閑話 『ナイト・フォグ』本部、事務員達
……事務総長 ミルフィー……
私は、ロワード帝国の辺境地の領主の父と母、そして兄2人と暮らしていました。
父は、ライオット国と隣接するこの領地を任される程の人でしたが、正義感が強く、常に正しくあろうと自分を戒めるほど、融通のきかない頑固な性格をしていました。伯爵という地位を得ながらも、常に、その目は、民の為に向いていた、私の尊敬する父です。
しかし、9年前、ライアット国内で魔物が溢れて街を襲うという事件がありました。
その街の殆どが、壊滅しましたが、どこからか現れたお面をつけた子供達が奮闘し魔物を撃退、多くの人々の命を救ったそうです。
その話を聞いて、私は、凄い人達がいるのだと人ごとのように感心していました。でも、その事件が我が身に降りかかるとは、その時は全く思っていなかったのです。
それから、半年経った頃。帝都に会議に出席していたお父さんが、反逆罪で処刑されたと領地にいる私達に連絡が来ました。そして、この領地に帝国の兵がやってきました。
領地は、没収され、母や兄達は殺されてしまいました。私は、利用価値があると言われ、奴隷に落とされました。
その時、あのライオット国の事件が、父の仕業であると言われました。
「嘘、そんな事は絶対にあり得ない。父は、そんな事が出来る人ではない」
何度も訴えましたが、奴隷に身を落とした私の聞いてくれる人など1人もいませんでした。
それは、ちょうど、私が、6歳の時でした。
帝都で奴隷オークションがあると言われ、他の奴隷達と馬車で移動させられました。
檻の中には、私と同じような年齢の子供達、そして獣人の子供もいました。
私は、不安でろくに食事も取れず身体は、衰弱してました。
馬車が止まり、どこか河原の近くで夜を明かすようです。
私には、昼も夜も関係ありませんでした。それは、ここに捕まっている他の奴隷達も同じようでした。
帝都には、明日には着く、と下品な男が舐めるような目で私達を見ていました。
その薄気味悪い目は、今でも夢に出てきます。
私は、考える事を諦めました。両親が殺され兄達をも喪った私には、もう生きる希望はありません。早く死んで両親の元に行きたいと思っていました。
真夜中、みんなが寝静まった頃、物音がしました。
周囲には、誰もいません。
でも、見張りの人が次々と倒れていきました。
何が起きたの?
他の奴隷達も眠れずに起きていましたので、みんなでその光景を見ていました。暗くて、わからないけど、下品な男達が次々と倒れていく様は、見ていて気持ち良いものでした。
すると、馬車にくくりつけられた檻の鍵が突如壊れました。そして、そこにいたのは、あのライル様だったのです。
彼は、檻の中から私達奴隷を出してくれました。そして、飲み薬をもらい、みんなで飲みました。すると、身体の中から力が湧き出るような心地良い感覚が染み渡り、私の身体は、衰弱する前に戻ったかのようでした。
ライル様は、1人ずつ事情を聞いています。家族がいる者、家に帰りたい者、そういった話を聞いてきました。次は、私の番です。
「君は、ミルフィーだね」
「はい、あの、何故、私の名前を知ってるのですか? 」
「うん、君を助けたいと思ってここに来たからね」
「えっ!? 」
私には、意味がわかりませんでした。でも、彼は、私を助ける、と確かに言いました。
「助かるの? 私……」
「君が望めばね」
「うん、私を助けて、お願い! 」
「わかった。君の願い確かに聞き届けたよ」
私達は、彼にここ、本部に連れてこられました。
そこで、私達は、お風呂に入り、食事を頂き、そして、家がある者、帰りたい者達を連れて帰ってくれました。
残ったのは、私だけです。私には、もう、どこにも帰る場所がありません。私は、泣きながらそう話しました。
すると、そこにいた人達、今思えば、ライル様、ナハト様、ユオ様、リール様そしてメンデル様が笑顔でこう言いました。
『ようこそ、竜の里の屋敷へ、歓迎するよ』
みんなが私に生きる道をくれました。私は、この人達の仲間になったのです。
