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同じのようで違う世界


「では参りましょう?」


アンジェラが気づかないところで待機しているアレスに合図を送り、ルーベルト様とアンジェラに手を差し伸べた。


「な、何でロザリア様が一緒なのよ!?」


「何故と?それはわたくしがルーベルト()()()の執事ですから、ね?」


「…うん。そ、そだね?」


「あら、ルーベルト様。どうして顔を引きつらせるのですかね?」


とはいえ、文句は言わせないわ?

こんな美しいご令嬢を守る執事ナイトが居ないとおかしいでしょう?


そう言って説得すると、アンジェラは凄く嫌な顔をしている。


…ああ、わたくしがルーベルト様を独占している様に見えるのかしら?


「フフ…ご心配なく、アンジェラ様も本日はわたくしがエスコートさせて頂きます。是非、素敵なお嬢様方を()にエスコートさせてください。」


紳士の礼をすると、アンジェラは慌ててそっぽを向いた。


それも顔を赤らめている。


何かあったかしら?


「そ、そ、そんなこと、しなくても、いいい、わよ!!」


もしかして不評かしら?


ザハラン先生仕込みの男性マナーは結構クラスで好評だったのだけど、アンジェラはお気に召さないかもしれない。


「女たらしー」


後ろでアレスが面白そうに笑っている。


「??」


何故笑われるか分からないから、その答えを求める様にルーベルト様へ視線を向けると、彼は顔を背ける。


「???」


余計に意味が分からなった。


でもアンジェラも大人しくなった。


これは良しとして、そろそろ行かないと不味いわね?


渋々ついてくるアンジェラとルーベルト様の手を取って微笑む。


そのままわたくしたちは待合室を出だ。


そして通路を進んでいるとマリアンとマリオットの姿が見える。


何度も見ているが、二人とも素敵な姿だわ?


「あれ…マリオット様!?」


アンジェラも彼らを見てとても驚いている。


『素敵でしょう?』


心の中で呟いた。


何せ全学年の女子生徒に大人気なマリアンの執事姿に、男の中の男というマリオットがあんな強めの巻髪を流したうえ、フリルたっぷりのベビーピンクのドレスを着ている。


頭の大きな赤いリボンがポイントよ?


二人に合図するとマリアンは頷き、逆にマリオットは凄く嫌そうな顔して頷く。


マリオットの不機嫌な理由は、このままマリアンにエスコートされる事なんでしょうね。


再び彼らに視線を向けると、二人は申し訳なさそう表情へと変わった。


多分リリーの事だろう。二人に心配をかけている。


でもカムがいる。


信じなければ…きっとカムならリリーを止めてくれるわ。



『…カム、リリーをお願いね?』



時間もない…アンジェラは父親から呼ばれている場所に向かう。


でもその前に、女子生徒からやっかみが来るのだ。

グレン(orシリウス)に寄り添うアンジェラに学園祭でもはしたないと責められる。


それを攻略対象者が守り、ヒロインの安全確保の為にラストダンスまで付き添うのだ。


という事は、今からアンジェラは女子生徒に絡まれる…が、そんなことはない。


だって、わたくしとルーベルト様がアンジェラと一緒に居る。


そしてわたくしがアンジェラをエスコートしているなんて誰も思いもしないだろう?


ほら、いつも嫌味を言う女子たちが、わたくしとアンジェラが一緒に居る姿を見て困惑しているわ。


でも何故かしら?

あの子たちは顔を赤くしながら悔しそうにハンカチを噛んでいる。

しかも羨望と嫉妬が混ざった目の女子生徒が多い多い。


どうして?


「それは美男子な君がエスコートしているからじゃないかな?…別の意味でアンジェラ嬢は嫉妬されると思うよ?」


これは嫌がらせを止めるのは難しそうだね?と困り顔のルーベルト様が小さく話す。


…またわたくしの顔を見て心を読まないでください。


文句を言いたいのを我慢して、アンジェラと共に目的の場所に向かった。



・・・・・



「どうしてあんたがここに来るって、知っているの!?」


アンジェラがヒステリックに叫ぶ。


ここは学園の玄関口であり来賓の待合場所だ。

学園祭が始まって来賓も迎えも終わった為か人気はない。


「ここに僕たちは用事があるからだよ?」


荒れるアンジェラをルーベルト様は優しく答えるが彼女は納得しない。


「ねえっ、ずっと思っていたけど。ロザリア、あんた“転生者”なのでしょう?あんたとルーベルト様や他の攻略対象者が仲良しなんておかしいわ!!絶対そうよ!」


アンジェラは物語の解決シーンの様に指を突きつける。

わたくしが犯人だと暴く探偵みたいね?


『あら、いやだ。ジュリアから勧められた小説の読みすぎかしら?』


心の中で苦笑する。


それにしても本性丸出し。

もういいのだろうか?


