第六十一話 メロい
「夏目氏はモテモテだな。」
昼休み終了10分前にて。
『綾地紡を応援する会』から解放された直後に委員長に話しかけられた。
当たり前だが僕は女子集団に構ってもらってるだけで一人一人の人間と関わりがないからモテてはいない。
だが伝え方一つで人間から反感を買ってしまう話題でもある。僕は熟考して言葉を選んだ。
『そんなことないよ。大変だよ。』と言った場合を考えると、男子達に『やれやれ顔をしながらも女子達に囲まれている人格底辺野郎』という烙印を押されることになるだろう。『嫌なら離れればいい』のだからこの応答は論理的でもない。だからと言って『いやー、分かります?』とか調子こいたことを言えばシンプルに嫌われるだろう。人間が謙虚に振る舞うということはヘイト管理において重要であるのかもしれない。
「嬉し苦しといったところかな?そもそも紡が女子の間で人気者だから構ってもらってるだけだしね。」
「夏目氏は言葉選びが上手いのだな。別に俺は気にしないぞ?」
委員長の一人称って俺なんだ…。
落ち着いた口調と、恰幅が良くて丸い雰囲気から繰り出されるその一人称は結構良いかもしれない。これをメロいと言うのだろうか?迂闊にもカッコいいと思ってしまった。さすがの僕もそこは守備範囲ではないのだが。
「繕わずに言えば、疲れるよ。」
「うわ、ちょっと腹が立つ感じがするな。」
「……。」
委員長が手の平を返しやがった。
なんでそんな事言うの?
「そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでくれ。言ってみただけだ。」
「委員長って色恋に興味あるの?」
「ないな。」
「じゃあなんで話しかけてきたのさ。」
「色恋に興味はなくても、からかう材料にはなるだろう?話の種さ。」
「僕もあれだけど、委員長も委員長だね…。」
中々いい性格をしている。
ここもメロつくポイントになるのだろうか?
「それで?委員長は何が聞きたいんだ?別に理由もなく話しかけたわけでもないんだろう?」
「夏目氏は綾地氏のことが好きなのか?」
「付き合ってるかどうこう詰め寄られてたのを見た上での質問?」
「いや、最初の質問で夏目氏が言いづらそうな雰囲気を出していたのが気になってな。」
「そうか。」
委員長は人間をよく見ているし洞察力も高いな。
下手に誤魔化すのは良くないだろう。
「ちょっとそこら辺はあんまり言いたくないかも…。好きかどうかを改めて聞かれると困るところがある。」
ちゃんと線引きをした上で正直な気持ちを真摯に言うことにした。委員長は人格者だし、別にこれくらいは良いだろうという信頼もあった。
「俺が聞きたいのはそこではないのだ。いや俺の聞き方が悪かったのが悪いのだが。」
「というと?」
「綾地氏はどこまで計算づくなのだろうな?」
「なるほど。」
「綾地氏とは関わりがないのだが、かなり計算高い人間に見える。なんだか君が綾地氏に絡め取られてないか心配になったんだ。」
紡のこれまでの行動や、僕が女子に囲まれて問い詰められるくだりなんかを観察したらそう見えるのかもしれない。
「委員長と僕ってそんな仲だっけ?」
「親友だと思っているのは俺だけなのか?」
「……。」
うーん…。
委員長を見かけたら非常階段で本を読んで適当に話したりしてるけどそんなに話してない気がするんだけどな。
でも親友だと言われたことはすごく嬉しかった。
「じゃあ今日から委員長とは親友だ。頼りになるから僕の相談に乗ってくれたりすると嬉しい。」
「委員長じゃなくて普通に名前で呼んでくれないか?俺はいつまでも委員長ではないんだぞ?」
「名前なんだっけ?」
「覚えてないのか?」
「名前を覚えるのは苦手なんだ。」
「俺の名前は藤原海舟だ。海舟と呼んでくれ。」
「いえっさー。」
「それで縹氏には上手く話を逸らされたが、大丈夫なのか?」
「まあ、相談したくなったら言うよ。」
「了解した。」
頼りになる男友達ができて、なんだか感慨深い気持ちになった。




