054 僕、執務室から戦況を見守る
現在、我らが魔王軍とヒト族のアウム神教国とエルフ族のエルガート聖樹国の連合軍は不戦の草原で対峙している。
外務卿であるエリオさんは上手く敵方を不戦の草原に誘導出来たみたいだ。
こっちは大魔将軍、副魔将軍の元魔王を筆頭に王下16剣が揃い、騎士団、魔法団、亜人団の精鋭が陣を敷いている。
敵方は勇者3人とエルフの腹黒女とヒト族の騎士、魔術師、エルフの魔術師が陣を敷き、後ろには伝説の勇者であるリューンと四神獣の海龍ことリヴァイアサンのシー姉が控えている。
僕は前線には立たず、王都の執務室から空間魔法の応用で状況を見ている。
ただ、3執事はみんな執務室にいないから1人寂しく自分で淹れた紅茶を飲んでいる。
何でコウが淹れたお茶とこんなにも味が違うんだろう。僕が淹れると渋いんだよね。
ちなみに何で3人がいないのか。前線にいるからでも会議なんかに出ているからでも、戦時のために溜まっている他の業務をこなしている訳でも無い。
そう、コウは魔王将棋の最大のタイトルの獲得に向けて最後の追い込みとばかりに特訓しているからだ。
シュンとサンは競魔で先日負けたらしく、奮起して練習に明け暮れている。
「はぁ」
僕は思わず溜息をついた。3人とも自由過ぎでしょ。僕の直属の配下だからどの役職にもついて無いんだけどさ。
僕でさえ執務室にいると言うのにね。
ちなみに魔族でナンバー2の大魔総統の地位にいるアイルちゃんは、軍からの要請で渋々陣の後方で待機している。
魔王将棋で魔王戦というコウが燃えているタイトルの現保持者だから、本当は魔王将棋の練習をしたいんだろうけどね。流石に出ない訳にはいかないと思ったのかな。
でも、あんまり働かせ過ぎると大魔総統を辞めて魔王将棋に専念するとか言いそうで怖い。
さて、大魔将軍である元魔王のセリュジュさんが1騎で前に出た。
向こうからは勇者の1人が出てきた。
お互いに口上を述べている。
そして、2人がそれぞれの陣に戻っていく。
いよいよ開戦の狼煙が上がろうとしている。
そこで、セリュジュさんが右手を挙げた。
これは合図だ。
そして、不戦の草原の敵陣側半分に設置されている魔素安定石が起動した。
急激に敵陣の魔素が減っていくのがわかる。
敵は急激に減っていく魔素に狼狽えている。
このまま無力化できればいいんだけど。
こないだの会議で僕は魔素安定石を使い、敵陣の魔素を奪うことで無力化する案を提案し、採用された。
ただし、1つだけ懸念があった。
それは、勇者リューンの固有スキルだ。
固有スキルとは、勇者にのみ付与される特殊なスキルで、これは魔法では無い。僕は固有スキルを持ってないから正直よくわかっていない。
もし固有スキルが魔法と違い、魔素を必要としないものだった場合、この策は瓦解することになる。
他の3人の勇者にも固有スキルがあるんだろうけど、勇者リューンの固有スキル<何物も防げぬ斬撃>は格が違う。
なんせ邪竜すら切り裂く最強のスキルだから。
魔素安定石の中は結界の様なもので覆われることになるけど、<何物も防げぬ斬撃>はこんなもの紙をハサミで切るくらいの手軽さで切り裂いてくるだろう。
戦地ではいよいよ敵陣の魔素がゼロに近づいている。
敵の兵は動きにも支障が出ている様だ。
ここで勇者リューンが動き出した。
『お前らだらしねえな』
そう言いながら敵陣の1番前に出てきた。
ここで魔王軍の魔術団が動き出した。
一斉に闇魔法を唱えだす。
敵兵の拘束を行うためだ。
本来闇魔法を使える人はあまりいなかったけど、位階の低い魔法なら覚えられた。
でも、それでは一定以上の実力者には効かない。
でも、今は相手は魔法を使えないこちらが一方的に仕掛けられる上、相手は防ぐ術が無い。
それでも相手の勇者や団長クラスには効かないだろうけどね。
敵兵のほとんどがあっという間に拘束された。
しかし、勇者リューンがここで聖剣を抜いた。
そして、
『<何物も防げぬ斬撃>!!!』
魔素安定石で作った結界はパリンと音をたて呆気なく散った。
さらにその斬撃はそのままこちらの陣に迫り、1/4程度を吹き飛ばした。
「……、やってくれるよね。1人で戦況をひっくり返すとか反則だよ」
相手は勇者リューンと海龍シー姉、勇者3人、エルフの腹黒女に団長クラスが10人はまだ無事に残っている。
こちらもアイルちゃん、大魔将軍、副魔将軍、騎士団長、魔術団長、王下16剣が健在。
ただ、勇者リューンとシー姉が相手にいる分、分が悪いかな。
でも、僕は渋い紅茶を飲みながら笑い呟いた。
「想定通りだね」
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