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幕間 悪役令嬢の休日

「あーもう、ようやく解放されたわ!」


カレントス領から帰ってきて3日後。


帰ってきた日を含めて丸二日間勉強漬けでかなりわたくしは消耗していた。


「お姉様お疲れ様です。でも急に予定が変更になったので、ハーン達が大変だったのですよ?」


「分かっているわよ…。」


リリーが苦笑している中、お茶をグイッと飲み干す。


今日は妹とお茶をする。

中々出来ない貴重な時間だわ?


「私もハーンにこの館を任せてばかりなので人の事は言えませんけど…」


「それは仕方ないじゃないの?貴女はお父様の仕事をしているでしょう?」


指摘すると妹は苦笑する。


リリーは亡き母の仕事を一人で全てこなしている為、領地と王都を行き来している。


元々母とフレッドについて手伝っていたお陰なのか、父よりも要領よく対応できており領民に厚い信頼がある為に父から任されていた。


我が妹ながらしっかりしている。


本当はカムが領地の事を任される予定だったが、彼は別件で忙しいらしい。

カレントス領に行く前もそうだったが帰ってきてからも居ない事が多い。


一体何しているのかしら?


「でもお茶会で素敵なご縁があったと聞いています。カレントス家のご令嬢はどんな方でしたか?」


「ナージャのこと?ええ。とても優しくて良い子よ。良い友が出来たわ。是非リリーも紹介するわ?」


ナージャは優しくて健気な子だわ。


今度ナージャが王都に来たら一緒にお茶をしようと約束している。

きっとリリーを受け入れてくれるだろう。


「嬉しいです。その方は年齢が一緒で学園入学時もご一緒ですよね?」


「そうよ。あとシリウスも一緒ね。あとルーベルト殿下とグレン様も一緒かしら…。」


なんという面子。


ナージャとルーベルト様だけなら全然良いのだが、あの嫌味な二人が一緒と思うと波乱が起きる気がしてならない。


でももう一組忘れていた。


「あとマリアン様も一緒ね?もう一人のマリオット様も一緒らしいけど…彼の事よく知らないから、どこかで話が出来ればいいけど…。」


婚約パーティーに護衛として会うらしいから、知り合っておかないといけないわ。

カムが言う攻略対象者の一人だもの。

破滅を回避するために親しくしておかないとね!


「…友人が沢山いて羨ましいです。」


羨ましそうに言うリリーだが、表情はなんだか嬉しそうだ。


「…そういう割には嬉しそうね?」


「ふふっ、今のお姉様はとても素敵です。お姉様は昔と違って親しみやすいですから…。」


リリーは嬉しそうに話す。

昔は友人など作るような雰囲気ではない冷たい印象だったと。


「…そうかしら?」


わたくしは変わったつもりはないけど、妹から見ればだいぶ丸くなったらしい。


「ええ。きっとお兄様のお陰ですね?」


お兄様…ああ、カムね。

わたくしが13歳の誕生日を迎えた以降、リリーはカムの事を『お兄様』と呼ぶ。


「なんでカムなのよ?」


「だってお姉様、お兄様が一緒にいる時はとても楽しそうです。お兄様と話しているお姉様はとても恋する乙女で可愛いのですよ?」


「リ、リリー…姉に向かって可愛いなんて…。」


妹の言葉に肩を落とす。


しかも恋する乙女。

まるでどこかの熟年婦人から言われている気分だった。


普段は仔兎な癖に…


「だからこそ気になるのですが、お姉様はルーベルト殿下と婚約をこのまま続けても宜しいのでしょうか?…本当は望んでいないのでは?」


「!?」


お茶を飲もうとカップに口付けた瞬間、爆弾を墜とされる。


飲まなくて正解だった。

絶対に噴き出す。


「な、なにを言っているのよ?」


「だってお姉様は殿下に関心がありません。お父様からお姉様が望んで妃候補したと聞いていますが、婚約が決まったのにルーベルト殿下と殆ど面会していませんよね?あちらもお姉様に会いに来ないから、余りにも冷め過ぎています。」


はぁとリリーはため息を吐く。


通常なら王族の婚約者は世間に見せつける必要がある為、婚約期間中は王子と交流をする。

それはあらぬ噂や批判を出さない為だ。


だけど、それをわたくしたちは平気で行っている。

ルーベルト様が公務で忙しい理由を盾にしているけど、普通ならあり得ないと思うのは仕方ないだろう。


「殿下が頻繁に隣国へ行っているから仕方ないわよ。相手が多忙なのに我儘を言って困らしてしまうのも令嬢としてはしたないわ?」


ゲームのわたくしは我儘を言っていたそうだけど、現実のわたくしは全然違うわ?


