表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/147

40話 僕と二人の聖女候補

 他に出来ることもないので仕方なく貧民地区まで戻ってくると、子供達と楽しそうに遊んでいるミントさんの姿が目に映りました。


「う、嘘だっ!? 私は動いてないぞっ!!」


 どうやら『だるまさんが転んだ』の真っ最中みたいですね。

 褐色エルフさんが「私は動いていない!」と、足を踏み鳴らしながら必死に冤罪を訴えてらっしゃいます。

 正直大人げないです。


 でもそれを見ながら、シフォン含む子供達一同は大盛り上がり。

 とても楽しんでいらっしゃるみたいで、こっちまで嬉しくなります。

 異界の遊びですが、こちらの子供達にも受け入れられたみたいで良かったと安堵でしょう。


「あの~。私も混ざっていいですか~?」


「それは廻り終えてからにして下さいと、もう五十回は言いましたぞ?」


 一方で、昨日同様に人々を見て廻っているエリーシェさん。

 昨日と同じ聖堂騎士の方が付いて廻っていますが、彼女は『だるまさんが転んだ』に興味津々のご様子で。

 チラチラと視線を泳がせ、ソワソワしていらっしゃいました。


「では『だるまさんが転んだ』をやりながら廻りましょ~!」


「どうやってですか……」


「こ、こう……?」


 遠くで鬼役が「だるまさんが……」と言い始めたのに合わせ、エリーシェさんが素早く人々と挨拶を交わし


「転んだっ!」


 の合図と同時に、その動きもピタリと止まりました。

 正式に遊びに加わっているわけではないので、動いたところでどうなるわけでもありませんが。

 しかし彼女の顔は真剣そのもの。

 心から『だるまさんが転んだ』を楽しんでいるようです。


「どうかな~? これならいいでしょ~?」


「駄目です」


 ですが残念。

 その奇抜なアイディアは、聖堂騎士さんによってあえ無く却下となってしまっていました。


 というか、エリーシェさん。

 昨日会った男の方の話では、自主的に貧民地区を廻っているような言いぶりでしたが。

 今の会話を聞く限り、そういうわけでもないのでしょうか?


「せめて聖選が終るまではしっかり廻っていただきませんと」


「私なんかが聖女様になれるわけないですってば~。こうして皆さんに元気を分け与えられるだけで、私は十分満足してますし」


「それでもです。せっかく聖女候補に選ばれたのですから」


 おや?

 エリーシェさん聖女候補様だったんですか?


 するとそんな二人の会話を聞いていたのか。

 辺りに集まっていた方々から、聖堂騎士さんにブーイングが巻き起こりました。


「遊ばせてやれよ!」

「そうだそうだっ! 大体俺達は、初めっからエリーシェちゃんに投票するって決めてんだっ!」

「エリーシェ様以上に聖女様に相応しい人なんていませんからね!」


 なるほど、みえてきました。

 エリーシェさんは、本当になんの他意なく貧民地区を廻っていたのでしょう。

 しかし聖女候補に選ばれてしまい、聖堂騎士さんが付いて廻るようになった。

 彼は付いた以上はエリーシェさんを聖女にしようと、彼女の日課を選挙活動の一環とし、普段以上にちゃんとやって欲しいと願っているのです。


 もっとも周りの人々の反応を見る限り、そんな必要もなさそうですけど。


「ほらエリーシェ様。皆も聖女には貴女が相応しいと言っているではありませんか。ここはひとつ、皆の期待に応えるためにもですな――」


「聞き捨てなりませんわっ!!」


 聖堂騎士さんが必死にエリーシェさんを説得している最中。

 突如として甲高い女性の声が、「おーっほっほ」という高笑いとともに響き渡りました。


 どこかで聞き覚えのある笑い声ですが、どなたでしょう?

