第22話 縁
夕食後、ナハトとユオは、疲れたらしく部屋に入って休んでしまった為、詳しい事情を聞くことができなかった。
俺は、ベッドに横たわり、地上の様子を伺う。ランドル家の者達に動きはないようだ。メリーナ姉さんも母さんも家に部屋にいるようだ。
リアスは、皇都の屋敷にいる。リアナ嬢も同じ部屋にいた。
リアスは、大丈夫そうだ……
俺も疲れたのか、横になっていたら、眠気が押し寄せてきた。俺は、その流れに身を任せた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ねぇ……ねぇ……」
「うむ。誰だろう……」
「早く来てよ……」
「何処に? 」
「……いいから、ねぇ、待ってる」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
小鳥の声が聞こえる。
いつの間にか、朝になってたようだ。
俺は、目を擦りながら、周りを見た。
何か、声が聞こえた気がする……
夢か……
俺は、顔を洗いに井戸のところまで下りて行った。
ノーチェが先に、顔を洗っていた。
「ノーチェ、おはよう」
「ライル、お、おはよう」
挨拶するだけで、何で恥ずかしがってんだ……
俺は、気にせず、顔を洗い、そして、亜空間収納から取り出した布切れで顔を拭う。
「ねぇ、ノーチェ、今日は何したい? 」
「……ラ・イ・ルーー」
「どうしたの? 」
ノーチェが、また、怒ってるようだ。気分がコロコロ変わる子だ。
きっと、辛い目にあってきたから情緒が不安定なのだろう。
優しくしてあげよう……
「それ、返して! 」
「それって? 」
「顔拭いてるもの……」
「あぁ、この布の事? 」
「それ、私の……」
「そうか、ごめん。いつの間にか紛れてたみたいだ」
その布を渡そうとした時、気がついた。
これは、昨日、ノーチェが森から屋敷に転移した時に、俺が収納したものだ。
だが、この布は……
「ライル、それ、知ってて使ったでしょう? 」
布を慌てて取り返したノーチェは、顔から火が出るほど怒っている。
「まさか、入れた事さえ忘れてたよ」
「まぁ、いいわ。今回は、許してあげる。それと、他のも返してよね」
「うん、今、渡すよ」
収納から、昨日のノーチェの服を取り出し、渡す。
「ノーチェ、何で殴らないの? 」
「殴られたいの? 」
「できれば遠慮したいけど」
「そう、私も朝から面倒だし、ライルが悪気が無いのはわかってるし」
「そうなんだ」
「もう、いいの! あぁ〜〜洗濯しなくちゃ。この染み付いた血、落ちるかしら」
「買えばいいのに」
「勿体無いでしょう」
そう言いながら、ノーチェは、服を抱えて何処かに行ってしまった。
ノーチェの様子が何か変だ……
普通なら、殴っているはず。
何か悩んでいるみたいだ……
俺は、少しノーチェの事が気になった。
その後、朝食をどうしようか考えていると、台所から音がする。
気になって行ってみると
「おや、ナハトか、何してるの? 」
「お、おう、昨日は、ビビっちまって見っともねぇ姿見せちまったからよ〜〜飯作ってやってんだ。感謝しろよ」
「そうか、助かるよ」
「これでも、俺様は、こういう事が得意なんだ。スゲーーだろう」
「確かに」
「それによ〜〜妹には、上手い飯食って欲しいじゃんか、って何言わせんだ」
男のツンデレは、なんか気持ち悪い……
「そうだな、ナハトは、妹思いなんだな」
「2人しかいねぇからな」
「そうか……じゃあ、お願いするよ」
「おう、待ってやがれ」
朝食の支度をナハトに任せ、俺は、やる事もなく庭をぶらつく。
池のほとりにある石に腰掛け、ぼんやり、水の波紋を眺めていた。
みんな、何か抱えていても、それに折り合いをつけてるんだな……
ノーチェや狼兄妹達の事を考えていた。
それは、俺もか……
俺の場合は、ただ、逃げてただけかもしれないな……
立花だったらどうしてただろう。
湯嶋さんならどうしただろう。
俺は、今の生活が何となく、現実感のない空想上の世界なんじゃ無いかと思う時がある。
魔法が存在し、魔物までいる。
そんな生活は、忙しく生活していた前世の時に比べて、物足りない何かを感じていた。
そう、生きている喜びみたいなものを、俺は、持ってないんだ。
