第11話 黒竜
「な、何でこんなところに黒竜が……」
メンデルさんの言葉で、そこにいた者は視線を恐る恐る空に向けた。
「退避ーー! 子供達と奥さんを守れーー! 」
シドさんの叫びが、張り詰めた冷たい空気に響きわたる。
『わぁーー! 』
カリウスとメンデルさんが、俺たちを抱え、母さんのいる馬車まで走り出す。シドさんは、黒竜に正面から対峙しながら、じわじわと後方に下がる。
『グォーーン』
黒竜が大きな咆哮を上げた。その振動は、空気を張り裂けるように伝わる。
カリウスさんに抱えられながら逃げる俺は、その黒竜を見ていた。何故か、俺を見つめている。
「クソーー! 何でここまで接近されるまで気がつかなかったんだ」
悔しそうに呟くカリウスさんの声が印象に残った。
母さんは、杖を掲げ、魔法を放つ準備をしている。だが、俺達がいるので、放てずにいた。
黒竜は、背中の生えている羽根を1回大きく羽ばたかせ、地面に着地した。その時の暴風で俺達は、吹き飛んでしまった。
その風で俺は、カリウスさんから投げ出されてしまった。地面にぶつかる時に身体強化を使って小刀を地面に突き刺し、吹き飛ばされるのを回避した。
みんなは、後方で転がっている。見た限り、亡くなっている人はいないが、大小の怪我を負っている。
俺は、その光景を見て、胸の内に何か熱い物が込み上げてきた。
『奇妙な気配を感じた気がしたが、気のせいだったか……』
俺の脳内にそんな声が響く。
何だ。あいつは、喋れるのか?
『おい! 小童、今のはお主か……』
「小童? 俺の事か」
『お主、何故、我の言葉が通じる』
「知るか! そんな事」
『お主は、何者だ? 』
「何を言ってる。人間だ」
『人間、人族の事か。その気配。御主がそうなら来てもらいたかったのだが』
「俺に用があると言うのか? 」
『そうだ。だが、お主からは、強さを感じない。我と勝負しろ。勝てたら認めてやろう』
「そんな面倒な事するわけでないだろう? 」
『なら仕方がない。お主には、用はない。死ね』
黒竜は、その大きな口を開けようとした。
その時、
【炎よ。燃え盛る炎よ。万物を焼き尽くし、無と成せ! ファイヤーブレス】
母さんが魔法を放ったようだ。黒竜に向かって物凄い炎が打ち出された。
しかし、その炎は、竜の手前で拡散してしまった。
魔法陣の様なものが展開され、炎の攻撃を防いだようだ。
母さんの目は大きく見開き驚いている。
『矮小な人間どもよ。我に攻撃を放つとは、身の程を知れ』
マズい……
奴の攻撃が来る。
あの竜のようにバリヤで防げたら……
黒竜は、母さん達に向かってその大きな口を開けた。
俺は、身体強化をさらに高め、母さん達と黒竜の間に入り込む。
その時、黒竜から黒いブレスが吐き出された。
俺は、夢中で、バリアを張るイメージをする。
「間に合えーー! バリヤ! 」
俺の周囲に無色の障壁が展開される。魔力量が多いせいか、その範囲は数十メートルまで広がった。
激しい衝撃が伝わり、周囲が黒く染まる。
展開したバリヤを避けて黒炎は周囲に広がったようだ。
み、みんなは無事か……バリアを展開した俺の背後だけが何も起こらなかったように元のままだったが、黒炎が通過したところは、草木一本も生えておらず、茶色い地面がえぐれていた。
良かった……みんな無事のようだ……
『お主、我のブレスを受け止めるとは、まさか……このような小童がそうなのか』
大きく見開く黒竜は、俺をジッと見つめていた。すると、
『シュッ、シュッ』
と黒竜の横から風魔法が撃ち放たれた。ソーシャさん達だ。クリフとハンガーは、スキル『スラッシュ』を同時に放った。
しかし、その攻撃は、黒竜に当たる事なく手前の障壁でいなされてしまう。
『無駄な事を……』
黒竜の声が届いた瞬間、黒竜の尾がソーシャさん達の方向に振り落とされた。
距離があったせいか直撃は、してないものの、その風圧で吹き飛ばされてしまった。
直後、黒竜の頭上に炎の槍が物凄い勢いで迫っていた。母さんが魔法を放ったようだ。シドさんもそれに合わせてスキル『ブレイドフラッシュ』を使用した。メンデルさんやカリウスさんも怪我を負いながらスキルを使用し攻撃する。
炎の槍と無数の斬撃、それに、数十の刺突と何本もの矢が黒竜に放たれた。
だが、それも無残に黒竜の手前で弾かれてしまった。
少しイラついたのだろうか、黒竜が面倒くさそうに足を『ドン』と踏みつけた。その衝撃で、地面の小石が弾き飛ばされた。
「キャッ! 」
その石の1つがメリーナ姉さんの腕に当たった。その場所から血が滲み出ている。
メリーナ姉さん……
メリーナ姉さんだけではない。シドさんは、かろうじて立ち上がって盾を構えているがもう、戦えそうにない。
メンデルさんやカリウスさんは、怪我をして、武器だけは、黒竜に向けてるが、横たわったままだ。メリーナ姉さんは、腰が砕けたように震えながら座り込んでいる。母さんも似たような状況だ。
少し、離れた場所では、ソーシャさんクリフハンガー兄弟が横たわっている。命に別状はなさそうだが、失神しているようだ。
そんなみんなを見てると、熱いものが身体の中を駆け巡り、行き先を失ったように俺の身体から溢れ出ている感じを受ける。
『やはり、お主は……しかし、弱い、弱い。なんと貧弱な者達だ。人族とは、蟻にも劣るわ。わざわざここまで来ることはなかったわい。わははは』
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黒竜(竜神の側近) 3179歳
Lv 1946
HP 167021/175000
MP 158008/160000
スキル
黒炎ブレス(10)
魔法耐性(10)
魔法強化(10)
空間魔法(10)
転移魔法(10)
魔法障壁(10)
威圧(10)
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確かに、こいつからみたら俺達は蟻みたいなもんだ。
だが、蟻にも意地があるんだよ!