 周りの方々と一緒に、僕も声の主を探します。


 すると何故か民家の屋根の上。

 真っ赤なドレスを身に纏った女性が、片手の甲を口元に当ててエリーシェさんを見下ろしていたのです。


「エリーシェごときが聖女に相応しいですって? 片腹痛いですわぁ!!」


 それを見上げるエリーシェさんなのですが、彼女はなんだか嬉しそうです。


「ニルちゃんじゃないですか~! お久しぶりです~! 片腹痛いって右のお腹ですか左のお腹ですか? すぐに診ますから降りて来てくださ~い!」


「そ、そういう意味じゃありませんわぁ!」


 どうやらお知り合い。

 いえ、結構親しい間柄なのかもしれません。

 エリーシェさんは、単純に再会を喜んでいるように見受けられました。


「じゃあお腹は大丈夫なんですね~? 良かった~」


「くぅ……っ!! 馬鹿にしてぇっ!! モウルナっ!!」


「はっ!」


 屋根の上にいた女性がギリリと袖を噛みながら誰かの名を呼ぶと、呼ばれたであろう騎士がどこからともなく現れます。

 身に纏った鎧から、恐らく彼も聖堂騎士でしょう。

 モウルナと呼ばれた男性は、すばやく屋根の下でスタンバイしました。

 とそこに、屋根の上の女性がぴょんとジャンプで飛び降りたのです。


「格好いいですね~!」


「いちいち馬鹿にするんじゃないわよっ!!」


 モウルナさんの腕に抱きとめられて地上に降りた女性を、エリーシェさんは羨望の眼差しで見ています。

 それを馬鹿にされていると思い、女性は敵意むき出しといったところでしょう。


「あとニルちゃんなんて気軽に呼ばないで下さる? 次期聖女のニルヴィー様とお呼びなさいっ!」


「分かりましたニルちゃん!」


「きぃぃぃぃっ!!!」


 なんというか、絶望的に噛み合ってません。

 たぶんエリーシェさんにはこれっぽっちも悪気はないんでしょうけど……。


 しかしニルヴィーという女性。

 どこかで声を聞いたことがあると思いましたが、この方ですね。

 ミリアシスに到着した初日に、街の中で演説をしていらっしゃったのは。


 腰まで伸びた緑色の髪は内巻きになっていて、上品さが漂っています。

 着ている真っ赤なドレスも、見ただけで上等なものだと分かる一品。

 ナティほどではありませんが、この方も高貴な出なのでしょう。


 ですが今は、その表情から気品が欠け落ちてしまっていました。

 悔しいのかなんなのか。

 歯軋りしながら、彼女はエリーシェさんを睨みつけています。

 ちょっと涙目になってますが。


「落ち着いて下さいニルヴィー様。あの女のペースに巻き込まれてはいけません」


 それを、後ろに控えているモウルナさんが窘めました。

 こちらもかなり整った顔立ちの方ですね。

 二人並んでいると、まさに美男美女といった感じでしょうか。


「そ、そうね。私としたことが、まんまとエリーシェの策にはまるところでしたわ。気をつけましょう」


「そうですよ~? 屋根の上は危ないですから気をつけて下さ~い?」


「そのことじゃないわよっ!! 危ないのは貴女っ!! 貴女なのっ!!」


「ニルヴィー様」


「くぅ……っ!!」


 完全にエリーシェさんに翻弄されまくりです。

 そういえば、僕も彼女に翻弄されたことを思い出します。

 お気持ちはお察ししますよ、ニルヴィーさん。


 しかし彼女は諦めていませんでした。

 すぅーっと深呼吸して気を落ち着かせ、ギッとエリーシェさんを再び睨みつけたのです。


「今日は宣戦布告にきましたの! この聖選で、貴女との長きに渡る因縁に決着をつけて差し上げますわっ!」


「あ、そんなことよりニルちゃんも一緒に『だるまさんが転んだ』やりましょうよ~」


「そ、そんなことってなによっ!! 貴女聖選をなんだと――っ」


「ニルヴィー様。……エリーシェさんも、あまりニルヴィー様を刺激しないでいただけますか?」


 たまらずモウルナさんがニルヴィーさんを押しのけて前へ出ました。

 これ以上、ニルヴィーさんが取り乱すのを防ぐためでしょう。


 すると呼応するかのように、エリーシェさん側の聖堂騎士。ゾモンさんも前へ出ます。

 彼はモウルナさんとは違って無骨な戦士といった容貌。

 その眼光が、鋭くモウルナさんを射抜きます。


「モウルナ。聖女候補であるエリーシェ様に、その態度は無礼であろうが」


「であればゾモンさん。しっかりと補佐の役目を果たしてくれませんか? 彼女には聖女候補としての自覚が欠けているように見受けられますが?」


「なんだと?」


 グイッと胸を付き合わせる聖堂騎士のお二人。

 ゾモンさんの迫力は凄まじいですが、モウルナさんも負けていません。

 自分が補佐する人こそ聖女に相応しいと、こちらも敵対心バシバシといったところでしょうか。


「いいですわモウルナ。どうせあと五日後には結果が出ているのですから」


「はっ」


 モウルナさんに庇われて、ようやく落ち着きを取り戻したのか。

 ニルヴィーさんが、自信に満ちた声で勝利宣言をしました。


「エリーシェ。貴女はそこで、私が聖女になる姿をしっかり目に焼き付けていなさいな?」


「はい! そうしますね~!」


「くぅ……っ!! 馬鹿にしてぇっ!!」


 駄目でした。

 全然落ち着きを取り戻していませんでした。


 結局あ~だこ~だと文句を言い続けるニルヴィーさんは、モウルナさんに引き摺られるように去って行き。

 良く分からないうちに、この場はお開きとなったのです。


 二人の聖女候補様。

 見られたのは幸運でしたが、なんだかイメージと違いましたねぇ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