038 僕、学校作りを配下にぶん投げて、ゆっくりとコーヒーを飲む
「アイルちゃん、この国の教育ってどうなってるの?」
「教育、ですか。魔術学校と騎士学校があり、倍率の高い試験を通った者が通っております」
「じゃあ、一般の市民はどうしてるの?」
「? 特には何も」
「え〜、じゃあ識字率とかは?」
「商人の家の者や、都市部に住む者は私塾に通わせて学ばせているようです。しかし、農村部ではあまり高くないかと」
「よし、学校を作ろう!」
「え?」
「とりあえず、5歳から15歳までは義務教育にしよ。そこから優秀な者は高等教育として、さらに魔術学校と騎士学校に進む。あと、高等教育に文官の学校も作って」
「え? あの、え?」
「頼んだよ。僕はこれからマスターのとこにコーヒー飲みに行かなきゃいけないからさ」
「お待ちください! 学校、ですか? せめて会議にはご同席を」
「ダメだよ。ルビーマウンテンが入ったんだよ? あの超希少な豆が。今日の夕方に合わせて焙煎もしてくれてるからさ。だから今日はコウの紅茶も我慢してるんだから」
「ちょっ!? でもコーヒーですよね? 学校って、国が変わるレベルの話ですよ!?」
「じゃあよろしくね」
「魔王様〜!!!」
「よし、着いた」
僕はドラゴニュートがマスターをする喫茶店の前に転移した。
アイルちゃんは優秀だし、ぶん投げておけばやってくれるでしょ。
「うわ〜、めっちゃいい匂い! 超楽しみ!」
今日は「Close」の看板が掛かっている。マスターが配慮してくれたみたい。
カラン、カラン
「来たよ、マスター」
「魔王様、お待ちしておりました」
「もう焙煎の匂いが表まで漂ってて、それだけで楽しみすぎるね」
「苦労しました。獣人族の農園に直接交渉に行きまして、何とか少量ですが融通してもらいました」
「お〜、そこまでしてくれてたんだね! ありがとう! マスター!」
「いえいえ。私こそ、このような職場を与えていただいた魔王様には感謝の気持ちしかありません。」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。じゃあ早速お願いしちゃおうかな」
「かしこまりました」
ガリガリガリガリ
マスターが豆をミルで挽き始めた。もうこの音が心地いいよね。
続いてマスターがハンドドリップを始めると、芳醇な香りが漂ってきた。う〜んいい匂い。
「どうぞ。ルビーマウンテンです」
「ありがとう。じゃあ早速いただきます」
僕は少しの緊張と高揚感と共にルビーマウンテンを口に運んだ。
「うお〜。美味しいね! すっきりとした苦味と柔らかな酸味、その後に広がる濃厚な甘み。これがルビーマウンテンなんだね」
「喜んでいただけたようで何よりです。それと魔王様、もう1つ面白いものがあります」
「え? 何? 何?」
「これです」
「ん?」
マスターが取り出した豆を覗き込む。でも、僕には普通の豆と違いがわからなかった。
「ワイバーンの糞から採取された豆なのです」
「ワイバーンの糞!?」
そういえば、地球でもジャコウネコだっけ? の糞から採取する豆があるって聞いた事あるなぁ。しかもめっちゃ高いんだったような。
「これって、めっちゃ高い?」
「はい。ルビーマウンテンが1杯2,000Dですが、これは1杯10,000Dですね」
「高っ!?」
僕には全然出せるけど、日本円で1杯1万円。すごいね。
「お試しになりますか?」
「もちろん!」
「かしこまりました」
マスターがこの豆で淹れ出すと、さっきとはまた違った香りが漂ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
ワイバーンの糞から取れるコーヒー。果たしてどんな味なのか。僕は恐る恐る口に運んだ。
「お〜、これも美味しいね! バニラのような香りがあって、飲み心地はスッキリしてるんだけど、野性味っていうのかな、そういうのがほんのりとあるね」
「お喜びいただけましたでしょうか?」
「うん! 大満足だよ!」
僕は、 2つの希少コーヒーを飲み比べながら、ゆっくりとした時間を満喫した。
「また来るね」
「ありがとうございます。お待ちしております」
僕は執務室に戻った。
僕は戻ると同時に周囲を見渡す。
「よし、アイルちゃんはいないな」
「お帰りなさいませ」
「コウ、今日はアイルちゃんいないよね?」
「はい、アイルはおそらくしばらくは来れないかと」
「え? 何で?」
「主様がお命じになった学校の件で、先程から文官連中とずっと会議しております。先程武官も数名会議室に入ったようでしたので長引くかと」
「アイルちゃんには悪いけど、今日はゆっくりできそうだね」
それから1週間。アイルちゃんは来なかった。
「珍しいよね。いつもは1日1回は絶対来てたのに」
「主様、アイルは1週間前より会議室を出ていないようです」
「え?」
「相当大変なのでしょう」
「うわ〜、悪い事しちゃったかな?」
「アイルにとってはそうでしょうね。しかし、国にとっては大変大きなご命令であったかと」
コンコン
「うわっ!? アイルちゃんかな? まったく気配を感じなかったんだけど。サンは気付いた? 」
「いえ、僕もまったくわかりませんでした」
ギ〜とゆっくり扉が開き、髪はボサボサ、目の下には大きなクマ、覚束ない足取りのアイルちゃんが入って来た。
夜暗いとこで見たら、びっくりして転移で逃げちゃいそうだ。
「ま・お・う・さ・ま〜」
「は、はいぃ!」
「出来ました〜。確認してください〜」
アイルちゃんは広辞苑かよ! という程の分厚い書類を僕の机に置くとそのまま倒れて眠ってしまった。
「……、アイルちゃん、頑張りすぎだよ〜」
コウがアイルちゃんをソファに運んだ。
「では、主様は配下の働きに応える為にも、すぐにその書類を読み込むべきですね」
「えっ? 嘘でしょ!?」
「想像してください。アイルが目を覚ました時にお読みでないことがバレたら」
「え?」
僕は想像するまでもなく、何日も徹夜で監禁され働かされるシーンを思い描いた。
血の気が引くってこういう感じなんだね。
「アイルちゃ〜ん。限度があるよ。何も1週間で全部まとめろなんて言ってないじゃ〜ん」
僕は3執事に手伝ってもらいながら、徹夜で書類を読み込むハメになったのでした。
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