「…そんな大きな声で言わなくても聞こえるわよ?でも残念。わたくしは“この事”を知らなかったわ。だから違うわよ?」


「嘘よ!じゃあ何で、こうもイベントが無いの?何でシナリオどおりじゃないの?悪役令嬢のあんたがルーベルト様を洗脳したんでしょ?でなきゃ、いつも二人でベッタリしてないわよね?他の対象者だって悪役令嬢と仲がいいし、それしか考えられない!」


成程、洗脳と来たか。


確かにアンジェラからしたら、わたくしとルーベルト様は通常時でも一緒にいるから、いちゃいちゃしている様に見えるだろう。

ルーベルト様は常にアンジェラから距離をあけていたから、わたくしが洗脳していると思っても不思議ではない。


それにシリウス達とマリオット達は既に問題を解決しているから仲良し。

これもわたくしが入れ知恵したと考えても可笑しくない。



アンジェラの言う事はある意味間違っていないけど、全てわたくしが行っているというのは不正解だ。


だってわたくしだけで動いても、シナリオを変えるどころか切っ掛けも作る事が出来ない。



「…ねえ、アンジェラ。例えここが、貴女が言う『物語』の世界としても、必ずそのとおりになるとは限らないわ。だって“転生者”は貴女だけとは限らないでしょう?」


「!?やっぱりあんたがそうじゃないの!」


「アンジェラ嬢、静かにしてくれないかい…誰か来たよ?」


「え?」


一斉に振り返ると一人の男性がこちらに向かってくる。


「ああ…お義父様よ。お父…」


アンジェラがフェルファ子爵に声を掛けようとした瞬間、子爵の後ろで黒いマントを着た男が子爵の首に小剣を突きつける。


「!?」


「聖女・アンジェラだな?ついて来て貰おう。」


とうとう来た。アンジェラを狙う者。


それも子爵を捕らえている男の後ろに複数のマントを被った怪しい人いる。

やはりシナリオと一緒で計画的な犯行ね?


「お、お義父様!?」


アンジェラは悲鳴をあげる。

この子、最初からこうなる事を知っているのに、演技が上手いこと。


「ルーベルト様…。」


「…大丈夫。ちゃんと指示はしているからね。」


ルーベルト様が小さく合図を送ると、突然アンジェラがルーベルト様に縋りつく。


「ルーベルト様、お義父様を助けて!」


「…。」


ドレス姿のルーベルト様に助けを求めるとは何とも滑稽な話だが今は仕方ない。


まずは相手を捕えることが先決だから。


「大丈夫だよ。心配いらない。」


ルーベルト様が微笑むとアンジェラは嬉しそうに微笑み返す。


「こんな時に女同士の美しき愛か?早くしろ!」


「ちょっと、ルーベルト様は女じゃないわよ!茶々入れないで!!」



‥あら?ルーベルト様が哀しそうな顔している…なんで?


え?王子として沽券に関わる?


そんなことは今気にする場合ではないでしょう?


わたくしとルーベルト様で静かなる会話をしていたら怪しい者が声を荒げた。


「煩い、早く…っ!?」


子爵を捕えている男がアンジェラたちに気を取られていると、男の後ろに気配を消したマリアンが現れて男の腕を斬りつけた。


油断した男は子爵を放してよろけた。


周りの怪しい男達がマリアンに襲い掛かるが、彼女は華麗に躱して応戦する。

多勢に対して臆面もなく悠々と対処する彼女はとても凄い。


そしてマリアンが動いたと同時に、マリオットとアレスが動いた。


マリオットはドレスを着ながらも相手を力業で倒す。

重力型だけど、動きは速い。


アレスも小柄な体形を生かして素早く相手を仕留める。

彼はマリアンに近い戦い方だ。


でもこの緊張感漂う空間で、衣装を纏う三人が戦うのは何とも言えない。


…それは言わないでおこう。


彼らのお陰で綺麗に片付いた。


「流石、騎士たちだ。鮮やかな腕前だよ?」


嬉しそうにルーベルト様は微笑んだ。

横でアンジェラが固まっている。


丁度良いタイミングで警備隊が駆けつけて彼らを捕らえることが出来た。


あとは尋問すればいい。



残るはリリー…。


「ルーベルト様、カムの元に行きましょう?」


「待って、僕たちは演目があるよ?」


カムと合流しようと足を向けたらルーベルト様に止められた。


そうだ。まだわたくし達の演目が終わっていない。


でも…リリーが居なくなってしまう様な気がして焦る。


すぐに行きたい。わたくしは我慢するしかないの?


「ルーたちの演目は大丈夫ですよ?まだ当分後ですから。」


突然、聞き覚えのある声が聞こえた。


視線を向けると、そこには魔法使いと魔女の姿をしたシリウスとナージャが歩いてくる。


「シリウス、ナージャ。」


「リリーの所に行くのでしょう?僕たちが何とかしましたから行きましょう?」


何とかしたってどういう事?


