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111話 僕は昔の自分とナティを重ね見る

 過保護といえるほど身体強化を重ね掛けしまくったシフォンも加わり、旅は順調。

 相変わらず魔物は多いのですが、シフォンとナティが競い合うように倒しまくっているのです。

 おかげで僕の出番はありません。

 なんでしょうか。

 女性陣の血の気がやたらと多いのですけど。

 肉食系しかいない予感。


 ともあれ日も暮れ始めたので、水場を探して今日はここまでとしました。

 家を運ぶという無茶な頼みを叶えてくれたヘビーゴードンさんには、たっぷりと餌を与えて休ませます。

 そして僕達もお食事なのです。


 残念ながら家の中にキッチンまで準備は出来ませんでしたので、外でバーベキュー形式。

 魔法で火を起こし、串に刺した肉や野菜を焼いていきます。

 王女様の口に合うか心配でしたが、ガブリと豪快に食いついているところをみると杞憂だったようで。

 ナティはとても美味しそうに食べていました。


 というか美味し過ぎるんですけどなんですかこれ?

 ただの串焼きとはとても思えないのですが?


 不思議に思い料理担当のラシアさんを見ると、ニコリとほがらかに微笑みながら


「ただの串焼きを最上級の料理にするのもメイドの嗜みですから」


 そのように仰っていました。

 恐るべしメイド術です。


 ちなみに料理中も食事中も、魔物達は襲ってきていません。

 というか襲えないのです。

 なぜなら僕が、こっそり習得していた遊び人スキルを使ったから。


「本当に魔物が襲って来ないんだね。なにこれ。すっごい便利」


 リルゼさんは驚愕しながら地面に引かれた線を見ていました。

 それは僕が足で描いた境界線。

 ヘビーゴードンさんと荷車をそっくり囲うように、ぐるりと円を描くように地面に線を引いたのです。


「本来はこうやって引いた線の内側が安全地帯。その回りに鬼役がいて、鬼から逃げ回るという遊びらしいですよ」


 異界での呼称は陣地鬼とか陣取りゲームとか。

 地方によってやり方や遊び方が異なるようですが、地面に線を引いて遊ぶ方法は色々ありました。

 それを試しにやってみたところ、これが結界として作用することが分かったのです。


 魔物はどれだけ頑張っても中には入れず、それどころか外からはこちらを認知していない様子。

 以前ケルベロスが張っていた結界よりも、ひょっとしたら強力なものかもしれません。


「冒険旅で一番面倒なのは夜だもんね。普通は交代で見張りをしたりするけど、これなら朝までぐっすり出来るね」


「そうですね。僕やリルゼさんと違って、ナティやシフォン。それにラシアさんも旅慣れてはいないでしょうから」


 と思って色々準備した甲斐があり、想像以上に楽チンな旅になっています。

 恐れていた魔物は皆の活躍で撃退出来ていますし、快適な部屋と安全な夜。そして美味しい食事までついてくるのですから。


 たまに討ち漏らした魔物が勝手に倒れていたり、串焼きがいつのまにか数本消えているところをみると、恐らく彼女も付いて来ているのでしょう。

 どうせなら出てきて一緒に食事をすれば良いと思うのですけど、リヒジャさんは恥ずかしがり屋なのか、その姿を晒してくれることはありません。

 寝室は彼女の分も用意してあるので、せめて寝る時くらいはゆっくりして欲しいものです。


 食事を終えた後も起こした火はそのままにし、皆でそれを囲みながら夜空を眺めます。

 星を見ながら飲むラシアさんの紅茶はまた格別。

 身体だけでなく心まで温まるようで、なんだかホッとしてしまいます。


 他の方々も緊張感が解れたのか、どことなく穏やかな表情。

 ずっと魔物と戦い通しでしたからね。

 特に初めての旅となるだろうナティやラシアさんは、張り詰めていた筈なのです。


「どうでしたナティ。辛くありませんでしたか?」


 一緒の丸太に腰を下ろし、隣に座っているナティ。

 彼女は紅茶の入ったコップを両手で抱え持ちながら、どこかボーッとした様子で火を見つめていました。


「やっぱり疲れましたか?」


 着いて来たことを後悔しているんじゃないか?

 そう思って聞いてみたところ、ナティはなんと泣き出してしまったのです。


「ナ、ナティ!? そんなに辛いなら今からでも引き返しましょう!? ビヒバハまでお送りしますからっ!」


「ち、違うのっ。逆よ」


 逆?

