一人じゃない
最初はカム視点で途中からロザリア視点です。
静けさが漂う。
一体何かあったのか分からなくて呆然するグレン様
そして涙を流しグレン様を怒る様に見つめるリリー様。
でも怒りが段々と悲しみに満ちる。
「…もう…やめましょう?」
「な、なんで…君が…?」
握っていた剣が落ちた。
グレン様は徐々に狂気を帯びた覇気が無くなり、まるで迷子の子供みたいにリリー様を見つめる。
「…私は貴方に傷ついてほしくない。これ以上貴方の本心を殺さないで…?」
リリー様はグレン様の片手を取り、両手で包み込む。
「グレン、私たちは同じ理由の傷を持っている。…だけど私はそんな理由で貴方と一緒にいる訳ではありません。…私は貴方が好きだから一緒に居たいと願った。大切だから貴方の元に居るの。グレンを守りたいから…。」
「リリー…。」
「…貴方をここまで追い詰めてしまったのも、元々の原因は私達ブロッサム家…“私”の存在が貴方を苦しめている。貴方が私に拘るのも…全部。このまま貴方を苦しめるぐらいなら私は消えた方がいい。」
悲痛な表情のリリー様に驚く。
グレン様を追い詰めて苦しめている原因はブロッサム家とリリー様?
二人が苦しむ事情にブロッサム家が関わっている?
…でもこれだけでは何のことか分からない。
二人の成り行きを見守るしかなかった。
「違う!」
悲痛に話すリリー様をグレン様は抱き締め叫んだ。
「君だって俺と同じだ!あいつに…似ているだけで…狙われて。俺だってリリーが好きだ。君がいれば何もいらない…君がいるから耐えられた。俺は…リリーを離したくない。」
「…私も貴方と離れたくない。だから貴方と一緒に抵抗すると覚悟を決めたの。でも今の貴方は自分が心赦せる人達を傷つけています。“グレン”として見てくれる大切な友人。どうか心を偽って壊さないで…?」
「…リリー。」
懇願するリリー様はグレン様の本心を理解して共にいた。
グレン様が傷つかない様に。孤独にならない様に。
その気持ちが伝わったのかグレン様はリリー様と共に座り込む。
悲痛に顔を歪め、リリー様を強く抱きしめ離さない。
二人は共通する苦しみがあって耐えていた。
グレン様が心を病むほどの苦しみは、リリー様の心を痛める程のもの。
二人は執着し合い殻に籠る。
それは駄目だ。
二人の元に歩み寄る。
「…グレン様とリリー様がお互いを必要としている事は俺たちも承知しています。貴方からリリー様を引き離そうと思っていません。俺達はただ友人として…家族として貴方をみています。」
リリー様の言う様に少しでも心を赦してくれていると言うなら、俺の本心を知ってほしい。
「今の貴方は周囲の人達だけではなく自分まで傷つけている。そして…貴方の大事なリリー様まで傷つけているのです。そんな辛い姿を見ていて俺は胸が痛くなります。」
リリー様を傷つけるのを最も嫌うグレン様は苦しそうに表情を歪める。
お互いに執着するのは、誰も味方が居ないと絶望したから。
だからここまで警戒が強い。
心を開かず人を脅かすほどの刃を纏うグレン様。
グレン様がこれ以上傷つけない様に寄り添うリリー様。
二人にとって俺達は本気で頼れる存在と思われていない。
信用して貰えないのが哀しい。
「…俺だって貴方達を守りたい。」
リリー様を抱き締めるグレン様の手が震えている。
そんな悲しい姿を眺めているだけなんて嫌だ。
「俺はグレン様とリリー様が苦しんでいるのに無視など出来ません。俺はどうにかして貴方達を助けたい。力になりたいのです!」
絶望しても助けを求めて欲しい。
どうか手を伸ばして欲しい。
「…グレン様、リリー様、話して頂けませんか?お二人がそこまで苦しむ理由を教えてください。」
苦しむ心を二人で抱えず、俺達に分けて欲しい。
静けさに包まれる。
でもその時間は短い。
「…話してどうなる?お前がどうにかできるほど力を持っているのか?」
顔を上げずにグレン様が問う。
でも皮肉を言うグレン様はいつもの彼だ。
さきほどの殺気と威圧が感じられない。
「…それを言われると辛いですが、どういう結果が出ようと俺は二人が大切なのは変わりません。裏切ると思えば貴方達の盾に使って貰ってもいいですよ?だから利用してください。」
「お兄様!?」
リリー様が顔を上げて悲痛に叫ぶ。
例えでも俺を思いやる優しい子だ。
グレン様はまだ複雑な表情を浮かべてじっと俺を見ている。
信用していいのかどうかを窺っているようだ。
「俺はそれだけ本気という事ですよ?それにもし上手くいけば、貴方の悩みを解決する事によってリリー様の憂いを取り除くことが出来ます。…前に貴方は言いましたよね?『リリー様には幸せに笑っていて欲しい』と…その言葉に今も変わりはありませんか?」
「…。」
反論が無いということは変わっていないのですよね。
全く素直ではない。
「だったら猶更です。思いつめないで頼ってください。…貴方は一人ではありません。」
その言葉が届いたのか、グレン様は考える様に俯いた。
ゲームではヤンデレ設定であるグレン様。
心が病むほど執着するにも必ず理由がある。
執着という殻に籠って自分を守っているのだ。
その理由がどれだけの脅威か分からない。
けれどグレン様は踏み出さなければならない。
自分の幸せを掴む為に…
愛する存在が彼を支えている。
仲間の存在が彼の背中を押す。
あとは彼が自分で殻を破るしかない。
暫らく沈黙が続いた…が、ようやくグレン様は顔をあげる。
その眼には迷いがない、決心したようだ。
「…お前は前にブロッサム邸で俺に言ったな?…結局、俺は自分で壊せなかった。」
一瞬、何を言われているか分からなかったが、ふと過去の記憶の中に引っかかるものがあった。
ああ、あの時の事を覚えているのですね?
