110話 僕と頼もしい仲間達
ビヒバハの町を出発してから半日。
予想はしていましたが、ゴドルド大陸やばいです。
「ぃよいしょ~っ!!」
前衛を務めるリルゼさんの飛び蹴りが魔物に炸裂。
今日だけで、彼女の撃墜マークはすでに二桁を超えています。
ゴドルド大陸もヤバイですがリルゼさんもヤバイ模様。
僅か半日で二十回近く魔物に襲撃を受けているのですが、その全てが先頭を歩くリルゼさんの餌食となっていました。
「ふぅ~。やっぱり数が多いね」
巨大な植物系魔物であるローパーキングにトドメを刺し、腕で汗を払いながらリルゼさんが爽やかな笑顔。
伊達にゴールデンゴーレム五十匹討伐とかいう快挙を成し遂げていません。
今倒したローパーキングだって、普通ならAランク冒険者が複数人で相手をするような魔物ですからね?
それをいともあっさり倒しているのですから、僕達は驚愕するしかないのです。
「リ、リルゼ? 貴女強くなったとは言ってたけど、ちょっと強くなりすぎじゃない?」
「ん~、そうかなぁ? なんか倒せば倒すほどレベルアーーーップ! みたいな感じなんだよね」
へ、へぇ……。
ちょっとそれ羨ましいんですけど?
ほら。ナティが悔しがりながらも、なんだかウズウズしてますよ?
「わ、私だって戦えるんだからっ! 次は私にやらせなさいよっ!」
「ちょ、ナティ? 僕達は後方支援タイプなのですから」
「だってこのままじゃ出番がないものっ! 私だって良いところを見せたいのっ!」
リルゼさんにお任せしっぱなしは僕も心苦しいですが、でもこれが陣形。
魔力に限りのある後方術師は、なるべく温存するものですよ?
そう思ってラシアさんにも説得を頼もうと振り返ると、彼女はシフォンを抱き締めながらご満悦中。
「シフォン様は私が御守り致します!」
鼻息荒く、メイドさんは宣言していたのでした。
そうこうしているうちに次なる魔物が襲撃してきたようで
「うわぁ~。アレは私じゃ届かないや」
リルゼさんが上空を見上げて呟いたのです。
僕も同じく見上げれば、青い空に漆黒のシルエット。
しかもかなり大きいですね。
「グリフォン? いえ違うわね。その上位種かしら」
「みたいだね。確かアークグリフォンだっけ?」
その通りですね。
巨大な翼を持ち、その大きさからは想像出来ないほど素早く空を飛びまわる空の王者アークグリフォン。
武器は巨大な鉤爪と鋭い嘴。
さらに炎も吐き出すというのですから、面倒なことこの上ない相手なのです。
だというのになんでしょうかね。この安穏とした空気は。
ナティとリルゼさんは、まるでお花見でもしているかのように、アークグリフォンを見上げていたのです。
「大きいね~」
「それに格好良いわっ! 剥製にしてお城に飾りたいくらいっ!」
「ってそんなお気楽な相手じゃないですからねっ!?」
遥か上空からでも聞こえるほど、大きな翼のはためき。
かと思えば急降下。みるみるアークグリフォンが迫ってくるのです。
空を飛びまわる相手に肉弾戦は不利と見て、リルゼさんがナティとバトンタッチ。
攻撃をナティに任せ、自分は皆を守るために動くようです。
「いよいよ私の出番ってわけねっ! いくわよっ!」
綺麗な宝石が煌く小さな杖をバッと構え、ナティが詠唱に入りました。
だるまさんが転んだで動きを止められれば楽なのですが、アークグリフォンの飛翔速度では容易く僕の視界から消えてしまいますから。
後ろを向いている暇もない程なのです。
「中級氷魔法っ!!」
キンッと空気が凍りつく音をたて、ナティの杖から冷気が渦を巻いて飛び出しました。
はっきりと目に見える氷の帯は、流れる川すら凍らせるほどの威力。
疑っていたわけではありませんけど、本当に中級攻撃魔法です。
凄く努力したのでしょうね。
ならば
「初級雷魔法っ!」
空中で方向転換しようとしたアークグリフォンの行く手にレシビルを放ち、僕はそれを阻止。
ナティの努力を無駄にしないため、彼女を援護するのです。
行く手を遮られた魔物は一瞬ビクリと硬直し、それはナティの魔法が直撃するには十分な時間でした。
「グロロロロッ!!」
たちまち翼を凍りつかせ、飛行能力を失ったアークグリフォンが落下してきます。
そこにもう一度、ナティの魔法が炸裂です。
「中級氷魔法っ!!」
パキパキっと空気を凍らせながら進む氷の帯。
これでアークグリフォンは命まで凍りつかせる――筈だったのですが
「コロロロロロッ!!」
「しまっ――」
大きく嘴を開き、魔物が炎を吐き出したのです。
それは中級氷魔法よりも高温なのか、氷の帯が水蒸気へと変質。
爆発的に発生した水蒸気で視界が塞がる中、凍りついていた翼を溶かし、アークグリフォンがバサリと大きく羽ばたきました。
「レシビルっ!」
逃がすものかと追いレシビルを仕掛けますが、魔物は翼を丸めて急反転。
槍のように身体を細くし、すかさず反撃するつもりのようです。
「リルゼさんっ!」
「まかせてっ!」
直接攻撃ならリルゼさんの出番。
彼女が受け止めたところを、僕とナティがバックアップ。
横から全力で魔法をぶつけて差し上げましょう!
