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42話 僕がミントさんでミントさんが僕で

 由々しき事態です。

 目の前に僕がいて、僕がミントさんなのです。

 何を言っているのか分からないと思いますが、僕にもわかりません。


 ……まぁ遊び人スキルなんでしょうけどね。

 まったくもって遊び人という職業。

 やんちゃ過ぎて困ってしまいます。


 ですが、そう焦ることもないでしょう。

 タッチして入れ替わってしまったのだから、もう一度タッチすれば元に戻る。

 ただそれだけのことです。


「ちょっとビックリしましたけど……じゃあ戻りましょうか」


 片手を上げて、僕はミントさんに至極当たり前の提案をしたつもりだったのですが


「そ……そう慌てることもないだろ? お、面白そうだから、もう少しこのままでいいんじゃないか?」


 拒否られました。

 想定外です。


「いや戻りましょうよ。このままではお互い不便ですし」


「だ、駄目だっ! このスキルを研究するために、しばらくは戻らんっ!!」


 何故だか駄々をこねるミントさん。

 絶対タッチなどするものかと、両手を握り締めて威嚇してきてます。

 早く元に戻りたい僕は、ジリジリ距離を詰める感じでしょうか。


 と横を見れば、そんな僕達をシフォンが不思議そうな顔で見ていました。

 彼女は状況が理解出来てないみたいです。


「……にぃ?」


 軽くパニック状態になっていました。

 僕とミントさんを交互に見ながら、どちらが僕なのか困惑している模様。


 こっちです。

 姿形が変わっても、シフォンなら分かりますよね?


 そう思って手を広げようとした矢先。


「シフォンっ! ミントさんが僕に襲い掛かろうとしてくるんだっ! 助けてっ!」


 なっ!?

 ミントさんが僕の喋り方を真似て、シフォンを味方につけようとしやがりました。


 これはいけません!

 今ミントさんを捕まえなければ、何か取り返しの付かないことになりそうな気配ムンムンです!


「騙されないで下さいシフォン! それはにぃの皮を被ったミントさんです!」


「こっちがにぃです! 信じてくださいシフォン!」


 二人から熱烈なアピールをされ、両者を行ったり来たりするシフォンの視線。

 ……だったのですが


「……だいじょうぶ。おやすみ」


 大丈夫ってなんですか!?

 何もだいじょばないですよ!?

 面倒臭くなっただけでしょう!?


 あろうことか、シフォンは布団に潜り込んでしまったのです。


 どれだけ必死に呼びかけてもシフォンはお休みモード。

 早くも目を閉じ、我関せずと寝息をたて始める始末です。

 そんなシフォンを恨めしく思いながら、明日もオヤツ抜きだと心に決めて。

 僕とミントさんは、再び膠着状態に突入しました。


「大人しく元に戻って下さい」


「断る」


「何故ですか? いったい僕の身体で何をしようっていうんですか?」


「べ、別に変なことはしないぞ? お前も疲れてるだろうから、代わりに風呂にでも入ってきてやろうとな」


 言いながら僕の顔で照れるのは止めて下さい。気持ち悪いです。


 しかしお風呂ですか?

 確かにこの後、僕はお風呂に行くつもりではありましたが……。


 ――ゾクッ


 あ、駄目です。

 何故か分かりませんが、ニヤけるミントさんの顔を見た瞬間に背筋を凄まじい悪寒が走りました。

 全力悪寒ダッシュです。

 これは是が非でも止めねばなりません。


「お気持ちは嬉しいですが、僕は自分でお風呂に入りたいので止めて下さい」


「遠慮するな。ちゃんと隅々まで綺麗にしてきてやるから」


 くぬぅ、小癪です。


「で、でしたら、僕もミントさんのお身体でお風呂に入ってしまいますよ?」


 同じことをされると知れば、ミントさんも諦める筈。

 僕はそう思ったのですが


「構わんっ! むしろそうしろっ! 是非そうしろっ!」


 まさかのノーダメージ。

 いえ、きっと強がりなのでしょうけど、そう言われてしまったら打つ手がありません。


 こうなれば強行策しかありませんね。

 ミントさんを傷つけるようなことはしたくなかったのですが……。


 あ、違いますね。

 傷つくのは僕の身体です。

 なら遠慮はいらないんじゃないでしょうか?


