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悪役令嬢の婚約パーティーが始まる

また1年後。


15歳になったわたくしは日々を充実に過ごしている。


この一年間、カムが知っている乙女ゲームのシナリオはなく比較的に平和に過ごすことが出来たからだ。


でも、カムが気にしてきたヒロインはやはりフェルファ家に養女としてきたらしい。


シリウスの話だと彼女は市井に居る時から“癒しの聖女”と呼ばれているそうだ。


直接彼女に面会をしようと考えたが、フェルファ子爵当主が面会を拒んでいるらしい。


断る理由はまだ貴族の習わしに慣れていない為、義娘の心境に配慮したいとの事。


わたくし達はなす術もなく、頷くしかなかった。


やはり学園で対峙することになるだろう。


そしてもう一つ。


アンバー伯爵令嬢マリアン様の事だ。


彼女の破滅イベントを回避しようとしたのだけど、既に事遅し。

事件があるイベントは14歳なる前で終わっている。


マリアン様は普段騎士学校に在学中の為、騎士の家ではない一般人は騎士学校に入る事が出来ない。


カムはどうにか出来ないかと探っていたが結局、手が出せなかったそうだ。


それはもう仕方ないだろう。

物語を知っていたとしても、何でもできるわけない。


転生者カムは神様ではないのだから。



そして今に至り、

遂にわたくしとルーベルト殿下の婚約パーティーを迎えた。



・・・・・


「お嬢様とても綺麗ですわ!」


アリアが嬉しそうに絶賛する。


「ふふっ、ありがとうアリア。」


鮮やかな赤の花を金のリボンで結んだように刺繍を施した胸元。

淡い紅色とピンク色のシフォン生地が花弁の様に重なるスカート部分。


プリンセスラインなのに大人っぽくみせるドレスを纏ったわたくしが大鏡に映っている。


長く波打った金の髪もドレスに似合う様に、一つに編み下ろし小さな真珠の髪飾りを散りばめて、首には紅い花の形をした宝石がついた金のネックレスが輝く。


この衣装はすべてルーベルト殿下の贈り物。


…相談一つも受けていないのに、わたくしに合う。


「とうとう、この日が来たのね…。」


ルーベルト様の婚約者として初めて王城の夜会で高位貴族たちにお披露目する。


…緊張するわ。


「お姉様お綺麗です。」


リリーが覗くようにわたくしを見ている。


「有難うリリー、貴女も似合って…どうしたの?」


リリーも今日だけは参加する為、夜会用のドレスを着ている。

白地に濃い蒼色の刺繍とフリルが付いたドレスはとても似合っている…うん。あの男の贈り物ね?


だが、違和感に思うのはリリーの顔。


「…その眼鏡はなに?」


視力が悪くないのに、眼鏡。


「これですか?グレン様が用意してくれたのです。今日は大勢の人が来るので私の顔を見せないでと言われました。」


変装でーす。と楽しそうに小躍りする仔兎妹に頭を抱えた。


「外しなさい!」


「えー!?」


渋々外すリリーにホッとする。


折角今日のリリーは長い髪を両サイドに三つ編みで輪っかを作っていて可愛らしいのに眼鏡が邪魔だ。


あいつ…リリーが可愛いから心配する気持ちは分かるけど、一応主役の家族なんだからね!


「本日はルーベルト殿下が迎えに来てくれるのでしょうか?」


眼鏡をドレスのポケットにしまいながらリリーは質問してくる。


…まさかその眼鏡は持っていくつもり?


「いいえ。お城に着いてからルーベルト様にエスコートして頂く予定よ。だから悪いけどカムの事お願いね?」


「うーん…お姉様はそれで本当に良いのですか?」


リリーは少々不満そうだ。

わたくしの従者だからと気にしているのだろう。


「仕方ないじゃない。カムはクラベル伯爵家の嫡子じゃないから今夜は呼ばれていないのよ?」


わたくしたちの婚約を祝う為のパーティーは高位貴族と中位貴族の当主及び嫡子だけが参加を許されている。


ので、中位貴族であるクラベル伯爵家次男であるカムは参加できない。

普通なら諦めるしかないけど、ある条件なら嫡子ではなくても参加できる方法がある。


それは婦人のエスコート役を受ける事。

貴族出身なら誰でも参加できると言う事なので、リリーのエスコート役としてお願いしたのだ。

 

リリーはグレン様にエスコートして貰いたかったかもしれないが、私の願いに心よく承諾してくれて本当に助かった。


話だと最初はカムにエスコートして貰い、途中でグレン様と一緒に過ごすらしい。


ただグレン様がそれで納得してくれるのかが一番心配だった。

でもリリーに聞くとグレン様は了承してくれたそうだ。


あのヤンデレが素直に了承するとは…疑わしい…。


「それは心配ないですよ?グレン様は大勢いる所はあまり好きではないので、少し遅れてくるそうです。私と一緒に登場すると余計に目立つと言っていました。」


リリー…わたくしの考えを読んだわね?


