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20話 お勉強

恐ろしいことに、目覚めると隣に知らない女が寝て居たという事件があったらしい。

女の訴えが真に迫っていたのもあり、結構な人数が女の訴えを信じたらしい。

結果的には男性の主張が正しかったことが証明されたが、事件からそれなりに時間が経っていたこともあり、待っている間で男性の人生は滅茶苦茶になってしまった。その男性は教会で保護され、女には男性が失った資産の補填を言い渡されたが何をどうやったかあっさり支払って消えたとか。


当然女性が被害に遭う方が多いが、金や権力、果ては暴力でねじ伏せられることが多く、地域によってはもみ消されることもある。そのため被害者は泣き寝入りするかひっそりと教会に保護を求めるとか。


一応こういった事例が起こった際には速やかに審議を行うようにしているらしいが、被害者に対する風評被害は後を絶たない。だからこそ各々の自衛は大切だ、と。

本来は働き始める12歳前後で話す内容らしいが、俺の場合は魅了が云々と言うことで早めに話したそう。圧が凄かった。


関わりたくなくともトラブルが向こうからやって来るので、自衛に関する鍛錬は一層身が入った。

また、6歳になったからと護身を意識した身体の動かし方も簡単に教わる。

素早く動けなくても、相手がどう動いた時に自分がどう動くのが良いかを無意識レベルでできるように慣れさせておいた方が良いと。

ありがたいけど何想定なんだろう。捕まった際の急所とか確実に人的被害を想定している。


詳細はわからないが教えてくれるなら覚えておいて損は無いので真剣に取り組んだ。

慣れない動きなせいか身体がうまく動かなかったので体幹も適度に鍛えよう。


そんな感じで午前中を過ごし、午後はついにお勉強の時間。

なぜか幼女がテンションあげて迎えに来た。ばばんと。

初回だし一緒に行こうと。これなんやかんや毎回一緒に行くことになるのでは?


そんな不安が過ぎったが、今俺にとって一番の問題は、うっかりぼろを出さないようにすることだけだ。

謎の歌を歌いながらテンション上がりっぱなしの幼女。

尻尾がぶおんぶおんと動いているせいで結構な風が来る。

幼女の身体の向きによってたまに当たる。

痛くはないが気になる。

いっそ尻尾を掴んで止めたいが、種族にとっての外見的要素は誇りであったり、パートナーしか触れてはならない等、デリケートな問題があるので不用意に触れてはならないそうだ。

