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第一話 私としたことが⋯
見つけてくださってありがとうございます!
「ゴン!ゴン!ゴン!」
母親との悶着があってから、突然クローゼットの内側から音がした。
「出られなくなった…」
その声で僕−−夏目縹のテリトリーに侵入した不届き者の正体が分かり緊張が弛緩する。
クローゼットを開けるとやや間抜けな姿の見知った顔があった。
「このクローゼットは内側から開けられない。私としたことが…」
少女−−綾地紡はクローゼットの内側から出ると腰に手を当てた茶目っ気のあるポーズを決めて僕に言った。
この状況だけを見ると「アホの子か?」となるが僕は今まで理知的で可愛いという異性を彼女以外に見たことがない。
亜麻色の髪をたなびかせ前髪を下ろしているのが普段の姿である。
そして、たまたま前髪を分けた姿を見たことがあるのだが彼女の額は広く、前髪を下ろしたときとはまた違う魅力があった。
彼女がつけるにはやや無骨な丸メガネを愛用していて、「グノーシス」と名付けるほど気に入っている。
少し幼さを残した整った顔もあいまってなんでも様になるからか、なかなか似合う。
そして、その理知的というのは見た目だけではなく主に近代哲学とハンス・ヨナスをこよなく愛する哲学徒である。
そんなことをとりとめもなく考えつつ、呆れながらこう言ってやった。
「何やってんだ、おいこら。」




