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19話 ゆめ

「そういえばカル君、飲水の魔法が使えるんじゃないかしら?」

「あ…!」

「ふふ、そうですね。良かったらこれに」

「うん」


ウィルさんに渡されたコップを受け取る。

少年たちとの鬼ごっこで疲れ、気配察知の練習に疲れで結構ぐったりしていた身体をぱっと起こす。

くすくす笑われているがスルーで。

【微風】は正直本当に微妙だったので魔法使った感じがしなかったのだ。


とりあえず疲れた身体を冷たい水で癒したい。

そんな思いを込めて口にする。


「【飲水】!…おお…っ!」


コップの中が水で満たされた。

わくわくしながら口をつける。


「冷たくておいしい!」

「「え?」」


さすが魔法!簡単に冷たい水が出せるとかめっちゃ便利!!

半日に1回とか切ないけどこれからきっと増えるらしいから最初は我慢だ。


「カル君?ちょっと良いですか?」

「うん?」


怪訝な声を出すウィルさんに首を傾げる。


「私たちも一口貰っていいかしら?」

「うん」


ドナさんとウィルさんが口をつける。

お礼とともに返ってきたコップを受け取り残りを飲み干す。

二人が視線で会話をしているのの気づいた。


「え、なに、やめてよ」


ろくなことになった試しがないのでついやめてくれと口にしたが、この流れでそれはちょっと意味が分からない。


「えぇと、カル君、今どんな風にお水だしたか説明できる?」

「え?普通に、冷たいの飲みたいな、と思って"飲水"って…ん?」


コップの中に水が現れた。


「出た…」

「「え?」」


二人がコップを覗く。

ゆらゆらと揺れる水。そしてコップが冷たい。

特に魔法を意識したわけではない。

三人で顔を見合わせた。




「温度調節ができるとは聞いたことが無いですね」

「カル君の年頃で連続で使える子も聞いたこと無いわね」

「…つまり?」

「しばらく他の子の前では使わないようにすれば大丈夫よ」

「大きくなれば問題無いですから。あとは常温で出すようにすれば大丈夫です」

「はい…」


目の前にはコップを満たす氷。キンキンに冷えた水、常温の水、湯気を立てる水、ボコボコ沸騰してる水。


いくら魔法とはいえ不自然極まりないのは俺にもわかる。

ていうか沸騰してるやつ全然静まらないんだけど。


…水の温度調節が可能なら風も温度とか威力とか調整できるのでは?

