王都に戻ったら
慌ただしい視察から戻ったら、屋敷に大きな冷凍庫が届いていた。
ワイヤットが半地下のパントリーの横に置いてくれていたけど、開けるのが怖くなる。
「冷凍庫がもっと欲しいとは考えていたけど……中身が詰まっているのね」
銀のトレイの手紙の山の一番上に置いてあるのはゲイツ様からのだ。
ペーパーナイフで開けてみると、やはり中身はドラゴンの肉だ!
「まだ帰国されていないのに、肉だけ先に送られたの?」と首を傾げたくなるが、先を読んで納得した。
「ドラゴンの肉をソニア王国で披露するの? それは、マーガレット王女の歓迎会を盛り上げそうだけど……美味しい料理じゃないと駄目だわ!」
その上、各種ドラゴンの肉の違いが分かるメニューにして欲しい! これは、ゲイツ様の慰労会だけで良いみたいだけど……困ったわ!
グレンジャーの料理人を二人連れて帰って来たけど、ドラゴンの新作メニューは王宮の料理人に覚えて貰わないといけない。
着替える暇もなく、ミッチャム夫人に相談する。
「それは、当然ですが王宮の料理人にも覚えて貰わないといけないでしょう。ソニア王国で、実際に料理をするのは、その方々なのですから」
「グレンジャーから二人連れて来ているのに、エバは大丈夫かしら?」
「手伝いが増えて喜んでいますよ! チョコレートも追い込み中ですから」
これもマーガレット王女のソニア王国訪問の手土産と歓迎パーティでの出すチョコレートが本当に大量なのだ。
王妃様から、材料だけでなく、加工代金を凄く沢山頂いている。これは、落ち着いたら、エバや忙しい思いをした料理人助手にボーナスを出さなきゃ!
冬の収穫祭には、お仕着せと共に私服を渡したけど、台所とお針子関係は、ソニア行きで負担を掛けまくっている。
それと、カルディ氏が陛下にあまりに非道な行いだと、孤児や年寄りをラグーン地方に追い出した事を報告すると言われていた件で、領地になるなら、こちらとしても費用を算出して要求したい。これは、モンテス氏に任せる!
「エバに、各ドラゴンの肉を少しずつ、焼いて持ってくるように伝えて」とミッチャム夫人に告げてから、銀のトレイの上の手紙を読む。
「これは、嬉しいわ! 管理人助手は、すぐに面接して、モンテス氏の下で働いて欲しい!」
モンテラシード伯爵から、領地管理人助手が王都に着いたと手紙が届いていた。同封されていたアマリア伯母様からも、嬉しい手紙が!
「家政婦にはまだ修業が足りないけど、家政婦見習いに相応しい若い子がいる!」
思わず手紙を抱きしめてしまった! 貧しいグレンジャー家から金を借りるなんて酷い! とアマリア伯母様には腹を立てていたけど、やはり親戚は大切だよ! それに、年金があるから大丈夫だと誤解していたのも分かったし。
嬉しい知らせに、次の封筒を開ける。
「わぁ、サティスフォード子爵は、独立したがっている騎士の次男を一人紹介して下さるの?」
もう、嬉しくて飛び上がりそう! 身元がしっかりしている騎士は、本当に嬉しい!
