表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/147

39話 僕はスキルを得たけど仕事は得られない

「お、お前もいい加減鬼役をやれよっ!」


 なんだか白熱してしまった『だるまさんが転んだ』大会。

 最初に捕まった人が次の鬼役なのですが、未だに僕は鬼をやっていないのです。


「……にぃ、ずるい」


「そうだぞっ!」


 と言われましても……。

 ミントさんが鬼の時はシフォンがほぼ自滅してますし、シフォンが鬼の時はミントさんを動揺させることで尖耳をピクピクさせる作戦という初手殺し。

 二人が潰しあっている限り、慎重派の僕が最初に捕まることなどありえないのです。


「でもそうですね……。最後に僕が鬼をやって、今日は終わりにしますか」


 僕が鬼をやらない限り終らないみたいですから。

 ここは『にぃ』として、譲ってさしあげましょう。


「ぐ……っ。上から見下ろしやがってっ」


 それはそれで腹が立つと地団駄ミントさんですが、なにはともあれ僕の鬼役。

 部屋の端っこにポジションを移し、壁を向いてスタンバイです。

 するとなんだかんだ言ってもやる気満々のお二人は、すぐさまスタート位置へ。

 漲る気迫は、なんとしても僕を負かそうという意気込みでしょうか?

 負ける気はしませんけどね。


「ではいきますよ? だ~るまさんが……」


 開始早々、僕は仕掛けることにします。

 作戦は、あえて隙を作ることで意表を突く作戦。

 なかなか『転んだ』のフレーズを言わないことで、二人の動揺を誘うのです。


 するとまんまと術中のお二人。

 戸惑うような足音が、そろりそろりと背後から忍び寄っているのが分かりました。


 ふふふ。

 恐る恐る、迷いながら前進してますね?

 このまま僕にタッチ出来そうとか思ってますね?


 狙い撃ちです。そんな心はっ!


「転んだっ!!」


 一息に言い切りバッと振り向いた先。

 予定ではシフォンもミントさんも、バランスを崩して一網打尽――だったのですが


「おや? ピタッと止まれましたか」


 二人は微動だにしていませんでした。

 明らかに気が緩んでいたと思ったのですが、さすがは歴戦の猛者。

 十回目ともなれば、なかなかにやるものです。


 ちなみに、ミントさんは左足を床に着ける直前の姿勢。

 片足立ちなので、少し待っていればバランスを崩して動いてしまうのではないでしょうか。

 ちょっとこのまま待っていても面白いかもしれません。


 シフォンに至っては、突然僕が振り向いたことで焦ったのか。

 盛大に転ぶ直前のようで、床に接地しているのは左足の爪先だけです。

 どうやってバランスとってるんですかそれ。


 ……というか、おかしくないですか?

 その体勢で留まれるって、人間技じゃないですよ?


 改めて観察してみると、ミントさんもシフォンも瞬きすらしていない模様。

 あり得ません。

 これはさすがに……スキル、ですかね?


 試しに二人から視線を外し、顔を壁に向けてみます。

 と同時にトスンとシフォンが転んだ音が聞こえ、続いて


「お、おいっ! 中止だ中止っ!」


 慌てふためくミントさんの声がかかったのです。


 このまま振り返ったらまた二人が動けなくなるかもしれません。

 どうすればいいか分かりませんが、心の中で『終了』と念じてから僕は振り返ることにしました。


「なんだ今のはっ! 動けなかったぞっ!?」


「……いたい」


 どうやら無事に解除出来ているようですね。

 ミントさんは手をグーパーして動けることを確認中。

 シフォンは床に不時着していました。


 状況からみて、やはりスキルだったみたいですね。

 恐らく効果は今ミントさんが仰った通り。

 相手の動きを強制的に止めるスキルなのでしょう。


「今のは新しいスキルを見つけたってことでいいんだよなっ!?」


「のようですね」


 ミントさんも気付いたらしく、興奮に頬が紅潮してらっしゃいます。

 さらにはぶんぶんと手を振り回し、その効果を熱弁でしょうか。


「凄いぞこれはっ! 相手の動きを強制的に止めるなど聞いたことがないっ! 無敵じゃないかっ!」


「確かに強力なスキルっぽいですが……どうでしょう?」


「なにか不満なのか? ……そ、そうかっ!!」


「そうです」


「動きを封じている間に私に色々イタズラ出来なかったことを悔いているんだなっ!? か、構わんぞっ!? 動きなど封じなくても、私はいつでもバッチ来いだっ!!」


「あ、違うんで静かにして下さい」


 床にぶつけてしまったシフォンの頭を擦りながら、僕は思考を深くします。

 しゅんとしてしまったミントさんは放っておきましょう。

 発作が起きたら放置する。

 ミントさんとお付き合いしていくうえでの基本です。


 それはそうと、果たしてこのスキル。

 発動条件や詳しい効果はどうなっているのでしょうか。


 例えば常時発動。

 これだと僕が街で振り返るたびに、後ろにいた方々は動けなくなってしまいます。

 さすがにこれはありえないでしょう。


 となれば一度敵に背中を向けて『だるまさんが転んだ』と言う必要がある?

