婚約者は名前を呼ぶ
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彼女の家の執事に案内されて向かったのは前によく訪れた彼女の部屋。
彼女の家の者達が疲れたような、悲しそうな顔をしていたのが気になっていたのだが、彼女の部屋の前に着いた時に、そんな事は頭から消えていた。
彼女に会うのは一年ぶり。
きっともっと綺麗になっているんだろうなと思った。
そして、いつもみたいに俺の愛称を呼んで笑ってくれる。
そう思っていた。
でも。
嬉々として開けた扉の向こうには、俺の想像していた世界は広がっていなかった。
「………あら?お久しぶりですね。やっと私を殺しに来てくださったのですか?」
「………え?」
「ん?ヒロ…彼女と結ばれて私が邪魔になってきた頃ではないですか?」
こてんと首を傾げて聞いてくる彼女の仕草は可愛かったけど彼女の口から出る言葉は意味がわからなかった。
それ以前に、彼女の顔には表情がなく、綺麗な瞳にも光がなかった。
笑顔で迎え入れてくれると思っていた彼女は対極的な表情で俺を迎え入れた。
「な、何をいっているんだい?俺は君を迎えに来たんだよ?やっと、やっと」
「あぁ。やっとこれから断罪なのですね。私は持っていくものは何一つないので早く連行してくださいな。私はもう生きていたくないのです」
『わたしはもういきていたくないのです』
「……え?」
彼女は無表情で、抑揚の無い声でそう言ったのだ。
生きていたくないと。
なんで?
どうして、生きてきたくないと、死にたいと言うのだ。
「あぁ、お一つ聞かせてください。貴方様は、私を捨てて掴んだ愛しい人といられて幸せですか?」
「本当に、何を言っているのだ?」
「……なにとは?今幸せかと聞いているのです」
私を捨てて掴んだ愛しい人?
誰のことだそれは。
俺が今までで愛しいと思ったことがあるのは彼女だけである。
それなのに……。
それが伝わっていなかった?
いつから?
いつから、彼女が視界に入らなくなった?
いつから、彼女は俺に会いに来なくなった?
…いつから…、彼女は俺を見なくなった……?
今、目の前にいる彼女は、その瞳に俺を映しているが、俺を見ていない気がする。
まるで、唯、そこにいるだけのような…。
俺の大好きだった、愛していた彼女は、こんな表情をするような人ではなかった。
少なくとも、最後に会った時は、こんな表情をしていなかった。
でも……。
あの、最後に会った日。
彼女はなんだかおかしくなかったか?
俺が断りを言った時、何かが壊れたような…。
俺は、何を間違えていた?
好きだ、愛してると、言わなくなった事?
彼女は言わなくても分かってくれるって思っていた事?
彼女と一年会えなかった事?
でもそんな事を考える前に言わなければならない事があるだろう。
ずっと言っていなかった言葉。
俺は無表情でこちらをずっと見つめている彼女を抱きしめた。
前よりも、細くなってしまった身体。
以前も細かったが、今は腰なんてすぐ折れてしまいそうなほどである。
「…何を勘違いしているのかわからないが、俺が愛しているのは、愛しいと思うのはアリー。君ただ1人だ」
彼女…俺だけの愛しい婚約者…アリシアの名前を呼ぶ。
とても、久しぶりに口にする気がする彼女の名前。
俺は出来る限り優しく、強く抱きしめた。
「………アレクシオス様……?」
抱きしめた彼女に呼ばれた名前は彼女だけに呼ぶことを許した愛称では無かった。
やっと名前を呼びました。お互いに。
……これ、5話で終わる…かなぁ。