でも、私には、皆様のような戦う力はありません。そんな私をライル様をはじめとした皆様が、『出来る事があればそれを少しずつでいいからやればいいよ。何もしなくてもここにいてもいいしね』と、気さくに話してくれました。
私は、皆様のお役の立ちたいと思いました。それが、私を救ってくれた皆様への恩返しになるのなら……
◇
……事務員 ルナ……
あたいは、猫人族の獣人です。
家族で、大森林の中の小さな獣人の村で暮らしていました。
お父さんは狩の名人です。
大森林の中には、あたい達のように多くの獣人達の村があります。
その中で、あたいの村は、魔物が少なく割と平和な村でした。
しかし、それは、突然、起こったのです。魔物の群れが村を襲いました。
魔物の殺される村の者たち……
あたりが血生くさい匂いで充満しています。
もう、お父さんもお母さんもあたいを庇って魔物に食べられてしまいました。
もうダメだと思った瞬間、大きな剣があたいを食べようとしていた魔物を斬り裂きました。
そして、
「おい、大丈夫か? ひでぇ目にあったな。でも、もう、大丈夫だ。俺様に任せておけ! 」
その、白狼の獣人の男の子は、魔物に向かって剣を振ります。私の側には、同じ白狼の女の子が付き添ってくれてました。
白狼の子達の他にも3名程魔物と戦っていました。1人は、ダークエルフのようでした。
しばらくすると、魔物の咆哮は鳴き止みました。
全部、退治されたようです。
あたいは、何がおきたのか分からず、ただ、恐怖で震えてました。
そう、あれは、あたいが、5歳の誕生日を過ぎた頃の話です。
誕生日は厄災の日だと人族が言っていると聞いたことがあります。
あたいは、本当にそうだと思いました。
あたいの誕生日が過ぎた矢先の出来事でしたので、そう思うのは当然だと思います。
でも、そこにいた、子供達は言いました。
「そんな事はないよ。誕生日は、この世に生を受けたその人の大切な証の日だよ。だから、お祝いして、生まれた喜びをみんなで分かち合うんだ」
そんな事を人族の男の子が言ってました。
あたいは、なんだか涙が出て止まらなくなりました。
あたいの村には、もう誰もいない。
あたいの両親も……
白狼の女の子は、あたいに聞きました。
「一緒に来る? 」
あたいには、どうしたら良いかわかりません。ここにいても、魔物の餌になるしかない。それに、両親が亡くなったこの地に残るには、辛過ぎます。
「うん、行く……」
きっと、小さな声だったでしょう……
でも、白狼の女の子は、笑顔であたいを抱きしめてくれました。
一瞬で景色が変わりました。
そこは、どこかのお屋敷のようです。
すると、みんなは、
『ようこそ、竜の里の屋敷へ。歓迎します』
と、言ってくれました。
あたいは、嬉しかったのか、悲しかったのか、わからないけど、涙が出て止まりませんでした。
そんな中で、みんなが話をしています。
もっと、早く駆けつければ犠牲を出さなくても済んだはずだ、とか、事前にわかるようにできれば、とか、難しい話をしていました。
そして、白狼の男の子が
「お前、なんて名前なの? 」
「名前なんてない。獣人は、匂いでわかる。名前なんて必要ない」
多くの獣人は、名前を持ってません。というか必要ないのです。匂いで誰かわかるし、それに、名前は、とても強い獣人しか持ってないと聞きました。
名前がないと不便だと言われ、すると、白狼の女の子が
「ルナでどう? 」
「いい名前だね。でも、どうして? 」
「それは、黒猫なら、やはり、ルナよ。月って意味もあるけど、それより、セーラー◯ーンのルナちゃんみたいだしね〜〜」
と、あたいには、意味のわからない事を言っていました。
でも、ルナ、ルナ、なんか、良い響きです。
あたいは、ルナって名前が気に入りました。
「ルナがいい……」
また、小さな声しか出ませんでした。
でも、また、その白狼の女の子は、あたいを優しく抱きしめてくれました。
あたいは、また、泣き出してしまいました。
◇
……事務員 セレーネ……
私は、クロウ勇国やミスティナ皇国を行き来する商人の娘でした。
あの時は、父の馬車に乗り、クロウ勇国の商品をミスティナ皇国に運ぶ途中でした。
「この峠は、つい数年前、黒竜が出たそうだよ」
