第六十三話 サービス
「今日は邪魔な親が帰ってくる日なんだよ。」
紡は姫宮さんが綾地家から走り去った直後に吐き捨てるようにそう言った。
そこまで嫌がらなくてもいいじゃん…。
「だったら僕が約束通りビーフシチューを作ろうか?2人とも疲れてるだろうし。」
「縹を抜きにして秘密の話をしたいんだよ。」
何か事情でもあるのだろうか?そう言われれば食い下がるわけにもいかないだろう。絶対に碌な話じゃないってことだけは分かるが。
「じゃあお邪魔虫の僕は退散するしかないね。ビーフシチューはまたの機会ってことで。」
「ちょっと待ってほしいんだよ。」
リビングから出ようとした僕が振り返ると紡が腕を広げていた。
『ここに飛び込んでこい』ということだろう。
「それは恋人ごっこ?」
「だったらサービスしてくれるのかな?」
「サービスって例えばこう?」
紡に近づいて膝から足の付け根にかけて優しく撫でてみた。紡が言っていたみたいに膝からゆっくりと足の付け根に近づくような触り方をしてみる。すごく滑らかな触り心地が気持ちいい。なんだかすごく満たされる。ずっとこうしていたい気分になった。
「んなぁ?!」
紡の顔が真っ赤になって、恐ろしく大きい叫び声を上げた。まるで僕が犯罪者みたいじゃないか。
「どうだろう?」
「反応に困るんだよ…。」
「なるほど他人の目が必要だったか。」
「おちょくってるのかな?」
ふむ。あんまりにも熱心に足を撫でられる云々を語っていたから、そういう癖なのか?と思ったのだが違うらしい。
やはりシチュエーションというのが大事なのかもしれない。確かにいきなりやられたら『何だこれ?』とはなるか。どうやら創意工夫が試される行為みたいだ。
「ふむ。機会を改めてチャレンジしてみるよ。」
「やめるってことにはならないんだね。」
「だって気持ちいいし、なんか満たされる。」
紡は僕の言葉を聞くと目をパチクリさせて驚いたように見つめてきた。
「でも、まあ、私も好きなんだよ。」
「抱きついていい?」
「それは恋人ごっこなのかな?」
「うん。」
なんとなくいっぱい抱きしめたい気分になった。
紡を抱きしめる。
頭の中がすごくふわふわする。
身体も温かくて気持ちいい。
このまま眠ってしまいたい気分になる…。
「私は縹にえっちぃことをされても許しちゃう寛容な女なんだよ。」
「そんな大したことじゃないじゃん。」
「縹の感覚はおかしいんだよ…。」
三分くらい抱き合って離れる。
名残惜しいが、それくらいにしないと離れられなくなる。
「じゃあ、バイバイ。」
「おつかれー。」
玄関先で僕らは手を振り合って別れた。




