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悪役令嬢は宰相子息の覚悟を知る

ハワード侯爵の衝撃な一言でわたくし達は動揺する。


ハワード侯爵はエミーリアに嵌められた。

だからハワード家の親族はエミーリアに憎悪している。


「…兄さんはその時に出来た子供という事ですか?」


「いや違う。」


シリウスの問いにハワード侯爵は否定した。


えっ、違うの!?



「…確かに関係は持った。だか、その時のエミーリアは身籠る事はなかった。でもな、あいつは別で保険を用意していた。…シリウス、私には3人目の弟がいた事は知っているな?」


「はい。でもエルバス・ハワード叔父上は病死されています。」


病死と聞いてハワード侯爵は切なそうに目を細めた。


「…レイドリック…お前はエルバスの息子だよ。」


「え!?」


「2つ歳下だったエルバスは学園2年目に入った直後に病死したと世間にそう流したが違う。エルバスは学園入学時からエミーリアに心酔していた。私はいくら止めても聞かないぐらい…。そしてエミーリアと関係を持った。」


だがエミーリアはエルバスなど眼中になく。狙いはハワード家の跡継ぎであるエイベル。


エミーリアは目的を果たしその際にエルバスを捨てて、長子のハワード侯爵に責任を求めた。


「あの女がエルバスを捨てた事で、エルバスは私を憎んで自死を選んだ…。あの女狐を何度殺してやろうかと思ったか…。」


当時のハワード侯爵の絶望が伺える。


「でも女狐の腹にはエルバスの子いる。それにハワード家の沽券に関わるから簡単にいかなかった。だから私が追放した形を取り、その後監視できる様に部下の彼に頼んで子爵家という檻に入れた。王家からの助力もあって女狐の野望を阻止したという訳だ。」


ハワード侯爵は話を終わらせて深くため息を吐いた。


これがハワード侯爵の真実。


その内容にシリウス達は呆然としている。


「僕が貴方の弟の子…。」


レイドリックは小さく呟いた。


「…お前の瞳の色や髪はあいつによく似ている。エルバスにそっくりだ…だからこそ私は弱みだと分かっているのにお前を切り捨てられなかったのだ。しかし女狐は懲りずに今度はそれを利用しようと企んだ。」


ハイズ家の当主から妻に不穏な様子があると聞かされたハワード侯爵は、子供達が利用されないように敢えてハイズ一家をハワード本領に入ることを禁じた。


もし破れば命の保証はしない。


エミーリアに完全に手が届かない事を分からせる為に脅した。


「諦めると期待したが無意味だった。部下から子供たちが干渉したと報告を貰った時に思ったよ。」


狩猟の授業時、シリウスは足を踏み外して転落したところをレイドリックが助けて知り合った。


やはりレイドリックを使って復讐するつもりだとハワード侯爵は落胆したそうだ。


「エミーリアは何も知らないレイドリックを幼少期から洗脳している。子爵がどんなに諭しても幼いころから優しいお前は母親を庇っていた。その母が憎む私達を許せなかっただろう?」


ハワード侯爵の問いにレイドリックは静かに頷いた。


レイドリックは母親から本当の父に捨てられたと聞かされていた。


自分と母を捨てた本当の父は違う女性と結婚して幸せに暮らしている。


母親は日々嘆いていた。そんな姿を見たら十分復讐したいと思うだろう。


「お前がすぐにシリウスに手を出そうとするなら、私は容赦なく処分するつもりだった。でも監視の中でお前はシリウスに何もしない…だから今まで私はお前たちが会っていたのも見て見ぬふりしていた。」


「一つ教えてください。」


話の途中でシリウスが割り込む。


「なぜ兄さんを保護しなかったのですか?兄さんの母親が我々に仇をなすと分かっているならば、兄さんが生まれてすぐに保護をすれば問題なかったはずでは?」


そうだ。レイドリックはハワード家の血を引いている。

それが将来に問題が起きると分かっているなら、レイドリックが生まれてすぐ保護してしまえば問題なかった。

エミーリアも何も出来ないだろう。


なぜこんなやり方をしたの?


