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『Ray of sunshine』レイ オブ サンシャイン - Stunning sky in Florida - 突然の御曹司との生活……?! 過去を紐解きフロリダの空の下で輝くサクセスストーリー  作者: 彩川カオルコ


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第106話『Walls Have Eyes』カメラマンの思い

フロリダ、ウエストパームビーチのダウンタウン『クレマチス・ストリート』にあるスタジオに『ランドルフ』の撮影会で訪れていた三宅彰信(アキノブ)カメラマンは、月刊『ファビュラス』にいた頃の仕事仲間の(ツカサ)・ウォーレンに呼び出され、休憩時間を利用して懐かしのBar『Dim(ディム)-hide(ハイド)』を訪れた。

偶然にも、その店に先に訪れていた玲音(レオ)とジェンミは、一番奥の個室で息をひそめながら、二人の会話に聞き耳を立てる。

彰信の口から " ランドルフの御曹司(おんぞうし) " というワードが聞こえて、ジェンミはハッとしながら、更にカーテンに耳を寄せた。


「え……『ランドルフ』の御曹司……ですか?」


司はそうとぼけた声を発したが、カーテンの内側の二人には、それが誰を指すのか彼女が知っていることは明白(めいはく)だった。

当然、彰信はその(つな)がりを知らない。


「ああ。前に霧島(有紗)が、" そのうち日本にその御曹司を探しに行く " って言ってたような気がするんだが……でもさ、パーティーの時に小耳に挟んだ話では、その御曹司には日本人の婚約者がいるとかで……」


「へぇ……婚約者?」

司は眉をあげて見せる。


「それなら霧島がわざわざ日本に捜しに行く意味がわからないだろ? なんか複雑な事情でもあるのかなぁって思ってさ」


カーテンの中で二人が小さくため息をついた。


「どういうことでしょうね? 私にも……わかりません」


「そうか、そうだよな……」


そう言いながら頷く彰信を、司が覗き込む。


「それで?」


「あ……いや、なんかさ、アイツはいつでも一人で走り続けてるから……ホントに大丈夫なのかなって、心配なんだ」


司は小首をかしげて問いかけた。

「それは……親心ですか? それともまだ……」


彰信はフッと息をつく。

「オレは何も変わってないよ、あの時の気持ちのまま、何ひとつな」


「え?!」


驚く司に、彰信は肩をすくめて苦笑いする。

つかの間の沈黙を司が破った。


「だって……アキノブさん、あのあと有紗は……」


「ああ、そうとも! オレには目もくれないで一途(いちず)にあの人のことを思ってたからな」


司は視線を下げる。

「つらく……なかったんですか?」


「さぁ、どうだったかな。最初はそれこそ(ねた)みも(そね)みもあったとは思うけど……ま、相手が相手だからな。受け入れるしかなかった」


「魅力的な人でしたからね……」


「ああ、すこぶるな。オレだって信頼してたし、認めてた。だから霧島の視線の先がオレじゃなくても仕方がないって思えたし、そこは、何だろうな……変な親心かもしれないが、応援してるような気持ちも芽生え始めてはいたんだよ」


司がグラスを揺らす。

「でも……アキノブさんは、本当のことを打ち明けられてたんでしょ? 信頼されてたんですね……」


「ああ。多分あの人には、オレが霧島に思いを寄せてることがバレてたんだと思う。だから……」


彰信はビールを飲み干し、表情を明るく作り直した。


「まぁでも、すごいよ霧島は! こうやって見事にフロリダの地で、あの時の思いを実現させたんだから。相当頑張ったんだなアイツは。なのにオレは……ずっと付いててやることもできず……自分の出世を優先させるって名目で、本当はやるせなさから逃れるために、アメリカに逃げ出したなんてな……」


再び顔を曇らせる彰信に、司は首を振る。


「アキノブさん! 自分を責めちゃダメですよ。あの時、もしチャンスを逃して日本にとどまったりなんかしていたら、きっと有紗はアキノブさんを許さなかったと思いますよ」


「だろうな。あの時の霧島は凄かったな……どっちが先輩かよって思うくらい、まるで " 獅子(しし)は我が子を千尋(せんじん)の谷に突き落とす " って感じでさ。すごい気迫でオレの背中をドーンと押してくれて……ホント、霧島には感謝もしてるし、尊敬もしてる。そんな霧島を見いだしたあの人の先見(せんけん)(めい)も確かだなって思ったよ。今やすっかり『ランドルフ』の幹部だなんて……アイツは誰にも止められないよな?」


