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『Ray of sunshine』 - Stunning sky in Florida -  作者: 彩川カオルコ
9/22

第9話 『Everything was new and exciting!』

店を出ると、またひとつ空が高くなっていて、雲ひとつないアクアブルーの果てしない空間が広がっていた。

そこから降り注ぐ日差しは、また一段と強く、肌をジリリとがす。


「暑っつ! 毎日これなのね……ねぇ、日傘って、さしていいもんなの?」


眩しそうに目を細めた有沙からの質問に、ツカサは笑いだす。


「まぁ、最近は観光客ならけっこうさしてるわね。まぁでも、ここで日焼けを避けようなんて、甘い考えは捨てなさい! 太陽とは仲良くしていかなきゃ、ここでは暮らせないわ」


そうは言いながらも、ノースリーブのプルオーバーから伸びる彼女の腕は白く美しい。


「とか言って、とびきりの日焼け止め使ってるんでしょう! 教えなさいよ!」


有紗がそう息巻くと、司は上目遣いで笑った。


「いいわよ。じゃあ、寄り道しよう!」


司の提案で、レストランの近く(クレマチスストリート)の『City Place』に立ち寄ることにした。


「え! ここ一帯がシティープレイス? てっきり屋内店舗なのかと思ってたわ」


「そうなんだ? ここはファッションもリーズナブルであか抜けてるわ。まぁとにかく広いから、すべては回れないけどね」


「ホント! 一つの街みたい」


「でしょ? あっちに『Bath & Body Works』があるわ。あ、『ロクシタン』も。日本でも人気なんでしょ?」


「ええ」


「あそこのコスメやボディケア製品はアメリカでも人気だから、ここでも商品の品揃えは充実してるわよ。さぁ、行ってみよ!」


有紗が紙袋をいくつも抱えながら、お目当てとそれ以上の収穫に満足の笑みを浮かべていると、司が移動しながらサッとスマートフォンを操作した。

五分と経たないうちに着いたアムトラックの駅前に立っていると、有紗のスーツケースを乗せたさっきの高級車がスーッとやって来て目の前に停まる。


有紗は目を丸くして言った。

「使用人を雇ってるって聞いてはいたけど……なんか、世界が違うわね」


司は運転手に、購入した荷物を手渡しながら首を横に振る。


「そう? こっちじゃハウスキーパーもベビーシッターも運転手も、こうして契約形態で雇うのがポピュラーよ。使用人とはいっても彼らは召し使いじゃなくて、ビジネスとして成立した関係性なの。だから対等なのよ。彼らにはしっかり主張があるしね」


「なるほど……」

スケールの違いもそうだが、それよりも文化の違いを感じた。


「よし! それじゃあ、『パームビーチ』へ帰ろう! これからあなたの街となる場所よ!」



二人を乗せた車は、ウエストパームビーチから、大西洋に浮かぶ砂洲にあるパームビーチに向かって出発した。


その名のごとく、どこを通ってもパームツリーの並木道が続き、ダウンタウンのオフィス街を通り抜けると、パームツリーの合間から博物館のような立派な建物も幾つも見える。


「また近々、ようね。『West Palm Beach』はショッピングもレジャーもグルメも事欠かないわ! そうそう、ナイトイベントもあるから、今度はそれに合わせようよ!」


「いいね! 楽しそう」


「ええ、質のいいジャズとお酒が楽しめるのよ!」


話が盛り上がる中、突如車が停まった。

有紗が不可解な顔で前方を気にする。


「ん? こっちでも渋滞ってあるの?」


「いいえ。ねぇ有紗、前を見てて」

司は笑みを浮かべながら有紗の視線を促した。


「え、前? なに? あ……」


前方にゆっくりと大きな壁が立ち上がってきた。


「うわっ、なにあれ?」


「このロイヤルパーク橋は船が通る時に橋が開閉するのよ。いいタイミングに来たわね」


みるみるうちに、道が巨大な壁のように反り立った。


「凄い! 迫力あるわね」


「面白いでしょ? ホントは橋を渡って南に折れたらすぐにウォースアベニューなんだけどね。時間もあるし、折角だから大西洋が見える東側から回ってみようか」


車は橋を渡ってから真っ直ぐ突き当たりのサウスオーシャンブルーバードまで走り、キラキラ光る水面を眺めながら南下していった。


青い空にマッチした白亜の時計台が見えたところで右折、ウォースアベニューに入る。

しばらくすると昨日リムジンから覗いた見覚えのある光景が広がった。


「ここよね? あなたのBOSSの店舗は」


「ええ」


息を飲むように辺りを見回す。

バンクリーフ、バレンチノ、カルティエなどが見える。

ニューヨーク5番街、LAのロデオドライブなどと並ぶ、アメリカで歴史のある最高級ショッピング通り。

にもかかわらず、観光客らしい歩行者の姿はほとんどなかった。


通りが終わった途端、その町並みは住宅エリアに変貌する。

富裕層のリゾートエリア。

ニューヨークで成功した富豪がパームビーチに移住するのが成功者の通る道とも言われるように、数々の豪邸が並び、それらは道路から建物の全貌が見えないほどの広大な敷地の中に建っていた。


「あ、今のが我が家よ」


「え? ええっ!」

有沙は慌てて振り返り、目を見開く。


「なんか嫌ね、その反応」


「だ、だって豪邸だから、びっくりして……」


「そのうち慣れるわよ、この辺に居たら。それに……ほら、見て」


司の視線が止まった方に顔を向ける。


「え、ここは……まさか」


「そう、そのまさか」


「ええっ! ここに私が!」


「そうらしいわね。降りるわよ」


「え……ここに、私が?」


「そうね。何回言うつもり?」


「え……一人で?」


「そうなるわね」


「やだ!」


「は? なんでそうなるのよ!」


「だって、ずっとマンション暮らしなのよ! 鍵一本で、こじんまり快適に暮らしてきたのに」


「あら、あれはあれでけっこう広いマンションだったじゃない。優雅なイメージだったけど?」


「なに言ってるの、スケールが違いすぎる! どうしたらいいか……」


司は有沙の肩をトンと叩いた。

「とにかく! つべこべ言わず、降りなさいよ。話は家に入ってからよ」


ゆうに十台は置けそうな玄関ポーチに停めた車から、スーツケースを降ろしてもらって建物までの小路こみちをゴロゴロと大きな音をたてて転がす。


立ち止まってもう一度、スマートフォンに送られた地図を見直す有紗を、司は突っついて建物へ促した。


「ホントに……ここなのね」



大きなドアの前でもう一度インターホンを押すと、海外ドラマで見たような、エプロンを着けたハウスキーパーが南米訛りの英語で出迎えてくれた。


エントランスに入ってまた驚く。


吹き抜けたエントランスホールからは美しい曲線の大階段がそびえ、その向こうに広がる明るいリビングには、切り立ったような天井までの高さの窓から溢れんばかりの光と庭の緑が見渡せる。

そしてその室内には一目でデザイナーを言い当てられるほどの高級ファニチャーが並んでいた。


ぼんやり立ち尽くす有紗の手元からスーツケースをサッと取り上げたハウスキーパーは、有紗の背中をトンと叩いて親指を立てて見せると、気さくな笑顔を見せたままウインクをした。


司が笑う。

「彼女はラッキーガールのあなたを激励してるのね」


「えっ?」


「オーナーからそう説明されてるんじゃないの?」


「そうなのかな……」


「有紗? 大丈夫? まずはここの生活に慣れなきゃ。ほら、この最優良物件をじっくり見学しましょう」


第9話 『Everything was new and exciting!』- 終 -


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