でも…そうか。

公衛大臣そっくりの息子だからとても目立つ。


「勿論そういう理由もありますが、特に私が…いえ…あっ、そうだわ!お姉様少しここで待っていてくださいね?」


リリーは何を思ったのか、満面な笑顔になり急ぐように部屋をでた。


「ど、どうしたのかしら?」


アリアに問いかけると、彼女は黙って涙を拭く。


…なにかあるの?


疑問に思っていたら、誰かが部屋に入ってきた。


「お嬢様、お支度は終えましたが?」


「あらカム来たの?」


燕尾服を身に纏ったカム。

いつもより大人っぽくて凛々しい。


「先ほどリリーお嬢様から馬車までロザリアお嬢様のエスコートしてほしいと言われて来たのですよ?」


「リリー…。」


苦笑するカムに言われて、わたくしは肩を落とした。


後でアリアが「リリーお嬢様は良い妹君です。」と呟きも聞こえて余計に疲れた気がする。


最近、リリーとアリアが妙に暴走するわ…?


「お嬢様とてもお似合いです。」


「!?」


不意を突かれて顔を真っ赤にする。


「あ、ありがとう…。」


顔が真っ赤になっている事を隠す量にそっぽ向く。


き、急に言われて、は、恥ずかしいじゃない!?


でも目の前の鈍感男にはわたくしの心情は分かっていなさそうで、気にせずに手を差しだした。


「さっ、さあそろそろ時間でしょう?行きましょう。」


「…う、ええ。そうね?」


カムの手を取り部屋を出た。



玄関に辿り着くと既にお父様とリリーが待っている。


「ロージィとても綺麗だよ!」


お父様まで感極まるような表情でわたくしを見ていた。

にっこりと微笑み返す。


「お父様ありがとう。」


「ああ…もうこの日が来てしまったか。私は朝から涙が止まらないよ?」


お父様の男泣き。


まるでわたくしが今から嫁ぐような雰囲気ね?


「お父様、今夜は結婚式ではありませんよ?しっかりなさって下さいませ?」


リリーは窘める様にお父様の袖を引っ張る。


「…いや分かっているよ?でも、ロザリアが正式に殿下と婚約と思うと…何故か涙が出てしまう…。」


また男泣きするお父様にわたくし達はため息を吐いた。


「取り敢えず、主役が遅れるのはいけないので参りましょう?」


急がすカムにわたくしたちは頷き、馬車に乗った。



・・・・・


城の門に入り長い庭を馬車で通る。


城の玄関口の前で馬車は止まりそこからお父様にエスコートしてもらいながら馬車を降りると、多くの使用人と警備兵。そして先頭に見覚えある女の子、マリアン・アンバー様が待っていた。


「お待ちしておりました、本日は僭越ながらわたくしマリアン・アンバーがルーベルト・フォン・バロン第二王子殿下の婚約者であるロザリア・ブロッサム令嬢を護衛させて頂きます。どうぞお見知りおきを。」