「ええ。でも……」

司はまた視線を下げた。


「あの子、けっこう無理してたんですよ。月刊『ファビュラス』の買収話が浮上した時なんて、一時的にパニック状態で。私もどうしてあげたらいいのかわからなかった……でも二日もしないうちに今のプランを打ち立てて、江藤部長に株主対応を依頼したんそうです」


「そうか……やっぱり(すえ)恐ろしいヤツだ。もはやワクワクするよ。みんなが霧島に魅了されるのもわかるな」


司はフッと笑う。

「ま、落ち着きのない子ですけどね。変なとこ、抜けてるから危なっかしいし?」


「そうそう! 最近よく『ランドルフ』で幹部と打ち合わせがあるんだが、矢神(やがみ)(つばさ)専務なんか、まるで霧島の母ちゃんみたいでさ」


「ふふ、私もそう思いました。『ランドルフ』の皆さんにすごく大事にされてるなって印象で。安心しました」


「ああ。まるで箱入り娘みたいな扱いだからさ、最初は、そのランドルフの御曹司の嫁に迎えるつもりなんじゃないかって、ちょっと心配になってたんだよ」


司は表情を取り(つくろ)う。

「ああ……それは、どうなんでしょうか?」


「でもまあ、もう(すで)に婚約者がいるんなら、問題はないよな? しかも面識すらないみたいだし」


「あ……まぁ、確かに」


(うわさ)によるとその御曹司、かなりイイ男らしいぞ?!」


目を丸くした司は声が上ずりそうになるのを押さえた。

「へ、へぇ……それはどこからの情報ですか?」


「ウォース・アベニューのブランドの広報担当が話してた。たださぁ、その御曹司、 世界的高級ブランドの『ランドルフ』を継ぎたくないんだとさ! 意味がわからないだろ?! どうせ甘やかされて育って、老舗を守っていく使命感とかないのかもな。いくら衰退しつつあるとはいえ、ブランドっていうのは歴史的価値だってあるし、無形文化財の如く、後世に残していかなきゃならないもんなんだよ」


司は悪戯な表情を浮かべ、嬉しそうに彰信を見つめた。

「久しぶりに聞きましたよ、アキノブさんのブランドに対する熱い思いを。もはや、" 愛 " ですもんね?」


「や、やめろよ! 恥ずかしくなるだろ!」


「ふふふ」


「にしてもさ、母親の矢神専務も大変だよな? ランドルフの血を引く夫が自分の実家の会社を継いで、自分はこのフロリダに残って、『ランドルフ』を継ぐ気のない息子のせいで、後継者問題に頭を悩ませるなんてさ」


カーテンの隙間に視線を落としたジェンミがそっと振り返るも、玲音は背を向けたままでその表情は(うかが)い知れなかった。


彰信が店内の時計に目を止める。

「おっと。長々と話しちまったな。で川原? オレを呼び出した本当の理由は何だ?」


意表を突かれて、司はバッと顔を上げた。

「そんな……理由だなんて。昨日もせっかく何年かぶりに会えたのに、ほぼすれ違っただけでしたから、久しぶりにゆっくりお話ししたかっただけですよ」


「まぁそれはオレも思ってたけどな。でもさ、お忙しいウォーレン夫人が、霧島には内密で会おうとするなんて、何か特別な話でもあるのかなってね?」


「いいえ、そんな」

司は首を横に振る。


「ただ……アキノブさん、有紗と『ディズニー・ワールド』に行ったでしょ? その時に……」


「ああ! そうそう、『ディズニー・ワールド』と言えば!」

彰信がパッと明るい表情で顔をあげる。


「オレも聞きたかったんだよ! そういやぁさ、オレとエプコットを回った翌日からはウォーレンファミリーと合流するって言ってたはずだけど、あのあと子供たちも交えた大所帯で『マジック・キングダム』を回ったんだろ? 羨ましいよなぁ」


