第12話 竜の里
黒竜に連いて行った先は、竜の里と呼ばれるところだった。
「ここは、どこだ? 」
『ここは、我が住まいである』
「住まいと言っても、えらい広い場所だが? 」
『当たり前だ。竜神様がお暮らしになっている場所が、狭いわけなかろう? 』
「竜神? 誰だ。それは」
『お主、いや、主人は、何も知らないようだな』
「お前の主人になったつもりはない」
『我に勝ったであろう。負けたのは、長い間、生きていて初めてだ』
「そんな事はいい。用があるんだろう? 」
『わかった。その前に我に名前をつけてくれ。それが、我を負かした証だ』
「名前、名前がないのか? 」
『今まで、我に勝てるものがおらんかったからな』
「名前ね……黒い竜ね〜〜黒、ブラック、竜、ドラゴン……うむ。良し! 黒い竜でブラックドラゴン、略して『ブラド』でどうだ? 』
『ブラド、気に入った。我は、これからブラドと名乗ろう』
『お主、いや主人は、何と言う名か? 』
「主人はやめろ! せめて友人にしてくれ」
『お主が望むなら、で、名は? 』
俺は……もう、ラビスは、名乗れない……
夜霧 啓吾も違う気がする……
う〜〜ん。夜は、英語でナイト、ドイツ語でナハト。ロシア語では、確かノーチだったな。
俺が前世で死んだ場所、アラビア語で確か、レイル? ライルだったか……
「俺は、ライルだ」
『では、ライルと呼ばせてもらう』
「あぁ、それでいいよ。ブラド」
しかし、ここには、何も無い……
ただの広い草原だ。
「で、俺に用って? 」
『そうだ。我に付いてきてもらいたい。我が主人と呼ぶもう1人のお方の処に』
「構わないが、何の用なんだ? 」
『それは、付いてくればわかる。背に乗れ。ライルよ』
「わかった」
俺は、身体強化を使って、黒竜ブラドの背に向かって飛び跳ね背に跨がる。
『では、参る。しっかり、捕まっておけ』
そうブラドが言うなり、羽を広げ大空に飛び立った。
これは、なかなか絶景だな……
『ここは、これでも地下なのだぞ』
「何て言った。ここが地下だって? 空があるぞ。それに太陽だって」
俺は、『衛星』を使い現在位置を把握する。この星の遥か北の大地を指していた。拡大していくと画面が変わり、『竜の里』と表示された。
『信じられないようだな。ここは、地下に作られた亜空間だ。転移以外入る事は出来ない』
「転移だって? それは、さっきブラドが使ったあれか? 」
『そうだ。お主は、いやライルだったか、ライルは転移を使えないのか? 』
「使えたら便利だと思ってはいた。今は、使えない」
『では、もう、使えるであろう。我とこうして名の契りを交わしたのだから』
「そうなのか? 後で試してみるよ」
『そうしてみるがよい』
名の契りをとは何だ?
