第75話 信じている。
21.
五日後に「火の神降ろし」を再び行う。
そう決まった次の日から、ユグの人々は一族総出で儀式の準備に取り掛かった。
当日は、「火の神が降りる場所」であるクルシュミ湖の岸に、移動式の舞台が設置される。
この舞台の運搬、組み立て、設置も、儀式の一部なのだ。
雪除けのための鋭角な屋根がついた舞台の周りで、灯りとなるたくさんのかがり火が焚かれる。北方の深く厳しい夜も、真昼のように明るくなると言う。
「だから、実際は外にそのままほっぽり出されたみてえに寒いわけじゃあないみたいだぜ。そりゃそうだよな、そうじゃなきゃ、毎年、みんな凍え死んじまう」
コウマはレニの不安を和らげるために、周りから聞きかじった話を披露した。
昔は、まさに凍え死にさせることで神に贄を捧げる儀式だったと聞いたが、もちろんその話はレニにはしなかった。
「大丈夫」
レニは、自分自身に言い聞かせるように言う。
「私は……リオのことを信じている」
コウマは、レニの横顔を見つめた。
その顔には、リオに何かあったらという恐怖と不安、焦燥が数日前と同じようにあった。だが、イズルに声をかけられて以来、レニがそういった感情を口に出すことはなくなった。
自分の心を鎮めるかのように、黙々と儀式の準備を手伝っている。
コウマはホッと息を吐き、笑顔になった。
「そうだな、俺たちも頑張って、リオのために最高の舞台を用意しねえとな」
自分の心を奮い立たせるかのような陽気な声でそう言うと、儀式の準備を手伝い始めた。
そうして五日が経ち、リオが「火の神降ろし」の儀式を行う日がやってきた。
★次回
第76話「この世ならざる者」