次に開けた手紙は、シャーロッテ伯母様からだ。親戚からは、陞爵のお祝いと共に、人材不足を心配して、斡旋してくれているみたい。
「こちらも騎士を推薦して下さるのね! それと……この方は、教師志願なの? 今は、家庭教師をしておられるみたいだけど、お子様が成長されたのでお暇を出されたのか……」
この方とも面接が必要だけど、こちらはソニア王国から帰国してからでも良さそう。それまでは、シャーロッテ伯母様が手元に置いて秘書として使うそうだ。
「管理人助手が一人、騎士が二人、家政婦見習いが一人、教師が一人!」
それぞれに返事を書いてから、やっとお風呂に入って温まる。
エバがそれぞれのドラゴンの肉を焼いたのをメアリーに部屋まで運ばせたので、部屋着のまま寛いで味見をする。
「本当にゲイツ様はドラゴンを討伐されたのでしょうか?」
珍しくメアリーが質問する。ドラゴンが飛来するのではと、怯えていたからね。
「嘘はつかれないでしょう。それに、子どもの頃にドラゴンを討伐した事があると言われていたから……それにしても、ドラゴンって種類によって肉の色も違うのね」
肉にはタグが付いていたそうだ。エバは皿の前にメモをつけてくれている。
「レッドドラゴンは、やはり赤身なのね。味は、凄く濃厚だわ!」
美味しいけど、私は一口で十分な気分。赤身だけど、味は前世の刺しがいっぱい入った高級牛肉みたいな感じ。
「アースドラゴンは、少しピンクがかっているのね。味は、濃厚だけど……どちらかと言うとレッドドラゴンは牛、アースドラゴンは豚かしら?」
脂身が甘いのは、美味しいと感じるのだけど、やはり私には濃厚すぎる。
「シルフィドラゴンは、一番白っぽい肉だわ。ああ、これが一番私の口に合うわ! 火食い鳥の上位肉みたいな味だもの」
私的には、レッドドラゴンは一口で十分なほど濃厚すぎる。アースドラゴンは、少しなら美味しいかも。シルフィドラゴンが、一番あっさりしている。と言っても、凄く濃厚なんだけどね。
「困ったわ! 私には、どのドラゴン肉も濃くて……でも、そのくらいゲイツ様も承知されているわよね!」
現地では、ドラゴンステーキをむしゃむしゃ食べているのだろう。
「ふふふ……天狼星もたっぷりと食べているでしょうね! 良い子にしているかしら?」
それにしても、早く帰国されないと、王立学園も冬休みになる。
マーガレット王女とパリス王子の婚約披露パーティは、彼方の新年に王宮で行われるのが決まっているのだ。
なるべく余裕を持ってソフィアに着いていたいと、外務省は旅程を立てている筈。
だって、旅で疲れた状態で婚約披露パーティだなんて駄目だもの! その前に、国王陛下との謁見もあるし!
「慰労会どころじゃないのでは?」とも思うけど、ゲイツ様は絶対に諦めないだろう。
「私の好みで料理をして貰いましょう!」
それが気に入らなかったら、別の料理を王宮料理人が考えてしたら良いだけだ。
先ずは、一番口にあったシルフィドラゴンを塩麹につけて、丸焼きは無理だけどローストして貰う。
「あっ、塩麹につけたあと、丸めて低温調理したシルフィドラゴンハムも美味しそう! 前菜に使えるわね」
それと、前世の鶏鍋にしても美味しそうな予感! 参鶏湯風のレシピも書いておく。米を一緒に煮てとろみをつけたら、寒さも飛んでいきそう。
豚に似た風味があるアースドラゴンは、薄切りにして、中に野菜を千切りにしたのを巻いて、ロースト! 切ると、断面が綺麗だと思う。
ソースは、あっさりポン酢、柚子の季節だから、それをきかしても良い。
「意外と、薄切りにしてミラノ風トンカツも良さそう! デミグラスソース、千切りキャベツと食べたら美味しいかも?」
一番難しいのが、濃厚なレッドドラゴン! ソニア王国を考えないのなら、超薄切りにして、しゃぶしゃぶだけど……大使館の料理には相応しくないかも。
見栄えが良いのはゲームパイだ! ドラゴンの型で、中に野菜やトリュフの層を作れば、濃厚な味も和らぎそう。
ソースは、意外とバター醤油が合いそうな予感! それか、オレンジ風味のソース? これは、エバに試作して貰おう!
ただ、焼肉風にしても、ヘンリーやナシウスは喜んで食べそうな予感! こちらでは、一人焼肉になりそうだけどね!
「タン塩じゃないけど、レモンだれとネギ塩を上に乗せて食べるのも美味しいかもね」
これは、薄切りが良い! 家やゲイツ様の慰労会向けと大使館で出すメニューっぽいの、二通りのレシピをザッと書いてエバに渡して貰う。
王都に戻っても、忙しいよ!




