045 僕、パソコンを作る
僕が魔王になって早いもので1年が過ぎた。
未だにヒト族のアウム神教国に動きは無い。平和な時間が流れていた。
僕は約1年前に携帯電話を作ったけど、日本円で1台あたり約2百万という高額になってしまったため、市民に普及させることが出来なかった。
しかし、僕はドワーフの親方と改良を続け、半年前には1台20万円程にまで価格を抑えることが出来る様になっていた。
そこで、買ってさえもらえば通信料で儲けが出続けるのだから、初めて携帯を買う者には半額を国が補助する制度を作った。それでもまだ市民からしたら高い者に違いは無いのだけれど、徐々に広まっていった。
「地球とは順序が逆だけど、そろそろパソコンを作りたいなぁ」
そこで、ヒト族のインガイア王国所属の勇者、ルーカスさんを呼んだ。ルーカスさんとは一緒にコーラ作りをした盟友である。孫程も歳が離れているが、気の置けない友人だ。
ルーカスさんは元々アメリカ軍人だった事もあり、僕よりは機械に詳しいと踏んだのだ。
今や転移ポートのお陰で国を超えるのも一瞬だ。ルーカスさんはすぐに来てくれた。
「おう、ダイキ。今度はなんじゃ?」
「ようこそルーカスさん。わざわざ来てもらっちゃって悪いね」
「何を今更言うとるんじゃ。お主のお陰でワシも楽しんどる」
「そっか」
「ダイキお兄ちゃん!」
この時、ルーカスさんと一緒に召喚されたと言うもう1人の勇者、エマちゃんが飛びついて来た。まだ7歳のエマちゃんが何かするってことは無いけど、ルーカスさんにくっ付いてたまに遊びに来ていた。
エマちゃんはルーカスさんとは全く似ていないけど、ルーカスさんの実のお孫さんらしい。ほんと似なくてよかった。
それで、このエマちゃんは史上初の空間の勇者だと言う。今も、ルーカスさんの後ろから転移で僕に抱きついてきたわけだ。ちなみにルーカスさんが何の勇者かは知らない。
「今日はエマちゃんも一緒なんだね」
「うん!」
あ〜、癒されるなぁ。妹ってこんな感じなのかなぁ。
「サンもいる?」
「いるよ。サン」
「は。これはエマ。よく来たね」
「あ〜、サンだ〜」
今度はサンに転移で飛びついた。サンはこの国、いや世界でも屈指の空間魔法の使い手でもあるからか、エマちゃんはサンによく懐いていた。
気付くとよくスライムの姿でエマちゃんに遊ばれているから、スライムのぷよぷよした感触が楽しいだけかもしれないけど。
「サン、エマちゃんをよろしくね」
「は。ではエマ、あっちで遊びましょうか」
「うん!」
サンとエマちゃんは隣の部屋に移っていった。
「で、今回はなんじゃ? 戦闘機は流石にまだ出来とらんじゃろ?」
「それはまだ当分かかりそう」
そうなのだ。僕とルーカスさんとドワーフの親方は密かに魔導戦闘機を作ろうとしていた。この世界には車と列車はあるけど、飛行機はなかった。
つまり、戦闘機が量産できれば、飛行魔法が一般的では無いこの世界の空の覇権を握れるわけだ。大規模な魔法や都市には結界もあるし、地球と違って圧倒的なアドバンテージにはならないかもしれないけど、やっぱ戦闘機ってロマンだよね。
ちなみにアイルちゃんや3執事すら知らない。ほんとに僕とルーカスさん、親方の工房の人達だけと言うまさに最高機密なのだ。……最高機密。なんて心踊る響きだろうか。
「あ、そうそう。ルーカスさん、今回はパソコンを作りたいなって」
「パソコンじゃと!? これはまた。本当に出来るんか?」
「いや〜、流石に僕もパソコンの仕組みとか全然知らないからさ。ルーカスさんならまだ僕よりは知ってるんじゃ無いかと思って」
「うむ、ワシはユニバーシティでは工学部じゃったが、実際そんなわからんぞ」
「とにかくハードを作って、なんとかインターネットまで出来れば、ソフトは後発で色々出来てくるんじゃ無いかと思うんだ」
「なんと!? インターネットもか!?」
「そっちはまだ先だろうけどね。とにかくうちの技術省で相談してみよう」
「お、今日はドワーフの親方では無いのか? 色々と頼み過ぎてるしさ。それにうちの技術省もだいぶレベルが上がってるんだよ」
「そうなのか?」
「そう。うちが亜人種をいっぱい取り込んでるのは知ってるでしょ?」
「うむ、それは聞いておるが」
「中には戦闘力はなくても凄い頭の良い種族とかもいてさ、例えばダークエルフとかハーフリングかな。そう言う種族の人達をどんどん文官や研究者に登用してるんだよね」
「なるほどの。ってダークエルフ!? 聞いたことも無いぞ」
「なんでも随分と昔にエルフから迫害を受けて魔族領に逃げて来たみたい。魔族の文献にも残ってなかったから、ほんとラッキーだったよ。ダークエルフもハーフリングも魔族が亜人族と融和して積極的に手を取り合ってるって言うのを風の噂で聞いたらしくてさ。自分達から来てくれたんだよね。」
「……お主は本当に何でもありじゃな」