まぁ、今は、そんな事、どうでもいい……
黒竜ブラドが進む先に大きな城が見えてきた。その周囲を取り囲むように街がある。
「城、それに街があるのか? 」
『当たり前であろう。ライルは何を言っておる』
「俺は、岩穴にでも住んでいると思ってな」
『わははは、我は、これでも黒竜ぞ。そんな処に住む下級竜と一緒にするでは無い』
「そうか」
『そろそろ降りる。このままでは、街に被害を出してしまうでな』
そうブラドが言うと下降し大地に着陸した。それだけで、周囲には、暴風が吹き荒ぶ。
確かに、これでは、街を壊しかねんな……
俺は、何故かこの黒竜と気が合っていた。この世界に来て、能力を隠さず付き合える相手がいなかったからかもしれない。
俺は、ブラドから降り、遥か先にある街の入り口を見た。城の中心として、扇状地の様に作られている街は、とても規模の大きな街だ。
『見事な街であろう? 』
「あぁ、って、お前、誰だ? 」
そこには、黒ずくめの服を着た黒髪をオールバックにした背の高い中年男性が立っていた。
『何を言っている。黒竜のブラドだ。ライルは、人化も知らんのか? 』
「人化、人型になれるのか? 」
『上級竜なら朝飯前だ。それに、元のままだと、細かい作業に向かぬからな』
「確かに」
『では、我の側に寄れ。転移する』
「あぁ」
ブラドに連れられて転移した場所は、城の中の様だ。俺は、ブラドに促されるまま、その後をついて行った。
『ここで、少し待っておれ』
「わかった」
そこは、ただの広い空間だった。ブラドは、その奥の大きな扉を開け中に入ってしまった。
しかし、天井が高いな。そうか、竜の姿に戻った時の為か……
俺は、1人で納得してあたりを見渡す。白い石でできた壁は、何故か冷たい感じを受ける。
『竜神様がお会いになるそうだ。ライルよ。こちらに参れ』
「わかった」
大きな扉を通り抜けると、さっきとは変わって、彩り鮮やかな色調の部屋に変わる。
こっちの部屋も天井が高いな……
ブラドが歩いていく先には、一段高くなっている場所があり、そこには天井から大きな御簾がかけられていた。その先に、竜神がいると思われる。
すると、
『よく参った。異世界から来た人族よ』
頭の中に少女の声が響く。
「よく異世界から来たとわかったものだ」
『お主がこちらの世界に来るとアステルから聞いておったからのう』
「そうでしたか。それで、俺に何の用なのですか? 」
『お主は、この世界を滅ぼすつもりか? 』
「はい? 何でそんな質問を」
『問いておるのは、妾のほうじゃ。して、どうなのじゃ? 』
「アステルにも話したけど、そんな面倒な事はしたくない。魔王や勇者など誰かが勝手にしてくれればいい。俺は、そこそこ暮らせればそれでいい」
『そうか……』
竜神と呼ばれる少女の声が聞こえなくなった。俺の言葉を吟味しているのかもしれない。
そして
『アステルから、今度はどうなるのかな? と言われておったけど、あやつ、何時もの悪戯心だったようじゃ』
「何を言ってるのか理解できないが? 」
『お主は、何も知らんようじゃな。この世界にかつて魔王と呼ばれる存在と勇者と呼ばれる存在がいた。アステルが異世界から転生させた者じゃ。其奴は、ある時は魔王と名乗り、この世界を破壊しようとした。そして、今度は勇者と名乗り、この世界を救った』
「うむ。それって同一人物って事か? 」
『そうだ。一人二役の一人芝居をしておった。何がそうさせたのか分からんが、この世界におる五神王と呼ばれる我々を封印したのじゃ』
「封印? それって、つまり、竜神は封印されていると? 」
『その通りじゃ。黒竜よ。その御簾上げよ』
「はい」
ブラドは、前にかかっている御簾を上げた。そこには、大きく突き出した水晶の鉱石の中に1人の少女が膝を抱えて俯いていた。
『これが妾じゃ。魔王と呼ばれる者、そして勇者と名乗った者にこうして封印されておる』
「何でそんな事を…… 封印されるにはそれなりの理由があるんだろう? 」
『まぁ、奴には必要だったのかもしれぬ。彼奴が召喚された時、その時代は、種族間の争いが絶えない時代でもあった。例えば、妾を信仰する竜人族は、圧倒的な力を持ち、彼奴の描く世界に妾達が介入すれば、無に帰してしまうと考えたのじゃろう。我らは、力を求む。力無き者が統治する世界に黙っておれん。だから、竜人族の介入を防ぐ為、こうして妾を封印し盾にしたのじゃろう』
