悪役令嬢は友を守る為に傲慢になる
ナディルは強気だ。
初めからシリウスが不利な事になる事だと分かっていたからだ。
ナディルが捕まれば、シリウスが慕っているレイドリックとその母親、そしてナージャを共に道連れになる。
シリウスの大切にしていた者達を失ってしまう。
ハワード家の為にシリウスは大切にしている全てを切り捨てるのか?
「…。」
その選択にシリウスは黙ってしまう。
シリウスの怪我はないけど、結局カムが言っていたゲームのとおりになってしまう。
ナディルに制裁を与えたいけど、シリウスがレイドリック様とナージャを守る為には目を瞑るしかない。
バタンっ
突然、扉が開いた。
そこにはカレントス侯爵がいた。
「随分愚かなことをしでかしたな。ナディル!」
カレントス侯爵の登場に驚いたが、その後ろ居る人にもっと驚いた。
「全くもって愚かだ。あの女に良いように利用されたのも知らずに。良し悪しの判断がつけられぬとは後継者不合格だな?」
カレントス侯爵の後ろに宰相エイベル・ハワード侯爵がいた。
「ち…父上!?」
ハワード侯爵の登場に空気が重くなった気がする。
どうして宰相がここにいるの?
それも宰相達はわたくしたちの事をを既に知っているようだ。
なら余計に不味いことになった。
シリウス達の顔を見ると皆真っ青になっている。
きっと心情は穏やかではない。
ハワード侯爵はそんなシリウス達をみて馬鹿々々しそうにため息を吐いた。
「エイベル殿、私の愚息が大変申し訳ないことをした。なんとお詫びを申し上げたらよいのか…」
カレントス侯爵がハワード候に頭を下げる。
「謝罪は受け入れよう。だがこの愚息たちの後始末はどの様にするのか決めなくてはならん。」
「そうですね。取り敢えずナディルは勘当します。…ナージャは婚約破棄が妥当かと…。」
「そうだな。あと一人もそれ相当の罰が必要だな。ハイズ家はあの女以外当主と国外追放が妥当か…。」
二人の侯爵からの厳しい言葉にナージャは涙を流す。
レイドリック様も苦しそうに頭を下げた。
これはまずい!本当にゲームと一緒だわ?
すぐさま、わたくしはハワード侯爵の前に立った。
「ハワード宰相、カレントス侯爵、お話があります。」
「これはブロッサム公爵閣下のご息女、ロザリア嬢。…我が家の問題に巻き込んで大変申し訳ありません。出来ましたら客間で休息してお待ち頂けますか?すぐにこの騒動を終わらせますので。」
カレントス侯爵が使用人を呼ぼうとすると必要ないと手で制止した。
「結構ですわ。それよりも聞いてください。この度の騒動はこのお馬鹿がしでかしたことですが、誰もこの件で怪我もなく無事です。過剰な罰を与えて貴族同士の溝を広げるより、躾け直して穏便にすました方が宜しいかと思いますわよ?」
「ロザリア嬢はお優しいのですね?ですがそうはいきません。貴族としてけじめをつけなくてはならないのですよ。」
ハワード侯爵はわたくしに微笑むが、目が訴えている。
何も知らない小娘
が他所のお家騒動に口出すな。
二人ともそういう目だ。
所詮は他人の言う事、相手して貰えるなんて簡単に思ってない。
だけど、わたくしは特別よ?
「ならば、ブロッサム公爵子女であり第二王子ルーベルト殿下の婚約者であるわたくしが命じますわ!わたくしの大切な友人であるシリウス、ナージャ、レイドリックを引き離すことは許しません!」
この国の英雄だった祖父の孫であり公爵の娘。
そして次期王子妃となるわたくしに文句など言わせない!
