シナリオに抗う
途中からカム視点になります。
あの時は何も思わなかったけど、彼もサポートキャラだったとは。
そのレザード様が自らアンジェラを庇護し学園側に申し立てをしていた。
彼女は元庶民だから貴族の習わしを知らない。
だからこそ多少の行き過ぎた行動には目を瞑り、今後の学園生活に支障しない様に彼女の変な噂を立てないと箝口令を強いたそうだ。
これだけ聞くと、わたくしはどうなる?と言いたくなる。
ある意味ひいきだ。
生まれつき貴族なら悪い噂をされてもいいのだろうか?
「お嬢様の場合は、ただ他の人が勝手にお嬢様の為にやっている“親切心”という事で片付けられているそうです。」
全くもって迷惑な話だ。
やはり自分の事は自分で解決するしかないらしい。
「それなら何故、生徒会はアンジェラを守らないのかしら?」
生徒会が率先して彼女を保護すれば問題ないはずなのに。
「恐らく彼女を付け狙う者も含めてルーベルト様に委託しているのでしょう。シナリオどおりなら、2学期にルーベルト様達は生徒会に入ります。その際にヒロインも生徒会に入るのですよ。それで辻褄を合わせています。」
聖女アンジェラを虐めと人攫いの脅威から守れる。
都合の良いシナリオだ。
「ヒロインも生徒会に入るの?…というより入れるの?通常なら優秀の人以外は駄目じゃない?」
疑問に思う。
この学園の生徒会はとりわけ優秀の人材しか入れない。
生徒会に入る為の条件は、人望が厚い事。学力に優れている事。対話・処理能力に優れている事の3つに該当するする人だ。
家の財や身分の高さだけでは選ばれない。
攻略対象者達はこの3つの条件をクリアしている。
「彼女はその条件をクリアしていません。ですが、愛嬌が良く周りを癒すと言う理由で生徒会に入れます。」
アンジェラだけ特別枠だ。
「…それだけでも、嫉妬の対象になりそうね?」
生徒会は学生にとって名誉ある仕事だ。
それで保護のために生徒会の1枠をアンジェラにとられるわけだから、普段から頑張っている人は面白くないだろう。
「マスコットキャラ的に癒しとして存在しているので、そこまではないらしいみたいですが、やはり居ない訳ではありません。例えばルーベルト様のそばにいられる事で嫉妬するゲームのお嬢様の様な人もいます…。」
「わたくし、別にルーベルト様の傍に誰が居ようと嫉妬しないわよ?」
何故そこまで細かくルーベルト様に執着しなければならない?
カムが残念そうに項垂れる。
「…今のお嬢様ならそうかもしれませんね?…たまにそれいいのかと疑問に思いますが。攻略対象者達は中々の美男子なので憧れる人は多いのでは?それだけでも嫉妬する女性も出るでしょう?」
嫉妬したらいけないと言ったのカムでしょ?
しかし成程。
名誉ある生徒会の仕事より、憧れの人達の近くに居れる特権が女子たちを煽るのか…。
「まだまだ前途多難ね?」
「そうです。」
わたくしたちがため息吐くと応接室のノックが鳴った。
「遅れて済まない。」
「ルーベルト様、お疲れ様です。」
ルーベルト様が入ってきた。
そして応接室のソファに深く座り珍しく大きく息を吐く。
『疲れた顔を見せるなんて珍しい…。もしかして、ルーベルト様もアンジェラ絡みのアクシデントでもあったのかしら?』
シリウス達と同じ状況。
アンジェラの強硬手段でもあったのだろうか?
でもルーベルト様は否定する。
「…彼女は違うよ?でも例の件で少しね…?」
「例の件…聖女護衛の件ですか?」
ルーベルト様の詰まる言い方でカムがすぐ察する。
「…彼女の護衛を決めたよ。そろそろ予定通り彼女にその話をしようと思うんだ。」
ルーベルト様はわたくしとカム交互に視線を向ける。
護衛を決めたという事は、ルーベルト様とマリオット・グレンの3人の誰か?
シリウスは恐らくないだろう。
「…どうするのですか?」
「前にも言ったけど僕たちでは無い。幸い学園に居て腕が利く相手は意外と困らないよ?ただ彼女の面会時だけど、この時はロザリアは連れて行けない。」
アンジェラが他国に狙われている事は国家機密。
王家とその関係者以外には彼女を悪用されないように知らされていない。
だから本来知らされていないはずのわたくしが、王子達の面談についていけない。
「…わかりました。」
「その代わりカム、君が来てほしい。」
「俺、ですか?」
どうしてカム?
…もしかしてカムを彼女につけるのではないでしょうね?
「…ロザリア心配しなくていい。カムはあくまで学園側の公認人として来てもらう。本来なら学園長に来て貰うのだけど、それをカムに変えて貰ったんだ。勿論学園長に僕の内密の側近として学園に潜入していると伝えてあるからすんなり通ったよ。」
「ん?」
公認者として居るのは安心したけど、その先の言葉が何故か引っかかる。
何故カムがルーベルト様の側近?