「…部下のハイズ子爵が望んだからだ。生まれた子供をどうするか?と話になって、あいつは義父として育てたいと私に言った。」


『愛情を込めて育てればハワード家に復讐したいなどきっと思わない。私はエルバス様の御子をハイズ家の跡取りとして立派な存在にしたいです。』


ハイズ子爵はそう言った。


「…あいつには頭が下がるばかりだ。ハイズ子爵はレイドリックだけに愛情を向けていた。エルバスの代わりではなく自分の息子として…彼の覚悟は言葉で語れないほどすごいものだ。」


理屈は駄目だと分かっていても、色んな想いが絡み合う。

子供のわたくし達に理解できなかった。


「レイドリックが何もしない事で、私はハイズ子爵が上手くやったと思って油断していた。…あの女狐が懲りずに企んで今度はカレントス侯爵家に毒を撒くとはな…?」


ハワード侯爵はエミーリアの動きを把握するのが遅かったと悔しそうに話す。


どうやら彼女はハワード侯爵に気づかれない様にカレントス家に近づいた。


そしてナディルに近づきハワードの事情を吹き込んだ。


もともとナディルはハワード家をよく思っていないから、エミーリアは簡単にナディルを操れたんだ。


そして今日、犯行に及ぶ。


でも疑問になった。


「どうして3人が揃っている時を狙ったのかしら?」


狙いはシリウス。

ナージャとレイドリックが傍にいれば二人にも危害を受けるはず。


「俺が思うには3人揃う時、レイドリック様を隠すためにハワード家の従者を外しています。そこを狙われたかもしれません。」


カムがコソッと教えてくれる。


「それは分かるけど、自分の息子まで巻き込むなんておかしいわ?」

シリウスとナージャだけなら分かる。


でもレイドリックは違うだろう。


「真相は後に分かります。既にエミーリアを捕えるように指示しましたから。」


ハワード侯爵はわたくしの疑問にお見通しみたいだ。


「私の話は以上だ。今度はシリウス、お前の判断で処罰を決めさせて貰おう。」


ハワード侯爵は厳しい目つきでシリウスを見つめる。


「僕がどうするかによって決めるのですか?」


「当り前だ。今回の事はお前が家の決まりを破った所為で起きた事だ。お前が後始末しろ。でなければ先ほど私が保留した件は却下させてもらう。」


押し付けられたシリウスはハワード侯爵を睨む。


シリウスがレイドリックと親しくならなければ今回の事は回避が出来た。


本当にそうなのだろうか?


シリウスは何も言わず俯く。

そんなシリウスをハワード侯爵は失笑する。


「未来の宰相が公爵令嬢に守られては話にならんな?ロザリア嬢はお前たちを引き離さないように必死に私に訴えたのに、お前は何もしないままか?お前にとってナージャ嬢とレイドリックは上辺面の仲か?」


シリウスは顔を上げて父親を睨んだ。


「勝手なことを言わないでください。父上の曖昧な決定が僕達を混乱させているのですよ?もっと早くこの事情を聞いていれば僕達も違う行動が取れたはずなのに…ナージャを…カレントス家を巻き込まなかった!」



「…そうだな。だが既に結果論だ。先に言ってもお前は信じなかっただろう。」


甘えた子供に真実を語っても分かりはしないと鼻で侯爵は笑う


「僕はそんな父上が嫌いです。何も語らない事で兄さんは苦しんだ。兄さんだけじゃない。母上も…貴方の不誠実さによって母上までもが悲しんだ…。後始末しろというなら良いでしょう?」


シリウスは顔を上げ覚悟を決めたようで真っ直ぐハワード候を見る。


「父上、今回のエミーリア・ハイズ及びナディル・カレントスの取り調べは僕が対応します。二人にはそれ相当の罰を受けて貰い、今回の事件に関わった全ての家の処罰を僕が決めます。」


「全員の処罰をお前が決めるか?」


「はい。今後ハワード家に仇を成すなど考えられぬよう徹底的に対応しましょう?そして…僕は事件を止められなかったハイズ家とカレントス家の親族へ罰も考えております。」


それって当事者ではない家族の事よね?…なんですって!?


ナージャに罰を与えるつもりなの?


