慌ただしい視察
「結局、ラグーン地方になりましたね」
パーシバルは、そうなるだろうと思っていたみたい。
「ええ、放置しておけませんもの」
お父様は、少し心配そうな顔をしているけど、反対はしない。常に、放任主義だ。
ソニア王国に行くので、長くはここに居られない。でも、カルディ氏がすぐに領地の登録をしてくれるから、モンテス氏とモラン領の管理人のクーパー氏に頼んでおく。
「パーシー様、本当に助かります」
モラン領から下女と下男を二人ずつラグーン地方に派遣してもらえるのは、本当に助かる。
「彼方で下女や下男を雇って、その人達を教育しなくてはいけませんね」
ふう、溜息がでる。人材問題は、常に頭が痛い。
やっと、ハープシャー館は、やっていけるようになったばかりだし、グレンジャーホテルの従業員を回す訳にはいかない。
王都のグレンジャー家の使用人は、私が結婚する時に半分は連れて行くのだ。モラン伯爵家で、執事と従者を教育してくれているのがありがたい。
「親戚に声を掛けてみます」
これまでも使用人を融通付けてくれた。
「モンテラシード伯爵が領地の管理人助手を紹介して下さるのは、嬉しいですね! 信頼できる使用人でないといけませんから」
温泉、いずれは前世のバーデン・バーデンのようにしたい! こちらなら、ラグーン・バーデンだね。
でも、その前に溢れている孤児と、池の周りのバラック街の人達をなんとかしないといけないのだ。
緊急処置として、孤児はハープシャーとグレンジャーの孤児院に十人程度ずつ引き取りたい。
バラック街の人達は、炊き出しで命を繋いで貰いながら、動ける人は軽作業をしてもらう。
池に生活ゴミを捨てるのは禁止だ! それに、沼! 悪臭の元だけど、そちらは明日、視察する予定。
「沼は嫌な予感がしますわ」
パーシバルも頷いている。
「川の流れが悪く、沼になったのかもしれませんね」
本当は、すぐにでも解決したい。川の浚渫工事は、領主になったら速攻でライトマン教授に依頼するけど、沼はどうなんだろう。
良い面は、ラグーン地方は温かいことだね! 温泉の地熱なのかもしれない。
ここに温室を建てたら、南国の植物も栽培可能かもしれない。
これは、ロマノ大学で植物学のリンネル教授に要相談だ!
今夜は、早く休んで明日は問題の沼を視察する。
「うっ、臭い!」と思わず口にしてしまった。
パーシバルも眉を顰めている。今日は、お父様とヘンリーはモラン館にいて貰っている。
私とパーシバルとカミュ先生とローラン卿とベリンダで馬で急いで沼に来たのだ。
馬の王と金の鬣も嫌そうに嘶いている。
「このままにしておけないわ!」
馬の王から降りて、沼を浄化する。
「綺麗になれ!」
ううう……パーシバルに支えて貰わなかったら倒れたかも。
「ペイシェンス、無茶をしすぎです!」と叱られたけど、このままだと健康に悪影響がでそうだ。
「この沼は、本来は川に流れる水が生活ゴミなどで詰まってできたみたいですね」
「ゴミを池に捨てるのは、禁止しなくては!」
バラック街を潰すのは、そこに住んでいる人が住む家を用意してからになるけど、ゴミは駄目だ!
「田舎では、ゴミはどう処分しているのかしら?」
それすら知らないのだ。
「農家は、穴を掘って埋めます」とベリンダが教えてくれた。
ゴミ捨て場を作らないといけない。モンテス氏へのメモに書いておく。
「ウッドストック領から、これ以上の孤児や棄民が来ないようにしたいです」
パーシバルは、滅多に怒らないけど、今回の件は腹に据えかねているみたい。
「孤児は、教育して働き手になります。ただ、病人や老人を追い出すのは人間として駄目だと思います!」
これにはカルディ氏も怒っていたから、陛下に報告すると言っていた。何か、罰を与えて欲しい! でないと、貴族だからとやりたい放題だよ。
「ただ、送り返しても、ちゃんと面倒を見てくれそうにないのですよね。お年寄りと言っても、まだ働ける人は軽作業をして貰います」
病気の人は、元気になってからだよ! 炊き出しで、健康を取り戻したら、生きる意義がないと駄目だと思う。
「女の人も多かったから、縫い物の内職も良いかもしれません。それか、子育ての経験があるなら、孤児の世話をしてもらうこともできますよね!」
今は、八歳ぐらいの子が下の子を面倒見ているけど、教育も受けないと将来は暗い。
「健康な男の人には、北部への街道の整備をして貰っても良さそうです。賃金が入れば、ラグーン地方も少しは活気づくでしょう」
今は、匂いも酷いし、どんよりとした雰囲気だ。
やらなきゃいけない事は、山積みだけど、全て正式に領地になってからだ。
それまでは、モンテス氏に孤児院の受け入れ、浚渫工事の準備、そして街道の整備、魔物討伐の為の騎士と領兵の派遣の準備をして貰うしかない。
「新年には領地になっているでしょう」とパーシバルが肩を抱いてくれる。
それまでは、今回渡した寄付金と運ばせる魔物の肉で何とかやるしかないのだ。
「ソニア王国から帰国したら、即、領地へ行かなくては!」と焦るけど、パーシバルが変な顔をする。
「ええっと、ペイシェンスは新入生総代の挨拶をしないといけませんよ」
忘れていた! と言うか、忘れたかった! お父様に辞退したいと言ったけど、規則通りにとしか返事をしない。
「アルーシュ王子で良いのでは?」と文句を言いたくなる。
「入学式までに来られるかわかりませんよ」
そうだった! 日にちにルーズな感じだよね。
「あっ、パリス王子はどうなさるのでしょう?」
これ、心配だったんだよね。
「普通なら、王太子として若い貴族を纏めるためにソフィア大学に進学されるでしょうが……ロマノ大学の留学生の試験を受けておられるのですよね」
うっ、パリス王子は見た目ほどチャラい人ではないのは分かっているけど、ロマノ大学はちょっと……エステナ教会と違う魔法概念を持っているから、聖皇の甥は良くないよ!
「その上、王立学園ではありませんから、留学生を制限もしていませんし……困りました」
ソニア王国も竜の危険は考えているのだろう。エステナ教会の昔ながらの教えでは、拙い! と感じているのかも。
「天狼星とゲイツ様が無事にお帰り下さると良いのですが……」
今回は、ゲイツ様が一緒ではなかったので、少し心細かったのだ。
「明日は王都に戻らないといけませんわ。ゲイツ様も帰国されると良いのですが……期末テストも終わる頃ですもの」
ふと、リリーナ様のテストが心配になったけど、留年や降級するほどではないだろうと思う。
「慌ただしい視察になりましたね。明日は、グレンジャーホテルで休憩して王都へ向かいましょう」
グレンジャーホテルでは、アダムと話し合いたいから、そこまでは馬の王で急ぐ予定。
そこから、王都までは馬車にする。体力温存だよ。
ゲイツ様が帰国されていたら、きっと竜の新作を強請られる。何にするか、考えながら帰ろう! それに、ヘンリーが一緒だから、お話ししても良い。