夏とか涼しめの風で扇風機的な…


「カル君?」

「へい!」


――あかん。完全に後ろめたさのあるお返事…

ちらりとウィルさんを見る。にっこりしている。

ドナさんを見る。やっぱりにっこりしている。


「うふふ、何か考えてたの?」

「えと…」

「ふふ、風の使い方でも考えてましたか?」

「ひぇ…」


心の声を読むのやめてください。

いや遠回しに追い詰められるよりはマシかもしれない。


一人焦っていると笑い声。

おいやめろ。冗談に見えなかったぞ。


「うふふ、怒ることじゃ無いからそんなに怯えなくて良いのよ?」

「ふふ、えぇ、むしろどこまでできるか確かめておいた方が良いでしょう?」

「う、うん…?」


慰めるように左右から撫でられてるんだが、俺が怯えたのは二人の笑顔のせいなんですけど。


とりあえず風も試してみた。

次々と風を吹かせる。冷たい風から暖かい風まで。


「やっぱり器用ですねぇ。威力の調節もできるなんてすごいです」

「本当!温度も簡単に調整できるみたいだし、しかも連続で!すごいわね!」

「うん…」


すりすりさすさすわしゃわしゃと頭頂部で音がしている。毛が絡まりそう。


「威力はどれくらい上がりそうですか?」

「なんか普通にもっといけそう。でもやらないほうが良い気がする…」

「あらあら、本当にすごいのね」


うん、なんか下手したら扉ぶち抜きそう。

感覚的なものだから不確かだけど、やるなら絶対外。


とりあえず試してみてわかったことは、魔法の総量は変わらないが質の変化が可能だということ。

飲水はコップ一杯であればどんな温度にもできたし、風は控えめにしたのでわかりにくいが、威力を上げた分、風が吹く時間が短くなった。気がする。


おまけに使う意識をしなくても単語を口にすると勝手に出てくる。

やめてくれよ。

ただ水、とか風、くらいなら出てこないのでそれがせめてもの救いだが正直微妙だった。


とりあえず一般的な状態を二人が実演してくれたのでそれを基本としてしっかり覚える。

多分、常温常温…と思っていれば大丈夫なはず。

うっかりやらかした日には目も当てられないので、しばらく日中は朝魔法使ったから今は使えない、という体でいくことになった。


なんか面倒ごと増えてない?


前回の洗礼の日を終えてからは濃ゆい時間が突然日に日に増えていったし…

ちょっとした胸騒ぎを抱えつつ、疲れていたのも相まっていつもより早く就寝した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



