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カーバンクルと冒険者酒場  作者: がけどー
8/8

金貨の出所

 あの日から二日が経ち、借金という重荷から解放されたエリンは喜々とした表情で駆け回っていた。


「エリンちゃーん麦酒三杯と牛の煮込み三つねー」

「はーいちょっと待っててくださいねー」


 元々、酒場で働くのが好きなのだろう。笑顔で注文を受けて料理を作る。


「はぁーエリンちゃんは可愛いよなぁ。ウチの娘ときたら『パパくさーい』しか言わないんだぜ」


 そして、酒場には常連が来店していた。ゴードンのパーティーだ。


「わかるよマシュー。僕に娘はいないが、エリンちゃんが娘だったら幸せだろうよ」

「フィンは早く奥さん貰えよ。もう四十五歳だろう? 冒険者やめたらどうするんだ」


 マシューとフィンは、ゴードンと同じAランクの冒険者で、三人は迷宮王国(ドラグニア)では名の通ったパーティーらしい。俺は冒険者時代は他人に興味がなかったため、知らなかったが。 


「どうせ、僕に嫁なんてできないよ」


 フィンは紫紺の短髪で、気弱そうな印象を受ける。


「いや頑張って探そうぜ、生きていれば何があるかわからんさ」


 対するマシューは、髪の毛がお亡くなりになっている。頭と同じで明るいオッサンだった。


「それでも嫁は絶望的だよ。あーあ、ダンジョンで格好よく死ねれば楽なんだけどなぁ」

「バカ言ってんじゃねぇよフィン。アスマ・ギルバートの件が最近あったばかりじゃねぇか」

「きゅっ!?」


 エリンの足元に座っていた俺は、いきなりゴードンの口から生前の名前が出てきて、飛び跳ねてしまう。


「アースどうしたの?」


 エリンが片手で料理を作りながら、心配そうに尋ねてくる。俺はエリンに頬擦りして、大丈夫とアピールした。それからゴードンの近くに忍び足で近づいた。


「アスマっていうと、アリスと兄妹で有名なパーティだったアスマかな?」


 フィンもどうやら俺を知っているみたいだった。


「前衛の剣鬼(アスマ)、後衛の歌姫(アリス)な。あのパーティーはそこに、万能盾(テッド)回復バカ(クレア)が居たんだよな」

「今でも信じられないぜ。あのパーティーが負けた上に、アスマが死んじまったなんてよ」


 ゴードンとマシューが続く。俺がダンジョンで死んだことは、そこそこ噂になっていたようだ。


「アスマがいなくなったから、パーティーは壊滅寸前らしいぜ。フィンが死んだら俺らが困るだろう

「実際に亡くなった例を挙げられると辛いよね」


 酒の席での軽口だったのだろうが、仲間から本気で諭されたフィンは苦笑する。そうか、壊滅寸前なんて言われると心苦しいが、俺にできることなんて少ないだろう。なにより、俺はエリンのペットとしてセカンドライフを過ごすことにしたんだ。


「それにしても、三十層の雷の巨人(トール)か……あいつらが倒せねぇなら暫くはどこも手を出さねぇだろうな」

「僕たちも挑戦しなくて正解だったね」

「ん? ゴードンもフィンも知らないのか? トールが倒されたって噂になってるぜ?」

「ほんとかいマシュー?」

「でもよう、誰が三十層を突破したのか、わかっていないらしいぜ」

「なんだよそれ」


 ゴードンとマシューが不思議そうな表情をしていた。通常ならば、階層守護者(フロアボス)を討伐した場合、名乗り出ないのはあり得ないことなのだ。名乗り出ないというのは、名声に全く興味がない人間だけだろう。


「そういや、三十層の報酬って金貨一〇〇〇枚って予想だったよな? 誰か金の羽振りが良くなったヤツが怪しいが誰かいたっけな」


 まずい……その話題はとてもまずい。具体的には、エリンに聞かれたくない。しかし、


「はーい牛の煮込みお持ちしましたー」


 エリンが降臨してしまう。


「ゴードンさん、金貨一〇〇〇枚ってなんの話ですか?」


 背中を冷や汗が流れ落ちる感覚を思い出す。猫なので汗は出ないのだが。


「迷宮で三十層のボスが倒されたんだけどな、倒したやつが誰も名乗り出ねぇんだよ。そんで、ボス討伐報酬品が金貨一〇〇〇枚じゃないかって予想が前からあって、急に金持ちになったやつ誰かいないかなって話だ」

「へぇそうなんですね」


 エリンがちらっとこちらを一瞥する。俺は目をそらして聞いていないフリをした。


「アースおいで、ちょっと裏にいくよ」

「……きゅい」


 なんでわかるんですかね。俺はエリンに厨房の裏にある、貯蔵庫に連れ込まれる。


「アース座りなさい」

「きゅい」


 エリンは膝を折り曲げてしゃがみ込み、俺の目を覗き込む。その目は哀しそうに俺を睨んでいた。


「さっきの話、アースが犯人なの?」

「きゅーい」


 今更、あの金はトールを倒した報酬なんて言いたくない。男のプライドってやつだ。格好つけたかったのだ。


「ほんとに? 嘘ついたら、もうアースと寝てあげないよ? アースがやったの?」

「……きゅい」


 僕がやりました。俺のプライドなんて安っぽいもので至福の時間を奪われたくない。


「まったく……私のためにそこまで……」


 エリンは呆れたように俺を見つめる。


「危ないことしてるってわかって、少し怒ったし悲しかった。もうしないでよね?」

「きゅい」


 わかってる。エリンを一人にはしない。


「でもアースって強いんだね! これで私になにかあっても平気だね?」

「きゅい」

「今日の営業終わったら、お買い物に行くから守ってよね?」

「きゅい!」


 こうして、俺は許されたのだった。 

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