1度死んでるから、また、死んでも構わない、何処かでそう思っている。
まるで呪縛のように……
そんな事を考えていると、俺のそばにユオがやってきて、隣にちょこんと座った。
「ユオ、おはよう」
「……おはよ」
「どうしたの? 」
「ご飯……呼びにきた」
「そうなんだ。よく俺がここにいるのわかったね」
「……匂いした」
「そうか、鼻がいいんだ」
「……狼の亜人だから」
「亜人……でも可愛いよ」
「……ありがと」
「俺の知り合いだったら、ユオを見たら凄く喜んでたと思う」
もちろん、立花だ……
「人は、亜人……獣人を嫌う。物のように扱う」
「そうなの? 」
「今までそうだった」
「そうか……」
「あの……」
「そうだったね。昨日の話が途中だった。ユオは、能力を既に持ってるよ。確かめたから、間違いない」
「そうなの? 」
「あぁ、でも、その事で後で、話をしたい」
「うん」
「今日の午後、散歩に行こうか。見晴らしの良いところだよ」
「うん」
「じゃあ、決まりだ」
ナハトの作った朝食を食べ、今日は、みんな自由行動する事になった。
俺は、午前中、王城に行き、竜神様の用事を伺いに行った。
『よく参った』
「おはようございます。俺に何か用でしょうか? 」
『その事じゃが、地上に大森林という広い森があるのは知っておるか? 』
「はい」
『そこに、妾と同じように、大精霊が封印されておる』
「そうなんですか? 」
『そうじゃ、そこには、神樹と言われる木があってのう。そこに封印されているのじゃ』
「竜神様の用は、俺にその封印を解けという事でしょうか? 」
『察しが良いのう。まぁ、そんなところじゃ』
「その大精霊という方は、封印を解いても大丈夫な存在なんだすか? 」
『危険ではない。だが、それを決めるのはお主に委ねる』
「どういう事でしょう? 」
『大精霊は、この世界に存在する精霊の親みたいなものだ。精霊には、水、火、土、雷、風などがおるが、中には、闇を司る危険なものもおる。大精霊の封印を解けば、精霊達が活発になるだろう。中には、悪い事をする輩も出てくるかもしれん』
「そういう事ですか……でも、どの種族でも悪い事をする者はいますよ」
『そうじゃ、だから、お主に委ねる。お主が、封印を解いても良いと思うのなら、解いて欲しい。妾のとこにその大精霊が念話で催促してくるのじゃ。おちおち休めん』
それが理由か……
「わかりました」
『あぁ、でも急がんで良いぞ。大精霊が封印されている場所は、強い魔物が闊歩しておる。ライル達は、今、ブラドの牙で剣を作っておるな。その剣を持っていけば良い。大概のものは切る事が出来るじゃろう』
「わかりました。剣が出来次第、向かってみます」
『すまんのう、で、白狼の兄妹が屋敷にきているそうじゃな』
「はい。これからどうするか、本人達に任せるつもりですが」
『そうか、彼奴らは鼻が効く。それに大森林は獣人達の里もある。連れていけば、役に立つだろう』
「そうですね。本人達の意思に任せますが」
『そうじゃな。余計な事じゃった』
『ライルよ。黄竜が立ち会いたいと言っておる。どうする? 』
「あんまり待たせるのは悪いから、明日でどう? 」
『わかった。そう伝える」
『黄竜と戦うか、妾も見てみたいな』
「構いませんが、どこで、しましょうか? 」
『この地下に、別の亜空間がある。そこは、竜人達が、主に、戦闘訓練をしている場所じゃ。人族で言えば、闘技場のようなものじゃ』
「では、そこで、お願いします」
『楽しみじゃのう。のう、ブラド』
『はい』
みんな戦闘狂だ……
『では、明日、迎えに上がろう』
「わかった。待ってるよ」
明日、黄竜と戦う事になってしまった。
正直、面倒くさい……
でも、ここにいる限り避けて通れないだろう。
それなら、早いうちに済ませた方がいい。
俺は、少し重い足取りで、王城を後にした。
◇◇
午後、俺は、ユオと一緒に木のある丘に向かっている。
ノーチェは、屋敷で、やる事があると言っていた。
ナハトは、街で、塩や調味料、それに野菜など食材の買い足しに出かけた。
どれだけ、料理好きなんだか……
ユオは、俺の後を、付かず離れず、付いてくる。俺が、止まれば、ユオも止まり、俺が走れば、ユオも走る。
