは、ちゃんとした剣気だったぞっ!!?」


 レクトは思わず飛び出し、エステルを抱きしめた。

 エステルも穏やかな目で、彼に応える。


「……うん。やったよ、私――……」


 エステルは静かにレクトの腕に触れ、そのまま抱きしめて返す。

 ただ……今のレクトは、ディアナの身体だった。それが少しだけ、寂しく思えてしまった。


 ふたりはそのまま、エステルの成長を共に喜んでいたが――

 ……少し経つと、誰かの声が聞こえてきた。



「おーい、大丈夫か!?」

「ここにいるやつは、ちょっと集まれー!!」


 ……改めて考えれば、今はもう夜になっている。

 そんな時間に、こんな場所で轟音が響けば……様子を見に来るのは当然のことだ。


「あ、すいません。ここにいるのは、あたしたちだけです」

「うん……? 3年生のディアナか?

 お前は錬金術師だろう? 何でこんなところにいるんだ……?」

「まさか、危険物の実験をやっていたんじゃないだろうな?」


 そのふたりは教師だった。

 ただ、それにしても――ディアナの印象のせいか、勝手に話を進めてくる。


「ちがいますよー。2年生のエステルさんが、剣気を発現させたんです。

 何でもかんでも、あたしの実験のせいにしないでくださいよ~」

「な、何だと……?

 ……確かに剣聖候補のエステルだな。今の話は、本当なのか!?」

「は、はい……! すいません、こんな夜中にご迷惑を……」


 エステルの返事を聞くと、教師のふたりは嬉しそうな表情を露わにした。


「そ、そんなことはないぞ……!! そうか、剣気を発現させたのか……よくやった!!」

「これは学院長に報告をしなければな!!

 今夜はもう遅い……。明日、時間は取れるか!?」

「えっと……。はい、問題ありません」

「それでは私の方から調整しておこう。エステルは明日、昼休みに教員室まで来るように」

「ああ、修練場は明日に直させるから。だから、お前は気にしないで大丈夫だぞ!」


 そう言い残して、教師たちは帰っていった。


「――はぁ。

 何だか……感動に、水を差されちゃったね」

「……まったくだな。さて、明日も予定を入れられたし、今日はもう解散にするか」

「え……?

 ……そうだね。レクトも寮に戻る?」

「いや、俺はディアナ先輩の研究室に戻るよ。また明日、会おうぜ」

「うん、わかった。それじゃ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 修練場から出て、レクトはエステルと別れた。

 ただ、そのまま……彼は、修練場に戻っていった。

 そして木の剣を取り、ディアナの身体で構えを取る。



 ――重い。

 ただの木の剣なのに、それがやたらと……重い。



 レクトは木の剣を手放して、地面に落とした。

 そして、星空を見上げて――……しばらく、ひとりの時間を過ごしていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