丸出しにするのやめてくれよ。


そんなことを考えている間に勉強部屋へ到着。

かなり広い部屋に机が離れて置いてあり、子供も大人も居た。

どうもある程度の年齢ごとに分かれて座っているらしく、2・2で向かい合わせに、4人揃っている席では既に何やら読んだり書いたり、話し合っている所もあった。

意外と自由な学習スタイルに感心していると、手を振りながら俺たちを呼ぶ少年を発見。隣に少女も居た。俺的にセーフな子だった。

更にテンションを上げ、満面の笑みで走りだそうとする幼女を抑えながら少年たちの元へ。


席に着くと簡単な説明が始まる。

今日は少年と少女がマンツーマンで先生役をするが、明日からは二人が交代で先生役をすること。

また年の近い子が居れば一緒の机で勉強するので仲良くすること。

使用する教材はきれいに使うこと。

分からないことがあればちゃんと聞くこと、ただ声を出す時は小さな声で話すこと。

勉強している子の邪魔をしないこと。

次の段階へ進むにはテストがあるが、得意不得意は個人で異なるので、焦らず落ち着いて勉強しましょう、と。

視線がアリシアちゃんに向いていた気がするのは気のせいだろうか。


そんな訳でまずは文字の勉強から。

ひらがなとカタカナしかない教材を見せられた。

ドナさんとウィルさんからは俺が既に読み書き出来る設定と言われたが、良いんだろうか。

まずは本を音読。

俺はすらすらと、幼女はたどたどしく、途中でわからない文字もあった模様。

若干こちらへ何とも言えない視線を寄越してくる。やめてくれ。君が本をほとんど読んでなかっただけでしょ。

知ってるぞ。1行読んだだけですやぁっとしてるって。逆に凄い。


「かーくんずるい…」

「ずるくないよ。毎日本読んでたら覚えるも…覚えるよ」


――危ない。うっかり"もん"とか言いそうになった自分にちょっと引いた。


「…ほんはねむいんだもん…」

「…眠くならない本は無いの?」

「ない」


毅然とした態度で言い放つ幼女。

そこできりっとすんな。

見ろ、少年少女が苦笑してるぞ。


「アリシアちゃん、文字を覚えたらトビさんとタイニーさんにお手紙書けるよ?」

「おてがみ?!」


なぜか手紙が心の琴線に触れた幼女が大声で復唱した。

少女が苦笑しながらシーッと指を立てると幼女がはっとしてぺちっと口を塞いだ。

その後何やらひそひそと楽しそうに話した後、幼女がふんふんとやる気を出していた。すげぇ…

そんな二人を横目に、せめて文字を丁寧に書こうとしている俺をじーっと見ていた少年が口を開いた。


「カルはもう文字書けるんだろ?」

「うん、でもきれいに書きたいから」

「お、偉いな。カルもすぐに漢字を覚えそうだな」

「ぼくも?」

「あぁ、ハイネも覚えるの早かったんだよ。ここでしか見れない本があるからって」


ハイネ君とは本好きの少年だ。

なるほど、本好きは文字を覚えるのが早いのか。

本読んでてよかった。


「ここでしか見れないの?」

「おう。普段読んでるのは子供向けで、こっちだと大人向けにもうちょっと詳しく書いてあったりするんだ。まぁまずは漢字を読めるようになってからだけどな」

「…頑張る…」


――までもなく多分読めるんだが。

どんだけ時間かければおかしく見られないんだろう。あとで聞いとこう。


「おう、頑張れよ」

「…うん」


わしわしと頭を撫でられたことに遠い目をしつつ改めて文字を書く。

それぞれ旧仮名の"い"と"え"があったことに驚きはしたものの問題無かった。2文字だけだし。


一区切りつき、少年にチェックをしてもらってる間暇なので、アリシアちゃんの様子を伺い、すぐに視線を戻した。

なんで親の敵と言わんばかりに手元を睨みつけてるんだ幼女。そんな顔できたのか。

指導している少女がやんわりとアリシアちゃんの表情を和らげようと格闘していた。頑張れ。


「うん、やっぱり問題無いな。あとはテストが合格なら漢字の勉強だな」

「わかった」

「ん、じゃぁこれ、このページの文章でひらがなをカタカナに、カタカナをひらがなに直して書いてくれ」

「…間違えて書いたらどうしたらいい?」

「そんな心配しなくても。間違えて書いても×で消して、その下に書き直せば良いから大丈夫」

「うん、わかった」

「文字を理解してるかどうかだから、文字を間違えて覚えてるとかじゃなきゃ問題無いぞ?」

「…うん…」


そんなことより相槌の合間に撫でて来るのなんでですかね。

…そういえばこの少年、思春期を迎えた少年たちとは違ってあっさりと教会式挨拶をかましてくる猛者だった。ドナ式じゃないだけ良しとしていたが既に教会色に染まっているのか…