そんな感じで、木の元につき、腰を下ろした。
「ユオも座れば? 」
「……うん」
何だろう、この感覚。そうか、ペットみたいなんだ……
でも、ペット扱いは失礼かな……
「ここは、気持ちいいだろう? 」
「うん」
「ユオのステータスを見たよ」
「…………」
「ユオは、全魔法適正、全魔法耐性、それに言語理解、錬金術、スキルとして、投小刀、気配察知を持っている」
「…………」
「それに、アステル神の加護まである。正直、規格外の能力だ」
「…………」
「それで、話すんだけど、俺も規格外の能力を持っている。いや、持たされたと言うべきか」
ユオの目が見開いた。
「俺には、前世の記憶がある。つまり、元の世界で死んで、その記憶を持ったまま、この世界に生まれ変わった」
「そ、それって! 」
「ユオも同じでしょう? 」
「う、うん。そう」
「そうか、やっぱり……」
「私、何でここに来たのかわからない。昔の記憶はあるけど、夢なんじゃないかと思ったりする」
「戸惑うのも無理ないよ。俺の話をしようか。
俺は、ミスティナ皇国のランドル領地のロクトと言う街で生まれたんだ。すごい病弱で、熱ばかり出して、5歳まで生きられないかもしれないと言われていたんだよ。でも、5歳の時、橋から落ちて、頭を打った時に前世の記憶が蘇って、健康体になれたんだ。でも、その当時は、どうして昔の記憶があるのか、凄く悩んだ。ラビスって言うんだけど、ラビスの記憶と前世の記憶がごちゃ混ぜになり、不安な毎日を送っていたよ。でも、ある事件が起きて、隠していた能力を使って家族を守ったんだ。でも、その家族にバケモノ扱いされて、仕方なく、この里に住んでいるんだよ。今は、知っての通り、ライルと名乗っている」
「うん、その気持ちよくわかる。私もそうだった。私が記憶を取り戻したのは、人間達に襲われたから。私は、まだ、一歳だったから兄ちゃんが言ってた事しか記憶がないけど、その時、何処かにぶつけて気を失ったらしい。目が覚めたら前世の記憶が蘇っていた」
「一歳じゃあ、獣人としての記憶がないに等しいね」
「そう、目が覚めたら、いきなり、耳と尻尾が生えてた。気が狂いそうだった」
「そうだろうね」
「でも、兄ちゃんが守ってくれた。奴隷に落とされ、無理やり、大道芸みたいな事をさせられ、そして、私は、守ってくれた兄ちゃんの目をナイフを投げて奪ってしまった……」
「そうだったんだ、だから、武器が苦手なんだね」
「うん。もうやらないって言ったんだけど、そしたら、ぶたれて、兄ちゃんが庇ってくれたんだけど、その兄ちゃんもぶたれて、酷い怪我をしてしまった。私が、いるから、兄ちゃんは、怪我ばかりする」
「それで、また、売られて、あの牢屋にいたんだ」
「そう」
苦労したみたいだな……
「ねぇ、前世では、何で死んだの? 」
「話しても面白くないと思うけど、仕事である国に行ったんだ。目的地までタクシーに乗って行ったんだけど、道に子供が倒れていてね。一緒にいた、女性が見に行こうとしてたから、俺が変わりに行ったんだよ。そしたら、その子、爆弾を抱えていてね。『ボンッ! 』でおしまいってなってしまった」
「えっ!? 」
「どうかした? 」
「えっ、主任……えっ、夜霧主任ですか! 」
「えっ!? 何で俺の名前知ってるの? 」
「わぁ〜〜、私、湯嶋です。湯嶋 香織です」
「えっ、湯嶋さん!!」
「はい」
湯嶋さんは大泣きしながら、名乗りを上げた。俺も、まさか、こんな偶然があるなんて信じられない……
「湯嶋さん、どうして、ここに、もしかしたら、あの時の爆発で? 」
「ち、違います。爆発じゃなくって、タクシー運転手に殺されたんです」
「なっ! なんて事を……グルだったのか……」
「すまん。俺が気をつけていれば、君をこんな事に巻き込まないですんだはずだ。本当にすまん」
「主任のせいじゃないですよ。どんなに気をつけてても何処からか情報が漏れてたら、防ぎようがありません」
「いや、俺のせいだ……」
偶然なのか、それとも自称子供神アステルの仕業なのか?
「嬉しい……知ってる人に会えて、嬉しい……」
「辛かっただろうね……」
『わぁ〜〜〜〜』
ユオこと、湯島さんは大声で泣きだした。
今は、そっとしておこう。
時間は、たくさんあるのだから……