 涙を拭って慌てたように言うナティですが、言葉が上手く出てこないのか、あたふたと。

 それを微笑ましく見つめていたラシアさんが、彼女の想いを代弁してくれます。


「ナティルリア様は嬉しいんですよ。ディータ様と一緒に旅を出来ることが。だってその為に、辛い修行を頑張ってきたんですから」


「そうなんですか?」


 彼女は言葉通り、中級攻撃魔法をちゃんと使いこなせるようになっていました。

 それが僕と旅をするために習得したことだったなんて。

 信じられずにナティの顔を見ると、彼女は真っ赤になりながら見つめ返してきました。


「ディータは凄いから。ディータの隣に立つために頑張らなきゃってずっと思ってて……。それが叶ったんだなぁって思ったら……」


 言葉にするとまた感情が昂ぶってしまったのか、今度は声まで出して泣き出してしまいました。

 それをラシアさんが「よしよし」と優しく抱き締めています。


「ディータ君は悪い男の子だなぁ。王女様を泣かせちゃうなんて」


 僕達の様子を見ていたリルゼさんは、ニヤニヤとからかうように。

 けど温かみのある瞳で言ってきたのです。


 さすがに「僕のせいですか?」みたいに無神経な言葉はでません。

 だって今のナティの姿は、ヘーゼルカお姉ちゃんと一緒に旅をするため、頑張り続けたいつかの僕と重なるのですから。


「ありがとうございますナティ。僕もナティと一緒に旅をすることができて、とても嬉しいですよ」


 言われたかった言葉は、そのまま言ってあげたい言葉となって、僕の口からするりと零れました。

 さらに大きくなったナティの泣き声は決して悲しいものではなく、温かな響きとなって、優しく夜空に溶けていったのでした。



 ……。



 翌日からの旅も順調そのもので、六日目の昼頃にはペントルゼの町が見えてきました。


 これといって問題が起きることもなく、相変わらずシフォンとナティが頑張ってくれたのです。

 そのおかげもあってか、シフォンが凄まじく強くなっている気がします。

 最後の方なんかは、もちろん身体強化は付与しているのですが、かなり軽々ケルベロス級の魔物を倒してました。

 今度シフォンと喧嘩したら、僕の命はないかもしれません。

 命がけになるシフォンとの生活に、ちょっと怖気づいている兄マインドでしょうか。


「同じ港町だけれど、ビヒバハとは随分印象が違うわね」


 町の入り口にあるアーチをくぐったところで、ナティからペントルゼの第一印象が零れます。

 確かに彼女の言う通り。

 この町には、あまり活気がないようです。


 危険な魔物……というのが最近説得力を失ってますが、しかし普通の人にとっては驚異的な魔物がうろつく大陸。

 ですので当然、町を守る為の警備兵はちゃんとしています。

 けれど町の中に冒険者の数が少ないですし、人口そのものが少ないようで。

 少し離れるだけで町の端から端までを視界に収められるほど、こじんまりとした港町なのでした。


「港町と言いますけれど、どちらかというと漁港のようですね。客船はあまり多くないのかもしれません」


「そうだね。宿も少ないみたいだし、訪れる人は多くないのかも」


 この規模の町なら、よそ者の情報はすぐに入るでしょう。

 ヘーゼルカお姉ちゃんが立ち寄ったのならば、誰かに聞けば分かる筈です。


 キャンピングカーもどきでの旅だったとはいえ、疲労は確実に溜まっているでしょうから先に宿をとり、皆さんは休ませることにしました。

 その間に僕は、一人で町を散策するのです。


「すいません。ヘーゼルカお姉ちゃんを見ませんでしたか? 武王とか呼ばれている女性なんですけど」


 道具屋さんや武器屋さん。それにいくつかの食事処を回ってみます。

 ビヒバハとは違って侮辱するような言葉を吐く人はいませんでしたが、有力な情報もなし。

 ひょっとして立ち寄っていないのでしょうか?


 しかしそうなるとヘーゼルカお姉ちゃんはどこへ?

 まだゴドルド大陸のどこかにいるということですかね?


 この大陸には、あと二つほど町があります。

 ただどちらも大陸の反対側。距離が離れているのです。

 魔王の居城から抜け出したのであれば、ビヒバハかペントルゼの方が近いですし、ゴドルド大陸から出ようとしたのならばなおさら。


 必ず手掛かりはある筈だと、僕はさらに聞き込みを続けます。

 するとやはり、悪評を知っている冒険者の方もチラホラ。

 特に酒場には、そういう方が多いようでした。


「あぁ!? 仲間を捨てて逃げ出した奴の弟だと!?」


 凄んできたのは武道家でしょうか?

 筋骨隆々たる身体を曝け出し、僕を睨みつけてきたのです。


「それは何かの間違いです。本人から事情を聞くまで僕は信じません」


「はんっ! 一緒に言った奴を置いて帰るのに、どんな理由があるってんだよっ!」


 それが分からないから本人に聞くと言っているのに、何を言っているのでしょうかこの筋肉ダルマは……っと、少し言葉使いが乱れてしまいましたね。

 あやうく義母さんにお尻を叩かれるところです。

 どうにもヘーゼルカお姉ちゃんのこととなると、僕の自制心が揺らいでしまうようで。

 気をつけなければなりません。


「武王様は卑怯者じゃないもんっ!!」


 と、僕が自省していると、どこからか僕に味方が出現していたようです。


「あん!?」


 見れば小さな女の子。

 シフォンより少し上くらいでしょうか?

 お使いの途中だったのか食べ物を入れた網籠を両手で持ち、震えながらも筋肉さんに言い返していました。


「武王様は私のことを魔物から助けてくれたもんっ!」


 おや?

 これは聞き捨てならない情報じゃないでしょうか。


「なんだこのガキっ! ぶん殴ら――」


「あ、すいません。ちょっと邪魔です」


「びがががががが――っ!」


 軽めのレシビルで筋肉さんにご退場頂き、僕は女の子に視線を合わせました。


「詳しく教えて頂いていいですか?」



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