わたくしの事を案じて臨時講師になったのに、何故ルーベルト様の内緒の側近として潜入しているとなっているのか?
「ロザリア…そこを気にされると困るんだけど。カムの側近の話はあくまで建前だよ?学園長には僕の側近と言っていた方が怪しまれなくて済む。」
「わたくしは何も言っていません!」
もう!さっきからわたくしの顔ばかりみて話しているなんて!!
文句は言葉に出させてほしいわ!?
わたくしの文句にカムが苦笑しながら頷く。
「…そうして頂いた方が助かります。お嬢様が付き添うと、後に問題になる可能性あります。彼女がどう動くか分かりませんから。」
カムはルーベルト様達の話し合いに参加すると同意した。
「じゃあ決まりだ。明日彼女をここに呼び出すよ。」
わたくし達は頷き今日の話し合いを終わらせようとしたが、肝心なことを聞いていなかった。
「あの、ルーベルト様?アンジェラの護衛は一体誰をつけるのですか?」
「ああ、ごめん。実はね…」
・・・・・
翌日の夕方。
職員会議を終えていつもの応接室に向かった。
「ルーベルト様、お待たせしました。遅くなり申し訳ございません。」
「ああ、まだ大丈夫だよ。彼女は来ていないからね。」
「ルーベルト殿下、何故あいつの従者がここへ来るのですか?この件は内密のはず。」
ソファに座るルーベルト様にマリオット様が怪訝な顔して質問する。
そんな彼にルーベルト様は苦笑しながら説明をした。
相変わらず俺の事を邪険にしているなぁ。
お嬢様の前だと意外と普通にしているみたいなんだけど。
お嬢様の躾が効いたんだと思うが、それでも婚約パーティーからのマリオット様は随分丸くなった。
マリアン様と話し合ってようやく沼底から抜け出した。
今は従騎士でも揉め事も起こさず任務に励んでいると聞く
。
これならばすぐにも正騎士に戻れるだろうとルーベルト様は言っていた。
その事にマリアン様は喜んでいた。
学園では男の騎士の中でマリオット様以上に実力を持つ者がいないから敢えてルーベルト様の護衛をいる。
やっかみがあるだろうが、すぐに他の騎士達にも認められるだろう。
「…理由は分かったが、ルーベルト殿下とロザリアと言い、なぜこいつが特別扱いなんだ?納得できん!」
「別に特別でも何もありませんのでやっかまないでください。俺としては逆にお嬢様がマリオット様とマリアン様に護衛して貰えて安心しています。すぐ問題事に突っ込むお嬢様なのでよろしく頼みますね?マリオット様。」
「そんな事は分かっている!だが、あいつが悪い噂を立てられているのは知っているだろう?お前が居るのに何もしないのが腹立つだけだ!」
おや?
もしかして俺に突っかかるのはお嬢様の為?
「…不甲斐なくてすみません。俺も動きたいのですが、訳があって内密で教師している以上、表向きにお嬢様の助けが出来ません。だからこそマリオット様にお願いしたいのです。…お嬢様をお願いします。」
ふんっ。と俺から視線を外しそっぽを向く。
マリオット様は正義感は強い。そしてお嬢様を信頼している。
攻略対象者とはいえ、お嬢様を良く思ってくれている事は何よりもシナリオに打ち勝つ布石だ。
お嬢様たちが入学してからこの四ヶ月、早々とアンジェラ嬢の素性が露になった。
お嬢様はアンジェラ嬢を警戒しているけど、俺とルーベルト様が警戒しているのはヒロインではない。
ヒロインの裏でシナリオ通りに動かす何かだ。
その正体を知って止めないとお嬢様がシナリオ通り破滅してしまう可能性がある。
色々と考えていると応接室の扉からノックが鳴った。
部屋に入ってきたのは当然…
「ルーベルト様っ、アンジェラ来ました!」
ヒロイン、アンジェラが元気よく部屋に入ってくる。
「…お呼び出しして申し訳ないね?アンジェラ嬢、どうぞこちらに。」
はぁい。とアンジェラ嬢は元気よくソファに座った。
でもすぐ怪訝な顔をする。
マリオット様と俺しか居ないのが気づいたのだろう。
小声で「あれっ?シリウス様とグレン様は?…それに学園長じゃない‥。」と聞こえた。
隠す気ないな、この子は…。
最初から無邪気すぎて分かりやすい。
本当にヒロインだろうか?
「ルーベルト様、内緒のお話ってなんですか?」
目をキラキラさせてルーベルト様を見つめているアンジェラ嬢。
その表情には『早く私の恋人になってください』と言わんばかりだ。
ボロ出しすぎなヒロインにルーベルト様は苦笑する。
まぁ…何でも露骨すぎて逆に憎めないですよね?