「黒竜って、あのおとぎ話の? 」
「そうだよ。子供の肉が大好きでその時も男の子をさらっていったらしいぞ」
「本当? 私も食べられちゃうの? 」
「嘘、嘘、噂だよ」
「ひどい、お父さんの意地悪! 」
「ちょっとセレーネをからかいたくてね。ここらは、景色もいい。少し休憩するかい? 」
「うん」
「おーーい、冒険者の諸君、ここら辺で休憩をはさもう」
『おう』
私達の荷物の護衛には、Cランクの冒険者4人が付き添っていました。
あまり、強そうな感じのしない、悪人っぽい人達でなんだか嫌な予感がしてましたが、お父さんが冒険者はそういうものだよ、って取り合ってくれませんでした。
でも、その本性は、休憩時に暴かれたのです。
私達が休憩している時、ブラックウルフという魔物が群れをなして襲ってきました。
私やお父さんは馬車に逃げ込もうとしましたが、冒険者達が私達の馬車を奪い、馬を走らせ真っ先に逃げてしまいました。
取り残された私達に戦う術はありません。
私をめがけて襲いかかってきたブラックウルフをお父さんが庇って、そして命を奪われました。
私は怖くて動けずにいました。
その時、空から光の槍のようなものがブラックウルフに向かって落ちてきました。
魔物は、断末魔の悲鳴をあげ、ことごとく倒れていきます。
何が起こったのかわからないでいると、男の子が、
『大丈夫? 怪我はない? 』
優しい口調で聞いてきました。そして綺麗な金髪の女の子が、
「もう少し、早く来れたら……ごめんなさい」
と、謝ってくれました。
なぜ、謝るの? 助けてもらったのは私の方なのに……
でも、その理由は知っています。
きっと、お父さんの事です。
早く来れれば、お父さんを死なせずに済んだとこの女の子は謝っていたのです。
「私は、私は……わぁ〜〜〜〜」
私は、泣くことしかできませんでした。
この子達のせいじゃない。
悪いのは、荷物を奪って逃げた冒険者達だ。
この子達のせいじゃないのに……
2人の子供達は、私が落ち着くのを待っていてくれました。
そして、
「どうしたいの? 」
「仇を取りたい。逃げた冒険者たちを許さない」
「わかった。その願い、聞き届けるよ」
そう言って私を抱えて物凄いスピードで走って行きました。
しばらくすると、私とお父さんの馬車が止まってました。
荷物は無事のようです。でも
「ごめん、間に合わなかったようだ……」
残念そうにその男の子が言いました。
金髪の女の子は、
「襲ったベヒーモスは、私がかたずけてくるね」
「うん、気をつけてね」
逃げた冒険者は、別の魔物に襲われていました。
この辺りを根城にするベヒーモスというAランク指定の魔物です。
「あの〜〜あの子大丈夫なの? 」
「あぁ、ノーチェなら大丈夫だよ。それより、君は、帰る家があるのかい? 」
「クロウ勇国にお店があるけど……」
「お母さんがいるんじゃないの? 」
「あんなのは、お母さんじゃない。お母さんは、もう、とっくに死んじゃったよ」
「それは、どういう事? 」
「お父さんが後妻さんっていうのをもらったんだけど、あの女は嫌い。お父さんに隠れて従業員の男の人といやらしい事してる」
「そうか……」
「帰りたくない。あんな女と一緒に住みたくない」
「わかった。じゃあ、一緒に来るかい? 」
「どこに? 」
「仲間のところさ」
そんな話をしていると、金髪の女の子が帰ってきた。
そのベヒーモスという魔物を倒してきたそうだ。
「ノーチェ、この子、屋敷に連れて行くよ」
「えっ、いいの? 家族とかいるんじゃないの? 」
「うん、ちょっと、訳がありそうなんだ。だから」
「わかった。よろしくね。私、ノーチェよ」
「よろしくお願いします。私は、セレーネ8歳です」
「年上なんだ。よろしく。じゃあ、行こうか」
その男の子に連れられて、お屋敷に来ました。
とても、広くて豪華なお屋敷です。
こんなお屋敷、見るの初めてだよ……
すると、沢山の人が集まってきました。
大人の人が1人とあとは、私とそう変わらない子供達でした。そして、
『竜の里の屋敷にようこそ。歓迎します』
そうみんなに言われた。
嬉しかったのか、よくわからないけど、涙が止まらなかった事を覚えてます。