「シリウス様が生徒会に言って学園祭のラストダンスの前にプログラムを変更して貰いました。だから時間はまだあります。」


安心してくださいと言い微笑むナージャに、わたくしとルーベルト様は驚いた。


わたくしたちのクラスだけ変更?

一年生の演目を最後の花形にまわしたの!?


「シリウス、どうやってそんなことが出来たんだい?」


「そんなに難しい事では無かったですよ?まぁ…ルーが王子な事とロザリア達の演目のテーマではなければ、話が通るのは難しかったとは思いますが。」


詳しい話を聞くと、わたくし達のクラスは第二王子とその王子妃になる者がいるという事で最初から注目がすごかった。

そして、わたくしたちのテーマが『お嬢様と執事』。

男女交換のダンスと言う異色の演目が、学園祭の前から凄い話題になり更に注目を浴びたそうだ。


そんな事で、『お嬢様と執事』のダンスを見たいと言う者が殺到し会場に入らないと言うアクシデントが発生。

シリウス達の演目が始まる前に、一時中断してしまった。


講師たちが困っていたところ、シリウスはわたくし達の事を考え、ザハラン先生に会場を変えてはどうかと進言したそうだ。


“第二王子殿下がいるから、このクラスだけプログラムの最後に変えて、その間に準備と来客の安全を確保すればいい。”


通常なら贔屓なしで順番通りに進行を進めないといけないが、混沌する状況から生徒・来賓・お客を守らなくてはならない。


その提案はザハラン先生を始め他の講師たちに納得させた


シリウスは講師を味方につけて、今度は学園長と生徒会長のレザード様に直談判しに行った。


学園長は問題なく許可を貰えたが、問題は生徒会長。


レザード様は反対した。

だけど副会長のレティシア様は賛成してくれた事で、何とか関係者全員に許可を貰えたそうだ。



「…僕を上手く使ったね?流石シリウス。」


「こういう時の王子でしょう?おかげで時間が出来たのです。感謝してください。」


苦笑するルーベルト様を少し意地悪そうに笑うシリウスは手を差し伸べる。


「これは…なに?」


ルーベルト様が戸惑っている。


シリウスったら、何をするのかしら?


「勿論、僕がルー()をエスコートするのですよ?勿論、受け入れてくれますよね?」


「「 … 」」


とてもウキウキなシリウス。


信じられないような眼でわたくしとルーベルト様は見てしまった。


揶揄っている?


いや、そんな風にみえない。


ナージャが面白くないと言うように頬を膨らませる。


「…シリウス様はずぅーとルーベルト様のお嬢様姿にメロメロです!」


「え?」


小さく抗議するナージャの声に、ルーベルト様は固まる。


でも当の本人は気にしていない。


「ロザリアはナージャを頼みますよ。しっかりナージャをエスコートしてくださいね?」


「もう、シリウス様ったら!…ロザリア、エスコートしてくれる?」


ナージャはシリウスにぷんぷんと怒っても、わたくしに上目遣いで甘えた様に見てくる。


ナージャが可愛い…。


「頑張ったから褒美をください」とルーベルト様に素敵な笑顔を向けるシリウスに腹は立つけどね?


わたくしとルーベルト様は否も言えず頷いた。


「こちらも片付きましたので行きましょう。リオ、大丈夫ですね?」


「くっ、まだこんな恰好をしなければならないのか!?」


アンジェラを攫おうとした男達を片付けたマリアンたちが戻ってきた。

どうやらシリウス達の話が既に伝わっている。


「ええ、カムの元に行きましょう。」


「ちょっと待ってよぉ!!」


わたくし達の後ろから叫び声。

振り向くとアンジェラがわたくしを睨んでいるではないか?


「どうして私を無視するの?こんなのおかしいわよ!」


まだこの世界をゲームだと信じているアンジェラ。

でも無事に賊を捕え解決した今はアンジェラに構っている余裕がない。


彼女はアレスに任せているからこの後も大丈夫だろう。


だからずっと言いたかったあの言葉をアンジェラに伝える。


「アンジェラ、ここは貴方の知る物語じゃない。わたくしたちは現実の中で生きているの。いくら同じ名前で育ち方も同じでも皆違う。貴女もどうか目を覚まして?」


その言葉を聞いて呆然とするアンジェラに優しく微笑みそのままこの場を去った。


今はあの二人を止めたい。

何かに囚われ苦しみ続けるグレンと、執着の鎖に繋がったリリー。


わたくしの大切な家族と友だから助けてあげたい。



お読み頂き有難うございます。


次はカム視点になります。

(この回とカムの回は同時進行なので話がごちゃごちゃになっているかも…。)

宜しくお願いします。

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