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虚飾まみれの魔導書の世界をスッキリさせます。〜整理の天才児による、澱みゼロの最短魔術ライフ〜  作者: 寝不足魔王


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第14話(中編):王の峻拒と、女神の天啓


 「……陛下。もし信じられないなら、ここで今、僕が実演しましょうか?」


 僕の静かな提案が、黄金の食堂に満ちていた重苦しい沈黙を切り裂いた。父カイルが「アルス……!」と声を呑み、母リーサが賢者としての鋭い眼差しを国王レオン三世へと向ける。


「がはははは! 面白い、やってみろ小僧! 勇者の倅がどこまで大言壮語を吐くのか、この俺の目の前で証明してみせろ!」

 国王の豪快な号令が飛ぶ。僕は席を立つことさえせず、ただ卓上に並んだ銀のカトラリーの一点を見つめた。


 「それでは、この場でご迷惑にならない大きさで実演いたします。」

 

 ゼノスさんが一生をかけて練り上げた『紅蓮の審判』。その情報の縺れを、僕は脳内の機能的なデスクで一瞬にして引き解いた。

 詠唱はいらない。

 予備動作も、不純な魔力の高まりも必要ない。

 ただ、そこにあるべき現象を、最短距離で射抜く。

 一切の爆音も、無駄な閃光もなかった。


 国王の目前にある銀の器の中から天井まで伸びる、一点の濁りもない純粋な火柱が一瞬にして具現化した。それは熱量さえも完全に制御され、周囲の空気を一切乱すことなく、ただその場に「正解」として存在していた。

 

 食堂が、先ほど以上の戦慄に包まれた。

「……これが。一言の詠唱もなしに、現象だけを抜き出したというのか」

 レオン三世が、初めて言葉を失い、銀の器の中に揺らめく純粋な焔を凝視した。隅で見ていたゼノスさんは、再び突きつけられた「最短の理」の前に、力なく項垂れるしかなかった。

 

 王は沈黙の後、カイルを振り返った。

「カイル! お前、こんな規格外をどうやって育てた!」

「はぁ~……。教えたこと以上のことを、こいつは自分で見つけちまうんだ。昔から、散らかったものを放っておけない、真っ直ぐで優しい性分なのは間違いねえよ」

 父さんは頭を掻きむしりながら、照れ臭そうに、けれど戦友としての確かな信頼を込めて僕を保証した。

 

 だが。

 実演の凄まじさを認めつつも、レオン三世の表情は、一国の主としての冷徹な色を取り戻した。彼は腕を組み、重い口調で首を横に振った。


「……アルスよ、お前の腕は見事だ。だが、王立図書館の買収と分解、こればかりは到底承服できん」


 王の峻烈な拒絶が、食堂に響き渡った。

「そもそも、お前は年齢が若すぎる。最低でも王立図書館に勤務できる年齢に達していなければ、法的な責任を負うことも叶わぬ。……いや、たとえ年齢の問題を抜きにしてもだ。魔導書を一度分解してしまえば、それを元通りに戻せるという確証がどこにある? あれは我が国の心臓、先人たちの遺した唯一無二の至宝だ。お前の言う『整理』が、結果として修復不可能な破壊に終わる博打を、俺が許すわけにはいかんのだ。今回は、館長からの提案だが王としては承認しかねる。」


 それは、信頼している親友の息子であっても、国の主として退くことのできない、正当で重い理性の壁だった。ハミルト館長が絶望に顔を伏せ、セリスさんが必死に何かを言おうと身を乗り出す。

 セリスさんより前に僕が誠実に、具体的な条件を再度説く。


「陛下。もし万が一、整理の工程で魔導書に修復不能な損失が出た場合は、僕の『十枚の紙』が生み出す今後の収益すべてを、その損害賠償として国に差し上げます。司書たちの給料もそこから全額補填し、整理が終われば図書館は速やかに国へ返還します。……これは博打ではなく、確実な情報の復元です。僕はただ、澱んだままの本を、あるべき姿に戻したいだけなんです」


 損失への備えとして、現在進行形で莫大な富を生んでいる「十枚の紙」の利権すべてを担保に差し出す。そのあまりにも重く、かつ圧倒的に合理的な覚悟に、王は一瞬、葛藤の表情を浮かべた。国家の予算を一切使わずに知識を蘇らせる。そのメリットの巨大さは、王としても無視できない。

 

 しかし。

「……それでもだ。魔導書をバラバラにするというリスクを、子供の言葉一つで背負わせる訳にはいかん。アルス、諦めろ。こればかりは、一国の主として、容易に頷けるような博打ではないのだ」

 

 レオン三世がその場の空気を断ち切り、拒絶を確定させようと口を開きかけた、まさにその瞬間だった。

 

 キィィィィィィィン――。

 

 食堂のすべての光源が、一瞬にして消失し、代わりに天から神々しいまでの黄金の光が降り注いだ。

 誰もが呼吸を忘れ、椅子に縛り付けられたように動けなくなる中、その光の渦の中心に、一人の女性が姿を現した。

 

 透き通るような白銀の衣を纏い、この世のものとは思えない美しさを湛えた、女神ルナミス。

 彼女は、神界から見守り続けていたアルスの「最短の所作」と「誠実な魂」に、もう限界まで胸を高鳴らせていた。

 

「……国王陛下。その整理、この私が保証いたしましょう」

 

 女神自らが地上に降り立ち、王の目の前でアルスを肯定する。

 あまりの事態に、王レオン三世も、父カイルも、その場の全員が、声も出せずにただ呆然と立ち尽くしていた。

 

 アルスが世界をスッキリとさせるための「国家規模の整理」は、神の介入という、もはや誰にも止められない領域へと突入した。


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