ただアークグリフォンの突進がどれだけの威力なのかは未知数。
リルゼさんでも受け止めきれるか不安なので、僕は補助魔法を発動します。
「身体強化を掛けますっ!」
ポワッと浮かび上がったオレンジ色の球体。
これをリルゼさんに向けて放ちました。
――なのですが
「……ん。ぱわーあっぷ」
渾身の身体強化魔法は、突然飛び出してきたシフォンに掛かってしまったのでした。
「シフォンっ!?」
ムキムキマッチョになるのはまだ早いですっ!
もう少し可愛いままのシフォンでいて下さいっ!
パニックに陥る僕をよそに、止まらないのがアークグリフォン。
身体を槍に見立てた魔物は、一直線にリルゼさんへと迫っていたのです。
「レ、レシビルっ!」
少しでも突進の威力を落とそうと威嚇気味のレシビルですが、魔物は気に止めることもなく全速前進。
そのままの勢いでリルゼさんに突っ込んでいました。
「くぅ――っ!!」
両手を前に突き出したリルゼさんは、ガガガッと地面を削りながらですが、それでも受け止め切っています。
反撃に移る余裕こそないものの、凄まじい力です。
リルゼさんを援護するためにも、レシビルを放とうと僕は詠唱態勢。
しかしまたも、割り込んできたのは
「……とぅっ!」
シフォンでした。
彼女は横合いから気合と共にシフォンパンチ。
小さな拳は身体強化のおかげか、メリッとアークグリフォンの胴体を抉ったのです。
「ゴロロロロッ!!」
がら空きの胴体に拳が突き刺さり、魔物は地面をもんどり打ちます。
断末魔に近い声を上げながら暴れるので、リルゼさんがシフォンを抱えて一度離脱。
そこに
「え……っと……中級氷魔法」
呆気に取られていたナティが我に返り、トドメのイムーサ。
パキパキと凍りついたアークグリフォンは完全に氷像と化し、バキンと粉々に砕け散ったのでした。
「だ、大丈夫ですか? シフォンもリルゼさんも怪我は?」
「私は大丈夫かな。ちょっと手を擦り剥いちゃったけど」
「……だいじょうぶ」
「じゃないでしょっ! なにしてるんですかシフォンっ!」
戦闘中に非戦闘員が突っ込んで行くなどあってはならないことです。
しかもそれが小さな女の子。大切な妹となれば、そりゃあ僕だって怒鳴りますよ。
「……たおしたよ?」
「そうですけどそうじゃないですっ!」
どれだけ危険だったのか分かっているのでしょうか?
小一時間は説教したいところですが、シフォンはちょっと涙目。
「倒したのに」と、頬を膨らませながらイジけ始めていました。
ぐぬぅ……。
確かにほとんど彼女が討ち取ったというのも事実。
褒めていいのか怒っていいのか……。
「いいですかシフォン。たまたま今回は上手くいきましたけど、反撃されてた可能性も十分あるんですよ? あんな巨大な魔物に攻撃されたら、シフォンなんて一発です」
「……んぅ。よける」
「避けれません。だから大人しくラシアさんと一緒にいてください」
しゃがんでシフォンにお説教していると、ラシアさんが申し訳なさそうな顔をしつつもシフォンをフォローしてきました。
「わ、私がもっとしっかり捕まえておけば良かったんです。シフォン様は悪くありません」
「悪いです。こういう時にちゃんと言っておかないと駄目です」
「で、ですが、シフォン様は寂しかったんだと思います。皆様が戦う様は、どこか楽しそうに見えましたので」
楽しそう……ですか?
思わぬ感想を頂いてナティ達を見ると、二人はニッコリと勝利を称えあっていました。
楽しい。
そうか。確かに僕も楽しかったのかもしれません。
もちろん危険であることは分かってますし、必死でもあります。
けどこうやって皆で協力し、魔物と戦うというのは……以前のパーティーにはなかった感覚です。
「そうなのですかシフォン」
「……ん。ずるい」
「ずるくはないですけどね。……でも、シフォンを仲間はずれにした訳じゃないんですよ?」
「……いっしょに、たたかう」
涙目のままウルウルと見上げられたら……くぬぅ……それこそズルくないですか?
「さすがディータの妹よねっ! 良いパンチだったわよシフォンっ!」
「そうそう! すぐに私より強くなっちゃうかも」
ニコニコと。いやニヤニヤと、でしょうか?
急にシフォンの援護に回った二人は、彼女の気持ちが分かるといったところでしょうか。
シフォンもそれに気付き、二人の手を取っていました。
「……がんばるっ!」
「うん! 一緒に頑張ろう!」
「もちろん危ない時は私が守ってあげるわっ!」
どうやら分が悪いようです。
身体強化魔法の威力も上がっていたようですし、多少なら戦えるかも……。
「その代わり戦闘中はお兄ちゃんの言うことをちゃんと聞くんですよ?」
「……んっ!」
返事は良いんですよねぇ、返事は。
やれやれと諦めながらも、結局シフォンも戦線に参加。
これでもかと身体強化を重ね掛けしまくりながら、僕達はペントルゼの町へと歩いて行くのでした。