あれから、私は、ここの事務員として日夜、私のような子が1人でも減るようにと頑張っています。
◇
……事務員 シエル・チエロ……
私達がいつ生まれたのはわからない。
だけど、いつも2人で一緒にいた。
私の身体には、白い翼が生えている。
私の身体には、黒い翼が生えている。
そう、私達は、2人で1人の存在。
だから、いつも一緒にいる。
ある時、空から地上を覗いていると、魔物と戦っている子供達がいた。
私達は、お互いの顔を見合わせ、
『面白そう〜〜」
そう、つぶやいていた。
私達は、戦っている子供達のところにきた。
でも、みんなからは、私達が見えないみたい……
『つまらない……』
誰も、私達を見てくれない。
誰も、私達に気づいてくれない。
また、私達は、空に舞い上がる。
その時、
「どこ行くの? 」
『えっ!! 』
私達は、顔を見合わせて、その声をかけてくれた男の子を見る。
「危ないから、少し離れていてね」
確かに、私達を見てそう言っている。
しばらくすると、魔物は、みんな退治されていた。
他の子供達も集まって来ている。
「ライル、どうかしたの? 」
「うん、可愛い双子ちゃんがいるから、見てたんだ」
「えっ!? どこ? 」
「空の上だよ」
「誰もいないよ」
「おかしいなぁ〜〜」
『ねぇ、あの子、私達が見えてるね。見えてるね』
『行ってみない』
『行ってみよう』
私達は、その男の子のところにきた。
『私達が見えるの? 』
「見えるよ」
すると、今度は白狼の女の子が
『何、これ、めっちゃ、可愛いんですけど〜〜』
『見えるの? 』
『見えてるの? 』
「主任、喋りました。喋りましたよ。是非、お持ち帰りしたいです〜〜」
白狼の女の子は、興奮してた。少し、キモい……
「君たちは、誰? 」
男の子が聞いてきた。
でも、そんなの知らない。
私達は、いつのまにかこの世界にいたのだから……
『わからない。わからない』
「そうなんだ。僕達は帰るけど、君達は、どうする? 」
『帰る? どこに? 』
「家さ」
『家、家』
「君達も来るかい? 」
『行く。行く』
こうして、私達は、その男の子についていった。
どこかのお城の綺麗な部屋に通されると、
『よく参った。ライルよ。それと、珍しい事もあるもんじゃ』
と、奥の方から声が聞こえた。
『誰? 誰? 』
「竜神様、この子達は、何なのでしょうか? 俺とユオしか見えないみたいで」
『この者達は、大気のマナが凝縮した存在。いわば、精霊、若しくは天族とでも言うべきか。しかも、光と闇のな』
「精霊、天族ですか? 」
『あぁ、まだ、生まれて数百年と言ったところじゃろう。精霊、天族としては、まだ、子供じゃ』
「そうなのですか、どうしたら、みんなにも見えるようになりますか? 」
『お主が、大精霊の封印を解いた時の卵の殻のような物をもらわなかったか? その殻を加工して身につけさせれば、マナの放出が防げ、あるいは見えるようになるかもしれん。それで、ダメなら、封印の水晶を合わせて持たせてみれば、実体化できるじゃろう』
「そうなんですか、ありがとうございます」
男の子は、私達を連れて、屋敷に戻った。
『綺麗なとこ、綺麗なとこ』
『マナが濃いね、マナが濃いね』
その男の子は、私達に首からかける宝石のついたものをくれた。
その男の子にかけてもらうと……
「わっ、見えるわ。可愛い双子がちゃんなのね」
「本当だ。ぶったまげたぜ〜〜俺は、とうとうライルが頭がおかしくなっちまったって、本気で心配してたんだぜ〜〜」
「可愛い〜〜名前は、なんていうの? 」
『名前? 名前? 』
「名前か〜〜そうだ。シエルとチエロってどう? 天空って意味なんだ」
『シエル、チエロ』
「白い翼の君がシエル、黒い翼の君がチエロ、どう? 」
『あなたがチエロ』
『あなたがシエル』
「そう、ここでは、自由にしてて構わないよ。どこか行きたくなったら言ってくれれば連れて行くから」
『うん、うん』
こうして、私達は、ここに住んでる。ここにいる者達からいろんな事を教わった。もっと、いろんな事を知りたい。
だから、私達はここにいる。