多忙な王子を静かに見守る婚約者として品の良さが際立っている。


ふふん。と小さく笑った。



「普段、仕事で少し遅れたお兄様を叱るお姉様のセリフだと思えません…やはり早々と婚約解消に向けて準備をした方がよさそうですね?」


憐れみの目をした妹は静かに呟く。


その呟きはわたくしの届くことはなかった。


すると扉からノックがしてカムが入ってきた。



「あらカム、今日は帰りが早いわね?」


「お帰りなさいませ、お兄様」


「只今戻りました。今日は用事が少なかったので早かったです。」


普段からそんなに用事が多いのなら、お父様に言って仕事量を減らして貰おうかしら?


そんな風に考えている中、カムがリリーに手紙を渡していた。


「グレン・マーカス様からお手紙を預かっています。」


「グレン様から?ありがとうございます。」


「なんであいつがカムに手紙を?」


人の従者を自分の使用人のように使って…。


あのヤンデレに腹が立った。


「たまたまです。仕事上会いますから…」


「だからって!」


カムの言い訳に文句を言おうとしたら、リリーは手紙を持って席を離れた。


「部屋で読んできます。お兄様、どうぞお姉様をお願いしますね?」


満面な笑顔でそう言って部屋を去った。


「…別にここで読めばいいのに、何かあるのかしら?」



あの子もあの子だ。


グレン様からの手紙にやましいことないでしょうね?


疑うわたくしに対しカムは苦笑する。


「…恐らく大丈夫だと思いますが、それとは別でリリーお嬢様は俺達に変な気遣いをなされているようですね?」


リリーが座っていた場所にカムが座る。


変な気遣いね…?

確かに先程のリリーの話に繋がっているのかもしれない。


別にカムとは何でもないからね?


「ねぇカム、最近いない事が多いけどどこに行っているの?」


「教員認定証の講習に行っているのですよ。」


「へー教員認定証…え!?何で?講師でもなるの!?」


講師認定証は貴族子息子女に教えることが出来る証明証。

それがあれば今後講師として働ける。


「はい。お嬢様が学園に通う時期に臨時講師として入り込もうと思いまして、今勉強中なんですよ?」


「…じゃあ学園にカムもいるの?」


そうだとカムは頷いた。


「学園が乙女ゲームのステージです。だから俺も講師で入り裏からヒロインの動向を見ようと思います。」


カムが学園に来る。

それはうれし…いや、心強い。


「ふ、ふーん。それならしょうがないわね?」


胸が高まるのを誤魔化すようにそっぽ向く。

でもカムは気にしないで別の話を切りだした。



「あと、ハイズ子爵夫人とカレントス侯爵家長子の処遇についてお伝えしていいですか?」


「ああ…やはりハイズ夫人が主犯だったの?」


「ええ。取り調べではハイズ夫人が今回の計画を立てていたようです。」


ハイズ夫人エミーリアがカレントス家の長子ナディルを利用してシリウスに害しようとした。


エミーリアの駒となったナディルはナージャの侍女と牧場の管理人を利用。


狼が好む獲物ばかりいる牧場にたまたま野良狼が襲った。


事故に見せかけようしたらしい。


「三人がいる時を狙ったのは、やはり護衛が居ないという理由です。レイドリック様を隠すために無防備になりますから…その事はハイズ夫人も了承していたそうです。」


「…大事な息子がいるのに何故なの?」


「レイドリック様に自分の立場を理解して貰う為と聞いていますが、実際の所はどうなのでしょうね?…かなりハイズ夫人はハワード侯爵家を恨んでいたそうです。」


自分の欲の為だったのか?

復讐の為だったのか?


結局、自分達が破滅してしまった。 

一言で言えば『愚か』だろう。



シリウスは彼らの処罰を以前告げた処罰で執行するらしい。


でもナージャはそんな弟に一からやり直す様に手紙を送って応援すると言っていた。

会う事は出来ないが、やり直して自分の本当の幸せを掴んでほしいと願って。


レイドリックも自分が幸せな事をいつか直接母親に伝えたいと言っていた。


彼女と会っていないからどんな人か分からないけど、レイドリックの成長した姿をみて欲に囚われた自分を見直ししてほしい。


「しかし、狼だけど私たちもマリアン様がいなかったら危なかったわよね?彼女がいなかったらどうなっていたか…。」


マリアン様の全く無駄のない剣技。

あの細い腕であんな大きい狼を簡単に仕留めた。


彼女がいなかったら私たちは間違いなく怪我を負っただろう。


「…そうですね。俺も彼女の登場に驚きを隠せません。ですが一つだけ確信したことがあります。」


カムは急に真面目な顔をする。


「ルーベルト殿下は転生者かもしれません。」


目が点になる。


ルーベルト殿下が転生者?