ややこしさに気を付ければ何の問題も無いテストなので、丁寧に書いて、見直しもして、と微妙に時間をかけつつ完成。


「できた」

「え」

「え」――早かった?結構時間経ってると思ったけど。時計が欲しい。

「いや、大丈夫だ。ちょっと待っててくれ」

「…うん」


だから俺の頭はボタンでは無いと…

俺の頭をひと撫でした少年が紙を見ると教師役の人に渡しに行った。

まさかの二重チェック。厳重だな。

待っている間は暇なので本の残りのページに軽く目を通す。

どうも神話シリーズの話しがベースになっていた。いやこっちがベースか。絵本より若干詳しく書いてある。


少年と、別の気配が近づいてきたので意識をそちらへ向ける。

教師役の女性だった。うん、大丈夫大丈夫。触らなければ。


「カル君おめでとう、合格よ。はい、これ」

「なに?」


これ、と言われ女性の手元を見ると丸い木の板に"ごうかくオメデトウ"の文字。ひも付き。首にかけるっぽい。

正直いらねぇ、と受け取るのをためらっていると少年が口を開いた。


「それを持ってると漢字の混じった本を見れるようになるんだよ」

「なるほど…」


そういうことなら受け取っておこう。

手作り感溢れる証明書をそっと受け取り首にかけた。


「いいなぁ~…」

「アリシアちゃん…」


隣から羨ましそうな声。欲しいならぜひあげたい。

じーーーーーっとこちらを見てくる幼女を少女が宥める。


「大丈夫だよ、アリシアちゃんもきっとすぐもらえるよ?ほら、この辺はもう書けるようになったでしょ?」

「うん!かけるよ!」


幼女声おさえて。


「ふふっ凄い凄い。ここはちょっと難しいんだけど、アリシアちゃんならすぐ覚えられるよ。だからもうちょっと頑張ろう?」

「うん!がんばる!」


少女すげぇ。

幼女が素直なのもあるだろうけど。

少女は険しい顔した幼女を褒めちぎっている。

幼女は褒められるたびにドヤ顔し、文字を書く度に眉間に皺を寄せる。顔忙しいな。


見ていてもしょうがないので新たに貰った教材を確認。


待て。


旧漢字かよ。


さすがにそっちは未知の世界なので、改めて覚える必要がありそうだ。

雰囲気で読めそうだけど多分書けない。


そんな感じで初日を終え、しばらくアリシアちゃんと二人でお勉強という平穏な日が続いていたので失念していた。

同じ年頃の子供とは、洗礼に来ていた子たちが該当するということを。




「ねぇねぇ、かるく~ん、これおしえて?」

「…お兄さんに聞いて」

「かるくんにききたいの~!」


知るか。


「なぁおい」

「・・・」

「なぁに?」

「おまえじゃねぇよ!」

「え~、だっておいってだれかわかんないもん」

「うるせぇ!」


いや、幼女が正しいよ。


「ちょっとだまっててよ。かるくんとはなしてるんだから」


話してない。


「おまえがだまれよ」


お前もな。


「もー、おべんきょうのじゃましないで!」


頑張れ幼女。

微妙に言い争いが始まったがスルーした。


隣にアリシアちゃんを据えたは良いが、正面には面倒な女児、その隣に面倒な男児が座っている。

なんでどっちもターゲット俺なんだよ。

ていうか何しに来たんだよ。


実力行使に出ようとしたのか、女児が立ち上がりかけたが、隣の男児の一言にその場で言い合いをし出したので難を逃れた。

ありがとう、名前を忘れてしまった面倒な男児。


「おいおまえ、むしすんなよ」


チンピラに絡まれてる気分になったのでスルーしていたが気に入らない様子の男児。

喋りたいなら名前を憶えろ。

俺は忘れたけどな。


あぁ、一人になりたい。

微妙に声が小さいところに余計な知恵を感じる。


とりあえず俺は勉強に集中してます、聞こえません、話しかけないで、という雰囲気を頑張って醸し出しながらひたすらスルー。

本日不幸にも教師役になってしまった少年が「勉強してる子の邪魔するなよ」と2度ほど伝えてはいるが「仲良くしたいだけだも~ん」と子供、特に女児の減らず口は止まない。なんで変な所で頭と口が回るんだ。教師役の少年我慢強いな。俺なら諦めるかすぐに助けを呼ぶのに。

3度目の警告を告げた少年が、ちらちらと他の席に視線をやっていたのでそろそろ大人が来るかもしれない。


そんな俺の中で日常の一部みたいなちょっとしたトラブルより、旧漢字しんどい。

画数が多すぎる。絶対6歳児が覚えるようなものじゃない。難易度上がり過ぎじゃない?