「レシビルっ!」


「ば――っ!?」


 僕が突き出した指の先から、見慣れた雷がジグザグ軌道でミントさんへ一直線です。

 しかし間一髪。

 反射神経だけで、ミントさんはレシビルを避けてしまいました。

 やるではないですか。


「お、お前っ! 自分の身体だぞっ!?」


「だからですよ。次は連続でいきます」


 ビシュ、ビシュ、っと指先から迸り続ける僕のレシビル。

 いつもより魔力の消耗が激しい気がしますけど、構わないでしょう。

 ぴょんぴょんとベッドの上を飛び跳ねるミントさんを、僕はじょじょに追い詰めていました。


「ま、待てっ!! ちょっと待ってくれっ!!」


 続けざまにレシビルを繰り出す僕に焦ったのか、ミントさんは両手を突き出して必死の懇願です。

 さすがにこの状況で問答無用というのは、少しだけ寝覚めが悪いですね……。


「なんですか? 僕はもう手段を選びませんよ?」


「分かった! 分かったから、少しだけ真面目に研究させてくれ!」


 さっきまでは真面目じゃなかったんじゃないですか。

 語るに落ちるとはこのことでしょう。


 しかしどうやら真面目に研究したいというのは本当のようで。

 ミントさんは、顎に手をあてて何やら考え始めていました。


「一つ聞きたいんだが、ヘソ下辺りがムズムズしたりはしていないか?」


「ちょっと意味が分かりません」


「これでもか?」


 すると何を思ったのか。

 ミントさんは、僕の身体で服を脱ぎ始めてしまったのです。


「な、何をしてるんですかっ! ふざけているならレシビル撃ちますよ!」


「ふざけてなどいない。真面目な話だ」


 人の身体で勝手に服を脱ぐのがどう真面目なのか知りませんけど。

 しかし声音は真剣ですし、なにより表情が引き締まってます。


 ……仕方ありません。

 少しだけお付き合いしますか。


「特に何も感じませんね」


 そう答えると、ミントさんはまたも考え始め……。


「レシビル」


 僕に向かって指を突き出したのです!

 って何してるんですか!?

 不意を突かれた僕は咄嗟に両手で顔を覆いましたが、しかしいつまでたっても雷撃は飛んできませんでした。


 はて?


「……やはりか」


 疑問に思う僕とは対照的に、ミントさんは納得顔。

 そこには魔法を探求する研究者としてのミントさんがいたのです。


「なにか分かったんですか?」


「あぁ……。色々な」


 そうして説明してくれた内容を纏めると、このような感じです。


 ・身体が入れ替わっても、使える魔法やスキルは精神に依存している。

 ・呪いや特殊な精神魔法を受けていた場合、これも精神依存。

 ・魔力量は身体に依存しているので注意が必要。


 僕はいつもの癖でレシビルを発動しましたが、元々ミントさんはレシビルを使えなかった。

 だから不思議に思ったそうです。

 言われてみればなるほど。

 確かにいつものレシビルより魔力の消耗が大きかったですし、精度も威力も弱かった気がしますね。


「ありがとうディータ。六十年なんの進展もなかった私の悩みが、ようやく一歩前へ進――クシュンッ!」


 なんか良い感じにまとめようとしていたミントさんですが、盛大なくしゃみで台無しでしょうか。

 そりゃずっと裸のままなんですから風邪もひいちゃいますよ……って、それ僕の身体なんですが?


 その後急いで身体を元に戻しましたが、病気は身体依存のようで。


「クシュンッ! ……ミントさんのせいですからね」


 僕は風邪をひいてしまったのでした。


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