「どうしてそう思うの?」


「まず王城のお茶会の件、殿下は既にレゼット夫人を疑っていました。そして奥様の葬儀に殿下はお嬢様の様子を見に来ています。最後は護衛としてマリアン様が来た事ですね?マリアン様は殿下の指示と言っていましたので、これは偶然ではありません。」


確かにそう言われると、事あるごとに殿下の手助けを感じる。


「本番前の出来事は、あくまで本番(ゲーム)をより楽しむ為の設定にすぎません。だからシナリオを知っている者しか考えられません。」


乙女ゲームの内容にならないように、ルーベルト様は陰で動いている。


カムはそう断言するけど…でも…


「それなら、どうして殿下はわたくしと婚約しているの?もしルーベルト様が転生者なら普通ここを回避するわよね?」


本気で回避させるならわたくし達の婚約を回避すれば早い話だと思う。


「それは…確かに、そのとおりなんです…」


カムも悩む様に首を傾げる。


「それに殿下に問いただして違ったら、わたくしたちが逆に疑われるわ。取り敢えずこの件は保留よ?」


まだヒロインにも会っていない。


もし今後、破滅回避するわたくし達の行動に殿下が関わる事があれば、その時に確認すればいい。


「確かにそうですね?…それに今までの出来事で、俺が聞いていたゲームのシナリオと少し違うところもあります。まだ色々と確かめる必要がありますね。」


「…え?違うところもあるの?」


乙女ゲームのシナリオを元に破滅フラグを折っているはずなのに?


カムは頷く。


「はい。最近だとハワード侯爵様が話した事です。妹が持っていた攻略本の人物紹介でレイドリック様はハワード侯爵様の実子でした。だけど現実はハワード侯爵様の弟君の御子です。違うでしょう?」


なるほど。


「奥様の件もフェロー家の親戚が関わっていた事も全く話と違う。ゲームと同じ人物で設定は同じはずなのに…この現実はゲームでは無いと思い知らされました。」


カムは自信なさげに言う


そんな表情に心の中で苦笑した。


私の為に破滅フラグを折ろうと頑張っているカム。

本当なら他人で自分には関係ないのに真剣になってくれる。


…全く、しょうがないわね?


カムの鼻をチョンと触る。


「それはそうよ。ここはゲームの世界だって言われても普通は誰も信じないし、シナリオ通りに人生が決まっているなんて言われたら誰だって怒るわよ?」


わたくし達は今を生きているのに、誰かに作られた人生なんて誰もが認めたくない。


「…はい。俺もそれは嫌です。」


「でしょう?…でもね…カム、貴方が作られた人生を変えようと思った事で、今わたくし達がここに居る。」


カムが動いてくれたからお父様は罪を犯さなかった。


家族の仲直りが出来た。


シリウスとナージャは婚約破棄をしていない。


「家族も友達もいるわたくしは今がとても幸せ。だからわたくしはカムにとても感謝しているのよ?わたくしの為に色々と動いてくれて有難う。」


「お嬢様…。」


乙女ゲームと言う話を知ったカムが色々と考えてわたくしの道を変えてくれている。


別に話がその通りじゃなくてもいいと思う。


それにならない様にどう動くかが大事なのだから。


「だから余計な事を色々と悩まなくてもいいと思うわ?わたくしは貴方を信じているもの。貴方が今後も何かを止めたいなら、わたくしも一緒に付き合ってあげる。このまま進みましょう?」


安心する様ににぃと笑う。


「お嬢様らしいですね?」


苦笑するカム。

どうやら迷いは無くなったようだ。


「はい。まだお嬢様の破滅が無くなったわけではないと思いますので、油断はしません。絶対に回避します。」


それこそカムよ?

気分が良くなったので、お茶菓子のクッキーを口にする。


いつも通りに戻ったのか、カムは意地悪そうな笑顔を浮かべる。


「殿下が転生者かどうかはこれから様子を見ましょう。まずは来年のお嬢様達の婚約パーティーまでに立派な淑女にしないといけませんね。お嬢様頑張りましょう?」


「今でも十分淑女よ!」


あんまりな言葉についクッキーを落としそうになる。

でもカムはいたってヤル気。


変なスイッチが入った様だ。


「いいえ。みだりに男性の顔を触るのは淑女としてどうかと思います。最近の行動も、話し方も退化しておりますので、まだまだマナーを覚えて頂かないといけませんね?今から時間がありますので、ご一緒にお勉強いたしましょう?」


食べ物は落とさないでくださいね?と微笑むカムが鬼にみえる。


う…まさか…そんな展開になるとは…。


唸っているとまたカムが口を開く。


今度は何!?


「…お嬢様、信じてくれて有難うございます。」


優し気に微笑むカム。

つい顔を真っ赤にしてしまった。


「へ?…別に!」


恥ずかしくてカムから顔を背けた。

心臓がドクドクして、まともにカムの顔が見られない。


「ではお嬢様、今からレッスンしましょう。講師を呼んできますね?」


優し気から一転して鬼。

カムはにこやかに部屋を出て行った。


「…カ…カムの馬鹿ー!」


カムに振り回させる身にもなれと思いながら叫んだ。


これで今日は休日で無くなったのは言うまでもない。


お読み頂き有難うございます。





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