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悪役令嬢は従者と離れたくない

マリアンの話を聞いて、少しだけ心の整理が出来た気がする。


カムは大事な従者…こんな関係をどの言葉が相応しいか分からないけど、心赦せる相手だわ。


だからわたくしは彼がレティシア様と仲良くする姿に嫉妬したの。


『本当ならカムの出会いを喜ぶべきだと思う。でも嫌なものは嫌。』


この胸の痛みは単純な気持ちじゃない。


でも、だからってカムに八つ当たりをするのは良くないのは分かっている。


『カムはこんな私を見て呆れているかしら?それとも…嫌う?』


わたくしから離れてしまうのかしら?


『それは…嫌。』


謝らなきゃ…


意志を固めるとドアからノック音がした。


マリアン様が赴き衛兵と何かを話している。


「お迎えが来られたようです。」


マリアン様がそう告げる


お迎え?お父様かしら?


入ってくる人をみるとそこにはカムがいた。


「…カム。」


「お嬢様…。」


お互いを見ながら固まっている。


まるで時が止まったかのように


謝らなければと思うのに、言葉が上手く出てこない。

カムも何も話してくれない。


「カム様は会場から直接来て下さったのですね?ならば少しこちらで休憩されてからお戻りになられたらどうですか?」


マリアンが雰囲気を察してカムに提案する。


「あ、そうですね。はい。少し休憩させて貰えますか?」


提案にカムが賛成と言わんばかりに頷いた。


「分かりました。では私は外で待機しておりますので、何かありましたらお声をかけてください。失礼します。」


マリアンはそう言いって部屋を後にした。


この部屋にいるのはわたくしとカムだけ…。


『マリアンはきっとわたくし達の為に気遣ってくれたんだ。』


マリアンの気遣いを無駄にはしては駄目だ。


「…座ったら?」


「そ…そうですね。」


カムは何処かよそよそしくて表情が硬い。


それもそうよね?…わたくしはカムを突っぱねたもの。


だからこそ謝らなければ。

カムはわたくしを心配して来てくれたのだから…。


「カム…あのね…わたくし…」


「お嬢様!」


謝ろうとしたらカムの声が勢いよくわたくしの言葉をかき消した。


必死な表情したカムが少し怖くて何か言いたげだ。


そんな顔にする程、わたくしは嫌われたのかしら?


でもカムの次の言葉で頭の中が真っ白になる。


「お嬢様。例えお嬢様がルーベルト殿下に傾倒されていても俺が必ず貴女を悪役令嬢にはさせません!ヒロインがいくらルーベルト殿下を狙ったとしても、俺は必ずお嬢様を破滅させません!必ず貴方を守ってみせます。だから俺を貴方の傍にいさせてください!」



・・・。


…はい?



「…カム…えっと…その……なんの話をしているの?」


「ロザリア様が悪役令嬢になったから、俺が貴女を止めるという話です。」


こ、これは冗談ではなさそうだ。


わたくしがカムに謝ろうとする前にカムが斜め傾いた発言で色々と飛ばされた。


カムはわたくしを嫌っていない。

それは安心した。


でも…


カムは悪役令嬢と言ったわね?


「……カムは今のわたくしが悪役令嬢だと思うの?」


「そうです。お嬢様は先ほどからずっとルーベルト殿下に夢中でしたからね。…なってしまったのは仕方ありません。ですが、ここからは俺が対策を打って破滅しない様にさせますから安心してください!」


わたくしが嫉妬している間、カムはわたくしが悪役令嬢になったと思っていた。

わたくしがカムとの別離を怖がっていたのに、カムはわたくしを悪役令嬢になっても傍にいて守ると考えてくれていた。


カムは離れていてもわたくしの事を考えてくれて…


喜びに身体が震える…。


…でも…


「カ…カムの…。」


「お嬢様?」


「カムの馬鹿ぁぁぁぁ!!」


大きく叫んだ事で部屋が揺れた。


「お、お嬢様!?」


当然カムは目を丸くする。


でもそんな些細な事など気にしていられない。


席から立ちズカズカとカムの元へいった。


わたくしの行動にカムも驚いて席を立つ。

そんなカムに両手をグーにしてポカポカと何度もカムの胸を叩いた。


「カムの馬鹿、馬鹿!何でいつもカムはそうなの!?貴方がいるならわたくしが悪人になるわけがないでしょう!?カムと一緒に頑張っているのよ?…だからなるわけがないじゃない!」


