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80話 僕達はここから作るのです

 東京ファンタジーランド。

 そんな名称を言われても聞き覚えのないラシアさんは、ますます首を傾げてしまっています。

 一方僕は、違う意味で困惑でしょうか。


「あれを作ろうと言うんですか?」


「あぁ! あれが出来れば大繁盛間違いなしだろ!」


「……ん。それに、みんなよろこぶ」


 いや気持ちは分かりますけどね。

 そりゃああんな施設を作れれば、世界中から人が押し寄せてくるでしょう。

 でも無理ですって。

 常識的に考えて、あれを作るなんて不可能です。


「そもそも金貨十万枚が非常識なんだ。こっちも常識をかなぐり捨てる覚悟がなきゃ達成なんて出来ないぞ!」


「とはいえですね。あんな施設を作るだけの時間も、お金も、知識も。何もかもが足りませんよ」


「足りないものは借りろ! 補え! 助けてもらえ! もとから一人でどうにかなるような話じゃないんだからな!」


 熱弁するミントさんに業を煮やし、ラシアさんがグイッと身を乗り出してきました。


「あのですね? 私にも分かるような説明をお願いしたいと申し上げているのですが? というか仲間に入れて下さい」


 テーブルの向こうではマルグリッタさんも興味津々のご様子で、なんとなくソワソワしているようです。

 あまりに壮大過ぎる話なので説明してもどうしようもないと思うのですが、それでも僕は東京ファンタジーランドについて語って聞かせることにしました。

 だって僕も、実はソワソワしていたから。

 可能不可能は別として、作れたら絶対に楽しい。

 そういう確信があるのです。



 ……。



 異界のことを話すのは躊躇われたので、その辺りはぼかしつつですが、ようやく話し終わりました。

 とてつもなく時間がかかったのは、話を進めるごとにミントさんとシフォンがあれこれと横槍を入れてきたから。

 それに僕も、話しながら段々と熱が篭ってしまったからです。

 なにせ東京ファンタジーランドは凄かったですからね。

 思い出しているうちに、自然と興奮してしまうのも無理はありません。


 その熱気が伝わったのか、聞き終えたラシアさんとマルグリッタさんも。

 それにリヒジャさんまで、目をキラキラさせ始めていました。


「凄い施設ですね! それは三人で考えた事なのですか?」


「そんな感じです。夢物語ですけれど」


 まさか見てきたとは言えませんし、僕たちが三人で考えた空想上のテーマパークということにしておきます。

 マルグリッタさんは空想という説明を若干疑っているようですが、特に突っ込んでくる様子はありません。

 話したくないならそれで構わないと配慮して下さっているのでしょう。


「聞いているだけで年甲斐もなくワクワクしてしまうわね」


「そうだろう!? マルグリッタも絶対気に入るぞ!」


「あらあら、それは楽しみね。……けれど……やはり難しいでしょうね。それどころか、到底実現不可能に思えるわ」


 マルグリッタさんが指摘したのは僕と同じ点。

 特に時間が圧倒的に足りないとのことでした。


 あれだけ巨大で複雑な施設を作ろうとすれば、大工さんや土木関係の方々を数千単位で集める必要があり、それでも数年から数十年単位がかかる大工事となるのは間違いないのです。