 鈍足な敵相手ならそれでも構いませんが、早い敵。もしくは飛び道具を得意とする敵だと、それは致命的ではないでしょうか。

 それに飛び道具でいえば、それすらも空中で制止させられるかは疑問です。


 持続時間と効果対象についても不確定要素が多いですね。

 振り返った先に敵がいなければどうなるのか。

 一度止めた相手は、僕が見ている限りずっと止められるのか。

 使用する魔力はどうなっているのか。


 実戦で使うまでには、様々な検証が必要となるでしょう。


「まぁ懸念事項も多いが、強力な武器になることは間違いないだろう?」


 発作の治まったミントさんが、僕の思考に追いついたようです。

 こういうところは、さすが年長者といったところでしょう。


「そうですね。思わぬ収穫でした」


「……それに、みんなで遊べる」


 おでこを擦られるがままになっていたシフォンが、嬉しそうに顔をあげていました。

 確かに彼女の言うとおり。

 もともとの目的は子供達と遊べる遊びをということだったので、大満足の結果といえるでしょう。


 シフォンはすでに、他の子供達と『だるまさんが転んだ』で遊んでいる情景を思い浮かべているのかもしれません。

 なんだかニヤニヤと。

 時にちょっと悪い顔をしながら、とても楽しそうにしています。


「じゃあ明日は、またエリーシェさんのお手伝いに行かれるのですか?」


「……んっ!」


「だそうだ。私の方は急ぐというほどのことではないからな。なにせもう六十年。今更焦ったところで仕方ないだろ?」


 ミントさんは諦観しているようにも見えますが、やはり瞳に少し陰りが混じっています。

 何のために研究しているのか詳しく教えて頂ければ、僕ももう少し協力出来るのですが……。

 こればっかりは仕方ないですね。


 ともあれ、明日もお二人はエリーシェさんのお手伝いに。

 僕は今日と同様ギルドへ出向き、どんな仕事でも良いから受注することを目標に。

 ミリアシス二日目の夜が、更けていったのでした。



 ……。



 今日こそはと懲りずにギルドへやってきた僕。

 ……だったのですが、さっそく出鼻を挫かれていました。


「申し訳ありませんが、今ご紹介出来るお仕事はありませんねぇ」


「ひとつも!? これっぽっちも!?」


「ないですねぇ」


 ふむふむなるほどそうですか。そうきますか。

 よもやの仕事ゼロ。

 さすがの僕も、これは予想外でした。


 ここまでくると、仕事の神様に嫌われているとしか思えません。

 そういえば仕事の神様ってお名前はなんでしたっけ?

 職業の神様は関わりが深いので覚えてますが、お仕事の神様は忘れてしまいました。

 神様が多すぎて困ります。


 現実逃避気味に、どうでも良いことで頭を悩ませている僕。

 それを、仕事がなくて悩んでいると勘違いしたのか。

 いやまぁそれも間違いではないですが。

 とにかく、ギルドのお姉さんは仕事がない理由を優しく教えて下さいました。


「今は聖選の真っ最中なので、冒険者達にうろちょろして欲しくないというのが国の意向なんです。なので当ギルドも、半ば活動自粛のような感じになってるんですよ」


 その代わり普段ならギルドに所属している冒険者がやるような仕事は、国の兵士達が全てこなしているそうです。

 聖選というのは、国の威信をかけた一大イベントってことなのでしょう。


「それに、そろそろグロウシェル大移動の季節ですので。グロウシェルを刺激しないように、町の東口が出入り禁止になる時期でもあるんです。冒険者や旅行者を含め、一般の方は出入り出来なくなるのでお気をつけくださいね」


「ん? グロウシェルっていうのは、あのグロウシェルですか?」


 続けて告げられた言葉に、僕は疑問を覚えます。

 グロウシェルというのは、かつての旅でも何度か遭遇した虫型の魔物です。

 体長は一メートルほど。

 甲殻で体表を覆ってはいますが、強さでいえばDランク級。

 なので、脅威にはなりえない魔物だからです。


「そのグロウシェルで間違いないと思います」


「それが危険なんですか?」


「単体ならば問題ないんですけどねぇ。大移動っていうのが……」


 それはこの国に住む方には頭の痛い問題のようで。

 お姉さんは、こめかみに指を当てながら説明してくれました。


 なんでも毎年この時期になると、町の北東から南東にグロウシェルの大群が移動するらしいのです。

 恐らく冬に備えて温暖な地域へ棲み家を変えるということなのでしょうけど、その数はざっと五百超え。

 Dランク程度とはいえ、そんな大群が町に押し寄せたら被害は計り知れません。


 なのでグロウシェルを寄せ付けないため、魔物除けの『光晶石』を町の東側に配置。

 倒そうなどとは思わず、とにかく遠ざけるのが肝要ということでした。

 それでもちょっかいを出せば進路を変える可能性もあるので、大移動が終るまでは東口は封鎖されると、そういうことなのでしょう。


 ちなみに『光晶石』は戦う力のない商人などが常備しているものです。

 普通はペンダントにして持ち歩くので親指程度の大きさですが、今回配置されているものは原石に近く、一つ辺り三十キロもあるそうです。

 それを何百個も置いてグロウシェルの進行方向を誘導するというのですから、なかなか大変な作業だと窺い知ることができますね。


「そんなわけなので、紹介出来るお仕事は、少なくとも聖選が終るまでの残り五日間は皆無。それが終っても、グロウシェルの移動が終るまでは激減ってとこですねぇ」


 なんとも間の悪い時に訪れてしまったようです。

 ひょっとしたら、運の神様にも嫌われているのかもしれません……。

 う~ん……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