「命令を聞かぬならわたくしは父と王家に貴方達を罰する様に伝えます。王家の親族に無礼をしたとね?…嘘はついていないわよ?実際に今こうしてわたくしは蔑ろにされていますもの。」
無礼はされていない。
けど、わたくしの友を悲しませた。
友の悲しみはわたくしも同じ。
二人の侯爵はわたくしをみて沈黙する。
無茶苦茶なのはわかっている。
でも守りたい。
「シリウスとナージャ、そしてシリウスとレイドリックを引き裂こうなんてわたくしが許しません!わたくしの友を引き離そうとするならば覚悟をしなさい!」
ビシッと二人の侯爵に指をさす。
わたくしの行動に周りは呆然としているのか静けさが広がった。
「くくくっ…」
必死に訴えているのになぜか笑い声。
ハワード侯爵が肩を震わせていた。
「あははっ、これは傑作だ!」
爆笑…。
こっちが真剣なのに大笑いなんて…どこぞの誰かと同じね?
「何がおかしいのよ!?」
睨むとハワード侯爵は笑いながら涙を拭く。
「…いえ、申し訳ありません。…ただつい…あの御方様のお孫なのに、似ても似つかないなと思いまして…。」
む!馬鹿にしているわね?
祖父がどれだけ偉いか知らないけど、腹が立つわ!
「馬鹿にしているのかしら?別に公爵家の力で一撃ぐらいは必ず喰らわすわよ!」
「いえ、そういう意味ではありません。確かに貴女が王子妃になると、我々は妃を侮辱したという事で処罰されかねませんね。…仕方ない、宜しいでしょう。ナージャ嬢の婚約破棄とハイズ家の者の処罰は一旦保留にします。」
「ハワード侯爵!?」
ハワード侯爵が保留にした事をカレントス侯爵が驚いた。
シリウス達も同じく驚いている。
「ただしカレントスの嫡子の対応はそのままに、それで満足ですか?」
勿論と頷いた。
よし、何とか凌げたわ!
心の中でガッツポーズをする。
「ですが、あくまで保留です、これには譲りませんよ?愚息たち次第で実行するかどうかは決めさせて頂きます。」
愚息次第…何か引っかかるわね。
「シリウス次第とは、どういうことなの?」
「それは別室で説明をさせて頂きましょうか?今回の主犯であるエミーリア・ハイズについてこの馬鹿どもに伝えなくてはいけないので。」
「それ次第でこの処罰を決めさせて頂きますよ。」とそう言い、シリウスに挑戦的な視線を向けた。
カレントス侯爵は慌てて使用人に案内するよう伝え、ナディルをカレントス侯爵家の要人に監視を任せる。
同席させてもらう様にハワード侯爵に求め、了解を何とか貰った。
・・・・・
応接室にて
全員が席に着いたのを確認してからハワード侯爵は口を開いた。
「お前たちは今回こんな馬鹿げたことに巻き込まれたか理由は分かっているか?」
責めるハワード侯爵にシリウスが睨みながら口を開く。
「父上は全てご存じだったのですか?」
だがそんなシリウスをハワード侯爵は吐き捨てる様に言う。
「当然だろう?この程度を把握していないなど宰相は務まらん。ハッキリ言わせてもらうが、こんな馬鹿げたことになったのはシリウス、お前が全て原因だ。」
原因がお前だと言われ、シリウスが驚愕する。
「どういうことですか?」
「そのままの意味だ。お前がレイドリックと関わっている所為でこんなことになったんだ。この馬鹿者め!」
「聞き捨てなりませんね?事の発端は貴方の所為でしょう?貴方が学園で馬鹿なことしなければ、こんな複雑なことにならなかった!貴方が恋人だけに責任を押し付けて追放した事で今日の事が起きたんだ!!」
シリウスが怒りを爆発させる。
でもハワード侯爵はそんなシリウスを馬鹿にするようにため息を吐いた。
「…お前まで絆されてなんと情けない。あの女の得意なやり口にまんまと騙されておる。あの女狐は侯爵家を乗っ取りたいだけだと、お前には何度も言っていただろう?」
「僕は絆されていません!」
「いいから聞け!私はお前をハイズ家に接触する事を禁じていた。それはあいつが絶対にお前を利用すると分かっていたからだ。私はお前とレイドリックを守りたかったから敢えて会わせない様に禁じていたのだ。」
シリウスとレイドリックを守る為。