「確かに黒竜みたいのが、何体も暴れ出したら、世界は滅びるだろうな」
『そういうわけじゃ』
「でも、何で封印されたままなんだ? 」
『妾の封印を解く前に魔王と勇者は死んだ。巡りが悪かったという事じゃ』
「それは、運がない話だ」
『で、そなたに妾の封印を解いてもらいたい』
気持ちは分かるが、危険なのでは……
「うむ。俺に何の得もないな」
『出来るだけの事はすると約束しよう』
「封印を解いて、すぐに殺されるのは勘弁してほしい。それに外に出て暴れるのも困る」
『わかった。約束しよう』
「でも、俺は封印の解き方など知らんぞ」
『黒竜の魔法障壁を破ったそうじゃな? その方法で妾の封印は解ける。だが、魔力は膨大に消費されるがな』
「そうか、それなら問題ない。1つお願いがある」
『なんじゃ? 』
「しばらくこの里で厄介になりたい」
『そんな事か。100年でも1000年でも好きなだけいればよい』
俺は、ブラドの方を向き、近寄ってよいか伺う。
俺の思考を察したブラドは、俺をその水晶の処に誘う。
「じゃあ、いくぞ。約束は守れよ」
『わかった』
【ディスペル! 】
俺の手から溢れる魔力を水晶が吸い込んでいる。激流のような魔力の流れを俺は、感じていた。
これだけ吸い込んでもピクリともしないなんて、普通なら解除できないぞ……
俺の魔力は、周囲の魔力を吸収して無尽蔵に使える。その身体のせいで、俺は病弱だったのだから……
『おおっーー! 』
ブラドが、目を見開き、声に出す。
この状態を30分は続けている。しかし、この水晶は、まだ、魔力を吸い上げている。
魔王、勇者、そいつは、解除できなかったんじゃないのか? 多分、黒竜が10体いても、無理だぞ……
さらに30分経過する頃、魔力の奔流が少なくなってきた。その時、
『ガッシャーーン』
ガラスが割れるような音が響きわたった。
◇◇
『ふぁあ〜〜久々の外じゃのう。何とも気持ちの良いものじゃ』
『竜神様、お身体の具合はどうですか? 』
ブラドは、竜神を気にかけるように話しかける。
『ふ〜〜ん。同じ体勢ですごしてきたゆえ、少し動きが悪いようじゃが問題はない。礼を言うぞ。えっと……』
「ライルだ」
『そうか、礼を言うぞ。ライルよ』
封印を解かれた竜神は、背伸びしながら俺を見降ろしてそう言った。
俺は、疲れて、その場に腰掛けていたからだ。
「なぁ、服着てくれないか? 目のやり場に困る」
『何じゃ、欲情したのか? 妾の身体に』
「そんな幼い身体に興味はない。言葉の通りに、困っただけだ」
『まあ、良い。そう言うことにしといてやろう』
そう言って魔力で作った衣を纏った。
『ライルよ。この度は、竜神の封印を解き放ってくれて礼を言う』
「構わないが、約束は守ってもらう」
『それは、勿論だ。無闇に暴れるつもりはない。だが、お主との稽古なら良いのだろう? 後で、立会い稽古でもしようではないか』
「悪いが、今は、少し休みたい。思いのほか魔力を使ったみたいだ」
『それは、残念だ」
『黒竜よ。ライルの部屋を用意せい。妾も、少し休む。お互い体調が戻ったら礼を込めて宴を開こうぞ』
「好意に甘えさせてもらうよ」
周囲から魔力を吸収するとしても、身体の中で激流のような魔力の流れを維持するのは、正直言って疲れた。
俺は、ブラドの案内で城の中の部屋を与えられ、そこで休ませてもらった。
竜神も長い間の封印で、まだ、完全に元気とは言えないようだった。
◆◆
一台の馬車がロクトの街に向かって走っていた。
中に載っている人達の服装は、ボロボロで血の付いている服をそのまま着ていた。
みんな、沈痛な面持ちで、誰も話そうとはしない。
ライルは、その光景を『衛星』を使って見ていた。
「良かった……みんな無事みたいだ」
でも、馬車は一台壊れてしまったのか……
手を固く組んで、俯いている少女は、隣に座っている黒髪の母親らしき女性をたまに覗きこみながら、また、俯いてしまった。
俺は、これで良かったのだろうか……
もっと、上手くやれたのではないか……
もう、会えないかも知れない。
少女達を見つめていると頬に暖かい雫が流れ落ちる。
これはラビスの思いなのか……
それとも俺……
答えは出ないまま、俺は、目を閉じた。
「母さん、姉さん……」