ハッとした司は、慌てて表情を繕う。

ジェンミのことを言えない有紗から、彰信に " ウォーレン家と一緒に回ると言ってしまったから話を合わせてほしい " と言われていたことを思い出した。


「あ……え、ええ。そうなんです! 賑やかでしたよ。あ、でも……有紗って、そのエプコットの前日から " 前乗り " で来てたんですよね?」


彰信が眉をあげる。

「わかったぞ! 川原(ツカサ)が聞きたいのは霧島がどこに泊まってたかってことだろ?! 違うか?」


彰信に合わせてとりあえず頷く。

「え、ええ、そうです……」


「ったくアイツ、川原にも言ってなかったのか!? まぁ……オレにも言わないつもりだったのかもしれないな。夜まで一緒にいたからオレにバレただけかも。霧島はさ、あの日と同じホテルを取ってたんだ。覚えてるか? 『オールスター・ミュージック・リゾート 』しかも! わざわざ " あの部屋 " をリザーブしててさ……オレもびっくりしたっていうか、複雑な気分だった」


「そ、そうですか……あの子は、どんな様子でしたか?」


彰信はまるで夢を思い出すかのような表情で、(くう)を仰ぐ。

「ああ……丸一日、取材も順調で、まるでデートみたいに過ごせて楽しかったよ。でもやっぱりさ、お互いそれぞれあの時のことを色々思い出しちまうからか、霧島も時々淋しげな顔をしながらぼーっとどこかを見つめたりしてることもあった。覚えてるだろ? あのだだっ広いレストラン」


「ええ」


「あそこでさ、アイツ、酒の勢いに任せて、らしくないこと言ったりして……」


「らしくない……こと?」


「ああ。アイツ、" 未熟な自分なんかが編集長になったのは、あの人がいなくなったからだ " とか言ってさ、ワインをグイグイ飲みだすから、ホントに焦ったよ」


「そんなことが……それは大変でしたね」


「ああ。あの7010号室に消えていく霧島を見たら……やっぱり複雑な気持ちになったな」


「そうでしたか……」


司の視線に気付いた彰信は大袈裟に手を左右に振って見せた。


「おいおい! そんな切ない顔で見るなよ! あ、そうだ!! 実はさ、『エプコット』でびっくりするようなことがあったんだ」


「え……びっくりするようなこと?」


「ああ! 白日夢(はくじつむ)さ」


「白日夢?」


「うん。想像の世界を映像として見てしまう非現実的な体験ってこと。なぁ川原、『エプコット』の『ワールド・ショーケース』にイタリア館ってあっただろ?」


「ええ。あそこで撮影しましたもんね」


「そうそう、あそこの『トレビの泉』のところで、オレは白日夢に出会っちまったってわけ!」


司の脳裏にジェンミの顔が浮かんだ。


「今思えば他人の空似(そらに)だったのかもしれないが、そこにさ、" あの人 " にそっくりな男が立ってるんだ! 目を疑ったよ! 一瞬パニックになっちまって……オレ、いきなり声をかけに行ったんだ」


「へ、へぇ……」


顔をひきつらせる司に気付かず、彰信は自嘲的に笑って見せた。


「でもまぁ、冷静に考えたらさ、あんなところに居るわけないのにな。しかもオレよりも若いし。挙げ句、日本人じゃなくて韓国人だったんだ。笑えるだろ? もう、自分の頭がおかしくなったのかって思ったよ」


司は冷静を保つ。

「そうだったんですか。有紗は……」


「霧島は見てない。だから話してもないよ。まぁオレもノスタルジーな気分になってたんだと思う。今見たら全然似てないかもしれないしな」


突然、彰信のスマートフォンが振動し始めた。

「お……ちょっとごめん」


そう言いながら立ち上がった彰信は、店の入り口へ足早に歩いていった。


彼が席を外してる間に、司は通りかかった女性店員に話しかける。

前オーナーの所在を尋ねてみると、今は日本に戻って東京でスポーツバーを経営していると教えてくれた。

立ち去り際に、その彼女がふと足を戻す。

" 同じことを聞いてきた日本人が今、奥の席にいるが知り合いなのか? " と聞かれ、司は促されるままそちらに目をやった。

少しだけ開いていたカーテンが、サッと揺れるのが目に入る。

彰信が戻ってこないのを確認した司はスッと立ち上がり、コツコツとヒールを鳴らしながら、ゆっくりとそのカーテンの前まで歩いていった。



第106話『Walls Have Eyes』カメラマンの思い - 終 -

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