11 孝おぼっちゃま
その声の方に目をやるとそこに、細身で背の高い男性が立っていた。
耳たぶまで隠れるくらいの茶色い髪。
涼しげで優しい目元に、キリッと整った顔立ち。
正直言って、同性の俺から見ても色気を感じるような男前だった。
それに気づいた幸江さんは、その男性の方に振り向きながら言った。
「孝おぼっちゃま・・・・・・」
ほう、この人が噂の孝おぼっちゃまなのか。
俺は畑川純太(矢代先輩の元フィアンセ)のようなぽっちゃり体形のボンボンを期待してたんだけど、物凄く爽やかな美青年じゃねぇか。
おまけに家が超お金持ちってどういう事だよコノヤロウ。
と、心の中で妬みまくっていると、孝さんは小宵ちゃんに気付いて声をかけた。
「小宵じゃないか。今帰って来たのか?」
「あ、はい・・・・・・」
小宵ちゃんが頷くと、幸江さんが俺を指差しながら言った。
「おぼっちゃま、こちらの方が孝おぼっちゃまのかつてからの知り合いだと言うんですが、本当ですか?」
「ん?」
幸江さんの言葉に孝さんは俺の顔を見た。
当然だが俺と孝さんは全くの初対面だ。
なので俺は
『どうか察してください』
という念を込め、精一杯の愛想笑いを浮かべた。
すると孝さんは今度は小宵ちゃんの方を見やった。
その小宵ちゃんも俺と同じように精一杯の愛想笑いを浮かべる。
そして孝さんは一瞬考えた後、幸江さんにこう言った。
「うん、彼とは昔からの知り合いだよ」
「ええっ⁉で、ですが私の記憶では、孝おぼっちゃまに彼のようなお知り合いは居なかった気が・・・・・・」
「そりゃあ幸江さんが知らない僕の知り合いだって沢山居るさ。
小宵には彼を迎えに行ってもらっていたんだよ」
「そ、そんな事納得できません!そもそも素性の知れない者をこの屋敷に入れる訳には!」
「僕の知り合いをそんな風に言われるなんて心外だな。そんなに僕の事が信用できないの?」
「い、いえ、決してそういう訳では・・・・・・」
「僕は今から彼と積もる話があるんだ。幸江さんはもう持ち場に戻ってくれていいよ」
「ですが・・・・・・はい、かしこまりました」
色々と言いたい事がありそうだったが、それを飲み込むように頷き、幸江さんは屋敷の中に入って行った。
とりあえず、助かった。
孝さんが機転の利く人で良かった。
と胸をなでおろしていると、その孝さんが俺に爽やかな笑みを浮かべて言った。
「じゃあ、積もる話は僕の部屋でしようか」




