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121話 僕とナティはゆっくりしたい

 神の襲撃という未曾有の国難に逢ったガレジドス魔法国でしたが、翌日には早くも国の主導で復興へと動き出していました。


 といっても幸いなことに、人的被害はほとんどなかったようです。

 被害に遭われた方も肉体的には軽症。

 どちらかというと、精神的なダメージを負った方が多いようでした。

 そのため街中には、臨時のカウンセリング施設がいくつも作られるのだとか。


 一方で淫欲の神ルクスリアが消滅したため、ヘーゼルカお姉ちゃんとミントさんも正気に戻ったとのこと。

 僕はなによりも、そのことに安堵でしょうか。

 けれどラシアさん曰く、体力の消耗が激しい為ベッドから起き上がれないらしいです。

 王宮の客間をお借りできたので、今はそちらで休んで頂いてます。

 

 ついでに僕達にも貴賓室が宛がわれることになりました。

 しかも王族専用らしき、とてつもなく豪華なお部屋。

 しかしどうでしょうかね?

 部屋の中に噴水とか、まったく必要性を感じないのですけど。

 王族の方々はこれが落ち着くのでしょうか?

 僕なんかは「小銭でも投げたほうがいいのかな?」とか「部屋の中びちゃびちゃになりません?」とか考えてしまって全然落ち着きません。

 ナティは「ガレジドスに招待される時はいつもこの部屋よ」と寛いでいるみたいなので、やはり彼女も王族なのだと再認識でしょう。

 

 ともあれ疲れが溜まっていた僕は、ベッドに入ればすぐにぐっすり。

 長旅から、休む間もなく戦闘でしたからね。

 もっとも、僕を一番疲れさせたのはこの国の第三王子。リュメルス殿下だったのですが。


「この恩は忘れぬっ!」と、何度も何度も頭を下げにきたリュメルス殿下。

 聞いたところによると、殿下にとってとても大切な人が淫気に侵されていたのだそうです。

 僕達が意識したわけではないですが、結果的に僕達が救ったということになるので、そりゃあもう凄まじい感謝のされっぷりでした。感謝の暴力と言っても差し支えありません。

 ついでにあれやこれやと聞かれてしまい、ふらふらになるまで話をさせられたのです。

 まぁそのおかげで僕達は、こんな立派なお部屋に泊まらせて貰ってるのですけれど。


 ちなみに部屋割りは何故か第一王子のビュッフェルトさんが仕切ったらしく、僕とナティが同室。

 他の方々は、シフォンとラシアさん。リルゼさんとリヒジャさんに分かれたようです。

 とてつもなく大きなベッドなので二人で使っても十分な広さでしたが、シフォン以外の誰かと同衾するなんて小さな頃以来。

 そんなに子供だろうかと、ちょっと気恥ずかしくなる僕なのでした。


「お、おお、おはようディータっ! 素晴らしい朝ねっ!」


 朝目覚めると、すぐ隣にナティがいました。

 ていうか近いです。

 広いベッドなのですから、もう少し離れてはいかがでしょうかと、僕は是非とも提案したい。

 なぜなら隅っこに追いやられ、僕は落ちそうになっているのですから。


「おはようございます。ちょっと大きすぎて落ち着かないですね」


「そ、そうかしら? 国賓であればこんなものよっ」


 そんな方と比べられても困ります。

 