マリアン様が騎士の礼をする。


「うむ、ご苦労。」


「ルーベルト殿下は既に待合室でお待ちですので、ご案内させて頂きます」


「分かったわ。」


ここからわたくしと父だけ王家の待合室に行く。

だから妹とカムはここで一時お別れ。


「じゃあまた後でね?」


「はい。先に会場に入って待っていますね。」


「お嬢様もお気を付けて」


カムとリリーは一緒に会場に向かった。


「では私たちも行こう。」


父に頷く。

わたくしたちはルーベルト殿下が待つ待合室に向かった。


・・・・・



「ロザリア、私はここまでだ。殿下に失礼のないようにな?」


待合室の前でお父様がわたくしの手を放す。


「分かったわ。お父様もまた後でね?」


「ああ。」


お父様はマリアン様に振りかえる。


「娘をお願いする。」


「畏まりました。」


マリアン様に任せて父様は会場に向かった。


マリアン様が待合室にいる警備兵に声を掛けた。

警備兵はマリアン様に応じて入る様に許可をする。


扉が開くとマリアン様は一歩部屋に入り騎士の礼をとった。


「ルーベルト王子殿下、ロザリア・ブロッサム令嬢をお連れしました。」


「ありがとう。」


正面のカウチにルーベルト様が座ってマリアンを労う。


久々に姿を見る。

変わらず王妃様に似て抽象的で綺麗なお顔のルーベルト様。


王族の証を示す金糸の刺繍がついた白色の礼装が良く似合う。


彼はまるでお人形の様に無表情でわたくしを見ている。

その隣にわたくしたちと同じ年齢の男が立っていた。


…この人は確か…そうそう、マリオット・カイナンだわ。


攻略対象者の最後の一人。


短髪の銅色の髪に髪と同じ色の瞳。

騎士らしくしっかりした体つきだが、騎士の正装で洗練されうまく隠している。


彼はわたくしを怪しむかのように不躾に見ている。

その目線がやけに気になって彼をみていたら、ルーベルト様から声が掛かった。


「ようこそロザリア、久々に会うね?」


しまった。

王族の前に挨拶を疎かにしていた。


すぐに淑女の礼をとる。


「ルーベルト様お久しぶりです。今夜わたくし達の為に素敵なパーティーを開いて頂けるなんてとても嬉しいですわ。」


殿下に微笑む。


この人、今わたくしを呼び捨てで呼ばなかった?


「このパーティーを開くと言ったのは父上だ。気にしなくてもいい。」


「有難うございますわ。」


久しぶりの会話だけど、事務的というか他人行儀。

婚約を結んでから三年経つ。よくわたくし達はこんな関係で婚約破棄しなかったわね。


やっぱりカムが言うゲームと同じなのかしら?


「…シリウスの言う通りロザリアは顔で語るね?君と会う事はなかったけど、僕は君の事を随時シリウスやグレンから聞いていた。それに君も何かと忙しい様で邪魔したくなかった理由もある。でも僕は再びロザリアと話をする事を楽しみにしていたよ。」


「そ、そうなのですか…?」


弁解の言葉に驚きを隠せない。


取り敢えず告げ口をしたシリウスは後でお仕置きする。


でも殿下は何かとわたくしを気にしていたらしい。


わたくしの事を嫌っていないの?


それにわたくし達の邪魔したくなかったって…。


「殿下、そろそろ移動した方がいいのでは?」


混乱している時にマリオット様が殿下に声をかける。


その声はなぜか不機嫌そう。


「リオ、せっかくの婚約者同士の会話に茶々を入れるのはどうかと思います。時間もまだ十分にありますので勝手に口を挟むのは止めなさい。」


マリアン様は鋭くマリオット様を注意した。

でもそれがマリオット様の癪に障った様だ。


「煩い!本来ならお前は殿下の護衛ではなかった癖に口出しするな!」


噛みつくマリオット様にマリアン様は冷たい視線を向ける。


「静かにしてください。礼儀も知らない貴方ほど不要な人はいませんよ?」


「なんだと!?」


何故かこの場が険悪なムードになる。


どうしてこうなってしまった?


「二人ともやめてくれないか?」


ルーベルト様が席を立ち仲裁する。


「しかし殿下…」


「君たちは僕たちの護衛だ。きちんと任務を遂行してほしい。」


「申し訳ありません。」


「くっ、」


マリアン様がすぐに頭を下げると、マリオット様も納得いかないまま頭を下げる。

主相手に礼儀を弁えているのだろう。


カムが言っていたとおり、この二人は仲が悪い‥?


すでに事は起きたと聞いているが、でもそれが何なのかはまだ詳しく聞いていない。


こんなに仲が悪いなんて思わなかった。


すると扉からノックが掛かり、使用人が時間だと知らせに来た。


「時間だ。そろそろ行こうか。」


ルーベルト様が来てわたくしに手を差し伸べた。

その手に自分の手を置き二人の距離が近くなったところで、ルーベルト様がわたくしの耳元で囁く。


「二人は既にあの状態の仲だ。君はどうする?」


「!?…殿下はやっぱり知って…」


問いかけたけど、殿下は直ぐ耳元から離れたから答えをくれなかった。


…やはりカムが言っていたように、ルーベルト様は転生者?


でも確かめる時間がなく、わたくしたちはそのまま会場に向かう。


…この夜会で何かありそう…。


なぜか胸騒ぎがした。




読んでいただき有難うございます。



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