112, 「嘘」は使わない。パランティーリに映るのは真実のみだよ。だから騙される……。
そして――フィーが、パランティーリへ祈る様子が映し出された。
何かへ深く集中している、その姿……いったい、何が起きるのかしら。
でも――なぜか、ずっと見ていられる。そんな、不思議な真実だった。
「……。次は、その場面だね。」
「……。」
わたしは、静かに数学の女神を見つめた。
「本当は、このこと……話したくなかった。そうよね?」
「そ、それは……、だよ。」
「ううん。ちゃんと打ち明けてもらって、わたしとしても納得しているから。」
……。
「もう、隠す必要なんてないわ。」
「……。」
「それよりも――。」
わたしは、小さく息を吐いた。
「あんたまで、あんな酷い目に遭わされていたなんて……。わたしが原因だったかもしれないと思うと、それはそれで……。」
すると――数学の女神は、少しだけ困ったように笑った。
「……。やっぱりネゲートだね。」
その声は、どこか安心したようでもあった。
「こんな映像を見せられても――わたしのことを心配してくれるなんて……。」
……。その瞬間。数学の女神は、また「いつもの調子」へ戻っていた。
……。わたしは、こうしてここにいる。たしかに、内容は衝撃的だった。
でも――責め立てる理由なんて、どこにもなかった。
だって――理由は、これから明らかになる。
……そういう流れだったから。
パランティーリ。本当に、不思議な存在。
そして――これを参考にしたのが、サトシ。
……そういうことなのよね。
サトシは――きっと、パランティーリをとても気に入っていたはず。
だから――参考にした。……そういうことだった。
ところが――数学の女神は、核心となる性質を語り始めた。
「『嘘』は使わない。」
……。
「パランティーリに映るのは、『真実』だけだよ。」
その声は、静かだった。
「だから――騙される。」
……。
「それこそが、パランティーリ最大の問題点だったんだよ。」
……。
「たとえ全部が真実でも――その『断片の映し方』次第で、それが本当の意味になるとは限らないんだよ。」
「……。真実だから、騙される……。」
わたしは、その言葉を解釈した。
「つまり――。」
……。
「真実であっても、『情報の断片だけ』を開示するという手法というのは……。」
そして――。
「使い方次第では、極めて悪質になり得る……そういうことよね。」
「そういうことだよ。」
数学の女神は、静かに頷いた。
「真実の断片を見せる。そんな断片であっても、相手は『真実だ』と認識するんだよ。」
……。
「その影響で、その解釈に従って、自ら動き始めてしまうんだよ。」
……。
「つまり――。」
数学の女神の目が、わずかに細くなる。
「この性質をうまく利用すれば――自分の望む方向へ、歴史そのものを誘導できるんだよ。」
……。
「真実の断片を並べるだけで――世界線すら、自在に動かせるんだよ。」
「……。」
わたしは、静かに息を呑んだ。
「それについては……本当に厄介な仕組みよね。」
「……、そうだね。」
数学の女神は、小さく頷いた。
「そこでどうしても、『解釈が変わらない器』が必要になったんだよ。」
……。
「どんな真実の断片をぶつけられても、中身そのものが変化しない器のことだよ。」
そして――。
「そこで、次の映像だよ。」
……。
解釈が変わらない器。どんな真実の断片をぶつけられても――その本質が変わらない存在。
……。
ハッシュ関数。
あるいは――そこへ浮かび上がる、刻印。
……そういうこと、なのかしら。
そして――次の映像。
……。
そこで、わたしは――また驚いた。
だって――そこには、なぜか、「あいつ」がいた。
……どこから現れたのよ。フィーと、何かを話している。
でも――これも、真実。
そして――パランティーリへ映し出されている以上、これもまた――「重要な出来事」だった。
……そういうことよね。