魔法障壁か、これを解除できれば……
解除、リリース、キャンセル、違う。解呪、確か立花がゲームで……
「ディスペル……」
これか!
『くたばれ! 蟻どもよ』
黒竜は、また、その口を開こうとした。
黒炎のブレスがくる……
俺は、身体強化を重ねがけして、吐き出そうとする黒竜の顔を目指し、駆け出し跳躍した。
【ディスペル! 】
そう唱えると、黒竜を覆っていた魔法障壁が破壊される。
ありったけの魔力を右手に集め風魔法を行使しながら
「人間をなめるな! 」
口を開きかけた黒竜の横顔を思いっきり殴りつけた。風魔法もその手から打ち出され、黒竜の下顎のところにぶち当たる。
『何〜〜〜』
黒竜に風魔法を纏った拳がヒットした瞬間、周囲に衝撃波が走った。
黒竜はその大きな体躯を数10メートル先まで、飛ばされ、その場に横たわって動けずにいた。
下顎を打ったせいか脳が揺さぶられ脳震盪を起こしたようだ。
俺は、無事着地して、今のうちに逃げるようにみんなのところに駆け寄った。
「みんな、今のうちに早く逃げて! 姉さんも母さんも大丈夫? 」
しかし、俺の前にいた冒険者達は、震えていた。
「シドさん、メンデルさん大丈夫? 」
「キャッ! 」
「ち、近寄るな! 」
「えっ!? 」
メンデルさんやシドさんから思いもよらない言葉が返ってきた。
「姉さん。怪我はどう? 」
「こ、来ないで……バ・ケ・モ・ノ」
「姉さん……」
「あんたなんかラビスじゃない! 私のラビスを返して! 私のラビスを……」
俺は、その目を知っている。これは、拒絶だ。
「母様……」
母さんは、俺と目を合わせたがすぐにそらされてしまった。言葉も返ってこない。その身体は震えていた……
俺は、この時わかってしまった。
みんなにとって、俺は、黒竜と同じなんだと……
一国の軍隊でもかなわない相手を俺が気絶させてしまった。
その存在は、姉さんが言うように化物以外あり得ない。
俺は、化物なんだ。一緒にいれば今回のような事が起きるだろう。
化物は、人とは暮らせないのだから……
大切な家族を失いたくない。
だが、今まで通りに過ごす事は出来ない。
危険な目に合わせたくない。
でも、俺を受け入れてくれないだろう。
「もう、一緒にいられないようだ……」
そう言葉にしてしまった。
俺は、姉さん達に向かって回復魔法をかける。みんなの傷がみるみる治っていった。
そして、ソーシャさんやクリフハンガー達にも、回復魔法かけ、姉さんのところに戻る。そして
「怖い思いをさせて、ごめん。いろいろお世話になりました」
俺は、頭を下げ、みんなに背を向けて、倒れている黒竜のところに行った。
バケモノは化物と一緒にいるのが一番いい……
まだ、気絶している黒竜を蹴飛ばし、目を覚まさせる。
『なんだ、何がおきた? 』
「やっと目が覚めたか」
『我は、お主に負けたのか……』
「あぁ、それより、俺に用があると言ったな。俺をお前のところに連れて行け」
『我を倒せる存在。お主がそうなら、我はお主を主人と認めよう』
「いいから連れて行け」
『わかった。主人、こちらへ』
俺は、みんなを見た。そして
「姉さん、母さん元気で……」
みんなは、その光景を震えながら見ている。姉さんは、何か言いたそうだった。
俺は、黒竜とともに転移した。