 やけに顔の近いナティですが、どうやら彼女は随分前から起きているみたいですね。

 ベッドの中にはいるものの、着替えも済ませて身だしなみが整ってますから。

 なので僕は、状況を聞いてみることにしました。


「お二人の様子はどうですか?」


 いつまでも寝ているわけにはいかないので、ナティに確認しながら僕は起き上がります。

 彼女はなんだか少し寂しげな顔を見せましたが、結局一緒に起きることにしたようでした。


「ラシアの話ではまだ目が覚めないみたいね。けれど顔色も良いし、うなされるようなこともないから、今日中には目覚めるんじゃないかしら」


「本当ですか? それはなによりですね」


 シャーッとカーテンを開くと、太陽はすでに中天に差し掛かる頃。

 もうお昼近い時間のようでした。


「ご飯はここで食べることも出来るわよ? 部屋付きのメイドに頼めば運んでくれるから」


「それもなんか悪くないですか?」


「何言ってるのよっ! ディータはこの国を救ったのよっ!? しかも邪な神まで倒してっ! 今はたっぷり休むべきだわっ!」


 それほど疲れは残っていないので、僕としてはせっかくですから街なんかを見て回ろうかと思っていたのですけど。

 でも身振り手振りでナティが一生懸命説得してくるので、それも悪くないかもと思い始めてきました

 どちらにせよヘーゼルカお姉ちゃんとミントさんが完全に回復するまでは、身動きが取れませんしね。

 シフォンはラシアさんがこれでもかと面倒を見て下さっているでしょうし、リルゼさんは……まぁ心配いらないでしょう。


「ならそうしますか」


「えぇっ! 是非そうしましょうっ! ディータは疲れているのだから、私が食べさせてあげるわねっ!」


「いやそこまで疲れては――」


「疲れてるのっ! 自分では気付かないものなのっ!」


 力強く言われると、そんな気がしてくるから不思議。


「そ、そうでしょうか?」


「そうよっ! 待っていて。今料理を運ばせ――」


 そう言ったナティが部屋付きのメイドさんを呼ぶため、ベルを手にした時です。


 ――コンコン


 タイミング良く、部屋の扉がノックされました。


「メイドかしら? 丁度良いわ」


 ナティは「ついでに食事を頼みましょう」と無警戒に扉を開けたのですが――


「ディータ殿っ! 起きられたかっ!? おや、これはポードランの姫君。ご機嫌麗しゅうございますなっ!」


 入ってきたのはメイドさんではなく、第三王子リュメルス殿下でした。

 外交的な都合もあるのでナティは笑顔で挨拶を返していますが、「苦手なのよね……」と昨夜言っていたことを思い出します。

 今もピクピク頬が引き攣っているナティに苦笑しながら、僕はリュメルス殿下の相手をすることにしました。


「おはようございます殿下。どうなさったのですか?」


 彼とは昨晩たくさん話をしましたから、大分気安い感じになってしまってます。

 本来はいけないことなんでしょうけど、リュメルス殿下もその方が良いということで、お言葉に甘えている形です。


「うむっ! ディータ殿の話はどれも興味深いからなっ! 話をしようと思って来たのだっ!」


 昨晩の続きというわけでしょうか。

 疲れを理由に僕が部屋へ下がるまで延々と話をして差し上げたのに、まだ足りないと?

 げんなりと僕の肩が落ちると、それに気付いたナティがすかさず僕を庇うように前へ出てくれました。


「リュメルス王子。ディータはまだ疲れが取れていないのだし、あまり無理をさせないで頂けますか? それに私達起きたばかりなので、朝食もまだですから」


「そうであったかっ! ではペギルっ! 朝食をここに運ぶようメイドに知らせてくるがよいっ! ついでに我の昼食もここに運ばせれば、食事をしながらずっと話が出来るなっ!」