アホな子ほどかわいいと言うし…そういう面では少々お嬢様に似ている。
「君の養子先であるフェルファ子爵から保護申請がきて王室内でそれが通った。それは君も聞いているね?」
「はい!そうなんですよぉ。私、実は生まれ育ったところに居た時から変な人たちに誘拐されそうになったことが何度もあるんです。それもフェルファ家に入ってもそれが続いて…お義父様が心配して王室に保護をしてもらう様に依頼したです。ルーベルト様、私は普通の女の子なんです!ただ歌うのが好きなだけなの…。」
目を潤めて訴えるアンジェラ嬢。
この人、ゲームのセリフを一気に喋ったよ…
「なのになのに怖い人から何度も追いかけられて…学園に入っても、怖い人が外にいて…学園でも嫌がらせがあってどうしたらいいのか…ねぇお願い王子様、助けてくだい!!」
ヒロインは事情を話すけど、途中過去の体験が彼女を震えさせて所々言葉を詰まらせて時間を掛けるのだが…
この子の話は、めちゃくちゃ明るい。
世間話をする様だ。
攻略する気あるのか不思議だ…。
「そう…それは大変だったね?僕も君の事情は聞いている。それで昨日、国王陛下がアンジェラ嬢に護衛をつけよと命じられたんだ。今日はその話をする為に君を呼んだ。」
「はいっ!」
ルーベルト様は随分演技達者だ。大俳優になれそう。
引き込まれる程、憂いが分かる。
そして逆にアンジェラ嬢は演技下手。
…そんな露骨に喜ぶヒロインが居るか?
俺は二人の会話を聞きながら突っ込みを入れていった。
マリオット様もアンジェラに対して何か言いたそうだが、意外と堪えている。
ルーベルト様にしっかり言われたのだろうなぁ…?
「君の相手なんだが…。」
「私、ルーベルト様がいいです‼」
・・・。
空気が一気に冷え込んだ、様な気がした。
それぐらい空回りをしている。
ルーベルト様も固まっているし、マリオットは眉毛を吊り上げて口をヒクヒクさせながら固まっている。
怒りを通り越して言葉を失っている様だ。
ルーベルト様は気を取り直すようにケホンッと咳をし、再びアンジェラ嬢に向き合った。
「…すまないが僕はこの件を一任されているとはいえ、普段は学務と公務を行っている。授業には出ているけど、学園にいない時が殆どだから君の護衛は出来ないよ。」
「えー!?今は学園にいるのだから王子の仕事は必要ないでしょ?…もう、じゃあシリウス様かグレン様でいいよ?」
マリオット様が震えている…。
不自然がないように素早く彼の隣に行き、落ち着けと肩をポンと軽く叩いた。
「二人とも侯爵家だし、お金持ちだもん♪」
小さな声が届いた。
隠す気もないアンジェラ嬢が怖い。
所詮は玉の輿狙いか?
それも昨日シリウス様にあれだけ啖呵をきったのに、もう忘れているのか指名するところがすごい。怖いもの知らずなのか、単純に素敵な頭なのか?
「いいや、シリウスは辞退すると話があった。同じくグレンも護衛は出来ないと辞退があった。」
「嘘!そんなシナリオはないわ…あっ!何でもないですっ。」
そう、本来のゲームのシナリオは4人選べたはずだけど、現実はそれはない。
正確にはシリウス様、マリオット様、グレン様の3人を選んでほしいとルーベルト様か言い。ヒロインが3人とも選ばなかったらじゃあ僕はどう?とルーベルト様が提案する。
3人の内、だれを選んでもルーベルト様と常に接触するからゲームのお嬢様はヒロインに嫉妬する。
しかしグレン様が断ったのは意外だった。
まだ彼の場合は終わっていないのに…。
でも、リリー様の件で変わったかもしれない。
あと残るはマリオット様…。
「…じゃあマリオット様でお願いします。」
「断る。俺はルーベルト殿下の護衛だ。」
渋々アンジェラ嬢はマリオット様の方に視線を向けるとマリオット様もすぐさま断った。
「…だそうだよ?」
「ねぇ待って!?じゃあ誰が私の護衛をしてくれるのですか?」
苛立ちを隠せない様に声を張り上げるアンジェラ嬢。
やはり物語と違う事に焦りを感じるのかルーベルト様相手に平気で突っ掛かる。
「護衛の事は心配しなくて良い。君に紹介しよう…待たせて済まない、入っていいよ。」
ルーベルト様の声に応じる様に扉から誰かが入ってくる。
入ってきた青年はルーベルト様達と同じ同級生でアンジェラ嬢と同じクラスの人だ。
「失礼します。僕はアレス・リスナー、この度は聖女護衛の任を承り誠に光栄です。殿下の信頼に応えられるよう誠心誠意尽くします。よろしくお願いします。」
青年といってもまだ少年と言って良いほど、幼い感じがある薄栗色の可愛らしい青年だった。
お読みいただき有難うございます。