「ははは、そんなこと無いけどね。いつも新聞には馬鹿にされてるし」
「魔王を馬鹿にするとか、何ちゅう命知らずな新聞なんじゃ」
「そうだよね。まぁ市民もそれを楽しんじゃってるからね。僕は自由にさせてるよ。たまに突発的に新聞社を爆破したくなっちゃうけどね」
「お主が言うと笑えんぞ」
「ははは、じゃあ技術省に移動しよう」
僕とルーカスさんは技術省に移動した。
「どうも室長」
「お、これはこれは魔王様」
「紹介するね。こっちはインガイア王国の勇者でルーカスさん。で、こっちは特殊技術研究室の室長でハーフリングのハンさん」
「ルーカスじゃ。よろしく頼む」
「勇者様でありますか。ハンであります」
「ここは僕が作った部署で、僕の思い付きを研究してもらってるんだ」
「そうか、ハン殿。お主大変であろう」
「はい。大変ですが、やり甲斐はあるであります。何よりハーフリングの私のような者を重用してくださったのです。魔王様の為に頑張っているであります」
「そ、そうか。不満が無いならいいんじゃ」
「いや〜、室長って凄いんですよ。携帯のコストダウンも室長のアドバイスで出来たようなもんだし」
「いえいえ、あれは魔王様と親方様でほぼ完成されていたでありますから」
「ははは、こう言ってるけどほんと凄いんだから」
「これは期待出来そうじゃの」
僕とルーカスさんは室長にパソコンについて知っている限りの情報を話した。
「なるほど、なるほど。考え方としては自動計算機を凄くしたものでありますか。それに様々な機能を持たせると。そしてソフトは別にインストール出来る。それでいて目標は一般の市民の方にも使いやすく。ふむふむ。」
室長は顎に手を当てたまま同じ場所を行ったり来たりし出した。
「ルーカスさん。室長がああなった時って、頭が高速回転してる時なんですよ」
「ほう」
「もうじき何か出してくれますよ」
「うん! うん、うん!」
「ルーカスさん、来ますよ」
「お、おう」
「わっかりました〜! 魔王様、とにかくやってみるであります!」
「お〜、ありがとう室長!!!」
その場で特別何かってわけじゃなかったけど、室長がああなったなら確実に結果を出してくれるだろう。
僕とルーカスさんは安心して僕の執務室に戻った。
半年後
「そういえば、室長に頼んでたパソコンどうなったかなぁ? 連絡無いし忘れてた。見に行ってみよ」
「室長〜、って何これ!?」
そこには生前テレビで見たスーパーコンピューターみたいな巨大な連結された装置が鎮座していた。
「あ、魔王様。お久しぶりであります! パソコンですが、なかなか難航しているであります。申し訳ないであります」
「あ、そうなの? ところでこの装置は何?」
「パソコンはパソコンなのでありますが、まだ第九位階魔法を分析して無力化する程度の演算機能しか無いのでありますよ」
「は?」
「やはり、魔王様にお出しするものとなると、第十位階魔法を完全に無力化するくらいの演算機能がなくては。それが出来てから小型化していくつもりでありますので、もうしばらくお待ちいただければ」
「いやいやいや、十分すぎるよ!!!」
「えっ、そうなのでありますか? お話に出ていたインターネットも元は軍事技術であったとのことでありますし、第十位階魔法の無力化は最低ラインかと」
「いやいやいや、僕は一般に普及させたいからさ。むしろ一般にそんな凄いのが広まったら問題だよ! 国用にはそれくらいのがあってもいいけどさ」
「そうなのでありますか!? では、一般様には第何位階まで無力化出来れば大丈夫でありますか?」
「いやいや、怖いよ。基本的に一般の市民には平和に暮らして欲しいからね。今はとりあえず最低限の機能がストレスなく動けば問題ないよ。後はインターネットが使える様になったらそれが動かせればオッケーだよ」
「なんだ。そうでありましたか。それならば最初の1月で出来ていたでありますな」
「……」
「ちなみにインターネットも出来てるってこと?」
「そうであります。この世界は魔素で溢れているでありますから、パソコンに組み込んだ魔法陣を使い、その魔素を介して情報を伝達させる技術はすぐに出来たであります」
「……」
いや、室長。まずそこで連絡してよ。
どうして天才って馬鹿なの?
いや、僕のミスかも。この世界の人達って僕に頼まれると、言っておかなきゃやり過ぎるんだった。
「ちなみにそれくらいのスペックだったら量産までにどれくらいかかりそう?」
「そうでありますな、民間に技術提供をしたとして、それから材料、労働力、生産ラインを確保。ふむふむ。」
室長は顎に手を当てたまま少し歩いて戻った。
「3週間で出来そうであります」
「……」
つまり、本来は2か月で出来てたってことね。
僕は、今度からちゃんと最初の目標を伝えるのを忘れない様にしようと心に決めた。
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