「ちょっとシリウス!罰ってなによ?なんで…」


「貴女は黙ってください!」


きつい言い方。


でもシリウスの目は『大丈夫』と言っている様な気がした。


「聞かせて貰おう。」


「まず、エミーリア・ハイズはハイズ家を除籍及び修道院に入る様命じます。よって残された親族は彼女との関りを禁じます。同じくナディル・カレントスもカレントス家から除籍。彼はカレントス家に繋がらないところに養子に行ってもらいます。彼も同じく家族との面会を禁じます。」



エミーリアは貴族籍を外してこの国で一番厳しい修道院に行く。

修道院に入ったら最後、一生出られない。


ナディルはカレントス親戚と縁がないところに養子に行く。

未成年と言う理由で罪はまだ軽い。

でも家族に会えず全く知らない土地で暮らすのは子供にとって辛いことだ。


取り調べでまだ二人に何かあるようなら更に重く課せればいいとの事。


二人の家族は失った彼らをみて、罪の意識を持ってもらう。


レイドリックは実母を失い。

カレントスの家族は大切に育てた嫡子を失う。


因みに管理人ワンドとミリア・フェルファも重い処罰が下る予定だ。

少なくても国外追放は免れない。

無論、その家族も止められなかった罰を与える。

処罰は全ての取り調べの後に決めるそうだ。


今後のナディルを想って悲しむナージャに、年に数回のみ手紙を出すことぐらいは許しますとシリウスは言った。


「…随分甘いな。それがお前の後始末か?」


「僕はこれで十分と思います。僕に何もなかったのですし…何より兄と婚約者を離したくありません。二人は僕にとって大切な人です。」


ニッコリと微笑むシリウスに、ハワード侯爵は再び深くため息を吐いた。


「僕は大切な人を守ります。甘い考えだとしても、それが僕の答えです。」


領主の子息に危害を加えようしたことは許されない。

首謀者と実行者、協力者にそれ相当の罰は与える。だけど過剰すぎる罰は必要ない。


シリウスが選んだ結論だ。


でもハワード侯爵がこれで納得するかは分からないけど…


「…いいだろう。」


案外すんなりと了承した!


わたくしは喜ぶが、ハワード侯爵はまだ話を続ける。


「だがお前にも責任を取らせる。レイドリックの追放とナージャ嬢の婚約を切らない代わりに明日から一年間お前たち三人は会う事を禁じる。それがお前の罰だ。」


ハワード侯はそう言って席を立ち扉に向かう。


「…今日だけは十分に語らうがよい。」


シリウスたちに一瞥して立ち去った。


「…。」


静けさが漂う。

気づけば既に外は日が落ちようとしていた。


「シリウス様。」


「…ナージャ、ごめん。こんな結果になって。」


「…いいえ。ナディルはそれだけの事をしたのですから仕方ない…でしょう。でもレイドリック様は…。」


全員がレイドリックに注目する。

暗く表情のまま俯くレイドリック。


「…兄さん。」


「…シリウス二人で少し話をしないか?」


庭に出てほしいとレイドリックに誘われシリウス達はこの場を離れた。



「…シリウス様、レイドリック様…。」


ナージャは哀し気に去った先を見つめる。


それがあまりにもみてられなくて…


「ナージャ、様子を見に行きましょう?」


「え?でも…きっと二人で話をしたいのに私が行ったら…。」


「兄弟喧嘩はした方がいいけど、あまりにも止まらなかったらナージャが止めてあげないと。あの二人を止められるのはナージャしかいないんだからね?」


そうでしょ?とカムに向くとカムは頷いた。


「そうですね。いざという時はナージャ様が叱ってあげて下さい。二人もすぐ仲直りしますよ?」


シリウスとレイドリック。

二人は複雑な思いを抱えている。


だから思いっきり言い合ってスッキリすればいい。

そしてどうか前を向いてほしい。


「ナージャ様。私たちがいますので、貴女の思うままに動いてみましょう?」


マリアン様もナージャを支えると伝える。

決して一人ではない。


「…はい。皆さんも一緒に来て貰えますか?」


お願いしますと頭を下げるナージャに「当然よ?」と賛成する。


さぁ二人の元に行こう。


お読みいただきありがとうございます。



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