声が聞こえる。

男の人と女の人が、優しい声で、優しい顔で俺に言う。


『お前は男の子だからな。姉さんたちを守ってやれ』

『お姉ちゃんを見習って、みんなに迷惑かけないようにね』


―――"うん!"―――


その声に元気よく応えると、何かがぐるぐると身体を覆った。

嬉しそうに笑う男女が褒めるのを誇らしく思いながらも、心のどこかで恐ろしさを感じた。



◇◇◇◇◇◇◇◇



声が聞こえる。

勝気そうな"俺"より年上の女の子。


責めるような声に何をしてしまったかわからない。

反抗心が芽生えたが、俺しか頼れる人が居ないと言う。

それなら彼女の手助けをしようと、女の子の言うことに従った。



◇◇◇◇◇◇



声が聞こえる。

沈んだ表情の"俺"より少し年上の女の子。


弱ったような声に何があったかわからない。

どうすればいいのかも分からない。

ただ聞いてくれるだけで良いと言う。

それなら彼女が元気になるまでと、黙って女の子の話を聞いた。



◇◇◇◇◇



声が聞こえる。

快活そうな"俺"と同じ年頃の女の子。


"たすけて"と縋っている。

"ありがと"と笑っている。

頼られることに、感謝されることに、喜びを感じた。

それなら彼女の役に立とうと、ただ女の子の願いを叶えた。



◇◇◇◇



声が聞こえる。

か弱そうな"俺"より年下の女の子。


"さみしい"と泣いている。

傍に居てくれるだけで良いと言う。

それならと彼女が安心できるまで、女の子の近くに寄り添った。



◇◇◇



『xxxxxxx!xxxxxをxxxxxなんて!!』

――ごめんなさい。



◇◇



『どうしてxxxxxみたいにxxxxx?!』

――――ごめんなさい。





『なんで』『どうして』『お前は』『あなたは』


―――――― ご め ――――――――――ふざけるな――――――――――



言われたことを守れなかった自分の不甲斐なさに申し訳無さを感じていると、怒りをはらんだ声が響いた。

音が、視界が、ぐにゃりと歪む。

聞こえていた泣き声が嘲笑に。

周囲の顔が喜悦に歪む。


ぐるぐると濁った色の渦を巻きながら"俺"から何かを奪っていく。

どうでもいいものも大切なナニカも。

奪われる。

吸い取られる。

全部全部。



何故か身体が動かない。

うずくまって耳を塞いで目を閉じる。



いやだ。


こわい。


たすけて。


だれか・・・



いつも傍に居てくれる二人を思い出す。


鉛のように重い腕を必死に伸ばす。


引きつる喉に力を込めた。



た       す      け     て    ――



「「カル君」」

「っ!?」


伸ばした手が握られている。

きつく握りしめていた手を優しく解かれる。


「あ…?」


暗闇で見えない中、温かい手の温度に身体から力が抜けた。


「ふふ、まだ夜中なので眠っていて良いですよ」

「…え?」


ぽんぽんと全身を行き交う感触。多分タオル。


「うふふ、怖い夢はすぐにばいばいしちゃおうね」

「…え?」


べたついていた場所がさっぱりしていく。


だんだんと視界が慣れて、優しくほほ笑む二人の表情を見るが、寝起きで頭が回らない。

困惑する俺をよそに、流れるような手つきで着換えが進められていく。

【クリーン】をかけられ、しれっと下着も替えられた。あっという間だった。

おまけに寝かしつける動きが同時進行で行われている。器用ですね。


なんか色々突っ込みたいのに、ぽんぽんと頭や胸を叩かれるリズムに抗えない。


瞼がだんだん重くなる。


「お休みカル君」「おやすみなさいカル君」と声が重なる。


柔らかい感触が額と頬に…






◇◇◇◇◇



優しい風が吹く。

ふわりと青臭い緑の匂い。

さわさわと草木の揺れる音。


閉じていた目を開くと、優しく誰かの声が響いた。


《 おはよう 》


――おはよう。


聞いたことのある声に返事を返す。


ざわりと風が吹く。


周りを見ても誰も居ない。


視界の端で、川がキラキラと流れているのが写った。


もう一度声が響く。


《《 よかった 》》


――何が?


突然の安堵発言に疑問を呈する。


ざわざわと草木が揺れる。

同時にくすくすと楽しそうに笑う声。


おい。


土の匂いに気づいて足元を見るが青々とした草が揺れているだけだった。


先程よりも遠くから声が響く。


《《《 ないしょー 》》》


――えぇ…


まさかの内緒発言に気が抜ける。


またくすくすと笑う声が響く。

同時にざわざわと草木が揺れた。


草に影が伸びているのに気づいて上を向く。

太陽が出ていた。

ぽかぽかと温かくなる身体に自然と地面に寝転んだ。


――さっきは無かった気がする。


ぼーっとそんなことを思っていると、額に当たる覚えのある柔らかさ。


《 うん、だってここは―――あ、またね 》


――え。


ざぁっと勢いよく風が吹く。


思わせぶりな発言をしておいてあっさりと去っていく声に呆然としていると、地面から柔らかな銀色っぽい光が立ち上ってきた。


驚いて起き上がろうとしたが身体が完全に脱力していて動かない。

危険な感じもしない所か心地よさを感じたのでまぁいいかとそのまま身を任せる。

今度は頭上から柔らかな金色の光が降り注ぐ。


どちらも身体に吸い込まれていくように見える。

満たされていくような感覚に安心感を覚えた。


金と銀の光がぐるぐるとお腹の辺りで混ざり合っている。

完全に混じり合ったのか、光がじわじわと全身を満たしていった。


身体がふわっと光る。


加護でももらえたんだろうか?


自分の手を見ようとしたら視界が暗転した。



◇◇◇◇◇



「え…」


始まりも突然なら終わりも突然だった。

視界が暗転したと思ったらいつもの天井。

二人が居ないのでいつもより早く目覚めたようだ。


起き上がる前に一応左右を確認。

うん、やっぱり誰も居ない。


実は夢だったのかと思って寝間着を見る。

寝る前に着ていたものと違った。

やっぱり夢じゃなかった。


現状は把握したが状況が理解できない。


なぜタイミングよく二人が居たのか。

…まさか添い寝がまだ続行してた…?

いやいやさすがに二人揃って添い寝は無い。


見回りのタイミングが良かったのか。

いや呼ぶにしても二人が揃ってたのはおかしい。

いや俺が起きたのが揃ってたタイミングだっただけ?