グレン様が奥様の侍女を殺そうとしたあの時、俺が貴方を止める為に放った言葉。
< “リリー様は貴方と同じだから蟠りを取り除くことが出来ない”。でも…それを破って抜け出すことが出来るのは貴方自身です。誰も貴方を救えない。>
この言葉はヒロイン・アンジェラの言葉で、その後に
『私なら歌で貴方の苦しみを助けられるわ?』
というのだが、俺は言葉を付け直した。
…覚えていたのですね?
「そんなことはありません。最後に破るのはグレン様です。俺はただ貴方の手助けをするだけですよ?」
囚われ続けた蟠りは他人では決して解決できない。
開放できるのは自分の決意だけだ。
グレン様は静かに頷く。
「…そうか…。…カム…傷つけて悪かった…。」
リリー様を放してグレン様は頭を下げる。
ようやく落ち着きましたね。良かった。
「大丈夫ですよ。」
俺たちのやり取りに安心したリリー様はジュリア様の元へ向かった。
「…ジュリ、大丈夫ですか?」
「平気よ?」
座って様子を見ていたジュリア様は不貞腐れる様に頬を膨らませて起き上がる。
「全く…あんたは…困った事があるなら我慢せずに相談しなさい!余計に迷惑がかかるでしょ!?」
「ううぅ…。はい、ごめんなさい…。」
ジュリア様のいう事はご尤もだ。
黙っていれば余計に複雑になる。
「…でも、婚約者様も目が覚めてよかったわね?…こんな狂人がリリーの婚約者なんて認めたくないけど、リリーは好きなんでしょう?」
「…ええ。私の大切な人なの…。」
リリー様は頬を赤らめて頷く。
本気で彼を慕っている事が分かった。
「でも私は嫌よ?今からでも考え直して欲しいぐらいだわ!」
「…ジュリ…。」
リリー様は項垂れた。
『あああっ、なんていう事を!?』
文句を言うジュリア様にグレン様は思いっきり睨んだ。
折角、いい方向へ行こうとしているのに、水を差して駄目ですよ!?
険悪な二人に慌てていると温室に数人の人影。
誰か入ってきたようだ。
振り返るとそこに居たのはロザリア様だった。
「リリー!!」
ロザリア様がリリー様の顔を見るなり矢が放たれたように走り出す。
そんなに勢いよく走ると嫌な予感が…不味い!
「お嬢様、止まってください!!」
止めようとする前にすでに事遅し。
案の定、ロザリア様はリリー様とジュリア様を巻き添えにして盛大に倒れた。
「あたたたっ…」
「やはり、お嬢様は阿保ですか…?」
余りにも猪のお嬢様にため息をつく。
一緒に来たルーベルト様達はそんな状況をみて苦笑していた。
・・・・・
「…痛いわ!?」
着ている燕尾服はドレスと違って、動きやすい。
つい走るスピードが上がってしまった。
リリーとジュリアは大丈夫かしら…?
リリーとジュリアは案の定、倒れている。
「いたたっ…痛いですよ?」
「…お姉様がこんなに早く走れるとは思いませんでした。」
ジュリアとリリーは上半身だけ起き上がる。
痛そうな顔をしているけど、何とか無事の様だ。
「無事ではありませんよ?公爵令嬢なのに、その猪っぷりをいい加減に何と出来ませんか?成人になっても野生的令嬢のままなんて、とても王子妃になれませんよ?」
カムがクドクドと説教する。
こんなところでしなくていいのに!?
「し、仕方ないでしょう?リリーが逃げるかもしれないと思って焦っていたんだからっ。」
「だからと言って、止まれない程突進する令嬢はいないと思うが?王子妃以前の問題だ。」
リリーを起こすグレンまでため息をつきながら嫌味。
カチンときた。
「あんたがリリーを閉じ込めるからいけないんでしょ…」
…あれ?
グレンが普通に話をしている?