「畏まりま――」


「待って! 待ちなさいっ! ディータは疲れていると言ったでしょう? 今日くらいはゆっくり休ませてくれないかしら?」


「なぁにっ! 我が国には疲労回復、魔力回復に効果のある様々な食材が豊富であるからなっ! すぐに元気になるぞっ!」


「そういうことじゃなくてっ! もうっ! なんで分かってくれないのよっ!」


 必死にナティが追い返そうとしてくれるのですが、リュメルス殿下には通用していません。

 言っても聞かない相手にナティが地団駄を踏み始めてしまったので、僕は慌てて間に入るのです。


「ナティ! 大丈夫です! 大丈夫ですから落ち着いて!」


 後ろから羽交い絞めして、なんとかリュメルス殿下から引き離しました。

 こんなことで両国間の関係にヒビが入ったら大変ですからね。

 どうやらリュメルス殿下に付いているペギルさんも同じように思ったのか、あちらはあちらで引き止め始めてくれた模様。


「殿下、ここは時間を改めた方がよろしいかと。馬に蹴られて死んでしまいますよ?」


「なんだっ!? どういう例えだっ!?」


「そのままの意味です」


「分からんっ! お前が何を言っているのかさっぱり分からんっ! が、まぁ良いだろうっ! ではディータ殿っ! また来るぞっ!」


 どういう説得なのかいまいち理解出来ませんでしたが、ペギルさんは見事にリュメルス殿下を連れ帰ってくれたのでした。

 きっと彼なりのコツがあるのでしょう。


 ということで、静けさを取り戻した室内。

 暴れる勢いだったナティも「こほん」と一つ咳払いしながら居住まいを正し、改めてメイドさんを呼ぶことにしたようです。


「これで落ち着けるわね。リュメルス王子にも困ったものだわ」


「悪い人ではないのでしょうけどね。少し賑やかなだけで」


「そう……かしら?」


 殿下をフォローしてみましたが、ナティは肩を竦めて半信半疑。

 押しの強い者同士、相性は悪くないと思うのですけどね。


 程なくメイドさんにより料理が運ばれてきて、テーブル一杯に並べられました。

 寝起きにしてはかなりの量で、食べきれるか心配なほど。

 旅の間はずっとラシアさんの手料理と贅沢極まりない道中でしたが、でも目の前のお料理もそれに負けず劣らず美味しそう。

 見たことのない食材が多そうですが、きっとガレジドスの特産品か何かなのでしょう。

 せっかくの料理なので冷めないうちにと、僕はさっそく席に付くことにしました。


「ディータ。私が食べさせてあげるわ」


 広いテーブルなのに、ナティが座ったのは僕のすぐ隣。

 肩が触れてしまえる距離です。


「いや、自分で食べれますよ」


「ダメよ。……ふぅ~、ふぅ~。さ、どうぞ?」


 スプーンには湯気のたったスープ。

 それをナティが吐息で冷まし、僕の口元へ運んできてくれるのです。

 子供の頃に戻ったようで、なんだか恥ずかしいですね。

 ナティは僕より少しお姉さんなので、子ども扱いしているのかもしれません。


「どう? 美味しい?」


 パクリとスプーンを咥えると、すかさずナティが覗きこんできました。

 なんか瞳がキラキラと。眩いばかりなのですが……


「死ぬほどマズイです」


 味の方は最悪でした。


「な、なんで……っ!? 私が冷ましたからっ!?」


「いや違いますよ。そんなことで味は変わらないでしょう?」


 冷静に分析すると、何故かナティはご立腹。

「そんなことないもん」とイジけながら、自分もスープを口に運び


「劇毒……っ!?」


 クシャっと顔を歪めていました。

 さすがに王女様なので目の前で吐き出すようなことはしなかったみたいですが、今すぐにでも吐き出したいと、潤んだ瞳が全力で訴えてきています。

 僕は無言で洗面所に目配せし、駆け出すナティを見て見ぬ振りでしょうか。


 やがてバシャバシャと口を濯ぐ音が聞こえ、ナティが戻って来ました。


「な、なんなのよ一体……」


「分かりません……。嫌がらせだと思いたくはありませんけど……」


 悲観に暮れる僕達。

 見た目は美味しそうなのに、なんなんでしょうこの毒物は。

 どうしたものか。そもそも食べられるものなのか。

 途方に暮れていると、突然扉がバーンッと開き


「はっはっはっ! 我が国が研究して編み出した特製体力回復メニューはお気に召されたかなっ!」


 下手人の登場です。


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