うんうん唸っていると人の気配が。


入口に顔を向けると二人が入ってくるところだった。

いつの間にやら起床時間になっていたようで、ほほ笑むドナさんと笑顔のウィルさんが部屋に入ってくる。

若干ウィルさんがドヤ顔に見えるのは俺の被害妄想だろうか。

気付いた気配がドナさんだけだったのを見透かされている気がする。朝から気配を消すとは大変大人げない。


ベッドから立ち上がってドナさんに挨拶。

3年の間になんやかんやでドナ式挨拶を余儀なくされた。

いまだ棒読み感はあるが自分からやることに意義があるそう。本当に正しいのかはわからないが、俺の羞恥ポイントは大分麻痺したと思う。破壊されたともいう。

返ってくる熱烈なドナ式挨拶の洗礼を受けウィルさんにも挨拶。

なんやかんやでウィルさんへもドナ式挨拶を余儀なくされた。返ってくるのももちろんドナ式挨拶。

これ何歳まで続くんだろう…


下手に突っ込んで酷くなると目も当てられないのでそんな考えは無かったものとスルーした。


朝食時に【飲水】の魔法を使用。

常温で!!と心の中で唱えたがいけただろうか。いやいけたはず。

どきどきしながら二人の評価を待つ。


「うふふ、温度はばっちりよ」

「やった…!」

「ただ三人分作ってますからね」

「あ…」


練習と思って普通に人数分作ってた。

この年頃の子は半日程度に1回しか使えないというのに…

あえて指摘しなかったんだろう。

鳥頭な自分に若干へこんでいると撫でられた。


「落ち込まないでください。できることをできないように振舞わせているのはこちらですから」

「いや自分の為だし」


俺が目立ちたくないだけで。むしろ協力してもらってるわけだし。


「それに昨日の今日だもの。気にする必要なんてないわよ?」

「うん…」


相変わらずフォローは手厚いんだが、若干髪の毛の感触を楽しんでいる気配がする。

じっと二人を見る。


「楽しんでない?」

「あらあら」「ははは」

「ちょっと」


雑。

誤魔化す気がないにしても、もうちょっとうまいこと誤魔化す努力を…

おい手を止めろ。


捕まえるのは不可能なので言葉で対抗。

食事中にやるのは行儀が悪いのでは、と。

手が一瞬止まったがなぜ嬉しそうに謝ってくるのか。

去り際にぽんぽんしない!


「そういえばなんで夜中に居たの?見回り?」

「うふふ…」「ふふ…」

「ちょっと?」


含み笑いやめろ。

あれか、本当にあれなのか。


「カル君が、3歳の洗礼でお昼寝の時に魘されていたから念のためだったのよ?」

「うん…?」


念のため何。添い寝?


「もちろん無い方が良かったのですが、案の定魘されていましたからね。一応着替えとタオルを用意しておいて良かったです」

「…うん…?」


それは本当に良かったの?

というかなぜ明言を避ける。


「・・・・・添い寝、続いてたの…?」

「うふふ、カル君一人じゃ寂しいかと思って」


おい。


「えぇ、集団生活をさせてあげられませんからね」

「いや、人が多いと寝れないし」


なんで添い寝がちょっとしたお詫びみたいな形になってんの。


「そうよね、2~3人(私たち)とならぐっすり眠れるものね」

「・・・」


確かに気づいてなかったけども。

素直にうなずけない。

視線で訴えたところで言いたいことを言わないとスルーされる。

しかしうまく言葉にならない。

どうしたものか…


「いつまで続ける気なの?」


苦肉の策というか、背に腹は代えられないというか。

内心の恐怖と戦いながら聞いてみた。

終わりはあるのか…え、あるよね?


「カル君次第かしらねぇ…」

「俺次第…?」

「そうですね、こればかりは時間がかかるでしょうから」

「これって何?!時間かかるの?!」


おい目で会話するなって!!


何度言ってもこれだけが改善されない。何なの。癖なの。


「子供には少々言いづらいんですが…」

「え、いやその辺は…」


また子供扱いで情報規制されそうになったので問題ないと伝えようとしたが、言葉を濁したウィルさんの視線が一瞬ドナさんへ向いた。

察した。


「将来知らない人が隣で寝てたら怖いでしょう?」

「え、うん」


それは怖い。なんてホラー?


「できれば部屋の入口あたりで気づくと良いんだけど…」

「うん、まぁ…」


そうだけど寝てる時まで気を張るとか無理。


「音が出るようにしておくのは?」

「いえ、罠を仕掛けても乗り越えて来る猛者が居るそうなんです」

「え…」


真剣な表情に慄く。

いや待て、何想定だ。

どんだけ肝の据わった強盗なんだ。諦めろよ。


「昔あったみたいなの。朝起きたら隣に知らない女性が寝てたって」

「は?」


そっち?!






お読みいただきありがとうございます。

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