わたくしに対立姿勢だったグレンが…?
「なんだ?」
今のグレンは、いつも嫌味を言って揶揄うグレンだ。
「な、『なんだ?』じゃないわよ?急に敵意剥き出しになれば、急に元に戻って…混乱するじゃない!?」
「…ああ。」
何て事もなさそうな返事…腹が立つ!
「ロザリア」
「何よ!?」
喧嘩なら買うわよ?勿論、倍返しだわ!
「…悪かった。」
・・・。
はい?
グレンがわたくしに頭を下げる。
何が…一体、何があったの?
「お姉様…心配をかけて、本当にごめんなさい。」
理解が出来ず目が点になっているところに、リリーまでわたくしに頭を下げる。
「…リリーまで?…まあ、心配をかけたと言うのはその通りだけど…二人とも…大丈夫?」
二人が謝る姿に戸惑ってしまう。
ずっとこの二人は、わたくしの元から離れてしまう気がしていた。
それがとても不安で仕方なかった。
「カム、上手く説得ができたんだね?」
「いえ、俺だけでは駄目でしたよ。フレッド、ジュリア様がいたからこそ、二人は考え直してくれました。」
カムの話だと、無事に説得が出来た様だ。
「それより、この人達はどうするのですか?」
シリウスがマーカス家の従者と侍女を指摘すると、ジュリアは青褪める。
「ああ…やっぱりやりすぎたかしら?」
悪気なさそうに言うジュリア。
わたくしたちがいない間、この子は何をしたのだろう?
「ねえ、お義父さん、一緒に医務室まで連れて行きましょう?」
「…あ、うん。そうだね。」
『フレッドがお義父さん?』
また謎ができた。
わたくしが悩んでいると、ジュリアはニッコリと微笑む。
「この人は私のお義父さんなんです。という事で、私たちはその二人を医務室に連れて行きますのでごゆっくり?」
「ジュリ。」
「リリー、今度ゆっくり話してよ?…じゃあ、またね?」
引き留めるリリーにジュリアは微笑み次の約束をする。
そのまま行ってしまった。
…ああ、何となく分かった。
ジュリアはリリーを心配して来たんだ。
だけど今はリリーの事情を敢えて聞かない。きっとわたくしたちへの配慮だろう。
次に会う時に聞くという事にして、リリーがいなくならない様に約束をした。
リリーを想って。
何て優しい子なんだろう…?
「リオ、男性一人ではお二人を運べません。一緒に行きましょう?」
様子をみていたマリアンはマリオットに手伝うように声をかける。
「ちょっとまて、この格好で運ぶのか!?」
「えー?なら僕も手伝いますよ?マリオット嬢はまだダンスが残っていますからね?」
マリアンと嫌がるとシリウスが肩を叩く。
「私も着いて行こうかしら?」
シリウスとナージャまでこの場を離れようとした。
「グレン、いっぱい迷惑をかけたのですから、これは一つ貸しですよ?」
シリウスが悪戯顔で微笑んだ。
グレンはバツの悪い顔しているけど、仕方ないわよね?
全員がいる中だと、グレンは何も話してくれない。
今この場に居るのはわたくしとカム、ルーベルト様、リリーとグレンだけだ。
「グレン、話してくれないか?何故リリー嬢をマーカス領地に閉じ込めたんだい?そして君も変ってしまった…その理由を?」
ルーベルト様がグレンを問いかけると、グレンは俯く。
「…グレン。」
「…ああ。分かっている。…話すよ。」
覚悟を決めているのかグレンはリリーに頷く。
「…だが、ロザリア…お前が聞くのは止めておいた方がいい。」
「え?」
聞かない方がいいってどういう事?
「何よ!?こんなにわたくしに心配かけておいてその言い分は?リリーが関わっているのに、今更わたくしをのけ者にするの?」
「別にそうじゃない。…だが、お前は少なからずともショックを受ける…。お前がリリーを大事だと思うなら猶更だ。」
「…。」
グレンはわたくしを気遣っているの?
でもリリーが暗い表情になっている。
それ程ショックを受けるものだろうか?
でも…だからって引くわけにはいかない。
「大丈夫だわ。何があっても受け止めるわよ?さぁ話してちょうだい!」
ドンと胸を張ると、グレンは呆れた顔をする。
「…お前は本当に猪だな?」
「…グレン様、お嬢様のフォローは俺が対応しますので大丈夫です…。」
カムっ、呆れた顔してわたくしをフォローしないで頂戴!
「リリー…。」
「私は大丈夫ですよ?」
グレンとリリーは見つめ合う。
今はイチャイチャするところではないだけど…?
グレンはわたくし達に視線を向けた。
「…俺たちはグレイス・マーカスに対抗する為にある計画をした。」
公衛大臣であるグレイス・マーカスに対抗?
「彼が思い留まらない場合は、私達は彼を陥れるつもりです。」
衝撃が走る。
それって…どういう事!?
お読み頂き有難うございます。