 当然ですが彼等を雇うお金や資材もいるので、それだけで金貨十万枚以上は必要でしょう。

 知識については、まったく分からないとのことでした。

 あの施設にあるアトラクションは、ほとんどが電力を用いて動いています。

 そもそも電力という概念のないこの世界なので、理解することすら難しいのでしょう。


 ですが僕の頭は、ゆっくりと東京ファンタジーランド実現に向けて動き出してしまっていたのです。


「他にはどんなものがあるのですか?」


「……ニャー太君がいる!」


「ニャー太君?」


「……ネコさん! おはなしできて、あくしゅできて、かわいいネコさん!」


「魔物っ!?」


 シフォンが一生懸命ニャー太君の魅力をラシアさんにご説明ですが、いまいち伝わらないご様子。

 そりゃこっちの常識に照らし合わせれば、あれは魔物の類になりますよね。

 異界で言うファンタジーはこちらの世界と似通った雰囲気ですから、あのまま再現しても面白みに欠けるかもしれません。

 こちらで東京ファンタジーランドを再現するなら、むしろその雰囲気は異界に寄せるべきでしょうか。


「あとはやっぱりジェットコースターだろ! 高いところから真っ逆さまにグーンのグワーンのガーーッだ!」


「ミント様。申し訳ありませんがまったく分かりません」


「……はこに乗って、ガタゴト昇って、ギューンだよ?」


「なるほど! とても分かりやすいですシフォン様!」


「なんでだよ!」


 そうですね。

 作るとなれば、やはりジェットコースターは欠かせません。

 あれを再現しようとなれば、電力は不可欠ですけど。

 魔法でなんとか動かせればいいのですが。


「帰りは電車だな! 疲れた身体にあの絶妙な揺れが心地良いんだ。爆睡間違いなし!」


 いや、そこはもう東京ファンタジーランドの管轄外なんですけど?

 あれですか?

 家に着くまでがファンタジーランド的な考えですか?

 一概に否定出来ないところが異界の恐ろしい魅力です。


「……お菓子もかかせない。アイス、クレープ、チュロス」


「そうだったな! パフェも捨てがたいが、園内で食べ歩けるデザートもまた格別だ」


「まるで見てきたように空想を語るのですね」


 熱に浮かされたように続けるシフォンとミントさんを、ラシアさんが苦笑しながら見つめています。

 でも彼女も楽しんでいるということは、前のめりになった姿勢からも間違いないでしょう。

 話だけでも人を虜にしてしまうほど、魅力的な空間なのです。


「おいディータ? さっきから静かだがどうした?」


「どこか具合が悪いのですか?」


「……にぃ?」


 三者三様に、僕を心配して覗き込んで来るみなさん。

 ずっと考え込んでしまっていましたから、不審に思ったのでしょう。


 不安はあります。

 なにせ、ナティの将来。僕たちの命が掛かっているのですから。

 課題も山積です。

 なにせ、誰もこっちの世界でそんなことをした人はいないのですから。


 けど、だからこそ


「作りましょうか。東京ファンタジーランド」


 僕はそう決めたのでした。



 ……。



 数日後。

 僕達はミリアシス大聖国を通り過ぎ、そこから東一帯に広がる平原まで来ていました。


「大体あそこに見える大きな岩から、ずーっと南まで。ま、見える範囲全部が敷地でございますね」


 同行しているボーゾ・ルーゾという男の方が、大きく手を広げながら説明してくれています。

 彼は不動産屋さんで、この土地を取り扱っていた方なのです。


「普通ですとこれほど広大な土地なので、売値も金貨三万枚は下らないのでございますが、グロウシェル問題もありましたからねぇ。金貨千枚でも買い手がつかない土地なのですよ」


 そうでしょうね。

 すっぽりとポードランの王都が入るどころか、それ以上の敷地面積です。


「グロウシェルが殲滅されたという話はじょじょに広まるでしょうから、今後値段が釣り上がる可能性は高いのですが、今でしたらまだ金貨三千枚ほど。大変お買い得となってございます」


 もちろん僕たちはそんな大金持ち合わせていません。

 なのでこの土地を購入するのはマルグリッタさん。

 それを僕たちに貸して下さるということになったのです。

 賃料は月に金貨百枚ですが、それもこの先半年は無料。

 申し訳ないくらいなのです。


「気にしなくて良いと思うぞ。マルグリッタは良い奴だが、商売に関しては手抜きしない奴でもある。例えディータが失敗して賃料を払えなくなっても、その頃にはこの土地の価格も数倍になっているだろうから、売り払えば損をしないどころか大儲け。そのくらいは考えている筈だ」


「なるほど」


 言われてみれば確かにその通り。

 マルグリッタさんは抜け目の無い方なのです。

 ならこちらも遠慮せず、東京ファンタジーランドの再現に向けて邁進しましょうかね。


「ではみなさん、計画通りに始めますか。僕たちのテーマパークを!」


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