コンビニのキツネヤマさん
コヤマはバイトに向かう途中だった。
見知った顔を見て、声を掛けようとしてはっとした。
男女3人組みの後を、玉子様がつける様に歩いている。
コヤマは、玉子様の顔を見て心配になった。
玉子様は、かなり怒っている様子だった。
人気のない所まで来ると玉子様は3人に後ろから声をかけた。
「あんた達。ちょっと止まりなさいよ。」
3人は、気が付かないのか、それとも知らぬ振りかそのまま歩いている。
「止まれって言ってるのが、聞こえないの。」
瞬時に背後に迫り、男達の肩に手を置く。
「何だよ。」
男は振り向いて、すごむつもりだった。だが、次の瞬間声が詰まる。
玉子様の目を見てしまったからだ。身体が動かす事ができない。
「2人共、行くわよ。」
女も振り返った。その瞬間、女も動けない。
はやり女も玉子様の目を見てしまったのだ。
「さっき何をしたのか、教えてもらえるかしら?」
玉子様は、怖いこわーい笑顔になった。
3人はヒィィと引き攣った。
「すみませんでした!!!」
3人はまたコンビニに戻って、深々と頭を下げている。
「はて?これは?どういう事なのかしら?」
ひげ店長は、玉子様を見た。まだ飲み込めてないようだ。
「盗った物、全部出しな。」
玉子様の一言に3人は脂汗がダラダラと出しながら、店から盗んだ物を出した。
「オヤオヤ。」
ひげ店長は、ふむっと言って3人を交互に見た。
「あんたが美人局だったのね。こりゃ参ったわね。」
「いや。色目は使ってないし!」
「どっちにしても、店のレジ前で話すことじゃないわね。」
そう言って、ひげ店長はコヤマに3人を奥に連れて行くように促した。
「私も、目撃者だから」と玉子様も奥へ行く。
奥の部屋へ行くと、ひげ店長はがらりと雰囲気が変わる。
「さて。君たち、何をしたか判ってますか?いや、当然判ってますよね。」
3人は、目が泳ぐ。
「万引きは犯罪です。」
そう言われてもあまり反省の色が無い。
「あなた方にとって、これはゲームですか?スリルですか?それとも本当に欲しかった物なのですかね?」
「別に、特に理由なんて・・・」
「そうでしょうね。」
ひげ店長は、ため息をついた。
「初めてじゃないでしょう。」
「・・・」
3人は押し黙っている。
玉子様は痺れを切らしたようだ。
「この人達、どうすんのよ。警察に突き出すんでしょ?あ。でも被害届けっていっても物は返却されてるんだっけ。店のマニュアルとかは?対処法書いてるんじゃない。」
分厚いコンビニのマニュアル本を出そうとする玉子様を、ひげ店長が手で制す。
「申し訳ない。・・・だが今、私は、レンジやプリンターを前にしているんじゃない。人として人に誠心誠意、話をしているんだ。マニュアル本等は必要ないよ。」
はぁ。諦めたように玉子様がため息をついた。やれやれ、ひげ店長も甘いもんだ。
でも、この人説教を聞くのは嫌いじゃない。
「あなた方は大事な物を無くしてしまったようですね。」
コヤマは、店にいたが店長の声は聞こえた。
「1人の男がいました。彼は一度だけ遊び半分で盗みをしてしまいました。すぐにバレて町中に知られることになりました。その日以来みんなの見る目が変わりました。男が盗った訳でもないのに物が無くなる度に男が疑われました。違うと言っても誰も信じてくれませんでした。友達も出来きずひとりぼっちでした。仕事をしようにも油断ならないと断られました。男は仕方なく今度は生きていく為に盗みをしました。」
3人はうな垂れている。
「人が人らしく生きていく為に必要なものは、こんな盗んだ物やお金なんかじゃないでしょ。生活する為に仕事をするにも、人を愛するにも信じてもらえないとね、上手くいかないものなんだよ。・・・犯した罪は消えないけど。だからといってこれ以上、大事な物を壊すのを止めなさい。そして、時間をかけてでも元に戻す努力をなさい。孤独から抜け出すには自分を変えるしかないんだよ。」
ひげ店長は、優しく微笑んだ。
玉子様は、腕を組んで3人を見ていた。
コヤマはひげ店長の声を聞きながら複雑な思いで外を見つめていた。