二人は驚く。
「レイドリックに聞くが、小さい頃から色々と習わされていただろう?」
「…はい。でもそれは次期子爵としてと、思っていました。」
王子の側近に慣れる程、レイドリック様は色々と親から学ばされていたそうだ。
「あいつは今でも諦めずハワード家を手に入れるつもりでいた。昔から貪欲に階級の高い家に嫁ぐことを目的にしてあっちこっち手を出していたからな。…その所為で私達がどれだけ苦しんだか…。」
苦しそうな表情をみせるハワード侯爵に、わたくしたちは戸惑う
「レイドリック、お前があの女の命令でシリウスに近づいたのは知っている。お前たちが親しくなった事によって、私の不貞が領民に漏れるという計画をあいつは立てていた。」
ハワード侯爵の話だと、シリウスがレイドリックを兄と慕うたびに嫡子のシリウスの他に息子がいると領民は誤解する。
シリウスがレイドリックと血の繋がりを否定しない限り民は信じるだろう。
そしてシリウスが怪我をして侯爵家を継げなくなった時に、レイドリックが侯爵の後継ぎになっても民は何も疑問を持たない。
レイドリックは顔を真っ青にする。
「実はお前の義父から話を聞いている。お前の義父は己を犠牲にしてまで私に忠誠を捧げる部下。だからこそあの女が隠れて行っている事を調べて教えてくれたのだ。そしてお前が母親の復讐を拒んでいる事も教えてくれた。」
ハイズ子爵は監視の為にハワード侯爵の部下と隠してエミーリアと婚姻したらしい。
だから夫婦の仲は元から良くなく、妻の隠し事を調べていたそうだ。
「ハワード侯爵…。」
レイドリックは複雑そうな顔をする。
彼にとって本当の父親に見捨てられたと聞いて育ってきた。
ハワード侯爵家はレイドリックにとって憎い相手だろう。
でもレイドリックはシリウスを弟の様に仲良くしている。
彼らに昔何かあったかも知れないけど、レイドリックはシリウスを貶めようなんて思っていない。
彼の母親はハワード家を憎んでいるから両方に挟まれてさぞかし複雑だろう。
「お前にとって我々が憎いだろう。だがお前が聞かされている私達の過去は違う。エミーリアはお前たちが思っているよりもずっと悪人だぞ?」
「真相?」
シリウスとレイドリックは首を傾げる。
それを見てハワード侯爵は大きく息を吐いた。
「お前たちに真実を話そう。だが後悔するではないぞ?」
その当時を思い出す様にハワード侯爵は淡々と語る。
「学園時、あの女は男爵令嬢の癖に上級階級の子息ばかり狙って問題を起こしていた。そしてついに王太子だったルドガー・フォン・バロン王に狙いを絞った。」
当時のルドガー王には既に他国の姫を婚約者にしており、その婚約者もバロンの学園に留学していた。
それなのにエミーリアは婚約者の前でルドガー王にベタベタして狂言を言う
『婚約者様が私に嫌がらせをするの!』
「…お決まり漫画みたいな展開ですね?」
カム、小さい声だけど話を切らないで?
「早々と追放してしまえば面倒なことにならなかったが、学園のルールで学園内は身分を問わず平等という方針で追放もできなかった。どうするかと対策を考えた結論は私が面倒を見ることだった。」
ハワード侯爵も婚約者がいたが、まだ学園に入学していなくて都合がいい。
王と婚約者の姫の仲を守る為に一役買ったそうだ。
「正直やりたくはなかったが王の願いだから仕方ない。でもそれがまずいことになった。面倒を見ることによって私とエミーリアが付き合っていると噂が流れた。幸い学園内の噂だから私は気に留めていなかったが、あの女はその噂に有頂天になり私と付き合っていると思い込むようになった。」
その噂の所為でエミーリアをハワード侯爵の恋人だと周囲から勝手に認定されたなんて少々同情する。
「…そして学園3年目の冬、事件が起こった。」
ハワード侯爵は言いづらそうに言葉を詰まらせたが、首を振りハッキリ聞こえる様に言い放った。
「あの女は私に薬を飲ませ無理やり関係を持たせたんだ。」
お読み頂きありがとうございます。
宰相の真実が生々しく申し訳ありません。(最後のセリフ)