「いや、強制力があるので何とも言えませんが…。でも今のお嬢様をみると確かに何も変わっていませんね?」


わたくしの怒りに圧倒されても、カムは悪気もなく失礼ない事を言う。


本っ当に腹立ってくるわ。


「当たり前でしょう、馬鹿!…先程わたくしが怒ったのは、カムがレティシア様と楽しそうに踊っているから嫌だったからよ。」


「…え?」


「…普段、カムはわたくしと踊ってくれないじゃない。なのに、レティシア様なら踊れるのかと思ってすごく嫌だったの…。」


従者が主の娘に易々触れることはない。

カムの立場上は仕方ないけど、気軽に踊れるレティシア様にわたくしは羨んだ。


それに、二人はとても輝いていた。

誰もが目を引く程のお似合いのカップルで…わたくしは嫉妬した。


「…だからカムがわたくしを探してきたときにあんな酷いことを言ったわ…。」


カムが驚いた顔したまま固まっている。

そうよね?だって子供のようにムキになったもの。



「いつかカムがわたくしの従者を辞めて誰かと結婚するのは分かっているけど、まだわたくしの傍にいてほしいの。我儘だってわかっているけど、まだ離れてほしくない…。

だから…怒鳴ってごめんなさい…お願いだからもう少し傍にいて…。」


言葉に出していくとまた目頭が熱くなり視界が涙で曇る。

頬に涙が伝って落ちた。


そんなわたくしをカムは驚いていたけど次第に優しい顔して微笑んだ。


「…お嬢様は子供ですね?」


「う、煩いわ!」


段々恥ずかしくなる。

子供みたいに泣いて縋るなんて…。


「俺はロザリア様の傍にいます。貴女が大人になって幸せになると分かるまでは必ず傍にいますから。…安心してください。」


はにかむ様に微笑み頭を優しく撫でるカムにまた涙が溢れた。


「絶対よ…。」


カムのジャケットに顔を寄せて抱き着いた。




今だけは貴方を独占させて…?



・・・・・



そして暫くたち…



「落ち着きましたか?」


「ええ。もう大丈夫よ。」


立ち直ったわたくしは一先ずカムから離れてカウチに座る。


「結局、あの令嬢は何だったのかしら?」


「俺にも分かりません。今取り調べを行っているそうなので、後に分るでしょう…。」


カムも彼女の行動に疑問を持っている。


疑問に思うのは無理もない。

こんな王家の婚約パーティーの日、警護はかなり厳重にされている。

そんな日にわざわざ狙ってこなくてもいいのに…おかしいわ?


「本当にお嬢様は何かされていませんでしたか?」


「何もされていないわ。すぐにマリアンが取り押さえてくれたから問題なかったわよ?」


「それならいいのですが…。」


カムは安心したように一息つく。


「この件は一件落着かしら?」


「いえ、まだ警戒はしましょう?…もしかしたらという事もありますから。」


もうお開きの時間帯。


でもそう言う時間こそ狙われやすい。


そうね。と頷いた時、ノックの音が鳴った。


返事をするとマリアンが入ってきた。


「お茶は如何でしょうか?」


「有難う。」


マリアンはテーブルにお茶を置きわたくしとカムの顔をみて微笑んだ。


「お話が出来たようですね。良かったです。」


「…ええ、マリアンのおかげよ。ありがとう。」


お礼を言うとマリアンは嬉しそうに笑う。


「いえ、私は何もしていません。ただ、私たちみたいに拗れてしまったらと思うとついお節介をさせて頂きました。」


切なそうなマリアン…マリアンはマリオットの事を考えているんだ。


出来ればマリアンのわだかまりを解いてあげたい。

自分を犠牲にしなくてもマリオットと和解が出来ればいいのだけど…。


「ねぇ、マリアン。」


「はい?」


「…貴女はさっき、マリオットが立ち直る為なら自分が犠牲になるって言ったわよね?…本当にそれでいいの?」


わたくしの問いに、マリアンは静かに頷く。


「…もしそれで彼が立ち直ったとしても、…マリオットはもう一人の親友を失うのよ?本当にそれでいいの?」


「…。」


マリオットはまた親友を失うのだ。


彼の本心が分からない。

けど、大切な親友を失ってまで騎士の誇りを欲しるか?


「マリアン…わたくしなら貴女をそんな理由で失いたくない。少しの時間しか共にしていないけど、わたくしは貴女を護衛ではなく友人だと思っているの。ううん、“リアン”と友達になりたい。だから…もっと自分を大切にしてほしい。」


「…ロザリア様…。」


マリアン様は目を丸くしてじっとわたくしを見つめている。

わたくしの言葉は信じられない?