教材によって使ってある漢字が違うからなおさらしんどい。誰かドリル作ってくれ。子供向けのやつ。


體とか体でいいじゃん。

壹とか読めなかったし。壱でいいじゃん。むしろ一でいいじゃん。なんなら1でいいじゃん。

いや、ヘマしないというかできないから俺的には良いんだけど。書ける気がしない。うっかり簡単な方書きそう。俺の知る常用漢字がもっと活躍してほしい。


スルーし過ぎて文字に没頭していると、突然身体が揺さぶられた。


「?!」


しまった、集中し過ぎて気づかなかった。

もしウィルさんに見られてたら罰ゲームというかドナさんによる猫可愛がり案件だった。危ない危ない。

集中してても気配感じられるようになるまでどれくらいかかるんだろう。


「カル、ちょっと良いか?」

「うん?」


何やら離席を促されたので少年とともに机から離れる。

どうも俺以外集中できてないので、俺を別の席に隔離、というか俺を避難させてくれるという提案。

提案に即座に頷き、候補地を見て即決した。


「やっぱりか…」

「うん」


やはり知ってたか。なぜ提案したかは不明だが苦笑されても知らんがな。だから頭を撫でるな…!

選んだ方は冒険者っぽい恰好をした推定20代男性三人が居る場所。

もう一方がちょっと年上の少女二人の居る場所。彼女たちはまじめに集中してるようだが、俺が耐えられるか分からない。突然嘔吐したら目も当てられない。


そんな訳で男性たちの席へ。

全員がこちらに視線を向けた。まさか気配を察知したんだろうか。すごい。

正面に居る二人はすぐに視線を逸らしたが、振り返った一人が真顔になると口を開いた。


「どうした坊…坊主だよな?」

「…坊主です…」


おい、どういう意味だ。どっからどう見ても男児だろ。

真顔やめろ。なんだその疑いの眼差しは!


「はははっわりぃわりぃ」

「…はい…」


性別を疑われるという未曽有の事態にショックが隠し切れない。

あからさまに不貞腐れた俺を笑う男性。お前のせいだぞ。


「すみません、ちょっと他の子が喋ってて集中できなかったみたいで、こっちに参加しても良いですか?」

「あぁ、まぁ騒がねぇならいいぞ?」

「…よろしくお願いします」


大丈夫、俺大人だから静かです。

ぺこりと頭を下げて隣に座る。

何やら正面に居る二人から視線が刺さるが仕方ない。

彼らの中で子供はやかましいというイメージなんだろう。

少年が教材を持ってきてくれるそうなので大人しく座って待つ。


「え~~!あのこいないの?!」

「にげたのか?!」


騒がしい声が聞こえてげんなりした。


「坊主、子供のする顔じゃねぇぞ」


どんな顔だ。


「…お騒がせしました」

「いや子供の発言じゃねぇぞそれ」


頭を下げたら隣の男性がわしわしと頭を撫でだした。

手が一瞬止まったかと思えば再開。待て、どういうことだ。


「グレンさん、その子迷惑そうにしてません?」

「そうかぁ?口元喜んでないか?」

「あ~…」「え!?」


さすがに聞き捨てならない。

顔を触るがわからない。まだ治って無いのかと戦慄した。

やめろ、微笑まし気に見るな。

お前も参加するな。

長いよ!


「…いい加減にしてください」

「おーわりぃわりぃ」

「ごめんごめん、なんかこう絶妙な…」

「あぁ、なんかこう絶妙でな…」


絶妙ってなんだ。手をワキワキするな。

黙々と書き連ねているお兄さんを見習え。


そうこうしているうちに少年が戻ってきた。

子供たちの席が急に静かになったがどうしたんだろう。


「悪いカル、お待たせ」

「いいけど、だいじょうぶ?」

「ん?あぁ、こういう時のためにウィルさんが控えてるから」

「え」


さっきまで居た場所を振り返る。

お通夜か。


そしてウィルさんが本当に居た。

え、待って、いつから?

どこまで見てた?

分からないけどドナさんの刑はやめて!






お読みいただきありがとうございました。

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