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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た3  作者: 椎家 友妻
第二話 言伝の真相
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1 小宵ちゃんの朝食

 翌朝、洗面所で顔を洗って食堂へ行くと、ちゃぶ台を囲んだ()()さん達が、パクパクと朝食を食べていた。

 「おはようございま~っす」

 と言いながら食堂に足を()み入れ、ちゃぶ台の前にあぐらをかく俺。

今日のメニューはご飯とみそ汁、そして大根おろしが()えられた焼き鮭。

沙穂さんがいつも用意してくれる朝食はトーストがメインの洋風がほとんどなので、こういう純和風の朝食は珍しかった。

なので俺は沙穂さんに言った。

 「朝食に焼き鮭が出るなんて珍しいですね。俺がここに来てから初めてじゃないですか?」

 それに対して沙穂さんは、ニッコリほほ笑んでこう返す。

 「今日の朝食はね、小宵(こよい)ちゃんが作ってくれたのよ」

 すると台所の方からきゅうす(・・・・)を持った小宵ちゃんが現れ、顔を赤くしながら言った。

 「皆さんのお口に合うかどうかは、分からないんですけど・・・・・・」

 「すごくおいしいよ。鮭の塩加減はいいし、お味噌汁もいいダシが出てる」

 「ホンマホンマ!こんなにおいしい朝ごはんが作れるやなんて、小宵ちゃんは立派なメイドさんや!」

 小宵ちゃんの言葉に、美鈴(みすず)矢代(やよ)先輩がそう返す。

すると小宵ちゃんは照れくさそうに肩をすくめながら、

 「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 と(つぶや)くように言った。

ちなみに小宵ちゃんは今日もメイド服を身にまとっている。

まあ他に着替えを持ってきていないので、それを着るしかないというのもあるだろうけど。

 そんな中沙穂さんはこう続けた。

 「小宵ちゃんはここに居る間、炊事(すいじ)洗濯(せんたく)やお掃除も手伝ってくれる事になったの。

私はいいって言ったんだけど、本人がどうしてもって言うから」

 「タダでお世話になるんですから、このくらいは当然です」

 と小宵ちゃん。

う~ん、まだ十四歳だというのに、何てしっかりしてるんだ。

この子の爪のアカを誰かさんにも飲ませてやりたいぜ。

と思いながらチラッと美鈴の方を見やる俺。

するとその美鈴は

「ごちそうさまでした」

と言って立ち上がり、

 「じゃ、私は先に学校に行きますから」

 と、(きびす)を返して食堂を出て行こうとした。

するとその背中に、小宵ちゃんが(あわ)てて声をかけた。

 「い、行ってらっしゃいませ、美鈴(・・)(・・)()

 「えぇっ⁉」

 その言葉に思わずつんのめりそうになる美鈴。

しかしそれを何とかこらえ、小宵ちゃんの方に振り向いて言った。

 「お、お嬢様って、何で私をそんな風に呼ぶの?」

 それに対して小宵ちゃんは、おずおずとした口調でこう返す。

 「そ、それは、今の私は(さわ)(なぎ)(そう)のメイドなので・・・・・・」

 なるほど、だから沢凪荘の住人である美鈴は、小宵ちゃんからすればお嬢様という訳か。

しかし美鈴がお嬢様とはケッサクだ。

そう思った俺は思わず吹き出して声を上げた。

 「あっははは!美鈴がお嬢様だなんて似合わねーっ!」

 すると美鈴は(かん)(ぱつ)いれず俺にブチ切れる。

 「うるさいわね!あんたにそんな事言われる筋合いはないわよ!」

 「お嬢様と呼ばれる女の子は、そんな風に怒鳴り散らしたりはしないと思うぞ?」

 「これはあんたのせいでしょうが!」

 「あ、あの、お二人とも、喧嘩(けんか)はダメです・・・・・・」

 俺と美鈴の言いあいに、ハラハラしながら口を(はさ)む小宵ちゃん。

しかしそんな事に構わず、矢代先輩が嬉々(きき)とした口調で小宵ちゃんに言った。

 「ねぇねぇ小宵ちゃん!ウチの事もさっきのみっちゃんみたいに呼んでみて!」

 「え、や、矢代お嬢様・・・・・・」

 「やったーっ!これでウチもお嬢様やーっ!」

 小宵ちゃんの言葉にもろ手を上げて喜ぶ矢代先輩。

するとそれに続いて沙穂さんも小宵ちゃんに言った。

 「ね、ね、小宵ちゃん。私も私も♡」

 「え、え~と、沙穂、お姉様・・・・・・」

 「いや~ん♡小宵ちゃんは本当にいい子ねぇ~♡」

 そう言って小宵ちゃんの頭をなでる沙穂さん。

一体何なんだこの状況は?

小宵ちゃんに『お嬢様』とか『お姉様』って呼ばれるのがそんなに(うれ)しいんだろうか?

俺にはさっぱり分かんねぇ。

 とか思っていると、矢代先輩が小宵ちゃんにこう言った。

 「じゃあ今度はお兄ちゃんの事も呼んであげて?きっと喜ぶと思うから」

 「ええ?お、俺はいいですよぉ。別にそんな風に呼ばれても嬉しくないですし」

 俺は両手を横に振りながらそう言ったが、小宵ちゃんは俺の方に向き直り、顔を赤らめながら言った。

 「ご、ご主人様・・・・・・」

 ご主人様、ごしゅじんさま、さま、さま、さま・・・・・・。

 俺の頭の中で小宵ちゃんのセリフが何度も響き渡る。

そして、素直にこう思った。


 悪くないですね・・・・・・。


 「バッカじゃないの」

 恍惚(こうこつ)の表情を浮かべる俺に美鈴は冷たくそう言い放ち、さっさと食堂から出て行った。

一方の俺はそんな侮蔑(ぶべつ)の言葉など一切気にならず、これからのここでの生活が少しだけ楽しみになったのであった。


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