94話 僕は万事休すかもしれません
スケートボードをかっ飛ばしてロコロルの港町へ辿り着いた僕とミントさんは、そこから船でペンディルア島行きの船に乗り込みます。
サーフボードがあれば数時間の距離なのですが、取り上げられてしまっているので仕方なく船旅となりました。
やきもきしながら到着するのを待ち、降りると同時にまたスケートボードでエルフ村へ。
急ぎ足でグーダンさんに事情をご説明し、石を受け取ってその日のうちにまた船へと乗り込んだのでした。
「お、おいディータ……。上からも下からも大洪水……これな~んだ……?」
船室で休んでいると、ミントさんから突然のナゾナゾです。
これは間違いなく死に掛けていますね。
本当に申し訳ありません。頑張って下さい。
フラフラのミントさんが正解を発表しようとなさるので、仕方なく彼女をトイレに閉じ込め、僕は神伝えの石にレシビルを乱射です。
ディータランドに戻ったらすぐに使えるようにしなければなりませんからね。
朝から晩まで可能な限りレシビルを撃ちまくった僕と、トイレが住居となったミントさんを乗せて、船は無事にロコロルへ到着。
そこからまたスケートボードに乗り込み、一気にディータランドへと帰還したのでした。
とてつもない強行軍となりましたが、それでも掛かった日数は六日ほど。
期限まで残り六日しかありません。
ちなみにこの期限。
ポードラン王城に辿り着くまでの日数は除いてあるので、フルに使える残り時間ということになります。
さっそく翌日から営業を再開しましたが、開園日の予定が立たなかったこともあり客足はまばら。
大幅に入場者数を落とし、二千人にも届かない状態でした。
これではマズイとミリアシスやロコロルでビラ配りをし、なんとかお客様を呼び込んだのですが、それでも三千人に届かない程度。
急遽お得な前売り券を売り出したり、出来る限りのことはしたつもりですが、手応えは薄く……。
――ついに。
期限を迎えたのでした。
……。
「ど、どうですか?」
ミントさんとラムストンさんが、必死の顔で金貨の枚数を数えていました。
それを僕とラシアさんは固唾を呑んで見守ります。
今日ばかりは真剣な顔をしたシフォンも同席。
その目の前に、金貨がうず高く積み上げられていたのでした。
「大金貨が千八百枚と、金貨が八千二百十四枚……」
「私も数えましたが、同じ結果でございますです……」
足りない。
大金貨も金貨に換算すると、合計で九万八千二百十四枚。
千七百八十六枚も足りてません。
「休園中に配った旅費負担がでかかったな……」
「も、申し訳ありません! 私がもっとちゃんとご説明して納得頂けていれば……っ!」
「ラシアさんのせいじゃありませんよ」
休園中と知らずに来てしまったお客様には、ラシアさん達が懇切丁寧に理由をご説明。
罵詈雑言を浴びせられることも多々あったようですが、それでもラシアさんは誠心誠意の謝罪を続けてくれたのです。
結果として、旅費を返せと言い出すお客様は全体の二割ほど。
ほとんどのお客様は「それなら仕方ないな。また来るよ」と言って下さったのでした。
それもこれもラシアさん達の心からの謝罪が伝わったからでしょう。
十分以上に彼女達はしっかりやってくれたのです。
「十万には届かないが、それでも立派な数字に違いはないだろ!? たかだか千八百枚足りない程度じゃないか!」
ミントさんはそう仰いますが、たぶんそういう訳にはいかないでしょうね。
もともと十万枚というのは、達成させないための目標値だとマルグリッタさんが言っていました。
だから一枚でも足りない時点で、向こうは鬼の首を取ったかのごとく批判するのです。
やはり無理だったなと。大人しく絞首台に上れと。
だいたい十万枚という桁の大きさから見るので千八百枚というのは少なく感じますけど、とてつもない大金ですからね。
「ディータ様。こうなったら、借りるしかないのではないでしょうか?」
「そうでございますです! そのくらいでしたら私共ですぐに都合出来ますので!」
すぐにでもミリアシスへ取りに行こうとラムストンさんが立ち上がりましたが、その直前に扉が開きました。
今日は大事な日なので支配人室への立ち入りは禁止した筈なのですが。
そう思いながら扉に視線を送ると、入ってきたのは兵士達。
ポードラン国の兵士だったのです。
「それは約定違いとなるな。宰相様は借金を認めぬと仰った筈だぞ」
「な、なんだお前等! 誰の許可を得て勝手に入ってきた!」
「ふん。貴様らが逃げ出さぬように迎えに来てやったのだ。本来であれば監視役の務めなのだが、奴にも裏切りの疑惑が持ち上がっているからな。わざわざこうして出向いてやったというわけだ」
