お食事会の後で
パーシバルと私の卒業祝いのお食事会は、美味しい料理を食べて終わった。
ここで、モラン伯爵夫人が席を立ち、アマリア伯母様と一緒に私も応接室へと向かう。
食堂に残った殿方達は、アルコールや葉巻などを楽しみながら、お話をするのだけど、今夜は領地について話し合わなきゃいけないんだよね。
本当なら、私も残りたいけど、アマリア伯母様は昔気質。
応接室で大人しく、アマリア伯母様とモラン伯爵夫人の話を聞いている。
モラン伯爵夫人は、義理の姉になるアマリア伯母様とは考え方が違うので、仲は良くない感じ。
でも、会話を上手くリードして、婚約披露パーティーの相談とかして、アマリア伯母様のご機嫌をとっている。
モンテラシード伯爵は、如才ない感じが妹のモラン伯爵夫人と似ているんだよね。
お父様は、アマリア伯母様が大の苦手! まぁ、実家のグレンジャー子爵家を潰しかけたから、言いたい事がいっぱいあるんだろうけど、経済的に追い込んだのは、モンテラシード伯爵領の饑饉のせいでもあるんだよね!
あるだけの金を貸したお父様の経済観念の欠如もあるけどさ。
妹の嫁ぎ先のモラン伯爵家や娘の嫁ぎ先のサティスフォード子爵家にも、饑饉の時は借金をしたみたいだけど、どちらも傾いていない。
普通は、自分の家の余剰資金を貸すんだよ! とお父様に言いたい。
まぁ、前の執事が貴族主義者の策略に乗って、高利貸しから不当な借金をしていたのも、極貧状態に陥った理由だけどさ。
でも、アマリア伯母様には、感謝もしているんだ。パーシバルとの縁談を持ち込んでくれたから。
アマリア伯母様なりに、実家の零落振りと姪の先行きを心配したみたい。
持参金など用意できないグレンジャー家の姪を、義理の妹の嫁ぎ先だし、グレンジャー家からも従兄弟になるモラン伯爵家ならと、縁談を持ちかけたんだ。
モラン伯爵家は、モラン領からの収入の他に、外務大臣としての俸給もあるので、嫁の持参金を期待しないでも良いだろうと、古い頭なりに考えてくれたのだ。
私がマーガレット王女の側仕え、音楽クラブに属している、成績優秀などを売り言葉にして、縁談を勧めたみたい。
そんな事を考えているうちに、殿方達も応接室に移動してきた。
今夜は、私の新領地について相談したいとパーシバルから話して貰っているからね。
ただ、モラン伯爵夫人やアマリア伯母様にとって、退屈な話になるかもしれないな。
「クラリッジ伯爵との面談には、グレンジャー子爵も同席した方が良いでしょう」
モラン伯爵は、常識的にそう言ったんだけど、お父さまは腰が引けている。
「私は、領地について詳しくないから……」
あああ、アマリア伯母様がお父様に説教モードだ。お任せしておこう。
二人を放置して、モラン領の西隣の元ウッドストック侯爵領について話し合う。
「あれから、領地管理人に調べさせたけど、温泉はなかなか良さそうだ。ただ、現状は寂れている。それと、人口は思ったより少なくない。貴族主義者は、領民の移動に厳しいからな」
それって良い条件なの? 食べさせなきゃいけない口が多いと聞いた気がするよ。
「寂れた領地なのに人口が多いのは、問題じゃないのか?」
モンテラシード伯爵は、領地が飢饉で苦労したからね。
「まぁ、普通ならそうだが、ペイシェンス様には二つの領地がある。そちらは、長年にわたって領主がいなかったので、人口が流出しているそうじゃないか。それに、春にはホテルを開業するそうだし、働き手はいっぱい必要だろう」
確かに、葡萄畑や醤油、味噌工房、雲丹の加工工房とか、人手が欲しいんだよ。
それに、農地も空き地がいっぱいな状態!
「それって、他の領地から農民を移住させても良いのですか?」
私は、まだ領主として新人だからね。質問しておこう。
「同じ領主なら問題ないだろう。彼方の次男、三男を、今の領地の空き地に移動させたら良いのだ」
モンテラシード伯爵は、外務大臣のモラン伯爵より領地管理に詳しい。色々と教えてくれた。移動した数年は、年貢は期待できないとか、できれば減税した方が良いとかさ。
「寂れた温泉は、ペイシェンスなら何かしそうだな!」
モラン伯爵は、私がそこを拝領するのを前提で話している気がする。
「父上、まだ決めていませんよ!」
パーシバルが抗議してくれたけど、モラン伯爵もモンテラシード伯爵も困った顔だ。
「それは、その通りだけど、領地の近くに空きがあるなら、それがベストなのだ」
モンテラシード伯爵は、領地管理の方向から説明してくれた。飛地より、管理しやすいのは確かだね。パーシバルと結婚したら、領地は繋がる。
「私は、近くに領主がいない領地があるのは慣れているが、あまり良くない影響を受けるのだよ」
モラン伯爵領の南は、ハープシャーとグレンジャーだったからね。
「人口の流出により、荒れてくるんだ。今は、ラグーン領の人口は保たれているが、領主不在が続くと……」
元ウッドストック侯爵領から物納された、東半分は、温泉がある町の名前でラグーン領と呼ばれているみたい。
「それは、視察してから決めたいですよね」
パーシバルは、視察にもついて行ってくれる。
お父様に説教していたアマリア伯母様が聞いて「ウィリーも一緒に視察に行きなさい!」と言い出した。
「それは良い! 保護者が一緒なら、近いモラン屋敷から視察に行ける」
そうだけど、大学は大丈夫?
「大学の卒業式の日の午後に教授会を予定しています」
「それなら、次の日から行けば良いのよ」
アマリア伯母様は、弟に厳しい。お父様は、冬休みは読書三昧したかったみたい。
「そうだな! 屋敷に、皆が滞在すると連絡しておこう」
ハープシャーやグレンジャーの視察もしなきゃいけないけど、ラグーン領を視察する時は、モラン館からの方が近い。
「あのう、もしラグーン領を拝領する事になったら、ウッドストック伯爵に挨拶とか必要ですか?」
これ! これが最大のネックだよ! 座が一瞬で沈黙に支配された。
「ははは……私も領地が隣だったが、ウッドストック侯爵、いや伯爵とは交流がない。拝領が決まったら、挨拶文を送れば良いのでは? 彼方も手放した領地の新領主とは交流したくないだろう」
でも、モンテラシード伯爵は、注意もしてくれた。
「街道の整備とかは、彼方から文句の出ないように気をつけた方が良い。それと魔物の討伐も怠らないように!」
これまで、ハープシャーもグレンジャーも領民を脅かすような魔物は多くなかったんだよね。
「領地を管理する人や騎士や領兵が必要ですわね」
溜息が出ちゃう。
「それは、なんとかしよう! 領地管理人に推薦したい人材がある。騎士も独立したがっている若手なら紹介しても良い」
モンテラシード伯爵、嬉しい! やはり親戚は頼りになるね!