「…駄目かしら?」


不安でじっとマリアンをみつめると、少しだけ哀しそうに顔を歪めそして優しく微笑んだ。


「…ありがとうございます。私も貴女みたいな素敵な友人が出来て嬉しいです。こんな私でよければお願いします。」


マリアンは嬉しいと言ってくれるけど、それでも自己犠牲はやめないのかしら…?


やはりマリアンとマリオットの問題はわたくしたちで解決するのは難しいかもしれない…。でも、何か二人に出来るはずだ。


諦めたりしない。


「リアン、わたくしは貴女の味方だから何かあったら絶対に相談して?友達だもの、今度はわたくしが力になるわ。カムそうよね?」


カムも当たり前と言わないばかりに強く頷く。


「勿論です。マリアン様、俺も協力させて頂きます。」


その言葉を聞いたマリアンは嬉しそうに頷いた。


「二人とも有難うございます。」


その様子にわたくしたちも釣られて嬉しく笑う。


「さぁ、そろそろ出ましょう?外でリリー様達が待っています。長く待たせてしまいましたから心配しているかもしれません。」


「え?リリーが来ているの?」


迎えに来たのはカムだけではなかったの?


「そうですよ。リリー様とグレン様がお嬢様を迎えに行くよう俺に背中を押してくれたのです。お二人にも心配かけてしまいましたので、早く安心させてあげないといけません。」


どうやら妹達にも心配をかけたらしい。


リリーはわたくしの妹だから心配してくれるのは分かるけど、あのグレン様がわたくしたちを心配するなんて…信じられない。


でも、お礼は言わないと…ね?


「じゃあ行きましょう?」


3人で部屋を出た。



・・・・・


部屋の外に出ると、辺りは静かになっていた。


リリー達はどこに行ったのかしら?


周囲を見渡すとリリーとグレン様が庭にいた。

二人だけかと思ったらもう二つの人影がある…ナージャとシリウスだ。


四人で楽しそうに話をしていた。


わたくし達が四人の元に行くと、気づいた4人はにこやかにわたくしたちを笑顔で迎えてくれる。


「ロザリア、幼子みたいに臍まげていたそうですね?カムさんを困らせて仕方ない人です。」


楽しそうに言うシリウスにキッと睨みつけた。


「臍まげていないわよ!」


笑うシリウスをどうお仕置きするかと考えようとしたときにナージャがフォローに入る。


「シリウス様がロザリアをすごく心配していたの。ロザリアがおかしいって私よりも早く気づいて、カムさん達の後を追ったぐらいですから。」


暴露するナージャにシリウスは「シー」と慌てて繕う。


…意地悪のシリウスが心配ね…?


むず痒い気分になった。


「お兄様、ちゃんと話せたのですね?良かったです。」


「はい。リリー様の言う通りでしたね。俺も思い違いをしていました。…恥ずかしい限りです。」


カムが苦笑しながらリリーの頭を撫でると、もっと撫でろと言うばかりにリリーが甘える。


不思議な話、妹がカムに甘える姿に嫉妬しない。


リリーが仔兎に見える所為かしら?


妹はわたくしにも普段から同じ様に甘えるから良く分からない。


逆にある男が面白くなさそうに甘えるリリーをカムから引き離した。


「猪の機嫌が直って良かったですね?流石は飼い主。」


ある発言にぴくっと耳が動く。


「グレン様、それをお嬢様に言ってはいけません!」


カムが急に慌てる。


「あはははっ、グレン上手いですね?確かにカムさんはウリ坊令嬢様の素晴らしい飼い主です!」


シリウスまで同調。



猪?……それって、わたくしのこと?



「…ねぇ、グレン様?猪って誰の事かしら?教えて下さらない?」


わなわなと手が震える。


…以前ルーベルト様から猪のぬいぐるみを貰ったけど…あれもわたくしの事を指していたのかしら?


「他に誰がいる?あと俺の事を無理して様とつけなくていい。俺も面倒くさい…いや、俺の場合は猪の姉上と呼ばないといけないか?」


将来俺の義姉になるからと、さらりと爆弾を投げられた。


何処から修正したらいいのか分からないぐらい、色んな意味で怒りが込み上げる。


「ふ、ふざけるんじゃないわよ!!」


静かになった城の庭にわたくしの叫び声が大きく響いた。

勿論、カムに怒られたのは言うまでもない。


お読み頂き有難うございます。

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