ズカズカと踏み入って来た兵士達は無遠慮に室内を見渡し、金貨の山を見て「ほぅ」と溜息を吐きました。
「よくも集めたものだな。話には聞いていたが、これはこれで称賛に値する」
「ならっ!」
「足りぬ……のだろう? 申し開きは陛下の御前でするがよい。さぁ、運び出せ!」
麻袋に金貨を詰め込もうと、兵士達がわらわら集まってきました。
それを阻止するように、ラムストンさんが立ちはだかったのです。
「お、お待ちください! 私共で運び出しますから!」
「……良いだろう。こちらも手間が省ける」
そう言うと兵士達は麻袋をラムストンさんに投げ渡し、部屋の外へと下がりました。
「(やりましたなディータ様! これで運び出す間に、こっそり商会から金貨を持ってきて追加出来ますぞ)」
なるほどと感心しながら感謝でしょうか。
ミリアシスの商会にある金庫には、金貨が常に五千枚ほど保管されているのだとか。
それを持ってきてくださるつもりなのでしょう。
しかしニヤケた顔の兵士は、得意満面に語るのです。
「あぁ言い忘れたが、ミリアシスにある商会は部下に見張らせてある。土壇場で足りない分を補填するとも限らんからな?」
チャリンとラムストンさんの手から零れ落ちた金貨。
麻袋に金貨を詰め始めていた彼は、動揺から手が滑ってしまったのです。
「おいおい。一枚足りぬだけでも約定を違えたことになるのだぞ? 慎重に扱えよ?」
ククッと喉を鳴らしながら、兵士は部屋の壁に背をもたれさせていました。
「どうにかならないのか?」
「僕も今考えていますが……そうだ! 借金じゃなければいいんですよね!?」
兵士は「何を言い出したのか」と怪訝な表情。
するとラムストンさんは僕の言いたいことに気付いたのか、ポンッと手を叩いて続けてくれました。
「譲渡ならば借金ではないですな! よろしい! 商会の金庫にあるお金をディータ様に差し上げます!」
「なるほどなるほど? 褒められた行為ではないが、確かに譲渡は駄目だと言ってないか」
もちろん譲渡という名目で、後ほどきっちりお金はお返しいたします。
僕とラムストンさんは、そのくらいなら書類を交わすまでもなく信頼出来る間柄なのです。
ならばさっそくとラムストンさんは立ち上がりかけましたが、それを兵士は手で押さえつけます。
「何をなさるので!?」
「商会の金はお前の一存で人にくれてやれるものなのか?」
「そ、それは……」
「譲渡が可能だというなら、部下を商会に向かわせて取ってこさせよう。ディータが金を欲しがっているから金庫の中の金を今すぐよこせ、とな」
それは無理です。
というか、ただの強盗です。
ラムストンさん以外に状況を知っている方はいないでしょうし、そんなことを言われてホイホイお金をくれる筈がありません。
けど
「ならこれでどうですか? ディータランドを、今この場でラムストンさんに売ります」
「ディータ様っ!? それはっ!」
「いいんですラシアさん。もともとナティと僕達を救うために作ったのですから、その為に売り払うなら悔いはありません。それにラムストンさんでしたら、決して悪いようにはしないと思いますし」
「わ、分かりました! では今すぐ契約を交わしま――」
「駄目だな」
何故ですか!?
それすらも不可能な理由があると?
「この土地は貴様の物ではあるまい? 土地の管理者を差し置いて、契約など認められんぞ」
なっ!?
そこまで調べているんですか!?
確かにこの土地はマルグリッタさんからお借りしているものですし、肝心の彼女はロッケンヒル会合の為に二週間ほどこの地を離れています。
すぐに連絡を取るということも不可能なのです。
「さぁどうする?」
ククッとまた喉を鳴らし、楽しんでいるような兵士の姿に、ミントさんなど今にも飛びかかりそうな勢い。
しかしどれだけ挑発されても万事休す。
他に良い案が思い浮かばないのです。
「あまりグダグダやっていては、それこそ期限に間に合わなくなるが良いのか?」
ここからミリアシスまで馬車で向かい、すぐに電車へ乗り込んでロコロルまで丸一日。
そこから船でポードラン大陸へ向かうので、時間に余裕はないのです。
移動時間をギリギリに考えて期限を設定していたので、仕方ないといえば仕方ありませんが……。
ニヤケ顔の兵士に急かされながら金貨を袋に詰め込み、僕達はポードランへ向けて出発しました。
今日だけは事前に休園日としてあったので、ランド内は閑散としています。
見送りに集まってくれたスタッフさん達は、みな心配そう。
ラシアさんは彼等に力無く頷き、ミントさんはシフォンの手を引いて。
僕達はディータランドを後にしたのです。
僕の懐には、大量の「あと一折」状態にある折紙達。
最悪の場合、三人とナティだけでも連れ出す所存ですから。
手段を選ばずとも……です。




